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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
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第54話 自前で教会

スパニアの内戦に介入したイギリス軍とフランス軍を破ったエンリ王子率いるポルタ軍。

エンリは捕虜となった両国王との会見に臨む。

会見の場では、エンリの隣にイザベラ。後ろにはアーサーら数名。両国王の背後にも何人か控えている。



捕虜となった二人の王が名乗る。

「イギリス王ヘンリーです」

「フランス王ルイです」


そしてエンリも名乗る。

「ポルタ国王太子エンリです。お二人とも、ご自分の立場は理解しておられますよね?」

「捕虜という事ですよね?」とルイ王。

エンリは「解っていればよろしい」

「で、これから身代金の話になると」とヘンリー王。

「解っていればよろしい。では・・・」


そうエンリが言いかけた時、ヘンリー王がエンリに言った。

「その前に提案があるのですが」

「何でしょうか?」とエンリ。

「うちの信者になりませんか?」とヘンリー王。


「はぁ?」とエンリ唖然。

「アナタ神様信ジマスカァ?」とヘンリー王。

エンリは迷惑そうに「そういうのは要らないから」



そんなエンリに、ヘンリー王は言った。

「いえ、これは真面目な話で、実は今、教皇庁から独立した教会組織を立ち上げる準備中で、号してイギリス国教会。で、その設立の折にはぜひ三番目の信者に」

「一番目があなたという訳ですか?」とエンリ。

ヘンリー王は「我々は外国から宗教的な介入を受ける立場にあります。これを、どうにかしたいと思いませんか?」

「で、それを飲んだらスパニアもポルタも、イギリスの宗教支配を受けるのですよね?」とエンリ。


ヘンリー王は言った。

「あなた、ドラゴン持ってますよね? このままだと異端審問って事になりますが」

エンリは「それは・・・」と口ごもる。


ヘンリー王は更に語る。

「そもそも我々がこんな戦争に引き込まれる事になったのも、スパニアの姫を王妃に迎える破目になったからです。私はあの女と離婚したい。だが教皇が教義だからと言って、それを許さない。神の前で永遠の愛を誓った訳だからと。結婚は両性の合意によってのみ成立します。その合意が破れたなら離婚は権利でしょう。しかも国王の婚姻は国家の問題。その結婚が国家に害をなしたなら・・・」



その時、ルイ王はヘンリー王を指して、エンリに言った。

「そんな事言ってますがね、このヘンリーって男は、若い愛人にうつつを抜かして、その女と結婚するために離婚したいだけなんですよ」

「そうなの?」とエンリ唖然。

ヘンリー王はルイ王に「彼女はあんたの所の国民だろーが」

ルイ王はヘンリー王に「いや、それ国とは関係無いから」


「あんただって嫁と離婚したがってるだろーが」とヘンリー王。

「離婚したいとは言ってない。世継ぎを産ませるためには必要だ」とルイ王。

「けど愛してないよね?」とヘンリー王。



そんなルイ王にエンリは「もしかして、あんたホモ?」

ルイ王はエンリに言った。

「性的少数者と呼んでくれ。そういえば王子も特殊な性的嗜好をお持ちとか」

エンリは嬉しそうに「その気持ち解ります」

「私たち、友達になれますよね?」とルイ王。


友情のハグを交わすルイ王とエンリ王子。ルイ王の右手がエンリのお尻をすりすり。慌てて離れるエリン。

「言っときますけど、恋人にはなれませんから」とエンリ。

「残念だなぁ」とルイ王。

エンリは「いや、勘弁してくれ」



エンリ王子は落ち着きを取り戻すと、ヘンリー王の背後に控える人たちを見る。そして・・・。

「で、ヘンリー王。そちらの女性がその愛人ですか?」

ヘンリー王の後ろに控える少女。まだ10歳そこそこの、むしろ幼女だ。


ヘンリー王は慌てて言った。

「私はロリコンじゃない。これは娘だ。その愛人が産んだのが、この娘だ」

「エリザベスと申します」と少女は名乗る。


ヘンリー王は言った。

「私の後継は妃が産んだこれの姉でな、エリザベスはその姉に疎んじられている。こうして私のお付として戦場に来ているのも、あわよくば父子ともども戦死でもしてくれたらという、妃とスパニア派の思惑なのだよ。という訳で身代金を要求されてもイギリスは支払いを拒むと思うぞ」

がっかりするニケ。



エンリ王子は落ち着きを取り戻すと、ルイ王の背後に控える人たちを見る。そして・・・。

「そちらの方はフランス王の恋人・・・じゃないですよね?」

ヘンリー王の後ろに控える中年男性は「私はノーマルですので」

「僧侶の方のようですが」とエンリは彼に・・・。

するとルイ王は「坊主上がりだが頭が切れるので宰相として使っておる」

「リシュリューです」と男性は名乗る。


ニケがルイ王に「そちらは身代金は?」

「私はヘンリーほど人望無しではないのでな」とルイ王ドヤ顔。

ヘンリー王は「ほっとけ」と口を尖らせる。

そしてルイ王は「で、身代金交渉も彼に任せる。何しろこいつは値切り交渉の天才だからな」

がっかりするニケ。



そしてヘンリー王は言った。

「で、国教会の入信の件ですが・・・」

エンリはきっぱりと「お断りします。イギリスに出来るという事はポルタやスパニアにも出来る筈ですよね?」

「教皇庁からの圧力がハンパ無いと思いますが」とヘンリー王。


その時エリザベスがヘンリー王に言った。

「ですが父上、一国がやれば抵抗が大きくても、複数の国が同時多発的に教会独立をやれば、教皇庁も対策に窮するとは思いませんか?」

「それはそうか」とヘンリー王。

エリザベスは更に言った。

「東の国、ジパングには、こんな諺があります。"赤信号、みんなで渡れば、怖くない"。新教会どうしで友誼を結び、互いにその権威を認め合う。ドイツの反教皇派とも連携する。それを教皇庁が認めないなら、教皇庁を仲間外れにすればいいんです。ハブられる前にハブれ。これは女子会戦略の鉄則です」


イザベラはそんなエリザベスを見て言った。

「あなた、若いのに見所あるわね」

エリザベスはイザベラに「父上がどこかの王太子妃殿下の裏工作の手玉に取られるのを、散々見てきましたから」

「あなたとはお友達になれそうね」とイザベラ。

「メアリ姉さまも私をロンドン塔に幽閉する時、同じ事を言ってましたわ」とエリザベス。

イザベラとエリザベスは声を揃えて「ほーっほっほっほっほ」



そしてヘンリー王はルイ王に「で、フランスはどうする?」

リシュリューは王に「考える価値は大いにあるかと」

「だがな、リシュリュー。うちの国内の半分は教皇派、残りの半分は反教皇派だぞ」とルイ王。


リシュリューは言った。

「だからですよ。対立する両者の間に立って、バランサーとして主導権を握るんです。中立の立場でフランス国教会が信仰の自由を認める」

ルイ王は「なるほど。先代王の時には両派の争いが内乱に発展して国が滅びかけたものな。だが、信仰の自由で言う事聞くか?」

「先ず、外国の介入を嫌う風潮があります。そして、宗教対立による戦争で被害を受けた記憶がある。国民の支持を得る余地は十分です」とリシュリューは言った。



「後は教義はどうするか・・・ですね」とエンリ王子。

ヘンリー王が「離婚とドラゴンは公認として」

するとニケが言った。

「お金儲けも自由化してよ。"地上の蔵に財を蓄えるなかれ"とか、冗談じゃないわ」


するとタルタが「いっそ聖書を書き換えたらいいんじゃないかな」

「だったら右の頬を殴られたら相手の両頬を三発づつ殴れ」とジロキチ。

「汝姦淫大いに結構」とカルロ。

「汝の隣人を愛せ、ただしイケメンに限る」とニケ。


エンリはあきれ顔で、調子に乗る仲間たちに言った。

「ちょっと待て。それだとさすがにドイツの反教皇派が怒るぞ。何しろ奴等は教会が聖書を独占して坊主が勝手に解釈するのが悪いって言って、教会の代わりに聖書を翻訳出版して権威の中心にしているんだからな。ドイツでは教皇をバックにした皇帝に対して、ドイツ諸侯が奴等を支持して反抗して、それであの勢力は立場を保っている。聖書自体に手を付けたら、ドイツ諸侯たちを味方に出来なくなる」

するとリシュリューが「そんなものは書き換えずとも、解釈次第でどうにでもなります。それと、商業の利益については経済力をつけた市民を味方につける誘引です」


ルイ王がリシュリューに「多数派工作は出来そうか?」

「お任せ下さい」とリシュリュー。


ルイ王はヘンリー王とエンリ王子に言った。

「ではフランスも教会独立、一枚噛みましょう」

「イギリス・フランス・スパニアの各国教会。国は違えど心は一つ」とヘンリー王。

「教皇なんか糞くらえ」とタルタ。

「我等三国、みんなは一国のため、一国はみんなのため」とルイ王。

「一時の利益のために手を組むって、いいですね」とリシュリュー。

「何時でも裏切れる」とニケ。

エンリ王子が「おいおい」

ジロキチが「俺の祖国のジパングにこんな言葉があるんです。呉越同舟と」

「それ、滅茶苦茶ヤバい意味だと思う」とアーサーが言った。



そしてニケが言った。

「それで戦争ですが、身代金、忘れてないでしょうね?」

ヘンリー王が「だからイギリスは・・・」

ニケはヘンリー王に「手持ちのお金だけでも吐き出してもらいますからね」

ルイ王は「フランスはしっかり値切らせて貰います」


エンリ王子は、おさまりのつかないニケを見て溜息をつくと「ニケさん、もういいよ」

「何でよ。私の取り分どうするのよ」とニケは口を尖らす。

エンリは「そんなものは無い」とニケにぴしゃりと言う。


そしてヘンリー王とルイ王に「それより、同盟組んで一緒に他の奴等と戦いませんか?」

「ノルマン王とかポコペン公爵もこっちに付くでしょうね」とアーサー。

「ドイツ諸侯も多分味方につくし、後の奴等は雑魚が多い」とリシュリュー。


そんな中でイザベラ妃が「問題はドイツ皇帝と教皇庁聖騎士隊です」

「何で教皇庁が?」とニケ。

「枢機卿に兄が三人も居るし、それに教会独立なんてやれば、出てこない訳無いですよ」とイザベラ。

アーサーも「ドイツの魔導士隊の攻撃魔法は強力ですし、聖騎士隊の防御魔法も鉄壁です」

「それと、第二皇子がスパニア正規軍の大半を味方につけてます」とリシュリュー。



そして・・・。

ここはマーリンが魔術の拠点に使っている洞窟。周囲の棚に様々な魔道具や呪薬素材。

奥の中央に呪術炉。これに火をくべるマーリン。呪鍋の中身がぐつぐつと泡を立てる。


長い柄のお玉でかき回しながら、マーリンは呪文を詠唱。

「回れ、回れ、鍋の中の世界。下の大火事は地獄の炎。尻に火が付く小鬼の群れが、邪心を喰らって大暴れ。たまらず世界はひっくり返る」

マーリンは右手の小さな杖で鍋の上に立体魔法陣を描く。それが魔力の光を帯びると、その中にいくつもの古代文字が浮かぶ。それをゆっくり鍋の中に沈める。

「鍋の中身は、あの世の子宮。生まれる子らよ、たーんとお食べ」

鍋の中に、トカゲの尻尾と蝙蝠の羽、そして狼の脊髄液を注ぐ。鍋の中身のオーラが強まる。


「戦場うろつく狼たちに、群のボスから命令だ。隣の羊に手を出すな。縛め破ると、針千本、飲ーます」

そして結びの呪文を詠唱。

「産まれるお前に名付けてあげる。汝の名はアンチピレッジ。邪悪を縛る神秘の呪薬よ、誕生あれ!」


一瞬、鍋が発する光が周囲を覆うと、何事も無いように周囲は静まった。



マーリンは後ろに居るエンリたちに「完成よ」と・・・。

後ろで見ていたエンリが「これをワインに混ぜて同盟に加わる奴等の兵に、振る舞い酒とか言って飲ませる訳か。ポルタのワインはブランドだからな」

「飲めば略奪行為が出来なくなる呪いがかかるわ」とマーリン。


エンリは溜息をついて言った。

「あいつ等、戦地で略奪するのが普通に給料だと思ってやがる。特に雇われてる傭兵隊なんか、三度の飯を周りの農村からの略奪品で済まそうってんだから、戦場になる国の民はたまったもんじゃない」

「敵軍がそれで恨みを買うならともかく、味方がそれをやるのはまずいですからね」とアーサー。


そしてエンリは「それと、マーリンさんも戦争で手伝ってくれると助かるんだが」とマーリンに言う。

マーリンは「そうね、誰か男を紹介してくれるかしら。フランスには三銃士っていうイケメングループが居るのよね」

「ルイ王に話しておくよ」とエンリは言った。

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