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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
524/549

第524話 覆面の騎士

貴族・僧侶・庶民と、身分ごとに分かれていたフランスの三部会。

これを統合する事で、フランスの国家意思を議論する「国民議会」とする事を呼びかけた庶民議員たち。

これを支持するパリ庶民たちの批判を浴びた大貴族たちは、先王が雲隠れする中、偽の王命を以て庶民議会を閉鎖したが、庶民議員たちは討議の場を広場に移して活動を続けた。

大貴族たちは、ついに本格的な弾圧を開始し、庶民議員ら多くの者が逮捕される中、ついに庶民は武器を持って立ち上がった。

軍はこれを弾圧するため出動。そしてオスカルが指揮する近衛隊にも出動命令が下る。



オスカル率いる近衛隊が隊列を組んでバスチーユ監獄に向かった。

そこは囚人の逃亡を防ぐ目的も兼ねた高い城壁と堀に囲まれた要塞になっていて、入口は堀にかかった跳ね橋が一つだけ。

武器を蓄え大砲も備えたパリの最重要軍事拠点となっている。


逮捕された国民議会議員が収監されている、このバスチーユ監獄の入口前に大勢の群衆が居た。

銃を持った脱走兵も居るが、多くは武器といっても長い棒の先を尖らせた簡素な槍か、鋤や鎌などの農具だ。

そんな群衆を威嚇する、幾つかの陸軍部隊。


要塞を外と繋ぐはね橋は降りており、その向こうの要塞内にも、多くの兵が居て挟撃の構えを見せている。

「これでは、ひとたまりも無いぞ」

「俺たち、戦うフリをすればいいって言うけど、他の部隊に殺されちゃうよ」

そんな事を口々に言う部下たちを見て、オスカルは思った。

(これでいいのか? 自分はこの国を守る軍人だ。そしてこの国とは、あそこに居る普通の国民だ)



オスカルはいきなりお腹を押さえ、その場に蹲った。

「ふ・・・腹痛が痛い、すまんがトイレに」


お腹を押さえてその場から立ち去るオスカルを見て、隊員たちがあれこれ・・・。

「隊長、どうしたのかな?」

「こんな時だもの。そりゃ胃も痛くなるよ」



間もなく、一人の騎士が現れた。

軍服にあちこち急ごしらえの飾りを付け、鍔の広い帽子に派手なリボン。そして目の部分を覆うマスク。

「私はリボンの騎士。国を憂いて立ち上がった無辜の民を不当な弾圧から救うべく、参上した正義の味方!」

その場に居る全員唖然。


「隊長、何やってるんですか?」

残念顔でそう言う近衛隊員たちに「私はリボンの騎士。アントワネット王妃付き近衛のオスカル隊長では無い」と彼女は言い張る。


残念な空気が流れる中、将軍は言った。

「・・・・いいだろう。叛逆者オスカル!」

「だから私はリボンの騎士」

そう言い張る覆面のオスカルに、将軍はため息をついた。

「よく解った。近衛隊副官。隊長に代わって指揮を執り、あの反徒を葬れ」



副官のジェローデルは腹を抑えた。

「ふ・・・腹痛が痛い。トイレに」

「俺も」

「俺もトイレに」

オスカルの部下たちは次々に腹を抑えて、わざとらしく腹痛を訴えつつ、その場を去る。


一人取り残されたアンドレは呟いた。

「どーすんだ、これ」


「お前等、敵前逃亡は重罪だぞ」

去っていく隊員たちにそう言いつつ、将軍はため息をついた。

「まあいい。他の部隊であんな反徒、一蹴してやれる」


「そんな事は私がさせない」

そう叫ぶリボンの騎士を指して、将軍は「奴は一人だ」

「いや、一人じゃ無いんだが」と言って、アンドレはオスカルの脇に立つ。


そんな彼らを指して将軍は「一人も二人も変わらん。囲んでしまえば終わりだ。かかれ!」と、その場に居る他の部隊の指揮官たちに命令。


「何でお前は・・・」

そうオスカルに言われ、アンドレは「オスカル一人にさせておけるか」

「だから私はリボンの・・・・・」とオスカルが言いかけた、その時・・・・。


「団長、遅くなりました」

そう呼びかける声に、オスカルは「だから私は隊長では・・・って、お前等何やってる?」


腹痛と称してその場を去ったオスカルの部下たちは全員、鍔の広い帽子に派手なリボンに目の部分を覆うマスクをつけ、オスカルの前に整列した。

「我等リボンの騎士団。国を憂いて立ち上がった無辜の民を不当な弾圧から救うべく参上した正義の軍団。団長、ご命令を」

オスカルは命じた。

「蜂起した民を守れ」



リボンの騎士を名乗るオスカルが率いる、リボンの騎士団を名乗る近衛隊。

彼らと民衆鎮圧のため派遣された陸軍部隊との乱戦が、監獄入口前の広場で始まった。


武器を持つ民衆が、これを唖然顔で見守る。

「どうしますか? あれ」

「我々も戦いに加わろう」

そう言う、彼らの指導者らしき人物に、武器を持つ民衆の一人が言った。

「けどベルナールさん、向うはプロですよ。味方になってくれた部隊ったって少数だし・・・」


そんな彼らに、ベルナールと呼ばれた指導者は「大丈夫だ。俺は黒騎士と名乗って、あの隊長と戦った事があるが、彼女は強いぞ」

「あれ、やっぱり女ですか」と民衆の一人が・・・。


ベルナールは言った。

「俺たちは確かに素人だ。けど、この国の主役は我々フランス国民だ。彼等はフランス国民であるが故に任務に抗い、我々を裏切らなかった。我々も彼等を裏切ることは出来ない。戦いに加わろう」



乱戦の中に突入する民衆の軍勢。

陸軍の一隊が彼等を迎え撃つ。そして、統率のとれた兵団は民衆軍の勢いを止めた。


軍の部隊と戦いつつ、アンドレはそんな彼らのピンチを察する。

「オスカル、民衆が・・・・」

オスカルは「まずい。戦意を削がれたら総崩れになるぞ。集結して彼等と合流しよう」


アンドレは風の散弾を放って敵を牽制し、近衛隊は密集体形を組んで、敵の包囲陣の一画に向けて銃を斉射。

そしてオスカルが先頭に立って切り込み、民衆軍を蹴散らしつつある敵部隊の背後を襲った。



民衆たちと合流したオスカルは、彼らの指揮をとっていたのが見覚えのある人物である事に気づいた。

「あなたは黒騎士ですね?」

ベルナールは応える。

「民に与えるのではなく、自ら糧を得る方法を・・・と、あなたは言った。だから、王族のためでも外国のためでも無い、フランスの民のための国を創ろうと、彼らに呼び掛けたのです」


オスカルは部下たちに号令。

「時間は無い。敵が陣形を整える前に流れを変えるぞ。乱戦が解消されたら斉射が来る。このまま押し込むぞ。兵一人が民十人を率いる編成を作るんだ」

近衛兵たちは乱戦で押されている民衆に混じって戦いながら、各自が周囲に呼びかけ、彼等を率いて先頭に立った。

目の前で剣を振るう近衛隊員たちに鼓舞された民衆が、陸軍兵の戦陣に突入する。


まもなく陸軍部隊は多大な損害を受けて撤退した。

歓声を上げる民衆たち。

そんな彼らにオスカルは叫んだ。

「喜んでいる暇は無いぞ。敵は増援を受けて反撃して来る。その前に、あの要塞を落とすんだ」



バスチーユ監獄を囲む深い堀の内側にそびえる石垣の上の銃座には銃兵たち。内部に幾つもの砲台。そして入口の跳ね橋。

オスカルは隊員たちに号令。

「突入するには跳ね橋を渡るしか無い。だが、城壁に居る銃兵に狙い撃ちされる。荷車に藁を積み、煙を楯にはね橋を襲え」


民衆は感嘆の声を上げた。

「つまり、煙が銃弾を跳ね返すと・・・」

「防御魔法のかかった魔法の煙かよ」

「すげー」


「じゃ無くて、煙で敵の視界を遮って狙撃を防ぐんだよ」と、オスカルは困り顔で・・・・・。


荷車が運び込まれて藁を積み、火をつける。

藁は一気に燃え上がった。

「荷車、燃えちゃいますけど」

オスカルは慌てて「水をかけて火の勢いを弱めるんだよ」


水をかけた荷車の藁でくすぶる火が盛大に煙を上げた。

それを指してオスカルは号令する。

「これを押し立てて跳ね橋に突入するぞ」

「跳ね橋、上がってますけど」と、民衆兵たちは困り顔で・・・。

「あ・・・・・」


橋の先端に繋いだ鎖が橋を引き上げ、橋は堀の向こう側へ。

「そりゃ、いざとなったら渡れなくするための跳ね橋だものな」と、困り顔のアンドレ。

「どーすんだ、これ」



「これは怪盗の出番だね?」

そう言って出てきたのは、背中に筒のようなものを背負った、十歳ほどの子供だった。

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