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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
551/562

第551話 インドを争奪

ロベスピエール政権の崩壊により、フランスで経済の再建が進む中、これを警戒するイギリスが中心となり、対仏大同盟は正式に発足した。

これを受けてエンリ王子は、秘密裡にパリを訪れ、地下に潜伏しているリシュリューと、今後の対応策について意見を交わしていた。


「イギリスを中心とした対仏大同盟が発足した訳なんだが、彼らは本気で戦争を始める気ですかね?」

そうリシュリューが言うと、エンリは「フランス王の捕獲を目的とした介入を受ける立場で結んだ協定を口実に、スパニアは不参加ですけどね」

「その身代わりとしてポルタが参加している訳ですが、まさかフランス遠征の軍なんて出しませんよね?」とリシュリュー。

エンリは「そんなの誰も期待していないから。ってか、フランスに攻め込む国ってなんてあるの? ドイツは追い返されたばかりだし・・・」

「プロイセンは他の所に戦わせて果実を掻っ攫おうとするでしょうね」とリシュリュー。

「オランダやイタリアは、むしろ侵略される側」とエンリ。

リシュリューは「イギリスは一応中心ですが、海外のフランス植民地を奪うのに専念するだろーなぁ」

「ですよねー」

そうエンリが言うと、リシュリューは「いや、フランスにとっては大問題なんですけどね」



イギリスはフランスに宣戦布告した。


エリザベス女王は将軍たちを集めて作戦会議。

「どこから攻めますか?」

そうエリザベス女王が問うと、クライヴ将軍が言った。

「先ず、インドですね。南インドに拠点を置いたポルタは北インドのムガール帝国の南下を阻止しましたが、イギリスとフランスはそのムガール帝国に喰い込んで拠点を築いています。特に我がイギリスはジャカルタでオランダと衝突して撤退して以来、インドに重点を置いています」


エリザベスは「インドも広いですわよね?」

「先ず、ベンガル地方でしょうな」と将軍が答える。

「雨も多く産物が豊かだから?」とエリザベス。

将軍は「いえ、太守が無能で侵略が容易」

残念な空気が漂った。



ベンガル太守シラージュに取り入って、そこに拠点を築いていたのはフランス人たちである。


「あの人大丈夫なの? 家来たちからも反感が強いって聞きますけど」

そんなフランス東インド会社の社員たちに、シラージュの家来でその兵を預かるジャアファル司令官は「ベンガル候王家の忠誠は絶対です」

「だといいんですが・・・・・・」

イギリス東インド会社によるベンガルへの介入により戦争が迫る中、これに対抗する太守の能力と体制に不安を隠せないフランス人たちであった。



侯王宮の謁見の間で、シラージュ太守と面会する、デュプレクス・フランス東インド会社支社長。

シラージュは彼に言った。

「フランスは援軍を出さないのか?」

「イギリス艦が海上を跋扈して軍の輸送がままなりません。ですが支援は万全です」とデュプレクス。

シラージュは「血を流さず金で済ますのは卑怯者なフニャチンだとトランプ帝国の百貫デブスペクタが言っていたが」

「あれはヤクでもキメて吐いてる暴言です」とデュプレクス。

シラージュは「ショーザフラッグという言葉もあるが?」


「こちらを」

そう言って銃の入った木箱を差し出すデュプレクス。

「最新式の銃でございます。火縄を使うタイプでは無いので、雨の中でも戦える優れもの」

「では、雨天時に戦えば勝利は間違い無し、という事だな?」と満足顔のシラージュ。



そして・・・・・。

イギリスから派遣されたクライヴ将軍が、ある有力者の館に招かれた。


「お待ちしておりました」

そう言って彼を出迎えた館の主に、クライヴは「あなたがジャアファル司令官ですね」

「ベンガル太守の軍の実権を預かっておる者です」

そう答えた館の主・・・ベンガル太守軍司令官ジャアファルに、クライヴは「私は彼の敵側なのですが・・・・・」


ジャアファルは言った。

「彼は人望を欠き、家来たちからも見放されています」

「それで、裏切って我々に付くと?・・・」とクライヴ将軍。

ジャアファルは「その代わり、次の太守にはこの私を」



取引が成立し、クライブは館を退去する。

馬車の中で彼の部下が言った。

「彼は信用できるのでしょうか?」

「ああいう私利私欲で動く輩は、利益さえ与えれば思い通りに動かせる」と言って、クライヴはニヤリと笑った。



クライブはイギリス兵にインド人傭兵を加えた部隊を編成し、プラッシーの平原で太守の軍と対峙した。

太守の兵力はイギリス側の十倍だが、殆どの兵を握るジャアファル司令官は兵を動かす事無く、太守側はイギリス軍に圧倒された。


「奴め、裏切ったか。まあいい。もうすぐ豪雨が来れば、敵の銃が使えなくなる。我々にはこの、雨でも使える最新式の銃がある」

そう言って、フランス人から手に入れた銃を手にしつつ、スコールをもたらす雲を見上げるシラージュ太守。

そんな太守に、彼の元に残った家来の一人が言った。

「ですが、敵はイギリス兵なのですよね? 彼等の武器も最新式なのでは?」

「あ・・・・」



その時、戦場に豪雨が降り注いだ。

「今だ。最新式の銃の威力を見せてやれ」とシラージュ太守。

だが、豪雨の中で銃声が途絶えたのは、太守の味方の銃兵陣の方だった。


「どうしたというのだ?」

慌て声で、そう自軍の参謀に問うシラージュに、彼の軍の参謀は「どうやら火薬が湿って点火不能になったようです。火薬の入った木箱の野積みの防水が不完全だったらしく」

「そんなぁ」



太守の軍は敗北し、イギリス軍の捕虜となったシラージュは退位を迫られた。

そしてジャアファルがベンガル太守に就任した。


彼は直属の部下を司令官に据え、謁見室でクライグ将軍と向き合う。

「就任、おめでとうございます。我々は武器だけでは無く。合理的な行政システムも完備しております。なので領内の徴税権を頂けたら、確実に税を集めて確かな収入をお約束出来ます」

そうクライヴが言うと、ジャアファルは「よっしゃよっしゃ。よきに計らうがよい」


そんなやり取りを見てため息をつく、新たな司令官となったジャアファルの部下。

「いいのですか? 徴税というのは領地の支配そのものです。つまり、この地の民を丸ごとイギリス人に与えるという事にらなりますよ」

「取り立てた税は我々に入って来るのだ。何の問題も無い」

ドヤ顔でそう答える新太守を見て、新たな司令官はため息をついた。

(駄目だこの人。見切りをつけて別の主を探すか。それともいっそ・・・・・・)


そして歴史は繰り返す。



ベンガル太守はイギリスの傀儡となり、イギリス東インド会社によるインド侵略の拠点となった。

そして、その他の各地にあるフランスの植民市は、次々にイギリスに制圧された。


そうした情報がエンリ王子の元に届く。

ポルタ城の執務室で、報告に来た家来が退室すると、エンリは顔を曇らせた。

そんな彼にカルロは「どうしますかね?」

「相手がフランスだと、対仏大同盟の枠内での戦闘行為だから、反対出来ないよね」とジロキチ。

「まあ、なるようになるしかならんさ」と言って、エンリは溜息をつく。

「けど、イギリスはインドを丸ごと支配する事を狙ってますよ。そうなったら我々の拠点だって危なくなりません?」

そうカルロが言うと、エンリは「そーだよなぁ」

「いざとなればポルタ植民市に命令して、イギリスの軍艦の寄港拒否って事も出来るけどね」と、タルタが呑気な事を言う。

エンリは「そーだよなぁ」



その頃、オッタマ帝国を訪れたイギリスからの非公式な外交使節があった。


宮殿の客間でオッタマの宰相と向き合い、二人のイギリス人は名乗った。

「海軍提督のネルソンです」

「エリザベスと申します」


「女王自ら交渉においでになるとは、それだけ重要な案件なのでしょうね?」

そうオッタマ宰相が言うと、ネルソンは「ロシアの南下を阻止するという、共通の目的に関する案件ですので」

「それに関しては感謝しております」

そんな外交辞令を述べる宰相に、ネルソンは「つきましては、我がイギリスが紅海を経てアラビアの海に出る自由を頂きたいのです」


「この地に領土的な興味がおありと?」

そう言って警戒心を滲ませる宰相に、エリザベス女王は言った。

「まさか。目的はもっと切実なものですわ。自らの生存に関わる・・・」

「フランスで王家が追い出され、あの国は革命政府を名乗る反徒が支配しております。座視すれば革命はユーロ中に広がり、更にあなた達の国にも及ぶ事となりましょう」と、ネルソンが補足。


宰相は言った。

「それは民主主義という思想ですよね? ですが、我等はアラビアの教えによって造られた国で、国家社会は元より神を崇める信者の共同体。カリフはその指導者であり、我々スルタンはその代行者。つまり我らは元より独自の民主主義を体現しており、他国の民主主義など恐れる理由はありません」

「その代行システムそのものを無に帰そうというのが革命なのですけどね」とエリザベス。


「・・・危機感は解りました。で、どうそれを阻止すると・・・」

そう宰相が言うと、ネルソンは語った。

「革命政府の力の源は経済力。その利益はフランス商人の交易に依るものです。その交易の場から彼等を追い出す。そのためにエジプトに拠点を頂きたい。ロシアからこの地を守る戦いに参加するにも、我々の拠点は有益かと思います」



交渉を終え、帰国の途に就くエリザベス女王とネルソン提督。


船上から遠ざかる港を眺めつつ、ネルソンが言った。

「彼ら、よくOKしましたよね。下手をすれば我々がオリエントを侵略する基地になりかねないというのに」

「尻に火がついているという事ですわよね。目の前に対処すべき敵が居れば、そちらに向き合わざるを得ない。相手の弱みに付け込め。これは女子会戦略の鉄則よ」とエリザベス。


「ですが、ロシアは対フランスでは味方ですよね?」

そうネルソンが言うと、エリザベスは「こんな戦いはすぐ終わるわ。そして民主主義はフランスの専有物では無い。我がイギリスには議会の伝統があります」

「ですが、フランスのように王家が追われる事は無いのでしょうか?」とネルソン。

エリザベスは「王家と民主主義の共存は可能です。それによって、民と王がともに自国の利益に責任を自覚するのです」


「自覚しなかったら?」

そうネルソンに問われ、エリザベスは言った。

「自覚する者に追われる事になるでしょうね。 かの列島国のリベラル勢力は、自国にヘイトを向ける隣国に加担し、マスゴミと結託し、一方的に情報を流して民を扇動するとともに、恣意的に行える世論調査なるものを以て、注意深く不正を排除したが故に勝てなかった選挙制度の代用品として、あたかも多くの賛同者が居るかのように偽装しました。ですが、双方向で議論のできるネットで自国の利益に責任を自覚する民が声を上げ、至る所でリベラル派を論破した。マスゴミは多くの批判を受けて信用を失い、消滅の危機に陥ったのは当然です」

「・・・・我々は何時の時代の話をしているんでしたっけ?」とネルソンは突っ込む。

残念な空気が流れる。


そしてエリザベス女王は言った。

「とにかくこれで、寄港地としてポルタの植民市に頼る必要は無くなったのです。他人に頼る事無かれ。これは女子会戦略の鉄則よ」

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