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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
530/533

第530話 困民たちの行進

フランス革命で成立した革命政府が、ジロンド派と山岳党の対立によって、次第に混迷を深める中・・・・・。


国民議会での穀物不足の問題を討議する内容は、山岳党議員たちによって支持者たちに伝えられ、政府への強い圧力となっていた。

庶民たちの井戸端会議でも・・・・。

「小麦の値上がりは、政府がどうにかすべきだよね?」

「血を流して革命を勝ち取った我々が飢えるとか、おかしいだろ」



「・・・・という声が、パリ庶民の間で叫ばれている事を、あなた達はどうお考えか?」

そう、議会において政府を追及する山岳党議員たち。

そして彼らは主張する。

「食料は、金持ちが買い占めて値段を釣り上げているに違いない。没収して配給すべきだ」



中央広場の露店で雑談する庶民たちも、自然と穀物価格の暴騰への不満が話題に出る。

「何で政府は動かないんだ?」

そう一人の買い物客が言うと、別の買い物客が「ジロンド党の奴らが議会で抵抗しているからだろ」

すると、一人の男が「けどさ、もっと貯め込んでる場所があるぞ」


「それって・・・・・・」

そう言って周囲の人たちが俯く中、彼は「王宮だよ」

「さすがに革新派貴族が黙ってないだろ」

そう、一人の買い物客が物怖じ顔で言うと、彼は「いや、我々がどうやって革命を成し遂げたか、思い出してみろ」

「そうだよね。俺たちはこの国の主権者だ」と、周囲の買い物客は口々に・・・。


その場に居た人たちが盛り上がる中、彼はそっとその場を抜け出した。



翌日、新聞にロベスピエールの論評が掲載された。

曰く「パリ市民に継ぐ。飢えた市民よ、決起せよ!」



その次の日の早朝から、下層庶民たちが市内各所に集まり始めた。


手に手に棒の先端を尖らせた簡素な槍を持ち、それぞれ集団となって移動を始める。

彼らは山岳党の支部で集結し、大きな集団となると、一斉に移動を開始。

それは、ある場所へと向かった。

先々代王がパリ郊外に建設し、王家の生活の場となっているベルサイユ宮殿。



彼らが正門前に着き、頑丈な鉄棒を組み合わせたような正門を守る近衛兵と睨み合う。

「食料をよこせ!」

そう口々に叫ぶ群衆に、近衛兵たちは「お前達は強盗か」


武器を持った人々は口々に叫んだ。

「革命政府を勝ち取った功労者だ。国家が守るべき貧民だぞ」

「お前達は王に雇われた権力の犬だ」

「バスチーユの守備隊のようになりたいか」

「やっちまえ」


気勢を上げる群衆を前に、正門の外で剣を構える衛兵たち。

正門の内側で兵たちが銃を構えている、その背後で上に向けて短銃を撃つ銃声が響いた。

そして「双方静まれ!」

そう叫んだ者を見て、近衛兵たちの表情が変わる。

「オスカル隊長・・・・・」



門に向って進み出るオスカルが、門を僅かに開けて正門前へ。

そして剣を抜いて、群衆に向けて鋭く問う。

「お前たち、何をしに来た!」

「・・・・・・・・・」

「食料をよこせと言っていたようだが、それが略奪を意味するのであれば容赦はしない!」

そう言って剣を構えるオスカルに、群衆は一瞬、静まる。


一人の女性が、オスカルの前に進み出た。

「小麦が買えないんです。値段が高くて・・・」

周囲の群衆の口々に・・・・・。

「子供達が飢えて死にます」

「だから王様の慈悲に縋ろうと」


「その言葉に二言は無いか!」とオスカル。

「・・・・・・・・・・・・」

「ならばその手に持っているものは何だ」と彼らを質すオスカル。

「・・・・・・・・・・・・」

そして彼女は武器持つ群衆に、言った。

「私は王妃付き近衛隊長オスカル。アントワネット妃を守る者だ。あの幼い少女に心無い暴言を吐く者が少なくないと聞く。王家に害意を持つ者は一人たりとも通す訳にはいかない。門を破ろうとするなら、何万人とでも刺し違えて職務を全うする!」


彼女の気迫が武器持つ庶民たちを気押しし、重苦しい空気が流れる。

だが、一人の男が「この権力の犬が!」と叫ぶと、群衆の中からそれに呼応する声が、あちこちで・・・。

場は「やっちまえ!」の叫びで充満した。



その時、群衆の背後で、その声が響いた。

「静まれ!」

1人の男が群衆の前に進み出せて、オスカルに向き合った。


「害意を持つ者は・・・と言いましたよね? では、王家の方々に危害を加えるつもりが無いなら、ここを通して貰えるのですよね?」

そう言って、男は槍を捨てた。

「あなたは?」

そうオスカルが問うと、男は名乗った。

「私はロベスピエール。国民議会の議員です」


「いいでしょう。武器を捨てた者だけ、ここを通る事を許可します」

そう言うと、オスカルは背後に居る部下たちに「門を開けろ」

「ですが・・・・・・」

躊躇する隊員たちに、オスカルは「大丈夫だ」



群衆は次々に槍を捨て、門は開いた。

オスカルに先導されて、群衆は宮殿へ続く通路を歩く。

両側に銃を持った近衛の兵たち。


歩きながら、ロベスピエールはオスカルに言った。

「あなた、リボンの騎士団長ですよね?」

「いえ、人違いです。私はバスチーユで市民の蜂起に加わったリボンの騎士ではありません」とオスカル。

ロベスピエールは困り顔で「何も言ってませんが」



群衆が宮殿の正面玄関前に着くと、玄関上のバルコニーにアントワネット妃が居た。

ドレスの裾をつまみ、見事な挨拶の動作を見せる、幼い王妃。

呆気にとられる群衆。

「ようこそベルサイユへ。食料を求めて来られたのですよね? 用意は出来ておりますわ」

そう群衆に向けて言うと、下の玄関前に居る従者に言った。

「フェルゼン、皆様をご案内して下さるかしら」

「承知しました」


群衆を引き連れて宮殿の廊下を歩くフェルゼン、そしてオスカルとアンドレ。

食糧倉庫の扉を開けると、その中に並んだ棚には、穀物の詰まった麻袋が大量に・・・・・。

そしてフェルゼンは群衆に「どうぞ、お持ち帰り下さい」

「こんなに隠し持っていたなんて」と、彼らは一様に呟く。


雪崩を打って倉庫に入った人々は、だが、袋を開けて唖然。

「これ、小麦じゃ無い」

そんな人々にフェルゼンは言った。

「ライ麦ですよ。かつてユーロの民が普通に食していたものです」

「こんなの、どうやって食べるんだよ」

そう一人の男が言うと、フェルゼンは「オートミールですよ。粉に引いて煮て粥にして食べます」

「まさか王家の人たちも?」

疑問顔の人々に、フェルゼンは「見ての通りですよ」



穀物の袋を抱えて帰宅するパリ庶民たち。


宮殿から出て庭を行く、一様に拍子抜けした表情の彼らは、チューリップが植えられていた筈の花壇を占領している、見慣れぬ植物に気付いた。

「あれは?」

群衆の一人が、警備に立つ近衛隊員にそう問うと、隊員は「ジャガイモですよ。西方大陸から来た作物で、寒い気候の痩せた土地でも育ちます」

「あっちの背の高い植物は?」

そう、少し離れた所に植えられている作物を問われ。隊員は答える。

「トウモロコシです」



そんな彼等を宮殿の二階の窓から見送る国王一家。そしてエンリ王子とその仲間たち。

「どうやら間に合ったようですね」

無事に場が収まった事を見届けながら、エンリ王子がそう言うと、ルイ先王は「けど、あんな大量のライ麦を・・・・・」


エンリは言った。

「東の寒冷な国では今でも食べられていますよ。牛肉の肉質を良くするための飼料にも使われます。不作で量の少ない小麦は高く売れる。その代金で安く買えるライ麦を輸入したのです」

先王、溜息をつきつつ「よくそんな事を・・・・・・」

「どこぞの半島国が、隣国の支配を受けた事があった。ある年、飢饉があって米がとれず、多くの民が餓死に瀕した。その時総督府は、なけなしの米を海外に売って、安く買える雑穀を輸入し、人々を飢えから救った」とエンリは語る。


「いい話だなぁ」とタルタ。

「さぞ感謝されたでしようね?」とリシュリュー宰相。

するとエンリは「それが、雑穀を買うための米の輸出を、支配者による略奪などと、歴史を歪曲して被害者意識を煽る教育に・・・」

「・・・・・・・・・」

残念な空気が漂った。


「ところであの花壇の作物ですが、かなり育ってますけど、何時の間に?」

そうアンヌ王妃が問うと、フェルゼンが「近衛の練兵場で育てていたものを移植したのです」

「つまり、彼等を騙した?」

更に残念な空気が漂った。


そんな中、アントワネット妃が言った。

「お腹が空きましたわ。皆さんにも食事をご一緒して頂きましょう。今日はどんなパンを? このあいだのクロワッサンサンドなど、美味しかったですわね」

「あの・・・・・・」

「焼きそばパンでも宜しくてよ」

そんなアントワネット妃にフェルゼンは「だから、小麦は全部売ってライ麦に代えたので、当分白パンは無しですから」

「そんなぁ。パンが無くてもお菓子はあるのですわよね?」とアントワネット。

フェルゼンは「お菓子も無しです」

「そんなぁ」



食事となり、ライ麦で作られたオートミールが出された。


アントワネットはそれを一口食べて「美味しく無いですわ」

そんな彼女にジロキチが「ジパングには、こんな諺があります。"武士は食わねど高楊枝"と。こういう時こそ高貴にふるまうのが王族ですよ」

「だって・・・」

すると若狭が「調味料を工夫してはどうでしょうか。ジパングには、どんな食べ物でも美味しくする調味料がありますよ」



食事は一旦下げられ、褐色の調味料と一緒に煮たオートミールが出された。

そして食事再開。


「美味しいですわ。これは何という調味料かしら」

そうアントワネットが言うと、ジロキチが「味噌と言って、北に住む民族はオソマとも言うそうです」

「それは違う気がするんだが」とエンリ、困り顔。

「彼等は美味しいものを食べる時、ヒンナと言うそうですよ」とジロキチ。

「ヒンナですわね」とアントワネット。

ルイ先王も「ヒンナですな」


「どんな調味料なのかしら?」

そんな事を言い出したアントワネットに、若狭が「見ない方がいいと思いますが」

「そう言われると、余計に見たくなってしまいますわ」とアントワネット。


するとムラマサが味噌の入れ物を取り出して「これが味噌でござる」

ジロキチと若狭がハリセンでムラマサの後頭部を叩き、その拍子に入れ物の蓋が外れた。

入れ物の中身を見てアントワネット、真っ青に・・・・。

エンリは慌てて言った。

「これは大豆を煮潰して塩に漬けて発酵させたもので、断じてウンチではありません」

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