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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
542/549

第542話 イベリアの総督

スパニアに侵攻し、亡命したルイ新王を捕獲するためのビレーネ越えルートの制圧を目論む、フランスの革命警備隊と、彼らを指揮するナポレオン。

彼らはエンリ王子率いるポルタ・スパニアの連合軍の追跡を受けつつビレーネに辿り着き、麓のバンプ要塞を占領した。

そして、峠の反対側で戦っているフランス正規軍と合流すべく、山道を進軍。

だが、エンリはバンプ要塞を奪還してナポレオンの軍勢を追い詰め、これに対するナポレオンの反攻は失敗した。



ナポレオンは焦っていた。

峠の向うで戦っている友軍と、一刻も早く合流しなくてはならない。

背後には敵軍が迫っている。

もうすぐ峠を越える・・・という所で、彼らは右前方の斜面上に敵影を見た。

数十名が鉄砲を構えている。


応戦体制をとって少数の敵と向き合うフランス軍。 

参謀は「少人数のようですが、どうしますか?」


「相手にしている時間は無い。牽制射撃を加えつつ突破するさ」

そう答えつつ、ナポレオンは敵の様子を望遠鏡で観察する。

中に十歳ほどの二人の子供が居た。一人が鉄の仮面をかぶってポーズをとって叫ぶ。

「闇のヒーローロキ仮面参上」

ナポレオンはあきれ顔で「貴族の子供が家来を連れて戦争ごっこかよ。相手にしてられるか」


だが、もう一人の子供を見て、ナポレオンの顔色が変わった。

「あれはルイ新王。あの子を捕えればこの戦いは終わる」



そしてナポレオンは決断した。

「敵は少数だ。包囲して一気に制圧する。敵の中にルイ新王が居る。必ず捕えて本国に連行しろ」


一斉射撃とともに、左翼隊と右翼隊が敵両翼に回り込む形で移動開始。

「いける。このまま包囲するぞ」


その時、敵の背後にドラゴンが現れた。

魔導兵たちがドラゴンに攻撃魔法を打ち込むが、固い鱗で弾かれた。

そして炎を吐い、てフランス軍を蹴散らすドラゴン。


フランス軍の銃兵が敵兵たちに放った銃弾は、硬い魔法防壁に弾かれる。

見ると、六人の女の子が防御魔法を展開している。十代後半が三人に十歳ほどの女児が三人。


無数の鉄の仮面が宙を飛んで、口から一斉にウィンドアローを放つ。

混乱するフランス軍に敵側が突撃をかけて来た、その先頭にマゼランとチャンダ。

二人は左手の楯で銃弾を弾き返し、右手の剣で周囲のフランス兵を切り伏せる。

シャナが炎の魔剣の衝撃波でフランス兵を薙ぎ倒す。


包囲陣形成に向かった部隊からナポレオンの元へ、次々に報告が入った。

「こちら左翼隊。敵は少数ながら、身体強化魔法を施された兵が居て、やたら強くて手が付けられません。攻撃魔法で多くの被害を受けています。撤退の許可を」

「右翼隊です。敵の先頭に居るのは、どうやら新王従者のフェルゼン。機械背嚢に備えた砲を連射する女性兵と大量の銃弾を放つ射撃機械によって、多大な被害を受けています。撤退の許可を」

「こちら騎兵隊。敵の背後を衝こうと迂回中、飛行機械による爆撃を受け、痺れ薬入りの毒霧を撒かれて馬が動けません。このままでは全滅です」

「背後に敵軍。追い付かれた模様」


頭を抱えるナポレオンとフランス兵たちは、拡声魔道具が響かせたその声を聞いた。

「こちらポルタ軍総司令のエンリ。君たちを殲滅する体制は既に整えた。だが、フランス軍の壊滅は我々の望むところでは無い。降伏を勧告する。直ちに武装を解除せよ」


ナポレオンは白旗を上げた。



「父上ーーーーーーーーーーーーー」

嬉しそうにエンリに駆け寄るフェリペ。

「僕、敵の退路を断って降参に追い込みました。これって大戦果ですよね?」


「ま・・・まあ、よくやった」

そう言う困り顔のエンリを見て、戸惑うフェリペ。

「もしかして、父上の手柄を取ってしまったでしょうか?」

エンリ、慌て顔で「そそそそそそそんな事は無い。大戦果だ。さすがは俺の息子だ」


エンリは十歳の息子を抱き上げながら、脳内で呟いた。

(勝ち過ぎるな・・・って言われてたんだがなぁ)



エンリは通話魔道具で、スパニア宮殿のイザベラ女帝に連絡した。


「国境のフランス軍、撤退したわよ」

魔道具の向こうから聞こえるイザベラの声に、エンリは「そりゃ良かった」

「で、そっちに行ったフランス軍は壊滅したのよね?」

そう問うイザベラに、エンリは言い訳声で「まあ、戦死させた敵兵も炎剣兵団が倒した奴は不殺術式で生き返るし・・・」


イザベラは言った。

「まあいいわ。それより、フランス本国はドイツが始めた介入戦争で大変な事になっているわよ。このままあの馬鹿女に占領されたら、厄介な事になるわ」

「そうだろうな」

そうエンリが言うと、イザベラは「貴族中心の正規軍は弱体化して、あのドイツ軍にだって負けちゃうくらいだもの」


エンリは言った。

「けど、俺が戦った市民兵中心の軍はかなり強かったぞ。預言通りにユーロを席巻する・・・って事になるだろうな。そうならないよう先手を打ってスパニアが占領するって手もあると思うが」

「それは・・・。占領地での抵抗は相当なものになるでしょうね」とイザベラ。

エンリは「言っとくが、ポルタ軍が出張るのは無理だぞ。さすがに兵力が足りない」と釘を刺す。


イザベラは「まあ、占領軍なんて損な役目は、馬鹿女に任せておけばいいわ」

「厄介な事になるんじゃないのか?」

そうエンリが疑問声で言うと、イザベラは「追い出した後、反撃してユーロ侵略に突っ走るでしょうね」

「そっちかよ。で、どーすんだ? これ」


イザベラは「投降したフランス部隊の処置は任せて貰えるかしら」

「服従させて手駒にでもするか?」

そうエンリがドン引き気味な声で問うと、イザベラは「逆よ」



炎剣軍団の武器には不殺の呪いがかけられており、多くのフランス兵が復活した。

彼らは戦場や砦で捕虜となったフランス兵とともに、まとめてスパニア軍に引き取られた。


そして彼らが収容されたスパニアの軍施設で、司令官のナポレオンはイザベラ女帝と対面する。


「俺たちをどうする気だ?」

そうナポレオンが言うと、イザベラは「俺たち・・・じゃなくてフランスを、ですわよね?」

ナポレオンは「俺はただの派遣司令官で敗軍の将だが」

「そうね。けど、フランスを救う英雄だとしたら?」とイザベラ。

「・・・・・・」


唖然顔のナポレオンにイザベラは言った。

「今、フランスはドイツに攻め込まれて陥落寸前よ。あなたは自分の部隊を率いて、帰国してドイツ軍を追い出すのよ。二度とスパニアに攻め込まないと約束するなら」

そんな彼女にナポレオンは「我々の要求はただ一つ。ルイ新王を引き渡す事だ」

「無理ね。彼は息子のフェリペの親友で、フェリペは自分の海賊団を率いて家出したわ。前にも同様の事があって、夫のエンリが球体大地の裏側まで行って、ようやく連れ戻したのよ。あの子の手勢の実力は、自分で戦ったあなたなら身に染みている筈よね? それが各地を逃げ回って、簡単に捕まえられると思うかしら?」とイザベラ。


「では、放置すると?」

そうナポレオンが言うと、イザベラは「あなたの兄のジョセフ氏が居るわよね? 彼にスパニア王の地位を預ける、というのはどうかしら」

ナポレオン、唖然。

そして「我が国の介入を受け入れると?」

そんな彼にイザベラは「どこぞの列島国の左翼政党が選挙公約で、ヘイトを剥き出す隣国に主権の共有とか言って支配権の半分を譲る・・・などという売国アピールを掲げて選挙民から大顰蹙を買ってボロ負けした事があるけれど、それと同等の出血大サービスよ」



ナポレオンはイザベラと協定を結ぶための交渉に入った。

スパニア外務局の役人たちと向き合うナポレオン。


「それで、兄ジョセフの地位ですが・・・」

そうナポレオンが言うと、外務長官は「関白、という事でよろしいですね?」

ナポレオンは疑問顔で「スパニア王では無いのですか?」

外務長官は言った。

「女帝陛下が退位する訳にはいきませんから。関白というのは王の代理で、全権を掌握する独裁者です。亭主関白という言葉をご存じですか?」


そして彼は亭主関白の歌を歌う。

「黙って俺について来い・・・」



ナポレオンとジョセフは納得し、文書を作成し調印の段となった。


調印文書に曰く「宜しく阿衡に任ず」

「関白では無いのですか?」

そうジョセフが疑問顔で問うと、外務長官は「シーノではそう呼んでおります。元々は中華の制度ですので」



協定は成立し、ナポレオンはジョセフを残し、軍を率いて帰国した。

そしてジョセフは・・・・・・。


担当の役人に、首都郊外の別荘に案内されるジョセフ。

風雅な和風庭園に囲まれた木造建築が、立ち並ぶ庭木の緑と溶け合い、ゆったりとした時間の流れを感じさせる。

「これはまた・・・」

そう感嘆の声を上げるジョセフに、役人は「ここが阿衡の執務所です。まったりとお過ごし下さい」


「それでは・・・って、ちょっと待て! ルイ新王捜索の命令とか、捜索部隊の編制とか、スパニア内政の監督とか・・・・」

辛うじて自分の立場の名目を思い出し、ジョセフは役人にそう質すと、役人はしれっと言った。

「阿衡にそんな権限はありません」

「はぁ?・・・・・・・」


「これが阿衡の職務です」

そう言って役人が示した文書を見て、ジョセフ唖然。

「何の権限も無い、ただの名誉職じゃないか。話が違うぞ!」


そんな抗議の声を上げるジョセフの背後から、一人の老人が声をかけた。

「まあそう言わずに。ここの生活もなかなかですぞ。スローライフと言いまして」

「あなたは?」

そう問うジョセフに、老人は名乗った。

「この別邸の同居人。ポルタ王のジョアンです」


まもなく、ジョセフはジョアン王の茶飲み友達となり、スパニア帝別荘でのスローライフにすっかり馴染んだ。



そんな状況を聞いて、エンリはあきれ顔。


「いいのか? あれ。まるで俺たち敗戦国なんだが。それに、いずれユーロ中の国が結束してフランスに対抗すると、俺たち、フランスと一緒に孤立・・・って事にならんのか?」

そうエンリが言うと、イザベラは「スパニアは支配された被害者として、同情を買う立場よ。それに、あのナポレオンはいずれフランスを掌握するわ。その時、その兄のジョセフは人質よ。いざとなったら、処刑して首を送り返す、と言って脅す事だって出来るわよ」


「怖ぇーーーーー」

ドン引き顔で肩を竦めるエンリに、イザベラは「戦争に勝つ秘訣は常識に捉われない事よ」

「確かに、この戦いは常識に縛られたら勝てない」

そうエンリが遠い目で呟くと、イザベラは「誰の台詞でしたっけ?」

「はて・・・・・・・?」


「それより、バンプ要塞は何で陥落したの?」

そうイザベラに問われ、エンリは曖昧な記憶を辿る。

「降参を装って要塞内に入れた敵に乗っ取られた」

イザベラ、あきれ顔で「間抜け過ぎでしょ。何でそんな事に?」

「さぁ・・・・・」


イザベラは溜息をつくと「あの司令官は降格ね」

「ってか、何か重大な事を忘れているような気がするんだが・・・」とエンリ王子。


エンリたちは知らなかった。

ナポレオンがこの戦いの中でbaka-noteに書き込んだ事で生まれた常識が、ノートから削除される事で彼等の記憶から消え去っていた事に・・・。

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