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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
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第526話 国民の政権

フランスでの、特権貴族に対する課税の問題に端を発した、庶民と貴族の対立は、貴族の圧力を避けてルイ先王が雲隠れする中、大貴族が牛耳る政府による、庶民議員たちへの弾圧へと発展した。

そしてそれに抵抗して立ち上がった庶民たちと、彼らの戦いに参加したオスカル等により、バスチーユ要塞は陥落。

これに対して政府が、集結した軍により反撃しようとした時、ファフのドラゴンに乗って現れたルイ先王が、政府軍に命じた。

「フランス軍は直ちに戦闘態勢を解除せよ。フランス王家は国民議会の地位を承認し、国民の統合による国家の結束を意図する革命政権とともにあると決めた」

フランスで民主主義による革命が成立した瞬間であった。



バスチーユ監獄前広場に降り立つ、ファフのドラゴン。

そして、その背から地上に降りてくる者たちが居た。

エンリ、リラ、アーサー、カルロ、タルタ、ジロキチ、ニケ・・・・・。そしてルイ先王とリシュリュー宰相。

ファフも人間の姿に戻った。


リシュリューが「もう少し引き延ばすつもりだったんですけどね」と言うと、エンリはあきれ顔で言った。

「これ以上放置したら、双方被害が拡大しますよ。その後始末の費用がどこから出るんですか? それに、これから各国からの介入で、間違いなく戦争になります。そうなれば、民は王家を中心に結束しなくてはならない」

「軍隊は戦争のプロです。それを王家が抑えます」

そう言って広場に居る政府軍に視線を向けるリシュリューに、エンリ王子は「そう、うまくいけばいいんですが、将軍を先頭に軍の幹部も大貴族たちですからね」



ドラゴンから降りたルイ先王の所に駆け寄る将軍たち。

「陛下、これはいったい、どういう事ですか?」

「聞いての通りだ」と先王。


「彼等は、自分達の利益のために、王家をないがしろにした叛逆者ですよ」

そう主張する将軍たちに、先王は「王家ではなく、お前達の利権を・・・だよな? それに、このまま続けていたら、間違いなく王家は滅びる」

「我々は戦争のプロですよ」と将軍たち。

ルイ先王は言った。

「革命は地方に波及している。ここを抑えたとしても、パリは包囲されるぞ。だから彼等を政権に迎え入れる。彼らは自国の主権を外国と共有するとか言ってる、どこぞの国の野党とは違うのだから」


先王は口元に湧き出る笑いをこらえつつ、脳内で呟いた。

(これで大貴族を黙らせられる。特権を廃止して税金をとって、財政ガッポガッポ)



官庁の上層部に多くの改革派を招き入れた、人事の総入れ替えが発令された。


「今までの局長やら何やらは馘ですか? リストラとか絶対抵抗しますよ」

そう言って、命令書の作成を命じられた役人が抵抗すると、リシュリューは「肩たたきという特殊技能を持つ者が居ると聞いたが」

「その道のプロが、異世界転生して来たっていうんですよね? それ、幼女に転生して魔法戦の軍人になってますよ」と役人たち。

そんな彼らにリシュリュー宰相は「とにかく、大貴族幹部を集めて馘を言い渡す。抵抗する奴が居たら、抗命罪で牢にでもぶち込んでおけ」



馘を言い渡すため官庁幹部の貴族たちが招集された。

だが・・・・・。


「誰も出て来ませんね」

出頭場所に指定した宮殿内広間の、ガランとした様子を見て、不安顔でそう言うネッケルに、リシュリューは「引き籠っちゃったかな?」


「それが、こんな置手紙を」

そう言って一人の役人が示した手紙を読み、リシュリュー唖然。

「探さないで下さい・・・って、家出の高校生かよ」

その手紙を見て、ネッケルは「これ、亡命ですよ」と言って、顔を曇らせる。


だがリシュリューは、強気モードで「だったら、心置きなく馘に出来る」

「いいんですか? 彼等から税金を取る筈だったんじゃ・・・・・」と突っ込むネッケル。

「あ・・・・・・・・・」


すると、既に新政権幹部の一人に内定しているラファイエットが言った。

「大丈夫です。家屋敷その他の不動産は、国外に持ち出せない。片っ端から没収して、売り払って財政を補填しましょう」

「だが、一度に大量の不動産が市場で売りに出れば、地価が大暴落してバブルが崩壊するぞ」と、一転して弱気モードなリシュリュー。

ネッケルも弱気モードで「失われた30年が来てしまう」

そんな彼らにラファイエットは「だったら債権者に現物として引き渡せばいいんですよ」



フランス政府は、亡命貴族の不動産を没収して、債権者への返済とした。


豪勢な屋敷の前には、男性の司会と若い女性アシスタント。

「パリの一等地に豪華な建築でこのお値段」

そう司会役が言うと、女性アシスタントが「凄いお買い得じゃ無いですか」

「こんなチャンスは二度とありません。30分の限定価格でお申込み今すぐお電話を」と司会役。

そして二人は謎の歌を歌った。

「トーキョーゼローサーン、ニーニーロクの・・・」


「何の呪文ですか? ってか通信販売の番組じゃ無いんだから」

そう抗議顔で突っ込む、いかにも金持ちな服装の中年男性は、フランス政府に多額の債権を有する大商人の一人だ。


そして彼は主張した。

「いや、確かに豪華ですけど、こんなの貰ってどうしろと? ちゃんと現金で返して下さいよ」

「そうは言っても・・・」

そう口を濁し加減に言いかけた司会役の言葉を遮るように、債権者は抗議を続ける。

「売り出せば、供給過剰で地価が暴落するって言うんですよね? そんなのそちらの都合でしょーが」


「ですが契約書には、現金で返済すべきとの規定はありません」と司会役はバッサリ。

「それは・・・・・・」

「それに、これをどう使うかは、あなたの商才次第」と追い打ちをかける司会役。


債権者は困り顔で「・・・けどこれ、亡命貴族の屋敷ですよね? 後で帰国して返せとか絶対言うと思いますよ」

司会役は彼に言い渡す。

「これは国家が正式に没収した国家財産。国を裏切って逃亡した者に権利など無い! とにかく負債は返済したので、これでフランス政府は、あなたと一切貸し借り無し!」

「そんなぁ」


司会役の役人は債権者の大商人に、不動産権利書と返済証明と債権解消通告書を押し付けて、逃げるように立ち去った。



押し付けられた豪華貴族屋敷を前に、呆然と立ち尽くす債権者。

「どーすんだ、これ」

そんな彼に一人の男が呼びかける。

「あの、お金持ちの債権者様・・・」


「返済と称して、こんなものを押し付けられて、もう債権者というのは過去形ですが。それであなたは?」

そう元債権者の大商人が訊ねると、男は言った。

「ここのコック・・・ってのも過去形ですけどね。雇い主が国外逃亡したので、今は失業者ですが、ここ、私の職場なんで一緒に雇って下さいよ」

「そう言われても・・・」

困り顔の大商人に、今度は数人の若い女性が「私たちもお願いします。ここのメイドですけど雇い主が国外逃亡して以下同文」


大商人は更なる困り顔で「いや、私だってお金のなる木を持ってる訳じゃ・・・」

「エスカルゴ料理は絶品だって言われてます」

そう、ドアップでドヤ顔を見せるコックに、債権者はタジタジ顔で「それってカタツムリですよね?」

「何なら夜のご奉仕も」

そう、ドアップで迫るメイドたちに、債権者は更なるタジタジ顔で「そういうのは要らないから」


「旦那様!」

職場を求めて詰め寄るコックとメイドたち。

債権者だった大商人は溜息をついた。

(仕方がない。こいつら使ってホテルかレストランでも始めるとするか)



パリでは幾つもの豪華ホテルと豪華レストランが開業した。

王侯貴族の気分を味わえるとして、各国で人気を博し、出される豪華料理は"フランス料理"の名声を高め、パリは観光地として"花の都"との呼び名が定着し、それによるインバウンドはフランスの経済の支えとなった。

また、革命を成立させた民主主義思想は、各国の思想家に大きな影響を与え、パリは政治思想の聖地とも呼ばれるようになった。



パリのコーヒー店では、革命政府成立のニュースを載せた備え付けの新聞をネタに、常連客たちが盛り上がっていた。

「フランスの主役は、今や我々国民だ」

そう一人の常連客が言うと、その向かいの席の常連客が「国民の持ちたる国かぁ」

隣のテーブルに居る常連客が「けど、ポルタは商人の持ちたる国って言うよね?」

「あいつ等の二番煎じかよ」と、その右隣の常連客。


先ほどの常連客が言った。

「いや、違うぞ。商人ってのは所詮ごく一部の金持ちだけど、国民は貧民も含めた全員に、平等に発言権があるんだ」

その左隣の常連客が「貧民なんて、無能で貧乏してる奴が現実から目を背けて好き勝手言ってるだけのネトウ〇だって、ヤース・ダーコイッチ大聖人が言ってたけど」

「あいつかよ」と、その場に居る全員が溜息。

先ほど発言した常連客が「そっち系作家のお手盛り賞だって貰ってる、有名ジャーナリストだけどね」


「それ、ただの私生活透視エスパーだから」と、別のテーブルの常連客。

その向かいの常連客が「ってか、ちゃんと統計とると、そう言われてる人達はニートじゃ無くて、ちゃんと収入のある高学歴だって事実が露見して、ヤース・ダーコイッチは大恥かいたけど、でもちゃんと何人かインタビューして、ぼんやりした不安や不満を感じてる人たちだって書いてあるぞ」

「あのなぁ・・・。この中で全く不満も不安も無い奴なんて居るか?」と、その右隣の常連客が突っ込む。

「そりゃそーか」



改革派貴族が大挙して政府の上層部に入り込み、亡命貴族から没収した財産を処分して負債を返済したことで、財政は大きく改善された。


そんな様子を、非公式にパリを訪問したエンリ王子と執務室で語り合うルイ先王。

「それでどうですか? あの共和主義者たちは」

そうエンリが言うと、先王は「実に優秀ですよ」

「それは良かった」と安堵顔のエンリ。


「何しろ、新たな思想を切り開いた、学問の開拓者ですからね」

そう言って彼らを褒める先王に、エンリは「けど、王の立場としてはどうなの? 共和主義って、王政の廃止とか言い出しかねない奴らですよね?」


「つまり、王に政治を任せずとも、自分達で問題を処理するという事ですよね? これでハンコ突きの肉体労働からから解放され、思う存分スローライフを満喫出来る」

そんな先王の御都合話を聞かされ、エンリは思った。

(・・・・・・・・いいのか? これで)



そんな中、一人の役人が山ほどの書類を抱えて入室。

「先王陛下。書類の決裁をお願いします」

先王唖然。

そして役人に抗議顔で「いや、共和主義って、国王が政治とか、しなくていいって事なんじゃ無いの?」


役人はぴしゃりと言った。

「一応フランスは王政ですので、形式でもハンコは押して頂かないと。働かざる者食うべからずですよ」

「そんなぁ」

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