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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
535/548

第535話 脱出の国王

フランス革命政府の主導権を握った、ロベスピエール率いる強硬派。

新王夫妻の処刑を主張する彼らの圧迫の中、二人をポルタに逃がすべくオスカルは決断した。

二人を乗せた馬車を守って、スパニアとの国境に向かうオスカルとアンドレだが、国境手前の酒場で、ついに二人の正体は露見した。

バレバレの身代わり芝居で必死に誤魔化すオスカルとアンドレ。

だが、村人が彼らの茶番に気を取られていた隙に、ルイ新王とアントワネットは姿を消していた。



時間は数分遡る。


「あいつら大丈夫かな?」

そう呟いて、猪の使い魔の背から降りた、10歳の男の子が居た。

彼は怪盗ルパンを養父として育った、ボンド男爵とジェーンの子、ジェームズ。



あの時・・・・・・・・・・・・・。


パリの街が革命へと向かっていた頃、改革を求める街の空気を感じた彼は、「何かが変わる」時のわくわくした気持ちに突き動かされ、ルパンの道具部屋から火矢を持ち出して、バスチーユ監獄での戦いに参加した。


革命は成立したものの、政府内部が二派に分かれて人々が争う中、暴力で主導権を握り、国王夫妻の処刑を叫ぶ急進派の大きな声。

そして彼らの暴走を危惧し、国外から迫る介入戦争の危機に怯える、多くの人たちの声が聞こえて来る。



そして・・・・・。


夕食の時、ジェームズは養親に言った。

「叔父さんは、あの人たちを助けたいとは思わないの?」

そんな彼に、ルパンは「俺にヒーローにでもなれってか? 柄じゃないさ」

「・・・・・・・」


心に抱えた何かと向き合うジェームズの俯いた眼差しを見て、ルパンは言った。

「けど、お前はお前だ」

「・・・・・・・」

「ジェームズは何がしたい?」

そうルパンに問われ、ジェームズは「僕は友達を助けたい」


「友達って、あのルイ新王だよな?」とルパン。

母親のジェーンは「けど、革命に手を貸すって、王様を倒すって事なのよね?」

「あいつはみんなの敵なの?」

そうジェームズが言うと、ルパンは「そいつを決めるのは、俺でもお前でも無いぞ」

「ルイ自身?」とジェームズ。


ルパンは言った。

「そうとも限らない。みんなが彼を敵だと思えば、敵って事になる」

「それって誰が決めるの?」

そうジェームズに問われ、ルパンは「そうなる世界って事さ。世の中の仕組みって奴な」


「けど、その仕組みを変えるのが革命なんだよね?」とジェームズ。

ルパンは「問題は、どう変えるか、って事さ」

ジェームズは言った。

「どうせなら、みんなが幸せになれるように変えたい。ルイもアントワネットも含めた、みんなが。けど、それって虫のいい話なんだよね?」


10年間、その成長を見守って来た男の子が今、何かを見つけようとしている。

そんな事を感じて、ルパンは言った。

「人間は何時だって、虫のいい話を求めるものさ。やりたい事をやってみろ」



ジェームズは近衛の兵営に鼠の使い魔を放ち、亡命の馬車の動きを掴むと、猪の使い魔に乗って、その跡を追った。

そして四人が入った国境の酒場へ・・・・・・。



オスカルたちが入った酒場の入口に、武器を持った村人が居る。

「どうやら、正体がバレたみたいだな」

ジェームズは闇に紛れて宿屋の入口に近づくと、金属管に封入した毒霧で入口に居た数人の見張りを眠らせた。


そっと窓から宿屋の一階の酒場を覗く。

アンドレとオスカルが、何やら芝居めいた事をやっているのが見えた。

部屋の隅にルイとアントワネットが居る。


酒場に居る人の多くは村人で、彼らの注意はオスカルたちに向けられていた。

村人に交じって、商人や冒険者も居る。

ジェームズは脳内で呟いた。

(眠らせる必用があるのは、あの冒険者と、ルイが視界の中に居るあいつとあいつ・・・・・)

窓をそっと細く開けると、アシナガバチの使い魔を放つ。

中に居る大人が蜂の麻酔毒にやられて、次々に気を失う。


音も無くドアを開け、隠身の魔法で姿を隠し、風のように二人の子供の所へ。

そんな彼に、オスカルとアンドレは気付いたが、そしらぬ顔で芝居を続ける。


「来てくれたか、ジェームズ」

そう小声で言うルイに、ジェームズは「脱出するぞ」

「オスカルたちは?」

そう心配そうに言うアントワネットに、彼は「あの二人なら大丈夫だ」



ジェームズは二人を連れて、そっと店を抜け出すと、新たに猪の使い魔を二頭召喚し、二人を乗せて山越えの道を走った。

「国境を越えたらフェリペが待っている」



そんな中をオスカルたちは、芝居を続けた。

そして村人たちは、新王夫妻が消えた事に気付く。

「あの子供二人が亡命国王夫妻・・・、ってあの二人、どこに行った?」

「逃げられた」

「国境はすぐそこだぞ」

「追いかけよう」

そう口々に言って武器をかざす村人たちに、オスカルは「そうはさせない」


オスカルとアンドレは剣を抜き、村人たち全員を嶺打ちで気絶させた。



「姫たちは?」

酒場を出た所で、そう不安顔で言うオスカルに、アンドレは言った。

「助けに来たあの子供はジェームズだ。新王の親友でパリ最強の児童だよ。スパニアのフェリペ皇子の友達でもある。彼ならきっと二人を守ってくれる」


オスカルは安心顔で「私の役目もここまで、という訳か」

「これからどうする?」

そうアンドレが言うと、オスカルは「革命政府に派手に逆らった。ドイツの父上とも縁を切った。いっそどこかで二人で、夫婦ごっこの続きでも?・・・」


「そそそそういう訳では・・・」と慌てるアンドレ。

「嫌か?」

そうオスカルに言われ、アンドレは困り顔で「そういう事は後で考えよう」



馬車から馬を離してアンドレが乗り、オスカルが乗って来た馬と共にその場を離れた。

並んで夜道を歩く、騎馬のオスカルとアンドレ。



村に通りかかると、大勢の村人が武器を持って集まっているのが見えた。

「何か事件か?」

騎馬の二人にそう問われると、村人の一人が「そういう訳では無いんだが・・・・・・」

別の村人が言った。

「この国で革命が起こって、貴族が追い出されて、この国は俺たち国民のものになったんだが、ドイツが介入しようと攻めて来るんだ。だから俺たち自身で自分達の国を守ろうって・・・」

「義勇軍という訳か」とオスカル。


だが、村人たちは不安顔で口々に言う。

「けど戦えるのかよ」

「バスチーユを落したのは、俺たちと同じ庶民だぞ」

「けど俺たち、戦争の仕方って知らないよね?」

「指揮してくれる専門家が居ればなぁ」


そんな彼らの声を聞き、オスカルは言った。

「その役、私が引き受けよう」

「オスカル・・・・・」

唖然顔のアンドレに、オスカルは語った。

「私たちは姫殿下を守るため革命政府に抗った。だが、この国はロベスピエールでは無く、彼等のものだ。見捨ててはおけない」


互いに顔を見合わせる村人たち。

そして「やってくれますか?」

「いいだろう」

そう言って頷くオスカルは、「あなたは?」と彼等に問われ、彼女は名乗った。

「クワトロバジーナ大尉だ」

「誰だよ」

唖然顔のアンドレが小声でそう問うと、オスカルは「訳アリの軍人が正体を隠して軍に潜り込む時の、テンプレだと聞いたが」



三人の子供を乗せた三体の猪魔獣が、ピレーネ山岳の国境を越えて間もなく、十数人が街道で彼らを迎えた。

馬車と数基の騎馬。

その中から一人の子供が進み出る。

彼を見たルイ新王は、猪の使い魔から降りて「フェリペじゃないか」


「ルイ、久しぶりだね。ようこそスパニアへ。我がマゼラン海賊団が歓迎するよ」

フェリペ皇子とルイ新王は握手を交わす。


アントワネットがスカートの裾を摘んで挨拶のポーズ。

「フェリペ殿下、また素敵になられましたわね。うちのフェリゼンには及びませんが」

フェリペは困り顔で「そういう場合はルイより・・・って言うんじゃないのか?」

「そうでしたわね」とアントワネット。


三人の同年代の令嬢が馬車から降りて、ルイたちに向けて挨拶のポーズ。

「フェリペ殿下は私たちの婚約者ですわよ」

三人の真ん中に居たリリアが、そう言うと、フェリペは「いや、まだ妃とかは決まってないから」

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