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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
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第556話 覇者の戴冠

フランス革命により国教会を保護する王制が解消された中、クーデターで権力を握ったナポレオン。

皇帝と仇名される彼の保護を受けようとの教皇派教会の誘いに乗り、皇帝戴冠の儀式を受けるべくフランス軍を率いてイタリアに乗り込んだナポレオン。

それを阻止すべく派兵されたドイツ軍を破った彼は、軍を率いてローマに入城した。



揉み手で彼を出迎える教皇庁の幹部たち。

「よくぞおいで下さいました。敬虔な信者たちをドイツ皇帝の支配から救って頂いた事を感謝します。我々教会は地上に神の国を実現する約束の日に向けて、粉骨砕身の心を以て精進し、神の威光を背負って信者たちを導く者です。世俗権力は暴力を以て聖職者の地位を蔑ろにし、天国の蔵に蓄えるべき富を・・・・・」

お世辞の中に露骨に御託を混ぜ込む僧侶たちに、ナポレオンはうんざり顔で「そういうのは要らないんで。とりあえず長居するのも何だし、さっさと用事を済ませませんか?」

彼は思った。

(早くフランスに帰りたい。一刻も早く皇帝の地位を手に入れて、こんな所はオサラバしよう)



早速、戴冠式を・・・という事で、教皇は儀式担当を呼び、ナポレオンに戴冠式についてレクチャーする。


「皇帝の地位は神により定められたものであり、神の代理たる教皇の権威を以て、人の子たるナポレオンに授け、地上の統治を預託するものである。よって神の世を築く代行者であり代理人にして任命者たる教皇ピウス七世の指導の元・・・(以下略)・・・。以上の口上の後に、教皇猊下の手で、あなたの頭に冠をかぶせる事で、教会の権威の下に服従する神の下僕となる意思を示す・・・って、あの、聞いてます?」

船漕ぎ状態だったナポレオンは、ハッと目を開けて顔を上げる。

そして「あ、いや寝てませんよ」


残念な空気が漂う中、彼は言った。

「よーするにあなた達が皇帝の冠を出して、私がそれをかぶるだけの簡単な儀式なんですよね?」

儀式担当はため息。そして脳内で呟いた。

(大丈夫かなぁ?)



そして儀式は始まった。

枢機卿たちが、そしてフランスから来た軍人や外交官たちが居並ぶ中、讃美歌を奏で、祝福の言葉を述べる。

式次第に則って儀式は進行し、いよいよ帝冠登場。


教皇は口上を述べつつ、やたら豪華な冠を取り出す。

ナポレオンはそれを見て、思った。

(あれを売ったら軍艦を何隻買えるかなぁ)


教皇は冠を両手に持ってナポレオンの目の前に。

「神の代理たる教皇の権威を以て人の子たるナポレオンに授け・・・・・・・」

「そりゃどーも」

ナポレオンは、差し出されたものを受け取った・・・つもりで教皇の手から帝冠を取ると、自らの手でそれを被った。


並み居る聖職者たちポカーン。


「あの・・・それは教皇たる私の手であなたの頭に・・・」

困り顔でそう言う教皇に、ナポレオン、とまどい顔で「へ?。俺、何か間違えました?」


残念な空気が漂った・・・と居並ぶ聖職者たちが感じた、その時・・・。

参列していたフランス軍人や外交官たちの間で歓声が上がった。

「ナポレオン総統は自らの手で帝冠をかぶったのだ。即ち、教皇の権威ではなく実力でユーロの頂点に立たれた。ナポレオン皇帝万歳!」

教皇唖然。

(これって何なんだ?)



なし崩し的に儀式は終わる。


不満顔の教皇庁の僧侶たちを他所に、盛り上がるナポレオン一行。

「滞りなく儀式は終わった。俺は晴れて皇帝になったんだ。さっさと帰って風呂にでも入ろう」

そう言いながらナポレオンは、軍を率いてローマを去ろうと・・・・・。


その時・・・・・。

「その前にやる事がありますよね?」

そう言って教皇はナポレオンの前に立ちはだかり、ドアップで迫った。


怪訝顔のナポレオンを他所に、その背後に一人の男が現れ、そして言った。

「政教協約ですよね?」

「何だそりゃ」とナポレオン。


だが教皇は、その男を見て、唖然。

「あなたはリシュリュー枢機卿」

「人違いです。私はクワトロバジーナという名も無き軍人」と男は名乗る。

教皇は不審顔で「いや、だって・・・」

「私はフランス王家に仕えた宰相にして元枢機卿のリシュリューではありません」と、自称クワトロバジーナ。

「・・・・まあ、いいですけど」


「それで政教協約って?」

そうナポレオンが言うと、教皇ピウス七世はドアップで「あなたは神の代理人たる教皇の権威に認められてユーロの皇帝の地位に就きました」

「とりあえずユーロというよりフランス国家の、ですけどね」と突っ込むナポレオン。


教皇は言った。

「なので、社会全体を指導する教皇庁教会の地位と権限を、しっかり確認する必要があります」

「けど国教会は?」

そうナポレオンが言うと、教皇は「あれは王家が勝手に作ったもので、その王家はもうありません」



なし崩し的に会議に移行。


「皇帝は教皇が任命したものであり、信者として信仰に基づいた社会を築く責任があります」

そう教皇がドヤ顔で言うと、ナポレオンに同行した革命政府の外交官は「けど、革命は王や宗教の支配から脱するのが前提ですよ。世俗と宗教の分離は大前提なんだが」


「教会領は?」

そう教皇が苛立ち気味に言うと、外交官は「国家の一元支配に反するものは不可だよね?」とナポレオンに抵抗を促す。

「僧侶には国教会と同様に給与を支払うって事でよろしいかと」と、自称クワトロバジーナ。


教皇はイライラ二割り増しで「聖職者の任命権は?」

「今までも放置状態でしたから、何でいまさらって感じ?」と外交官。

「国家が任命した聖職者を教皇庁が承認する。教皇庁が任命した聖職者を国家が承認する。よほど変な奴でない限り、承認拒否とはならないでしょう。どこぞの学術会議みたいな、自国に悪意を剥き出す隣国に迎合する偽学者な活動家に支配された反社組織とは違うのだから」と、自称クワトロバジーナ。


教皇は苛立ち五割増しで「皇帝の任命権は?」

「まさかこの交渉に不満とか?」と、声にドスを効かせる自称クワトロバジーナ。

ナポレオンも不信顔で「私の戴冠を取りやめるとか?」

「いや、何でも無いです」と教皇の勢いは一気に萎む。



教皇、深呼吸を二度。

そして気を取り直すと、フランス人一行に言った。

「それより、フランスは教皇派の国となったのだから、他の宗派を禁止して頂けるのですよね?」


外交官は「そりゃ無理でしょ。信教の自由ってものがありますから」

「どこぞのトーイツ教会みたいなヘイト教義を掲げて信者を苦しめる事を目的に全財産寄進を迫る邪教でも無い限りは・・・ねぇ」と、自称クワトロバジーナも・・・。

ナポレオンも「国連人権規約委員会とかいうリベラル勢力の対日ヘイト御用達な自称国際機関なんぞは、あの邪教に対する正当な批判すら"信教の自由に違反する"とか言って、事もあろうに擁護とかやらかしてたものなぁ」


「いやいやいや、リベラルってアンチトーイツ教会派じゃ無かったっけ?」と教皇は抗弁のつもりで・・・。

自称クワトロバジーナは「あんなの政敵排除のネタで言ってるだけの偽アンチですよ。あのヘイト教義だって、ずっと隠蔽に協力して生き残りを助けてきたじゃ無いですか」と反論。

「アンチトーイツの旗手を称するスズキエイトマンなんぞ、"奸吊シ上ゲ"とかいう二代目の"ジパングは犯罪国家として償わないといけないのに"とか捏造歴史なヘイトスピーチ映像が露見した時ですら、"アレはお布施減少で焦った挙句の方便でヘイト教義なんて無い( ー`дー´)キリッ"とか、ネオナチのアウシュビッツ否定論並みの事実歪曲でヘイト教義隠蔽を続けて、あくまであのカルトを対日ヘイト批判から守ろうとしていたものなぁ」とナポレオンも・・・。

外交官は困り顔で「ってか、俺たち、何時の時代の話をしてたんだっけ?」と突っ込む。

残念な空気が漂う。



教皇以下の僧侶たちは、彼らのナポレオンに対する期待が、いかに甘かったかを思い知らされた。

失望感を必死に押し殺しつつ、教皇は・・・・・・。

「あの・・・・・・・・。つかぬことを聞きますが、皇帝陛下は信者なんですよね?」

「田舎のコルシカ島で先祖代々教皇派でしたから」とナポレオン。


「なら、反教皇派やジュネーブ派に反対なのですよね?」

そう教皇が問うと、ナポレオンは「贅沢禁止とか言って窮屈な思いをするのも嫌だからなぁ」

教皇は更に「国教会派にも反対なのですよね?」

「一応、王政を廃止した革命派ですから。けど反対している訳じゃ無いですよ」

そうナポレオンが言うと、教皇は気色ばった声で「神の戒律を捻じ曲げて、恋愛自由だの金儲け上等だのと・・・・・・」


ナポレオンは言った。

「もしかして教皇派って恋愛自由じゃないの?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

そして彼は「俺、改宗しようかなぁ」


教皇以下、教皇庁幹部の面々、唖然。



僧侶たちが暫く固まる中、その沈黙を破るように、一人の枢機卿が言った。

「それより、イタリアをどうするのですか?」

「それなら我が都市諸侯同盟があーるじゃないか!」

そう声を荒げたのは、いつの間にか会議に参加していた都市諸侯同盟の代表たちだ。


教皇は目を血走らせる。

「そうはいきません。教皇庁のある地を教皇領として神の支配に委ねて保護するのは、カール大帝以来の皇帝の義務」

「廃止しましたよね?」

そうナポレオンが突っ込むと、教皇は言った。

「皇帝が義務を放棄していたに過ぎません。かつてローマの後継として帝位に就いたフランク王国のカール大帝。その父ピピン王がロンバルド王国を倒して、その領地を教皇領として寄進したのは、まさに神が命じ賜うた事。地上に神の王国を実現する拠点たる教皇領は絶対に譲れません」


すると、自称クワトロバジーナが「解りました。ここを教皇領としましょう」


僧侶たちは歓声を上げた。

「イタリアが丸ごと教皇領に・・・」

「この国の収入って、いくらあるの?」

「それが丸ごと教会に入ってくる」

「お金ガッポガッポ」


都市諸侯同盟の代表たちが抗議顔MAXで物言い。

「ちよっと待て。それじゃ、都市諸侯同盟はどうなる。イタリアは我々の元に統一された筈だ」

「そうですよ」と、自称クワトロバジーナ。

「いや、だってここは教皇領に・・・」

そう枢機卿たちが抗弁すると、都市諸侯同盟の代表たちは「違います。ここは民族国家たるイタリアです」


口角泡を飛ばして言い争う、二つの団体の代表たち。

そんな中、自称クワトロバジーナは「まあ、いいじゃないですか。教会堂施設一つの敷地が独立するくらい」

「はぁ?・・・・・・・・・」

唖然顔の僧侶たちに、彼は「教皇庁のある地が教皇領なんですよね?」

「・・・・・・・・・・・」


「"自分たちの核心的利益たる中華の統一のため寸土の独立も許さん戦争ジャー"とか言って、既に独立している台湾を脅す習近平とかいう軍国主義独裁者とは違うんですから、このサンピエトロ寺院の敷地くらいバチカン市国として独立させるくらい、仕方ないと思いますよ」自称クワトロバジーナ。

ナポレオンも「出血大譲歩として教会一件分の敷地丸ごと独立。良かったですね」

「いや、独立国というには狭すぎですし・・・」

そう教皇が震え声で言うと。ナポレオンは「キリキリ国だって東北の農村一つが独立した極小国ですよ。ヤマトという潜水艦みたいに、船一隻で独立したという例もある。広大な大国も狭い領土の小国も、対等な独立国です」


「詐欺ジャーーーーーーーーー!」

教皇以下、教皇庁幹部の面々は真っ白に燃え尽きた。



僧侶たちとは対照的に、安堵の表情を浮かべる都市諸侯同盟の代表たち。

そんな彼らにナポレオンは言った。

「それで、都市諸侯同盟と条約を結んでドイツの介入から保護するとして、王様って誰なの?」


「今はいないですけど・・・・」

そう答える彼らにナポレオンは「必要なんですよね?」

「ゆくゆくは私が」

そう代表の一人が言うと、他の代表が「いや、私が」

なし崩し的に王位争いを始める都市諸侯同盟の面々。


そんな彼らを見て、ナポレオンはスパニアの総督として送り込んだ・・・つもりの兄のジョセフを思い出した。

そして「だったら俺の身内ってのはどうですか? うちに14歳の男の子が居るんだが」

「お子さんですか?」と、都市諸侯同盟の面々。

「いえ、引き取って面倒見てるボアルネという孤児なんだが、若きユニコーンという二つ名がつくほど聡明で将来有望・・・という訳でも無いけど、俺を滅茶苦茶尊敬して、閣下閣下と犬みたいに尻尾振ってどこにでもついてくる可愛い奴なんですよ。彼をイタリア王国の国王として派遣してあげよう」


都市諸侯同盟の面々、唖然。そして彼らは一様に思った。

(滅茶苦茶迷惑なんだが)

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