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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
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第53話 帝国の内乱

ポルタに帰国したエンリ王子たち。港に船を泊めて上陸した。

スパニアに併合されたこの国で、イザベラは帰国し、総督が派遣されて好き勝手やっているという話を聞いて、覚悟して街に入る。

至る所で住民の苦情を聞く破目になった。


「王子、何とかして下さい。スパニアから来た総督が、意味不明な名目で税をかけて来ます」と住民が訴える。

「名目って?」とエンリ。

住人は「空気を吸う税とか、二本の足で地面を踏む税とか」

「何だそりゃ」とエンリ唖然。


住人は通りの向こうを指して「あそこに変な石が立ってますよね」

エンリは「区画整理の目印か何かか?」

「人頭税ですよ。子供があの背丈になったら徴税対象になるんです」と住民が訴える。

「そーいや子供がみんな丸坊主だが」とエンリ。

住人は「髪の毛の厚さの分だけでも課税を遅らせようと」


「とんでもないな」とエンリ唖然。

アーサーが「とりあえず城に行きましょう」

エンリは「その総督、とっちめてやる。王太子じゃなくなっても、俺はスパニア皇女の婿なんだからな」



城に入ると、スパニア人がうろうろしている。とりあえず自分の部屋で落ち着こうと・・・。


自室に入ったらイザベラ妃が居た。

「王子様、よく帰ってきてくれました。我が夫、会いたかった」と嬉しそうに言うイザベラ妃。

エンリは「お前、何で居るんだ。スパニアに戻ったって聞いたぞ」とイザベラに・・・。


イザベラは言った。

「お父様、スパニア皇帝が急死して、兄たち、33人の皇子が帝位を争って内乱に突入しました」

エンリ王子、唖然。



そしてエンリは言った。

「帝位争いって・・・世継ぎの長男が居ただろ?」

「殺されました」とイザベラ。

「お前の母親が産んだ兄貴が居ただろ?」とエンリ。

「殺されました」とイザベラ。

「それでここに逃げて来たと?」とエンリ。


イザベラは「私たちのために兄たちと戦って下さい」

「お前なぁ」

そう言って頭を抱えるエンリに、アーサーは言った。

「どうしますか、王子」

「どうするもこうするも」とエンリ。

「逃げますか?」とアーサー。

イザベラは涙目で「妻を見捨てるのですか?」



そんなイザベラにエンリは言った。

「スパニアと併合なんぞやらかしたお前のせいだろ・・・ってか、このままではポルタも含めて外国の草刈り場だ。戦うしか無いだろ。下手すりゃイギリスやらフランスやらが介入して来る、何たって奴等、今まで誰かさんの裏工作で散々煮え湯を飲まされてきたんだからな」

するとイザベラは「それが、既に介入してるんです」

「何ですとー」とエンリ唖然。


イザベラは言った。

「だって33人の側室に産ませた皇子やら皇女やらが世界中と政略結婚してるんですよ。みんな各国の王室に行ってますから、嫁婿の実家の軍連れて介入しますよ」

タルタが「マジかよ。それって世界中と戦争するって事なんじゃ・・・」

カルロが「冗談じゃない、巨人軍団でも使わなきゃ話にならんぞ」

ジロキチが「地ならし、やりてー」



解散した軍を再建するため、首にした兵と将軍たちを急遽呼び戻し、作戦会議。イザベラやアーサー、タルタたちも同席した。

「で、どこが来てるんだ?」とエンリは将軍に・・・。

将軍は「やっぱり最大勢力はイギリスとフランスですね。両方とも王妃が自称皇帝候補の妹なんで」


「他には?」とエンリ。

「ドイツ皇帝」と将軍。

「来るだろーな」とエンリ。

「ドイツ諸侯が何人か」と将軍。

「来るだろーな」とエンリ。

「ロシアからも」と将軍。

「来るだろーな」とエンリ。

「軍の移動がうまくいかず、キーウまで進軍した所で、住民の蜂起に遭って軍が壊滅したそうです」と将軍。

「そりゃ助かる」とエンリ。


「あとイタリア貴族も何人か」と将軍。

「あそこの軍は弱いだろ」とエンリ。

「その中にポコペン公爵も」と将軍。

「あの爺さん裏切りやがった」とエンリ。

「回りの同調圧力に逆らえなかったみたいで」と将軍。


「それとノルマン王国」と軍の参謀。

「恩って言葉を知らないのかよ」とエンリ。

「それが、弱み握られて逆らえないみたいなんですよ」と参謀。

「弱みってどんな?」とエンリ。

「異端審問の召喚状が来てるんですよ。ドラゴン使いと裏で手を組んでるじゃないかって」と参謀。

「あー・・・」とエンリは口ごもる。

「あと、国内諸侯はほぼ全員参加」と将軍。



エンリは思いっきりの頭痛顔で言った。

「勘弁してくれ。とにかく、問題はイギリスとフランスだ。あそこを潰せばかなり片付く」

アーサーが「了解、で、どうやって潰します。ポルタの軍なんか弱いし、イザベラ妃が連れて来た兵も少数ですよ」


「ここはドラゴンを使うしか無いんじゃ・・・」と参謀が提案。

エンリは唖然顔で「何でファフの事知ってるんだよ」

「みんな知ってますよ。表立って言わないだけで」と将軍。

「いつ異端審問が来てもおかしくないじゃん」とエンリ。

「まあ、本音と建て前ってやつで」と将軍。

エンリが「けど、外国軍の前で大っぴらにやったら言い訳出来んぞ」


すると参謀が「だったら、またアレやったらどうです? 闇のヒーローロキ仮面」

エンリは唖然顔で「何で知ってるんだよ」

「バレないと本気で思ってました?」と将軍。

「あんなの真に受けるのなんて、ノルマン王親子くらいなものですよ」と参謀。

エンリ王子、唖然。


人魚姫がエンリに「王子様、ドンマイ」

エンリは「そういう慰め方は止めてくれ」



一通りの方針が決まった所で、エンリは言った。

「ところで親父はどうした?」

「ジョアン王は今も別荘に居ますが」と将軍は言った。

エンリは頭を抱えて「何やってんだか」



仲間たちと王の別荘に行く。

ジョアン王はエンリを見て嬉しそうに「よく戻った、我が王太子よ」

エンリは「王太子って・・・もしかして何も知らされて無いんですか?」


「何もって?」と王様は怪訝顔。

「ポルタはイザベラが実権握ってスパニアに併合されて、あの女は実家に帰って」とエンリ。

「どうりで嫁が最近顔見せないと思ったら」とジョアン王。


「そのスパニアの皇帝が死んで、33人の皇子で後継者争い。ここも含めてスパニアは内乱突入。約30の勢力に別れて壮絶な戦争バトルロイヤルだ。そこに世界中の軍隊が介入して・・・」とエンリは捲し立てた。

「そんな事になっていたとは」とジョアン王唖然。

「状況のみ込めましたか? 元国王」とエンリ。


ジョアン王は「このスローライフが終わってしまうのか」

「あんたなぁ!」とエンリは唖然顔で言った。



王は王宮に戻って復位を宣言。そしてポルタは再びスパニアから独立した。

殆ど首になっていた家来も呼び戻し、スパニアから来た総督を罷免して王政機構を復活。そして市民兵を募った。


とりあえず体制作りを終えて一息ついたその夜、エンリはイザベラに言った。

「なぁ、ノルマンでドラゴンを使った時のアレがお芝居だってのは・・・」

「ドイツ兵の間で噂になってたわよ」とイザベラ。


エンリは「それが問題にならなかったのって、もしかしてイザベラが?・・・」

「ノルマンは反教皇派の最大の後ろ盾だったから、反教皇派の諸侯たちをまとめて、お芝居を真に受けた形で決着つけるのは簡単だったわ」とイザベラ。

「じゃ、お前が居なかったら・・・」

そう言うエンリにイザベラは「ドラゴンの件で異端審問が来てたかもね」

「そうだったのか」と言って、エンリは溜息をついた。


「少しは私の有難味、解って貰えた?」とイザベラ。

「まあな」とエンリ。

するとイザベラは「だったら・・・頭を撫でて貰えるかしら。人魚の愛人にしているみたいに」


イザベラの頭を撫でるエンリ。気持ち良さそうにするイザベラ。

そんなイザベラを見て、エンリは思った。

(俺の嫁がこんなに可愛い訳が無い)



翌日、エンリ王子の元に財務局長官が頭を抱えて駆け込み、エンリに訴えた。

「王子、内乱を戦うには戦費が足りないです」


エンリは部屋に居たニケに「ニケさん、お金持ってるよね?」

ニケは「利息はとちいって事でよろしく」

「了解、十年で一割ね」とエンリ。

「十日で一割よ」とニケ。

エンリは「十年」

「交渉決裂ね」とニケ。


その時、カルロが部屋に来て、一冊の通帳を示して、言った。

「これ、ニケさんの通帳口座です。ジュネーブの銀行で引き落とし手続き済みました」

ニケは鬼の表情で「何するのよカルロ、私のお金!」

カルロは涼しい顔で「俺スパイなんで。それと女から金絞り取る事にかけてはヒモの神様って呼ばれてます」

「この外道がぁ」とニケ絶句。



体制が整った所で将軍たちと幹部と仲間たちで作戦会議。

「それで、どこから行く?」とエンリ王子。

「っていうより、このボルタ領の北側に迫ってる敵勢力が2つ。すぐにでも攻め込まれますよ」と将軍。

「どこだよ」とエンリ。

「イギリスとフランスです」と将軍。

エンリは「いきなりそれかよ」


「今、ほとんど隣接して陣を敷いてまして」と参謀。

「それでイギリス軍とフランス軍との戦闘は無しか?」とエンリ。

参謀は「恐らく戦力が拮抗して牽制し合っているのかと。ここは一方と組んで他方と戦うのが無難かと」

「けど、どちらと組んでも主導権は向こうに握られますよ」とアーサー。


「なら、各個撃破で行くしか無いな」とエンリ。

「いや、一方と戦ってダメージ残ってる直後に攻撃されますよ」とアーサー。

するとリラが「セイレーンボイスなら無傷で勝てるんじゃないでしょうか」

「一回使えば警戒されるぞ」とジロキチ。

「だったら使うのはイギリス相手だろ。フランス軍にはイタリアで一回使ってる」とエンリ。


その時、イザベラが発言した。

「彼等はここまで来るのに、そこの領主の城を占領してるのよね?」

「降伏させて、そこの兵を顎で使ってるそうですが」と将軍。

「都市で略奪もやってるわよね?」とイザベラ。

「かなり酷かったと聞いてます」と参謀。


イザベラは言った。

「だったら戦ってる隙に、被害受けた都市で市民兵募れないかしら。それで、眠らせて捕虜にした奴等を縛り上げて管理させるのに使うの。みんな略奪のこと恨んでるから、派手に仕返し出来ると喜んで参加すると思うわよ。侵略兵相手にどんな手の込んだ仕返しするか、見てみたいと思わない?」

「こ・・・怖ぇーーーー」と一同呟く。



スパニア第八王子を支援するイギリス軍を、人魚姫のセイレーンボイスで眠らせた。

被害を受けた街で募った市民兵が敵兵を縛り上げる。

顎で使われていた地元領主の軍がポルタ陣営に加わる。


セイレーンボイスの情報は、第五王子を支援するフランス軍に伝わった。

兵たちに耳栓を支給してポルタ軍と対峙するフランス軍。

両軍対峙の中でカルロ演ずる復活ロキ仮面がドラゴンに乗って乱入。


ノリノリで痛い変身ポーズを演じるカルロを見てエンリは頭を抱えて呟いた。

「みんな、あれを俺がやってると思ってるんだろーなぁ」

「お魚フェチに中二病の変態二重奏ですね」とアーサー。

エンリは「勘弁してくれ」

「いや、ロリコンも加えて変態三重奏」とタルタ。

「だから違うって」とエンリ。



カルロがドラゴンで敵軍に大損害を与えた所を、エンリ王子がヤラセの一騎打ちで破り、損害を受けた敵を全軍で制圧する。 


こうしてハシゴで対戦を挑んで、立て続けに破った。

フランス軍に服従を強いられた領主もポルタ陣営に加わり、占領下にあった街の市民兵がフランス兵捕虜を管理。

こちらの市民兵も略奪の仕返しが出来ると大喜び。



そして戦場の後始末を終えたエンリ王子の所に報告が来た。

「両軍とも王が直接指揮してまして、捕虜になってますけどどうしますか?」

「えーっ?!」

そう言ってエンリ王子、頭を抱える。


エンリは報告に来た士官に「めんどくせー。聞かなかった事にするから、好きにしていいぞ」

「解りました。首刎ねて本国に送り返します」

そう言われたエンリは慌てて「ちよっと待て。さすがにそれは国際問題になるぞ」

士官は「いや、既にこれ戦争だから」



するとニケが目一杯のワクワク顔で「王子、身代金をがっぽり請求出来るわよ。その交渉、私に任せてよ」

「ニケさん、上前はねる気だろ」とエンリ。

「何で解るのよ」とニケ。

「顔に書いてあるぞ」とエンリ。

ニケは「えーっ、どこに?」


そしてエンリは溜息をつくと「とりあえず会見するぞ」

「どっちから先にやりますか?」と士官。

エンリは「面倒だから一緒にやっちゃおうか」

士官は「それはさすがに」


するとニケが「いいんじゃないかしら。うまくいけば身代金の上乗せ競争やらせる事も出来るかも」

(ほんっと、えげつない女だな)とエンリはニケを見て呟いた。

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