第555話 イタリアの征服
フランス革命政府を掌握したナポレオンに期待する教皇派教会。
彼を皇帝に任命するという教皇派の誘いに乗って、戴冠式のためフランス軍を率いてイタリアに乗り込んだナポレオン。
それを阻止すべく、テレジア女帝の命を受けてドイツ帝国軍を率いるヴルムザー将軍。
北イタリアを東進するフランス軍の司令部の馬車では、作戦会議が続いていた。
「それで、ドイツ軍の戦力ってどれくらいだ?」とナポレオンは問う。
「諜報局の情報では六万との事で・・・」
そんな参謀の報告を受けて、ナポレオンは「十万くらい連れて来るべきだったかなぁ」と呟く。
「けど、それで籠城とか・・・」と副官のルクレール。
ナポレオンは「恐らく、打って出て包囲拠点を叩くつもりなんだろうな」
フランス軍はヴェロナとレニャーゴを占領して後方拠点とし、マントヴァ要塞に対して包囲体制を敷く。そして攻略戦開始。
だが・・・・・。
攻勢に対するドイツ軍の反撃の薄さに、拍子抜けなフランス兵たち。
「敵兵、思ったほど居ないね」
「これなら楽勝だぁ」
そんなお気楽な部下たちに「んな訳無いだろ!」とあきれ顔のナポレオン。
その時、情報が入った。
「敵の主力は北方のトレントに移動しているとの事です」
「なるほど。南下して反撃するつもりなんだろうな。で、敵の進路は?」
そうナポレオンが問うと、情報をもたらした諜報局員は「ガルダ湖東岸と西岸をそれぞれ南下しているとの事です」と報告を続けた。
ナポレオンは司令を下した。
「こちらも隊を分けて迎撃するぞ」
「ですが、分散したら各個撃破される恐れが・・・」
そう参謀が疑問顔で問うと、彼は「それが狙いさ」
「はぁ?・・・・・・・・・」
ドイツ軍を指揮するヴルムザー将軍は、トレントで軍を四隊に分け、自らは二隊を指揮してガルダ湖東岸を進んでベローナへ、一隊は東を迂回して、その南東にあるレニャーゴへ向かい、一隊はガルダ湖西岸を南下した。
ナポレオンは要塞を包囲する軍を残し、ガルダ湖東岸と西岸にそれぞれ一隊を布陣。
南下するドイツ軍は、ガルダ湖東岸と西岸でフランス軍を発見して、戦闘に入る。
フランス軍はそれぞれ、抵抗の末撤退。
東岸を南下するドイツ軍本隊はベローナを占領し、別動隊はレニャーゴを占領した。
ベローナに駐留したドイツ軍の司令部では、士官たちが戦勝気分で、あれこれ・・・。
「随分とあっさり勝てたものですね」
「所詮は素人ですよ」
「兵隊なんて、この間まではただの一般人だものなぁ」
そんなお気楽な部下を見て、ヴルムザーは呟いた。
「これがあのレニエ将軍を破ったナポレオンか? 何かがおかしい」
ヴルムザーは暫し思考。そして言った。
「奴らは損害を避けたのでは無いのか? だとしたら、集結して何か仕掛けて来るぞ」
その時、報告が入った。
「マントヴァ要塞が・・・・・・」
「陥落したか?」
そうヴルムザーが深刻顔で問うと、「いえ、敵が包囲を解きました」
「・・・・・」
周囲の士官たちが戦勝気分五割増しで・・・・・・。
「イタリアを諦めて撤退したと・・・」
「皇帝なんて分不相応な地位を望んだフランス人の末路」
「我々の大勝利」
「ドイツ皇帝万歳」
盛り上がる部下たちを見てヴルムザーは思った。
(何かがおかしい)
そんなヴルムザー将軍の元に、やがて急報が入った。
「大変です。レニャーゴが急襲され、壊滅したとの報告が・・・」
ヴルムザーは考え込む。
「やはり各個撃破で来たか。だが所詮は素人だな。我々は西にガルダ湖南岸、中央のベローナに我々、東にレニャーゴ。敵が各個撃破を企てたなら、残る部隊が集結する事になる。だから本来なら、互いに距離の離れた西端と東端を残して、中央に居る我々を先ず標的とするのがセオリーの筈だ」
「どうしますか?」
そう参謀に問われ、ヴルムザーは司令を下した。
「ガルダ湖南岸に居る味方と合流するぞ」
ヴルムザー将軍は本隊を率いて、ベローナを出て西に居る味方との合流を図った。
だが、移動を開始してまもなく、彼はその報告を受ける事になる。
「大変です。ガルダ湖南岸から移動中の味方が急襲を受けて壊滅」
ヴルムザー唖然。
「敵の移動速度、早すぎだろ」
そんな彼に副官が言った。
「ですが、元々ここを戦場に選んだのも、フランス軍の移動速度が予想外に早かったからですよね」
「そーだった。けど、奴らはどうやって・・・」
そう言って頭を抱えるヴルムザーに、報告に来た兵が言った。
「どうやら敵は都市を通過する度、行く先々で馬と馬車を徴発したようで。それで普通なら徒歩で行く兵を馬車で移動させたらしく・・・」
ヴルムザー唖然。
「都市の奴らは移動手段を提供したというのか。利敵行為だぞ」
「ですが、兵を出し、敵と共に血を流して戦ったのでもない限り、敵を利した事にならないというのは常識です」と副官。
「確かに・・・・。ショーザフラッグに応じた訳ではないのだからな」とヴルムザー将軍。
彼等はその「兵を出したのでなければ味方した事にならない」という常識が、ナポレオンがbaka-noteで作ったものだ・・・という事を知らない。
「どうしますか? 敵は四万を越える兵力を温存しています。こちらは要塞守備隊を裂いた上、残りの半分を失って、今の敵は我々の二倍」
そう副官に問われ、ヴルムザーは司令を下した。
「要塞守備隊と合流しよう」
参謀が「要塞を放棄すると?」
「奴らは包囲を解いて合流した。勝敗を決するのは野戦だ」とヴルムザー将軍。
「間に合いますかね?」と副官が言うと、全員、深刻顔で俯く。
街道を馬車の列を成して爆走するフランス軍は、間もなくドイツ軍本隊に追いついた。
カスティリオーネの平原で向き合う両軍。
ドイツ軍は横列陣形の構えをとった。
「これって、普通は劣勢な側がとる陣形じゃ無いと思うんですが。縦陣形で中央突破がセオリーですよね? これだとこっちが中央を突破されちゃいますよ」
そう副官が疑問顔で言うと、ヴルムザー将軍は言った。
「そこが狙い目だ。中央に装甲兵を集中させ、背後の魔導兵に守らせる。それで敵が攻めあぐんだ所を両翼から包囲殲滅だ」
戦闘が始まる。
フランス軍も同じく横列陣形をとって、互いに銃の撃ち合いとなる。
そんな敵軍の様子を見て、ドイツ軍本営では・・・。
「敵、中央突破して来ませんね」と副官。
ヴルムザー将軍は「数にものを言わせて、全体的に押して来ようという訳なのだろうな。だが、そうはいかないぞ」
ドイツ軍中央部では、魔法で軽量化した頑丈な鎧を纏った装甲兵が盾となり、その背後から銃兵が、更にその背後で魔導士隊が遠隔魔法でフランス軍に攻勢をかけた。
そんな戦況を見て、ドイツ軍本営では空気が明るさを帯びた。
「敵中央部、押されてますね」と参謀。
ヴルムザーは会心の笑みを浮かべる。
「よし。こちらが敵中央を突破して敵を分断し、しかる後に各個撃破だ。これなら勝てる」
フランス軍本営では・・・。
本隊中央部にドイツ軍が攻勢をかけている様子を観察するナポレオンが居た。
「敵、誘い出されてきましたね」
そう副官が言うとナポレオンは、してやったり顔で「どうやら、意図的に後退している事に気付いていないようだな」
「こちらの中央を突破するつもりですか」と参謀も・・・。
ナポレオンは「もう少し突出したら彼等の出番だ」
やがてドイツ軍陣中央部がV字型に突出し、装甲兵を先頭に突撃の体勢に入った。
ヴルムザー将軍は立ち上がり、号令を下す。
「敵陣を一気に突破するぞ。突撃!」
その時、フランス軍中央部左側背後にそれぞれ大砲を牽引した数十頭の馬が姿を現した。
馬はそれぞれU字状に旋回して敵に背後を向け、反対側を向いて牽引されていた大砲が、そのままドイツ軍陣に砲口を向けた。
既に火薬と砲弾を装填されていた砲が、装甲兵たちに照準を合わせる。
「撃て!」
数十門の大砲が一斉に火を噴き、ドイツ軍装甲兵陣に直接砲撃。
頑丈な鎧ごと屈強な兵たちは爆散した。
ドイツ軍本営の士官たち、唖然。
「何だあれは」
ヴルムザー将軍は慌て顔で司令を下す。
「砲兵は足が遅い。歩兵の突撃でも制圧可能だ。奴等を逃がすな」
だが、馬に繋いだままの大砲は、そのまま馬に牽引されて距離をとりつつ砲弾と火薬を再装填。
その間にドイツ軍中央部右側に別の馬に牽引された砲撃部隊が現れ、再び直接砲撃。
魔導兵たちが防御魔法を展開するが、フランス軍側の魔導兵の妨害魔法を受けた。
中央部に居た装甲兵が一掃され、慌てるドイツ軍。
「どうしますか? 中央部の盾が無くなっちゃいましたけど」
そう参謀に言われ、ヴルムザー将軍は「ゴーレムを出そう」
「ですが魔物戦は時代遅れかと」と副官。
ヴルムザー将軍は「我がドイツ軍の最大の強みだぞ」
魔導兵たちが魔物を召喚した。
ゴーレムにオーガにサイクロプスが出現し、フランス兵に襲い掛かる。
ナポレオンは号令を下す。
「対魔物隊、前へ!」
背に荷物を載せた馬を引き連れた部隊が現れ、魔物たちを前に馬の背から鉄製の大型の筒を降ろす。
突進してきた巨大な魔物に向け、三人がかりで筒を構える。
「照準、前方のゴーレム。弾丸装填良し、撃て!」
部隊司令の号令の下、轟音とともに兵たちが掲げた筒が次々に火を噴き、射出された砲弾が魔物たちを撃ち抜いた。
そんな様子を見て、溜息をつくヴルムザー将軍。
「やはり魔物戦は時代遅れだったか」
「敵中央部を殲滅せよ。突撃!」
ナポレオンは号令を下し、フランス軍は全力で攻勢に出た。
攻撃魔法と銃兵による斉射。そして機動砲兵の近接砲撃に支援され、騎馬隊を先頭に白兵戦部隊が突撃。
ドイツ軍の銃兵とその背後の魔導兵の布陣を一気に突き破った。
ドイツ軍の中央部を突破したフランス軍は、敵左翼陣を包囲し殲滅。
更に右翼陣へと矛先を向けた。
ドイツ軍本隊は壊滅し、ヴルムザー将軍は残存する兵を率いて撤退。
ナポレオンは、マントヴァから本体との合流を目指して北上するドイツ軍一万四千を破り、イタリアからドイツ軍を一掃した。




