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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
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第546話 プロイセンの策謀

革命に介入するため、フランスに侵攻したドイツ皇帝軍。

弱体化したフランス軍は次々に破られ、残るは交通の要地を守るマジナ要塞だけとなっていた。

ここに元近衛隊とともに派遣されて守備隊を率いるオスカルは、奇策を用いてドイツ軍を翻弄した。

だが、新たに派遣されてドイツ軍を指揮したオスカルの父レニエ将軍は、食料補給を狙う作戦に出た。

ギリギリの戦いを続けるオスカル達を救ったのは、イベリアから撤退した革命警備隊を指揮するナポレオン。

これを迎え撃つため、レニエ将軍は要塞の囲みを解いた。



援軍来るの報に沸き立つ要塞のフランス兵たち。


「追撃しましょう」

そう意気込む部下たちに、アンドレは「お前たち、消耗が激しくて戦える状態じゃ無いだろ」

「そんなの根性で乗り切って、ドイツ軍なんて追撃して挟み撃ちにしてやりましょうよ」とあくまで強気な元近衛兵たち。


その時、魔道具通信による連絡が届いた。

「こちらは革命警備隊指揮官ナポレオン。貴軍の奮戦に敬意を表する。退却する敵軍への追撃は無用である。早急に休息をとり、他のドイツ軍団との戦いに備えられたし」

「お見通しという訳か」とオスカルは溜息。


そして彼女は兵たちに休息を命じた。



レニエ将軍率いるドイツ軍は森を出て、南方に向かう平原に、ナポレオンの軍を迎え撃つべく軍を進めた。

そんなドイツ軍の様子を烏の使い魔で確認すると、ナポレオンはbaka-noteに記述を加えた。

曰く「兵力を分けて戦うのは、各個撃破を招く最悪の愚策である」


レニエは地図を広げ、鳶の使い魔から得た情報を基に、ナポレオンの軍の進路を書き込む。

「会敵地点はこの森を出た地点になるだろうな。歩兵第四部隊を背後の森から来る敵に備えさせろ。恐らく敵は別動隊を送り込んで、挟み撃ちを図るだろう。私ならそうする」

そう命じるレニエに、参謀は「ですが、包囲するつもりで部隊を分けるのは、各個撃破を招く最悪の愚策です」

「そういう常識に捉われる事が、最も危険なのだ」と、レニエはその進言を却下。



ドイツ軍は平原で陣形を整えるとともに、背後を警戒すべく、歩兵部隊を後方に配置した。

だが・・・・・・。


後方に配備されたドイツ兵たちは、口々に言った。

「あの森から挟撃用の敵が来る? んな訳無いだろ」

「要するに俺たちって後詰めだよね」

「弁当でも食いながら高見の見物してろ、って話さ」


「いいのかなぁ」

そう一人の兵が言うと、下士官の一人が言った。

「ジパングの関ケ原という所で天下分け目の戦いがあった時、毛利という総大将は、自らの手勢にそれをやらせて兵に英気を養わせて、勝敗を決定付けたって聞くぞ」

「違うような気がするんだが・・・・・」と、先ほどの兵が呟く。



ナポレオンは正面のドイツ軍本隊の背後を襲うべく、フランス軍の一隊を森の中を迂回させた。

そして戦闘の激化を見計らって、迂回部隊に戦闘行動の開始を命じた。


迂回部隊は、森を出た所に待機しているドイツ軍の一隊に遭遇。

だが、緩み切った空気の中で弁当を食べていた待機部隊は、森の中から現れた迂回部隊の襲撃を受けて潰走。

そのまま迂回部隊は本隊の戦闘区域に突入。ドイツ軍本隊は挟み撃ちとなり、手痛いダメージを受けて敗走した。


部隊の撤退を指揮しつつ、参謀に愚痴るレニエ将軍。

「後方に配置した部隊は何をしていた?」

「部隊を分けて挟撃なんて有り得ないと言って、弁当を食べていたとか」と参謀。

「何やってんだか・・・」と、レニエは溜息。


「とにかく追撃して来る敵をどうしますか?」

そう参謀が言うと、レニエは「一日耐えれば奴らは撤退する」

参謀は「何で解るんですか?」

「要塞に居る軍が消耗から回復するまでにかかる時間だ。フランス領内には他のドイツ部隊も居る。敵は合流して彼等に当たるつもりだろう」とレニエは答える。



時間は数日遡る。

パリの革命委員会の本部では・・・・・。


相次ぐ敗戦の報を受けて、ロベスピエールは焦っていた。

そして、プロイセンのフリードリヒ王に、通話魔道具で矢の催促。

「あなたの勧めでスパニアに攻め込んだら、介入戦争の口実にされちゃったんですが・・・。侵入したドイツ軍にフランス部隊はあらかた壊滅状態です。このままでは保ちません。今すぐ派兵を・・・」

そう通話魔道具で涙目声で派兵をせがむロベスピエールに、フリードリヒは「マジナ要塞はまだ健在ですよね?」


「あそこが落ちれば、一気に国土深く侵入され、パリが落ちるのも時間の問題です」

そうロベスピエールが言うと、フリードリヒは「正式に条約を結んだ訳では無いんだけどなぁ」


「だから早く条約を締結して・・・。それとも見捨てるつもりですか?」

そんなロベスピエールの必死さをあざ笑うかのような余裕顔で、フリードリヒは言った。

「そんな事をすればフランスがドイツ皇帝のものになって、ベルリンがドイツの都になる日は永遠に来なくなりますよ。まあ、トラストミーって事で・・・。我々は啓蒙の理想を共有する友ですから」



通話を切る、ベルリン宮殿のフリードリヒ。


「お友達が居ると思ってる奴は馬鹿だ」

ニヤニヤ顔でそう呟く彼に、隣に控えていた宰相は「で、どうするんですか? このまま見捨てると・・・」

「それもいいな」

そう事も無げに言うフリードリヒに、宰相唖然。

「・・・・・・・・・」


フリードリヒ王は言った。

「フランスの主になったと信じた愚民どもが、外国にその成果を踏み躙られたとなれば、"恨みます"じゃ済まないだろーなぁw そんなのの占領軍として軍を送り込んだ愚かな女帝が、どんな熾烈な抵抗に遭遇するやら」

「本気ですか?」

そう宰相が言うと、フリードリヒは「まぁ、美味しいプランではあるけどね、フランスというケーキは、もっと手っ取り早く独占しないと、賞味期限が切れてしまう」



そして数日が経った・・・・・。


ベルリンのフリードリヒ王の元に宰相から報告。

「いよいよマジナ要塞が陥落する模様だとの情報が入りまして・・・」

「何時落ちる?」

そう、わくわく顔で言うフリードリヒに、宰相は「あと三日とレニエ将軍が言ったそうです」


フリードリヒはにんまり顔で呟いた。

「それじゃ、いよいよ頂くとするか」



フリードリヒは通話魔道具で、ロベスピエールに連絡した。

「お待たせしました。待ちに待った同盟条約締結の用意が整いましたよ」

「ドイツ軍を追い払って頂けるのですよね?」とロベスピエール。

フリードリヒは「そちらに居る外交官が条約案を用意して、これから伺う手筈となってますので」



まもなくロベスピエールの基に部下が報告。

「プロイセンから外交官が来まして、応接室に通したのですが・・・」

ロベスピエールは光の速さで応接室へ。


「ウィルヘルムです」と名乗って握手の手を差し出した、その外交官は何と、10歳そこそこの子供。

何やら馬鹿にされた気分で、ロベスピエールは「随分とお若い・・・・・・」と言いつつ、握手の手を握る。

「父の名代として派遣されました」と、ウィルヘルム王太子。

そして、彼の隣に居る10代後半の外交官も名乗る。

「ビスマルクと申します。で、こちらが条約案でして」



ビスマルクから渡された文書に目を通すロベスピエール。

手が震え、顔が真っ青に、そして真っ赤に・・・・・。

「何だこれは!」と彼は叫んだ。


文書に書かれた条約案に曰く。

「プロイセンは孤立したフランスに友愛の手を差し伸べ、コップの半分を満たした。フランスはこれに呼応すべく、友愛の証としてアルザスロレーヌ地方を割譲し、コップの残りの半分を満たす事とする・・・・・・」


「何なんですか? 友愛とか呼応とかコップの半分とか!」

そうロベスピエールがほぼ怒鳴り口調で言うと、ビスマルクは「かの半島国が隣国との長年の敵対関係を終わらせた格調高い美辞麗句ですが何か?」

「あれは一方的なヘイト政策の挙句に条約を破って関係が破綻し、真っ当に責任を追及した相手国の首脳に対して居直った半島国が、相手国のマスゴミ売国勢力の権力乗っ取りに乗じて密室談合で条約破りを黙認させようという、悪質な誤魔化し修辞表現ですよ」とロベスピエール。

そんな彼の反応を楽しむように、ビスマルクは「まぁ、条約案にはまだ続きがありますので・・・」


ロベスピエールは怒りを無理やり抑えて、更に文書の続きを読む。

曰く「プロイセンはフランスの内政外交軍事商業についての権限を掌握する総督を派遣し、各部署に顧問を置く」

更に曰く「平和主義の元、フランス軍は解散し、非武装国として防衛はプロイセンが責任を持って軍を駐留。その経費はフランスが負担」


ロベスピエールはようやく悟った。

自分が目の前に居る者たちに手玉にとられ、フランスを売り渡すよう敷かれたレールの上を歩いていたという事に・・・・・。

「これでは保護国・・・いや、殆ど植民地ではないか! こんなものを呑めるか!」

そう抗議声で言うロベスピエールに、ビスマルクは「では、ドイツ軍には独力で対処を? 聞く所によればマジナ要塞の陥落も時間の問題とか。折角の革命の成果が、貴族支配に逆戻りって事になりますなぁ」


全身に絶望のオーラを纏い、ロベスピエールは言った。

「少しだけ猶予を頂きたい」

「それまで要塞が保つ事を期待するとしましょう」とビスマルク。



二人のプロイセン外交官が革命委員会を後にすると、ロベスピエールは委員会メンバーを集めた。

そして、プロイセンが出した条約案という名の降伏勧告を彼らに示し、対応策を求めた。


「どうしよう」

そう彼が項垂れ顔で言うと、委員の一人が「だからプロイセンなど信用するなと・・・・・」

「啓蒙君主とか言っても、まともな議会も無いような専制政治ですよ」と、別の委員も・・・。


「とにかくこれからどうするか」とロベスピエール。

委員たちは互いに顔を見合わせ、そして言った。

「市民たちに義勇兵を募りましょう」



革命政府はプロイセンの条約案を公表し、これを回避するために独力で皇帝軍を撃退するための義勇兵を募った。

パリ庶民の間でプロイセンと、これに頼ろうとした政府への批判が高まった。


市場の露店で、コーヒー店で、路地裏で・・・。人々はその場に居る顔見知りたちと、その話題でもちきり状態に・・・。

「あんな国を頼ろうとするんなて、頭悪すぎだろ」

「啓蒙君主とか言ってるけど、まともな議会も無い国だぞ」

「人民代表大会とか言うのがあるけどね」

「議員の過半数は国王の選任で、残りも立候補に王の許可が必要とか、どこの中華専制軍国ファシズムだよ」

「収容所国家の金豚王朝が名前だけ民主主義人民共和国を名乗ってるようなもん?」

「とにかく帝国軍と戦うのは俺たちしか居ない」



ベルリンの宮殿では・・・。

フリードリヒ王が諜報局員から報告を受けていた。


「どうだ? フランスの様子は・・・」

そうフリードリヒが問うと、諜報局員は「兵の募集は出来ているようですが・・・」

フリードリヒはせせら笑いを浮かべつつ、言った。

「義勇軍とか言って数だけ集めたところで、戦い方も知らないような愚民の集まりだ。帝国軍がパリに迫れば、嫌でも我々を頼らざるを得ない」


その時、王の執務室に一人の諜報局員が慌て顔で駆け込む。

「大変です。イベリアからナポレオンと名乗る指揮官が率いるフランスの軍団が帰還し、マジナ要塞への援軍に・・・・・」

「な・・・何ですとー!」



レニエ将軍の軍を破ったナポレオンは、翌日にはオスカルたちの要塞守備隊と合流。

フランスに侵入していたドイツ軍を次々に撃破した。

そして、ドイツ皇帝軍はフランスからの撤退を余儀なくされた。

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