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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
533/542

第533話 幼王の逃避行

下層市民の支持を背景に勢力を伸ばすロベスピエールが、国民議会によって公安委員長に任命された。

彼の手足であるサンキュロットたちは、その実行部隊としての地位を与えられ、彼らは暴力でジロンド派ら穏健勢力を抑え込んだ。

革命政府内部の急進派の過激化により、王政を廃止して王を処刑せよとの声が高まる中、10歳の新王夫妻は近衛の兵営に匿われ、そして盛大にバレた。


群衆が兵営の周囲を取り囲む。

プラカードを掲げてスローガンを叫ぶ群衆たち。

「王を引き渡せ」

「王政は廃止だ」

「ドイツのスパイは出て行け」

そんな事を叫ぶデモ参加者たちに、参加者の一人が「いや、それって亡命していいって事なんじゃ・・・」

「あ・・・・・・・・」



そんな彼らを塀の内側から眺め、ため息をつくオスカルと近衛隊員たち。


「どうしますか?」

そう、近衛隊員の一人が言うと、オスカルは「どうもこうも。幼い二人を守るのが我々の任務だ」

「けど、これじゃ買い出しにも行けませんよ」と困り顔で言う隊員たち。

「我慢しろ。人間、水だけでも一週間は保つ」と、真顔で言うオスカル。


「けど、二人に食べさせる分は必要ですよね?」

そう隊員の一人が言うと、別の隊員が「それに、そもそもあの二人はただの飾りで、実質的な王の役目は父親の先王だった筈だよ」

するとアンドレが「先王なら、とっくに行方を晦ませているよ」



そんな中、革命政府の代表と称する数人の男が、兵営にねじ込んだ。


正門前で対応に出たオスカルとアンドレに、彼らは要求する。

「王と王妃の身柄を革命委員会に引き渡して貰おう」

「姫殿下をどうする?」とオスカル。

「ロベスピエール公安委員長の命令だ」

そう言って一人の男が命令書を示す。


「彼は姫殿下をどうするつもりだ?」とアンドレ。

「どうするって・・・・・・」

そう言ってまごつく男に、アンドレは「年端も行かぬ10歳の幼女に、あんな事やこんな事を・・・」

男たちは声を荒げて「彼は清廉潔白だ。女性ファンも大勢居るのに、誰にも手を出そうとしない」

「つまり大人の女性に興味が無いという事か?」とアンドレは突っ込む。


すると、彼らの中の一人が「そうなのかな?」

「いや、本気にしてどーする」

そう別の一人が言うと、先ほどの男が「けど、幼女が嫌いな男は居ないぞ。可愛いは正義だ」

「お前ってそうなの?」

そう仲間に追及され、彼は慌てて「いや、これは一般論というか・・・」


別の男が、彼を追及した仲間に反論する。

「そーいうのを男性の基準にするんじゃ無い! 世の中にはオタクじゃ無い奴だって居るんだ」

更に別の男が「ってか、オタク=ロリコンじゃ無いぞ。お前、オタクに偏見持ってるよね?」


何やら仲間内で言い争いを始める、公安委員会のメンバーたち。

そんな彼らを見て、ドン引きする近衛隊員たち。



その頃、ベルリンでは・・・・・・。

王宮の執務室でフリードリヒ王に、フランスの状況について報告する宰相。


「奴ら、そろそろ限界でしょうね」

そう宰相が言うと、フリードリヒは「新王夫妻が亡命に踏み切り、それを革命政府が阻止する」

宰相は「捕まった新王夫妻は裏切り者として吊し上げを受ける」

「ドイツ皇帝は介入せざるを得ず、弱体化したフランス軍の敗北寸前で、プロイセンが救いの手を差し伸べる」とフリードリヒ。

「これでフランスはフリードリヒ陛下のもの」と宰相。


高笑いする宰相、そしてフリードリヒ王。



パリの近衛隊兵営では・・・・・・。

「どうしますか? 明日も引き渡し要求が来ますよ」

公安委員たちがようやく引き上げた後、オスカルの周りであれこれ言う隊員たちに、彼女は言った。

「だったら明日も拒否するまでだ」


「突撃隊は武器を持ってますよ」

そう一人の隊員が言うと、別の隊員たちが「俺達は軍隊だ。あんな奴等、蹴散らしてやる」と気勢を上げる。

その一方で「いいのかなぁ」と弱気顔を見せる隊員も・・・。

「新聞社とか、山岳党の大本営発表を鵜呑みにするからなぁ。軍が丸腰の学生デモに戦車で突入とか・・・・・」と、一人の隊員が・・・。

「いや、どこぞの天安門事件じゃ無いんだから」と副官のジェローデルが突っ込む。


そんな彼らにアンドレが言った。

「それに、革命警備隊って名で、市民を集めた本格的な軍が編成されている。奴等を使って奪いに来たら、下手すりゃ内戦だ」


オスカルは俯き、苦渋の面持ちで呻くように「アンドレ、どうすればいいと思う?」

「君がやるべきと思う事は何だ?」

そうアンドレが言うと、オスカルは「私の使命は姫殿下をお守りする事だ。けれども、ここの人たちを裏切る事は出来ない」

「ここの人たちって、ロベスピエール委員長の事じゃ無いよね?」とアンドレ。

「そうだな」



オスカルは決然と顔を上げ、そして言った。

「亡命させよう。あんな子供をこれ以上、政争の餌食にさせはしない」

「けど、基地周りには突撃隊の奴らが居ますよ」

そうジェローデルが言うと、隊員の一人が「大丈夫です。こんな時のための抜け道があります」



支度を整えると、二人の兵に案内され、数人で秘密の抜け道へ・・・。


物置部屋の床板を上げると、竪穴がある。

これを梯子で降りる案内役の兵。そして新王と王妃を連れたオスカル・アンドレ・フェルゼン。


七人で素掘りのトンネルを進む。

「こんな地下通路を何時の間に・・・」

そうオスカルが言うと、案内役の兵が言った。

「いざという時の備えですよ。けして夜勤をサボって風俗街に遊びに行くために掘った訳では無いですから」

「私は何も言ってないが」とオスカルは残念顔で・・・。



トンネルを抜け、梯子を上ると、下町の小屋の中。


「ここで待っていて下さい」

そう言って小屋を出た二人の兵は、小さな馬車と2頭の馬を調達して来た。

アンドレが御者台に座り、オスカルとフェルゼンが騎馬で護衛。二人の兵に見送られ、隠密作戦でのパリ脱出が始まった。

「大丈夫でしょうか?」

そう馬上のフェルゼンが言うと、馬上のオスカルは「目立たないよう、庶民向けの馬車を使っている」

「鬼ごっこみたいで楽しいですわ」と、馬車の中ではしゃぐアントワネット。



だが・・・・・・・・。


パリの城門を出た所で、革命警備隊が待ち構えていた。

そしてオスカルたちの一行を遮る。


「それは新王陛下が乗っている馬車ですね?」

オスカルは「人違い・・・じゃなくて馬車違いだ。見ての通り、目立たぬよう部下が見つけて来た一般用の馬車・・・」

「何のために誰が見つけて来たと?」と革命警備隊を率いる士官が突っ込む。

「・・・・・・・・」


彼は馬上のオスカルに「あなたは近衛の隊長ですね?」

オスカルは否定する。

「人違いだ。アントワネット妃殿下付近衛のオスカルは、メガネもかけていないし髭も生やしていない」

そんな彼女に革命警備隊の士官は「あなた女性ですよね? 変装用の付け髭でも無い限り、髭なんて」と、彼女が装着している鼻眼鏡を指して、更に突っ込む。

「・・・・・・」


「それに、あなたが着ているのは近衛隊の制服」と、革命警備隊の士官、止めの突っ込み。

「しまったぁ」


オスカル、開き直る。

「ここは力づくでも通して貰う。私は強いぞ。死にたくなければ道を開けろ」

剣を抜くオスカルとフェルゼン。

革命警備隊の兵たちも一斉に剣を抜いた。



その時・・・・。


「ここは我々が食い止めます」

城門の内側から武装した一隊。

全員、鍔の広い帽子に派手なリボンに目の部分を覆うマスク。

「我等リボンの騎士団。幼い子供を政争から守るため参上した」


バレバレな変装の部下たちに、オスカルは涙目で「お前達・・・・・・・・」

「オスカル、行きましょう」と御者台のアンドレが促す。

「だが彼等を残しては・・・・・・」

そう言う苦渋顔のオスカルに、フェルゼンも「我々の使命はこの二人を守る事です」

「解った。後を頼んだ」



革命警備隊と「リボンの騎士団」を名乗るオスカルの部下たちが乱闘を始める中、2騎の護衛とともに、馬車はその場を離脱して東へ走った。


しばらく行くと村があった。

そこで馬車を隠し、アンドレが一般人の服装を調達して、近衛の制服をそれと着替える。


オスカルとフェルゼンが馬に乗る。

そしてアンドレが御者台に座ると、馬上の二人に言った。

「ここから南に行きます」

「ドイツは東だが・・・・・」

そうオスカルが怪訝顔で言うと、アンドレは「行き先はポルタです。ドイツに行けば介入戦争の道具にされる。そして敵もドイツに行くと思っているから、裏をかく事が出来ます」

「解った」



更に街道を先に進むと、武装した一団が待ち構えていた。

その一団を指揮する者を見て、オスカルは「あなたは黒騎士・・・」

「やはり南に向かいましたか」と黒騎士ベルナール。

「読まれていたという事か」

そう言って唇を噛むオスカルに、ベルナールは「新王夫妻を渡して貰います」


オスカルは言った。

「二人をどうする? 敵である貴族への見せしめとして処刑するという主張があるが」

「この国を民のものとするために必要だと、ロベスピエール委員長は考えている」

そんなベルナールにオスカルは「私は貴族の地位なんて要らない。だが、フランス国民を分断し、他国に介入する隙を与えているのは、あなた達だ」

「その他国とは、あなたとあなたの主の故郷の事ですよね?」とベルナール。

「私はあんな国に二人を連れて行ったりはしない」

そうオスカルが言うと、ベルナールは「いいでしょう。だが私は、革命に与えられた自らの使命に従うのみだ」



そんな対論を交わすオスカルの前に、フェルゼンが進み出た。

そして「ここは私が食い止めます」

「フェルゼン・・・・・・」

馬車の窓から幼いアントワネットが顔を出し、フェルゼンに「行ってしまわれるのですか?」

「必ず追い付きます」とフェルゼン。

「君は僕に必用な従者だ。必ず生きて帰って来てくれ」と幼い新王も・・・。

「必ず・・・・・」


フェルゼンは剣を抜き、黒騎士たちに向けて騎馬で突入した。

馬の蹄が兵たちを蹴散らし、短銃を撃って牽制する。

その隙にオスカルは剣を振るって血路を開き、馬車は南へと、その場を離脱した。



馬車は更に南へ進み、やがて日が傾いた。


「日が暮れます」

そう、オスカルが馬車の中の二人に言う。

アントワネットが「どこかに宿をとるのですわよね?」

「宿屋に行けば見つかる。ここで夜を明かしましょう」

そうオスカルに言われ、「そんなぁ」と駄々をこねる幼い王妃。


馬車を隠し、アンドレが食べ物を調達する。

二人の子供は馬車の中で眠り、オスカルとアンドレは月明りの中、交代で周囲を警戒した。



翌日、馬車は裏道を選んで、スパニアと接するピレーネ山脈の国境を目指した。

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