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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
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第539話 平和の白旗

亡命したルイ新王を捕らえようと侵入した、ナポレオン指揮下のフランス革命警備隊。

これを迎え撃つポルタ軍を指揮するエンリ王子の元で、炎剣兵団はその威力を発揮した。

ナポレオンはその力を見て早期に退却して被害を抑え、ピレーネ越えルートを確保すべく北上。

これを追跡するポルタ軍。



フランス軍の烏の使い魔による爆弾攻撃を凌いだポルタ軍は、スパニア領に侵入したフランス軍を追って国境を越えた。


その頃、フランス軍の行く手に、スパニアの大軍が待ち構えている。

その情報はナポレオンも、斥候と烏の使い魔によって把握していた。


指令部用馬車の中で地図を広げて敵の動きを確認する、ナポレオンと参謀。

「このまま進むと湿地帯だな」

そうナポレオンが言うと、参謀は「スパニア軍もここを目指しているようです」



スパニア軍では・・・。


湿地帯の地形を地図で確認するガウ将軍と参謀たち。

将軍は地図のあちこちを指して、作戦を語る。

「ここで敵軍を三方から包囲して殲滅する。恐らく敵は氷魔法で湿地帯を凍らせて渡ろうとするだろう。それを阻止するため、炎魔法を使う魔導士隊を配置。足止めしてポルタ軍と合流するぞ」


「けど、奴らは素人ですよ」

そう参謀が言うと、ガウ将軍は「エンリ王子はあなどっては駄目と言っていた。実際、彼らは未だにフランス軍に追い付けずにいる」

「ポルタ軍は弱兵ですから」と参謀。

ガウは「だとしたら反撃している筈だ」



フランス軍では・・・。


斥候がもたらした情報を基に参謀は「どうやら湿地帯を背に我々を迎え撃つつもりのようですね」

地図に示されたスパニア軍の布陣を見て、ナポレオンは思考を巡らす。

「スパニア軍は三隊に分かれて布陣しています。左翼陣を湿地に面した所に配置し、魔導士隊に氷結徒渉を警戒している模様」

そんな参謀の説明を基に、彼の脳内で、これから始まる戦いの幾通りものシュミレートが描かれる。

やがてそれは一つのシナリオに辿り着いた。



湿地帯の手前に辿り着いたフランス軍・・・。

スパニア軍を突破するための戦闘態勢に入った。


各隊配置に付き、戦闘開始。

フランス軍はスパニア軍左翼隊の更に外側へ回り込んで湿地帯の岸へ向かう。

スパニア軍はこれに対応すべく、本隊と右翼隊が移動し、左側に陣取ったフランス軍に正面を向けて攻勢をかける。


スパニア軍司令部に報告。

「左翼隊より魔導通信。敵が背後の湿地面に向けて氷結魔法を使っている模様」

ガウ将軍は「湿地を凍らせて道を作る気だな。爆炎魔法で阻止しろ」と指令。

スパニア軍魔導士隊は遠距離攻撃魔法により、氷結が作り出した氷の道を破壊。

これを確認したガウ将軍は「敵の退路を断った。総攻撃だ」


フランス軍は、スパニア軍の熾烈な攻勢に押され、湿地の岸に沿って、じりじりと後退。

スパニア軍は左翼隊と本隊を前に進めて敵を圧迫するとともに、右翼隊はフランス軍の外側へ戦線を広げ、これを包囲する体制を見せた。

ガウ将軍は激を飛ばす。

「いいぞ。このまま敵を包囲して、奴等を沼地に追い落とせ」



その時、スパニア左翼隊の陣に面した湿地の岸に生い茂った葦の繁みから、フランス銃兵隊が現れ、一斉射撃で左翼隊の隊列を崩すと槍を翳して突撃。

不意を突かれた左翼隊の窮地がスパニア本隊に伝わる。

ガウ将軍は焦った。

「いかん! 左翼の魔導士隊を失ったら氷魔法による徒渉を防げなくなるぞ。すぐに救援に向かえ」


スパニア軍本隊が左翼の救援のため部隊を移動させると、ナポレオンはその隙を突き、その側面に攻撃を集中させた。

そして、移動する本隊をカバーしようとした右翼隊の背後に、迂回した騎兵隊が攻めかかって混乱を誘い、右翼隊は本隊をカバー出来なくなる。

その隙にスパニア軍左翼陣を突き崩したフランス別動隊とフランス軍本隊が、スパニア軍本隊を挟み撃ちにして突き崩し、残った右翼隊を包囲。

スパニア軍は総崩れとなった。


勝利に沸くフランス軍の司令部。

「このまま殲滅しますか?」

そう問う参謀に、ナポレオンは「ポルタ軍が迫っている。今のうちに湿地帯を渡り切るぞ」



フランス軍は再び氷結魔法を使い、湿地を凍らせて氷った道を作った。

その時、従軍していたナポレオンの兄のジョセフが言った。

「ここを渡ったとして、ポルタ軍も同じ方法で追ってくるんじゃないのかな」


ナポレオンは少し考える。

そして魔導士官に命じた。

「闇魔法で瘴気をばら撒いてやれ」

「たいして足止めは効きないと思いますけどね」

そう物言いする魔導士官に、ナポレオンは「それを足止めが効くようにするのさ」


ナポレオンはbaka-noteに項目を書き込んだ。

曰く「瘴気の湿地帯」



フランス軍が去った跡に残された敗残のスパニア軍に、ようやくポルタ軍が合流した。


負傷兵の救護に追われるスパニア軍司令部。

エンリは意気消沈状態のガウ将軍に「随分と派手にやられましたね」

ガウは「奴ら、湿地帯を渡って奇襲をかけて来たんだ。いったい、どうやって沼地の上を渡ったのか」


間もなく、左翼隊が戦った湿地帯の岸で、ジロキチがそれを見つけた。

大き目の板に草履の緒のようなものを付けた代物だ。

これを示してジロキチは言った。

「カンジキですね。柔らかい雪の上や泥沼の水田を、これを履いて沈まずに歩けるんですよ」

「これを使って湿地の泥沼の上を歩いたって訳かよ」とエンリ。


「けど、素人の兵があれほどの力を・・・・・・」

そう言ってガウが溜息をつくと、エンリは「民が国の主としての自覚を持つ事で、大きな力を発揮します。それと指揮官のナポレオン・・・」

「何者ですか?」

そう問うガウに、エンリは語った。

「元々砲兵だそうですが、バスチーユ攻めで革命側に参加して功績を立てた男でしてね。以前からオルレアン公のサロンで共和主義者の活動に参加し、シャドウキャビネットの大統領選挙に立候補した事もあるとか。その時の演説で、男はテッペンを目指す・・・とか言ったと」

「我々はそんな奴に敗れたのですか?」と憮然顔のガウ。

エンリは「政治的な見識と軍人としての才能は別ですからね」


「とにかく、我々はすぐに奴らを追います」とエンリ。

ガウは言った。

「我々も参加します。負傷兵は付近の街に預けるとして、戦える兵はそれなりに残っています」



スパニア隊の再編成を終え、エンリ王子率いる軍勢は追撃に入った。


湿地帯を凍結魔法で凍らせて道を作ろうとしたが、魔導士官がそれを感知した。

「瘴気がありますね」

「闇魔法の置き土産かよ。瘴気は蒸気を依り代として拡散するから、凍らせてしまえばどうしいう事は無い」とエンリ。


だがその時、兵たちが口々に言った。

「ここを凍らせて渡るんですか?」

「その予定だが・・・」

そうエンリが言うと、兵たちは「嫌です。瘴気の沼は悪霊が居ます」

「はぁ?」


彼らは恐怖に顔を引き攣らせて「ターボババアという悪霊が駆けっこを挑んで来て、負けると呪われてイチモツを奪われます」

「そーだった」

「オカマになるのは嫌です」

そう口々に言う兵たちに、エンリは「けど、そんなの迷信だぞ」

「常識ですよ」と口々に言う兵たち。



(どうにかしないと)

そうエンリは脳内で呟くと、アーサーに「ここにそんな妖怪が居るのか?」

探知魔法で一通り探ると、アーサーは「居ませんね」

「という訳で、ここを渡っても何も出てこないから大丈夫だ」とエンリは断言。


だが、なお兵たちは口々に・・・。

「安心できません」

「悪霊怖い」

「ターボババアにかけっこでは勝てない」


「駆けっこなら負けませんよ」

兵たちの背後から、そんな女の子の声が・・・・・。

金髪ロングに布面積の少ない上着とスカート、そして紅白ニーソの小柄な少女。

いつの間にか混ざっていた、エンリ達の乗艦シマカゼ号のメンタルモデルだ。


「シマカゼ、どこに行ってた? 戦争だってのに姿も見せず」

そう彼女を見てエンリが言うと、タルタが「何時もの事だけどね」

「それに陸戦だからシマカゼ号の出番は無いし・・・」とニケ。

エンリは「いや、彼女は内陸でも、かなり戦力になるんだが」


「それより、駆けっこするんだよね?」

そうシマカゼが言うと、エンリは「ターボババアってのが出て来れば、な」

そしてエンリは兵たちに言った。

「という訳だ。ターボババアだってシマカゼには勝てない」



その頃、湿地帯を渡り終えて北進するフランス軍の司令部では・・・。


烏の使い魔により、ポルタ軍が氷魔法による湿地帯の渡渉を始めていた事を知った。

「やはりスパニア軍と合流する前に、ポルタ軍を包囲殲滅しておくべきだったのでは・・・」

そう参謀が言うと、ナポレオンは「いや、あの炎の剣と楯を持つ軍団の突破力と、まともに戦うのは避けるべきだろう」


参謀は「けど、正面からでなければ、やりようはあるかと」

「易々と後ろを取らせる相手じゃないと思うぞ」とナポレオン。



ナポレオンは、追跡するポルタ軍に少数の騎馬隊で襲撃を繰り返す事で、その進軍を遅らせようと試みた。

街道から少し離れた所に穴を掘り、騎馬と兵を隠す。

烏の使い魔の情報から、接近したポルタ軍の情報を得て、一撃をかけて撤退。


襲撃者を追跡しようとするガウ将軍を、エンリは制した。

「深追いは敵の思う壺だ。罠に誘い込んで被害を強いる、典型的な足止め策だ」

「ですが・・・・・」


エンリの要請で、ガウ将軍は付近の街に救護隊の派遣を命じた。

襲撃で傷ついた兵を彼等に任せて、ポルタ軍はフランス軍を追う。


烏の使い魔による情報で、フランス軍の位置を地図上に示す。

ピレーネ山麓に迫りつつある中、次第にフランス軍との距離を詰めつつある事を確認する、エンリ王子とガウ将軍。

「この調子なら、バンプの要塞で敵を挟み撃ちに出来そうですね」とガウは楽観論を述べ、エンリも頷く。

バンプ要塞は、ピレーネの麓を守るフランス・スパニアの山越えルートの要衝である。



だが・・・・・・・・。

エンリとガウ将軍の元に急報が届いた。


「バンプ要塞が陥落しただと? 一体、どうやって・・・」

唖然顔で、報告に来た味方の偵察兵に問うエンリとガウ。

「白旗で降伏を装い、迎え入れた所を銃を突き付けられて」

そんな報告を聞き、ガウは「何と卑怯な」

エンリはあきれ顔で「武器を持った戦闘態勢で入って来た奴らを、正面門を開けて迎え入れたって訳かよ」


「だって神の平和を示す白旗ですよ。降参の意思を示したのだから、疑ってはならないですよね?」

そう偵察兵が言うと、エンリと彼の仲間たちは「確かに・・・・・」

「常識だものな」とタルタ。

「騙しであっても信じるのが平和に対する義務。平和学の教授の教えたるリベラルの理想です」とガウ将軍。


そんな宗教話で盛り上がるガウ将軍と部下たちを見て、エンリは思った。

(何かがおかしい)



「それより提督」とシマカゼが口を挟む。

「何だよ」

シマカゼは退屈そうに「ターボババアは何時出て来るの?」

「・・・・・・」

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