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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
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第538話 炎剣と市民兵

亡命したルイ新王を捕らえるため、ポルタ北部に上陸したフランス革命警備隊は、フランス国境から侵攻した正規軍と呼応して、ピレーネ越えルートを確保すべく北上。

これを迎え撃つべく、エンリ王子が指揮するポルタ軍の、先回りして住民を退避させて食料補給を断つ作戦は、失敗に終わった。

北上を急ぐナポレオンに迫るエンリ王子の軍勢を迎え撃とうと、フランス軍が丘の上の急造した砦。

だが、ナポレオンには秘策があった。

baka-noteで作った「夜襲は兵の寝不足を招く最悪の愚策」という常識。

これに乗じてポルタ軍に夜襲をかけようという彼の作戦を、だがエンリはジロキチが示した保元の乱の故事を以て見破った。



そして・・・・・・。


エンリ王子率いるポルタ軍は、フランス軍が構築した砦に攻勢をかけた。

だが、戦闘は必ずしも激しいものでは無かった。

それは、双方とも夜間の戦いに備えて、兵の多くを交代で休ませていたからである。



日が暮れて戦闘を中断し、ポルタ軍は草原に幕営地を設営した。

かがり火を炊き、あちこちに立つ歩肖らしき人影・・・。

そんな幕営地に向けて、闇にまぎれて接近するフランス兵たち。

茂みに身を隠しながら隊列を組んで銃を構える銃兵たち。剣を抜く突撃兵たち。


態勢が整い、ナポレオンは号令を下した。

「突入!」



銃兵による一斉射撃とともに、剣を翳して幕営地に攻め込む突撃兵たち。

だが、彼らが切りつけたそれは人形だった。

テントに踏み込むが、全てもぬけの殻。


「これは罠だ。囲まれているぞ!」

そう叫んだナポレオンと兵たちは、向こうの草藪から立ち上がった一群の兵団を見た。

全員が大型の楯を構え、一斉に松明のような炎を右手に掲げるポルタ兵たち。

そして周囲は銃兵隊らしき気配。


斉射の銃声とともに弾丸の雨。

「混戦になれば斉射は出来なくなる。あの松明の奴らを突破しろ!」

その号令とともに、フランス兵たちは隊列を組んで銃を構え、楯を構えて突撃して来る軍団に向けて斉射し突撃。


だが、彼等の銃弾は全て大型の楯に弾かれた。

「あんな大きな楯が銃弾を弾くなんて。分厚い鉄板製だとしたら相当重いぞ」



目の前に迫る楯の軍団を見て、フランス兵たちは知った。

「あれは松明じゃない。炎の魔剣です」

ナポレオンは思い出した。ポルタのエンリ王子が持つという無敵の魔剣を。

「だが、あれは王太子一人が使えるものの筈だ。けど、何かの方法で魔剣の力を応用した、特別な兵団だとしたら・・・」 


フランス兵がサーベルを構えて応戦するが、炎の剣でサーベルは容易に折られてしまう。

どんどん削られていくフランス兵を見て、ナポレオンは決断した。

「とにかく退却だ!

合図のラッパが響く。


フランス兵の先頭集団が十人ほどの小集団を組み、後退して距離をとり、白兵戦で押されまくる味方を助ける援護射撃。

それを受けて十人ほどが後退し援護射撃。

幾つもの小集団が交代しながら援護射撃を繰り返し、フランス兵団は戦陣右翼方向へと移動。


ナポレオンは号令する。

「敵の銃兵隊を叩いて突破口を開け。あれはポルタの正規兵で、あまり強くない筈だ」



フランス軍が退却を始めた様子を見て、ポルタ軍の将軍はエンリに言った。

「奴ら、また砦に戻るつもりです。先回りして占領しましょう」


そんな彼にエンリは「放っておけ。全軍でここを襲撃して来たって事は、奴らの砦はおそらく空だぞ」

「ですが、戻って立て籠もられたら厄介です。まとまった数の兵を送って籠城の阻止を」

あくまでそう主張する将軍に、エンリは「とにかく追撃だ」



その時、多数の砲弾が飛来。

あちこちで炸裂する砲弾が、追撃しようとするポルタ軍の動きを阻む。


「どこから撃って来る」

そう言うエンリに参謀は「砦の砲台では無さそうですね」

エンリも「大砲も恐らく既に移動している筈だ。アーサー、どこだか解るか?」

「妨害魔法で探知魔法が使えません」とアーサー。


「鳥の使い魔は?」

そう問うエンリにアーサーが「闇夜ですから。鳥はあまり役に立たないかと」

「ファフ、敵の砲陣を空から探せるか?」

そうエンリが言うと、ファフは「主様、気持ち悪い。頭が痛い」

そんなファフの様子を見て、リラは「ドラゴン向けの精神魔法ですね」



エンリは風の魔剣を大気と融合させ、砲撃音の距離と方角を探った。

「位置は解った。砲撃戦で反撃するぞ」


その時、後方で爆音。

「敵の騎兵の襲撃で火薬の集積をやられました」と報告が来る。

部下の将軍が「既に砲撃でかなりの被害が出ています」

「こちらも騎兵隊で砲撃陣を襲撃するぞ」

そうエンリが指示すると、参謀が「銃兵が待ち構えて狙撃されますよ」

エンリは「敵は全力で脱出を図っている。足の遅い歩兵を大勢残す事はしないだろうな」


そんなやり取りを続けている間に、砲撃が止んだ。

「砲兵も撤退に入ったという事か。全軍で追撃するぞ」とエンリ。

すると将軍が「それが、さっきの砲撃で怪我人が多く・・・」

「・・・・・・・・・」



その時、戦場で重い爆発音が響いた。

「今度は何だ?」とエンリは頭痛顔。


間もなく、怪我をした一人の兵士が報告に来た。

「砦に仕掛けられた爆発物により、占拠していた兵たちに多くの怪我人が・・・」

エンリは溜息をついた。

「だから放っておけって言ったんだよ。とにかく怪我人の手当が先だ。処置を終えたら追撃するぞ」



負傷兵の手当てを終えると、彼らを近くの街に託す。

そしてエンリは全軍に北へ向けての進軍を号令した。

移動に際して。エンリは司令部に指示を出す。

「足止めの襲撃があるかも知れない。使い魔を配置しよう」


犬の使い魔を先行させて周囲を探らせる。

藪や岩陰など、兵が潜伏可能な場所を、アーサーが看破の魔法で探った。


司令部用の馬車の中で、エンリと部下たちは地図を広げてあれこれ・・・。

「穴を掘って伏兵に潜られたら厄介ですよ」と参謀。

「それだと襲撃した後逃げきれないだろ」

そうエンリが言うと、カルロが「けど、大きな穴を掘って馬と一緒に隠れているとしたら」

「だったら・・・・・・」



街道から離れた叢で見張る二人のフランス兵が居た。

「来ました」と、望遠鏡で街道を見る兵の一人が・・・。


ポルタの軍勢が列を成して進軍している。

固唾を飲んでそれを見る、二人のフランス兵。

「今だ」

一人が短い呪句を唱えると、軍列が行進する街道の地面が数百メートルに渡って一斉に爆発。

「やったか」


だが、爆煙がおさまると、進軍していた軍勢はあとかたも無い。

「どうなってる?」

そう一人の兵が言うと、もう一人が「幻覚魔法だ。軍が来たと思わせて罠や伏兵を誘い出す」

「手口が読まれてるって訳ですか?」と先ほどの兵が・・・。

そして「ナポレオン指揮官に報告しよう」



ポルタ軍では・・・。

街道の後方から路上での爆発を確認したポルタ軍は、爆発跡の手前で進軍を停止。


そして爆発した街道の様子を観察するエンリ達。

「どうやら伏兵じゃなかったみたいですね」

そう参謀が言うと、ニケが「これは地雷よ。道路に点々と爆弾を埋めて、私たちが上を通ったら簡単な魔導通信波で起爆するのよ」

「って事は、ここが見える所に起爆担当が居た筈だな」とエンリ。


リラが「とにかく、被害が無くて幸いでしたね」

エンリは言った。

「それはいいんだが、先ず、この穴を埋めろ。これじゃ補給の荷馬車が通れない」



移動中のフランス軍では・・・・・。


「地雷は失敗かぁ」

報告を受け、そう残念そうに言うナポレオンに、部下たちは「どうしますか?」

「下からが駄目なら上からだ。プランBで行くぞ」とナポレオンは指示を下す。



ポルタ軍では・・・。


司令部用馬車の中で地図を広げるエンリと将軍、参謀、そしてエンリの仲間たち。

「敵は今、どのあたりだ?」

そうエンリが言うと、アーサーは水晶玉を覗いて、使い魔の烏の視覚情報を捉える。

そして広げた地図の一画を指して「ここです」


「また離されたかぁ」

そうエンリが残念そうに言うと、参謀は「さっきの道路の補修で手間取りましたからね」

エンリは「このあたりの道路は大丈夫なんだろうな?」


アーサーは軍列の先を歩くケットシーのタマに念話で確認。

タマは軍が進む先の街道を猫の姿で歩きながら「掘り返した跡は無いわね。猫は人間と違って土の変化に敏感だから」



アーサーはそれをエンリに伝える。

「けど、また仕掛けて来ますよね?」とアーサー。

「だろうな。下からが駄目なら上から・・・とか」

そうエンリが言うと、リラが「ファイヤーレインですか?」

「上空に展開する魔法陣に要注意ですね」とアーサー。


彼は馬車から身を乗り出して空を確認する。

そして「上は至って平和ですよ。烏の群れがあんなに。動物は魔力の変調に敏感ですから」


「烏の群れだと?」

そう言いながら、エンリはかつて、ビンランド村でドレイクの軍の進軍を妨害した時の事を思い出した。

そして脳内で呟く。

(あの時は烏を使って荷車を焼いたんだったよな)


「まさかあの烏、爆弾とか・・・」

そうエンリが言うと、アーサーは看破の呪文を唱え、烏の群れを・・・。

そしてアーサーはそれに気付いた。

「烏が足に何かぶら下げています。あれは爆弾だ!」



エンリは風の魔剣を抜いて、大気との一体化の呪句を唱えた。

魔剣で大気を操って竜巻を起こし、烏の群れがこれに巻き込まれ所にアーサーがウィンドボンバーをお見舞いする。

爆破の衝撃で烏たちは気絶し墜落した。

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