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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
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第55話 英仏の事情

英仏両軍と同盟したエンリは、それ以降、各地の領主を次々に従え、破竹の勢いでスパニア北部に勢力を広げた。  

だがそこに、英仏両国の王の姿は無かった。

二人とも国内をまとめるため帰国したのだ。

フランス王はリシュリューを伴っての帰国だが、イギリス王は娘のエリザベスが本国の政争に巻き込まれないよう、ポルタに残した。



まもなく両王がほぼ同時に戦場に戻る。

エンリ王子が「お待ちしていました。ルイ王、ヘンリー王」と二人を迎える。

「状況は?」とイギリスのヘンリー王。

エンリは「ノルマン軍とポコペン軍が合流しました。北部の領主のかなりの部分と参戦したドイツ諸侯の何人かも。そちらの首尾は?」


フランスのルイ王は言った。

「こちらも強力な戦力を連れて来た」

エンリはルイ王の後ろに居る人たちを見て「こちらの四人の方ですか?」

ルイ王は「三銃士だ」と彼等を紹介。


エンリの仲間たちが盛り上がる。

「あの世界最強のスリーマンセル」とアーサー。

「けど四人居ますけど」とニケ。

ルイ王は一番若そうなメンバーを指して「このダルタニアンは見習いです」

「それは心強い」とエンリ。

「アリババたちと、どっちが強いだろう」とタルタ。



会議が中断し、休憩が入る。


ジロキチが三銃士の四人のうちで最も年長らしい男に「あの、後で是非手合わせを」と・・・。

横からタルタがジロキチに「手合わせって曲芸対決か?」

「剣術のだよ。俺を何だと思ってるんだ」とジロキチはタルタに。

手合わせを求められた年長男は「いいでしょう。手加減はしませんよ」

「望む所だ」とジロキチ。


四人の中のマッチョな大男がタルタに「お前等、面白いな」

「お前等もな」とタルタ。

大男は「後で俺たちも勝負しないか?」

「剣術か?」とタルタ。

「いや、酒の飲み比べだ」と大男。

タルタは「受けて立とう」



そんな三銃士にワクワク顔で話しかけるマーリン。

先ず、年長な男に・・・。

「皆さん、素敵な方々ですね。こちらはまた落ち着いた殿方で」

「あなたは?」と年長男。

「魔導士のマーリンです」とマーリンは名乗る。

「アトスだ」と年長男も名乗る。

マーリンは「渋い年上って好みなんです。やっぱり男性は人生経験ですよね」


次にマーリン、いかにも体育系な大柄マッチョに・・・。

「こちらはまた立派な体格の、頼もしそうな殿方」

「ポルタスです。趣味は筋トレです」と大柄マッチョは名乗る。

マーリンは「やっぱり男性は筋肉ですよね」


そしてマーリン、次は細身の眼鏡男子に・・・。

「こちらは眼鏡の似合う美形というか。学者タイプって言われません?」

「アラミスです。神学を少々齧ってまして」と眼鏡男子は名乗る。

マーリンは「やっぱり男性は知性ですよね」


最後にマーリン、見習いのダルタニアンに・・・。

「あなた、可愛いわね。元気のいい男の子って好き」

「ダルタニアンっす」と彼も名乗る。

マーリンは「やっぱり男の子は若さよね」


そんなマーリンをあきれ顔で見るエンリとアーサー。

「言ってる事が全部違うんだが」



その後、三銃士はルイ王に訊ねた。

「あの、王様、あのマーリンさんって・・・」

ルイ王は「ポルタの魔導士でな、エンリ王子がかなり使えるんで味方につけたんだが、その時の条件だからって、お前等の中から誰か一人紹介してやるようにって、王子に頼まれてるんだ」

「けど、アトス以外みんな恋人が居ますけど」とアラミス。

「俺、元嫁と離婚してから、女性不信なんですが」とアトス。

ルイ王はアトスに「この際、克服しろ」



休憩が終わり、会議を再開。


エンリは二人の王に訊ねた。

「ところでお二人、国内はまとまりましたか?」

ヘンリー王は「抜かりは無い。反対派はほぼ一掃した。スパニア派で教皇の手先だったカタリナ王妃とメアリ王女はロンドン塔に幽閉した」

「もしかして宮廷クーデター?」とエンリ王子。

「綱紀粛正と言ってくれ。反対派貴族と教会の強硬派の処断も完璧」とヘンリー王。

エンリは「この短時間でしかも帰国早々」とその手際に舌を巻いた。


ヘンリー王は得意顔で「実は俺が身代金を出せずに処刑されたとデマを流したのさ。それで王妃派が好き勝手始めた所に帰国したからさあ大変。全部、俺が出征中に裏で準備を整えたこいつの手柄なんだがな。入ってこい」

数人の部下とともに入ってきたのは、いかにも猛者といった風体の眼光鋭い精悍なマッチョ。

マッチョはヘンリー王の後ろに控えるエリザベス王女に「姫様、お久しぶりです」

「ドレイクおじ様」

そう言って幼いエリザベスが満面の笑顔でマッチョに駆け寄る。



そんなマッチョにタルタが満面の感激顔で「あの・・・あんた、大海賊ドレイクですか?」

「君は?」とドレイクはタルタに・・・。

「タルタって言います。駆け出しの海賊やってます」とタルタは嬉しそう。

ジロキチはタルタに「この人、有名なのか?」

タルタはジロキチに「世界最強の海賊だぞ。俺にとっちゃ神様みたいな人だ」


そんなタルタにドレイクは言った。

「君か。"ひとつながりの大秘宝"を発見したというのは」

そして照れるタルタに「若者が夢を持つのはいい事だ。精進しろよ」とドレイク。

タルタは「頑張ります。あの、兄貴と呼んでいいですか」

「俺はオッサンだぞ。それにホモじゃない」とドレイク。

「俺もです」とタルタ。



ドレイクの後からは彼の部下たちが「姫、俺たちも居ます」とエリザベスに・・・。

「みんなも来てくれたんだね」とエリザベスは彼等に。

部下の一人は「俺、姫のためなら死んでもいい」

「エリザ姫最高! エリザたん萌えーーー」ともう一人の部下も。

「ありがとう、みんな大好き」とエリザベスは彼等に。


そしてドレイクは部下たちに「お前等、久しぶりにあれ、やるか」

「はい、船長」と彼の部下たち。

ドレイクを中心にオタ芸を始める海賊たち。

「エリザベスたん萌えーーーー」と叫ぶドレイク海賊団。


そんな彼等をジロキチはあきれ顔で見ながら、タルタに言った。

「おい、タルタ、あれがお前の神様かよ」

タルタは頭を抱えて「俺の兄貴のイメージが崩れていく・・・」



エンリ王子はヘンリー王に言った。

「しかし、よく議会が黙ってますね?」

「市民議員が全部味方についているからな」とヘンリー王。

「坊主とか追放して大丈夫なんですか?」とエンリ王子。

ヘンリー王は「諜報局のボンド男爵が奴等の腐敗を全部暴いてるから、教皇派だってグーの音も出んよ。それに、援軍もかなり連れて来た」

横からルイ王がヘンリー王に「これで捨て駒脱却だな」

「捨て駒言うな」とヘンリー王は言って、口を尖らせた。



そしてヘンリー王はルイ王に「で、フランスはどうなんだ?」

「こっちも目途はついた」とルイ王。

「どんな事やったんですか?」とエンリ王子。

ルイ王は「王妃とデート。盛大に国民に見せつけてやったよ」

「この非常時に何やってるんだよ」とヘンリー王はあきれ顔。


ルイ王は「いや、うちは王妃に同情する奴が多くて、下手すりゃこっちが悪者にされかねない」

「アンヌ姉さまは30姉妹の中でも人柄が別格ですから」とイザベラが口を挟む。

「性格が良くて絶世の美女だからファンが多い。特にこいつらなんか」とルイ王は言って、後ろに控えている三銃士を指す。

三銃士たちは口を揃えてルイ王に「王様、約束は守ってくれますよね?」

「もちろんだ。王妃の待遇は宮内局の専管で宰相が口出しできないって法律作ったろ」とルイ王。

「ですが・・・」と三銃士たち。


そんな彼等を見てエンリはリシュリューに「宰相ってあんたの事だよな? 権限縮小されてるんだが」

「王妃との夫婦仲が悪いのは私のせいだって事になってる」とリシュリューは憮然。

エンリは怪訝顔で「だって原因は王様が・・・」

「私は元々坊主だし。修道院とか女人禁制だから、多いって事になってますよね?」とリシュリュー。

エンリはリシュリューに「あんたがホモの相手だと?」

「俺だって選ぶ権利はあるんだが、重用する家来が居るとそういう噂が立つんだよ」とルイ王。

「けど濡れ衣だろ」とエンリ。

「いいんですよ。私が悪者って事になれば王に非難が来ない。王は国をまとめる象徴だ」とリシュリュー。

エンリは溜息をついてリシュリューに「あんたも大変だな」


するとルイ王はヘンリー王を指して言った。

「大体、こいつのせいで、三国国教会の統一教義に離婚の自由なんて入れちゃっただろ。このままこれでフランス国教会立ち上げたら、まるで俺がアンヌと離婚するため国教会作ったみたいで、反対されるに決まってる」

リシュリューも「ほんと、離婚の自由なんて入れなきゃ」


するとヘンリー王は不満顔でルイ王に言った。

「お前のは嫁がまともな奴の贅沢だろ。結局俺は外れを引かされた訳だ。あのカタリナ、絶世の美女とか言われて迎えてみれば、実家の軍事力楯にやりたい放題やりやがって」

ルイ王は慌てて「そういう愚痴は後で聞くから」



そしてエンリはルイ王に「けどフランスにも教会の教皇派って居るんだよね?」

ルイ王は「そこは抜かりは無い。王妃に演説させて教皇の回りで戦争やってる奴等を非難させて、教皇庁から民心を離す事に成功したし、スパニアから来た奴等と教皇派の大物を追放するのにも成功した。他の奴等とも話はついてる。なんせ、アンヌがあんた嫌いって言えば、みんな泣いちゃうものな。ああいう裏工作は女使って同情引くのが一番」


「それで、統一教義に盛り込む内容のリストは?」

エンリがそう言うと、リシュリューが書類を出して「フランスではこのように。それでイギリスでは?」

ヘンリー王は「その件で専門家を連れて来た。入りなさい」



一人の僧侶姿の学者然とした中年男性が入室。そして彼はリシュリューに・・・。

「リシュリュー卿、久しぶりですね」

リシュリューは嫌そうな表情で「げ、あなたはベーコン教授」

エンリはリシュリューに「知り合いですか?」と尋ねる。

リシュリューは彼について、言った。

「元々は神学者なんだが、教皇の周囲から煙たがられていた奴でな。異様に弁が立つ。私が教皇庁に居た頃、弁論で唯一勝てなかった奴だ。詭弁術の天才と言われている」


「詭弁ですか?」とエンリ。

ベーコンは言った。

「教会では古い考え方に固執し、高位者の権威をかさに着る奴ばかりだ。だが、世の中では理性と経験により日々新たな発見がある。即ち科学だ。これを拒む頑迷を打ち破るには、弁論によるしか無い。物が成り立つ道理を言語化して突き付けてやるのさ。何が正しいかを論理と経験によって証明してな」

「それって詭弁なんですか?」とエンリはベーコンに・・・。

「教皇庁の奴等がそう言ってるだけだ。科学は意図的な経験、即ち実験によって世界の理を証明する。そしてこの世界を神が造った以上、それは神の意思に沿う筈なんだ」とベーコン。


「けど神様なんて本当に居るんですか?」とエンリ。

ベーコンは「当然だ。君はこんな言葉を知っているかね? "我思う、故に我あり"と。この世界のあらゆる存在の中で、唯一確実に存在するのは、こうして思考を巡らす自分自身だ」

「それは解ります」とエンリ。

「という事は、確実に存在する自分が認識する神もまた、確実に存在するのだよ。あは、あはははは」

そう言って高笑いしながら去って行くベーコン教授。


タルタはぽつりと言った。

「いや、その認識が間違いだって可能性もあるんじゃ・・・」

「確かに詭弁だ」とアーサーも言った。

エンリは「リシュリューさん、あんなのに論破されたのかなぁ」

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