第523話 革命の始まり
庶民と貴族が別個の議会を持って別個に議論する三部会の弊害を除こうと、他の二つの議会に合流を呼びかけた庶民議会。
これを拒む貴族議会にパリ庶民の批判が集中する中、ルイ先王の偽の命令書により、庶民議会は議場を閉鎖された。
だが、庶民議会は広場を議場とし、国民議会を名乗って自分たちの会議を続け、パリ庶民たちの支持を集める。
孤立感を深める特権貴族たちは、その様子を見て、言った。
「これは弾圧が必要だ」
そして・・・・・・・・・。
パリの庶民たちの間に噂が広まった。
「警察が不穏な動きをしている」
「城壁の大砲が市内を向いた」・・・・・・・・。
不穏な情勢に危機感を持って、あちこちに集まる改革派たちが、あれこれ・・・。
露店で買い物をする客たちが噂話をする中、一人の若い男性が「貴族に好き勝手させてたまるか」
仕事帰りの中年男性も「この国の主役は俺たち国民だ。政府でも貴族でもマスゴミ屑でも偽人権団体でも無い!」
夕食の材料を買いに来たオバサンも「意見を言う個人に"ネトウ〇"なんて意味不明なレッテル貼るしか脳のない奴らがやってる事は、ただの誤魔化しだよ」
「けど、向うには軍隊だよ」と一人の若い女性。
「組織の力って、あるよね」と犬を連れた女の子。
杖をついた老人が「組合とか移民団体とかが動員かけるってんだろ?」
「けど、人数は俺たち庶民が圧倒的に多いぞ」と若い男性が気勢を上げる。
「けどさ、マスコミが電波を独占してリベラルの党派意識で外国のヘイトスピーチを代弁して民族の立場を偏見で排斥しても、個人が発言するネットはマスコミ批判で盛り上がって、双方向で自由に発言できる掲示板じゃネトサヨなんて論破されまくり。論理的正当性皆無なリベラルなんて擁護しようにも、マスコミ組織なんて何の役にも立たないじゃないか」と語る中年男性。
買い物籠を下げたオバサンが「挙句が"ア〇シネ"みたいな殺人教唆を連呼して、自作銃のテロリストが迎合して標的を変えると、そんな人殺しを"烈士"だの"山神様"だのと褒めちぎる・・・・・・みたいに、貴族議会が債権強制購入案を・・・」
「そういう暴力で押し切ろうってんなら、俺たちにも考えがあるぞ」と、若い男性。
中年男性が「そーだよ。個人の意思で武器を持って戦う事は、誰にも止められない」
「俺はやるぞ」
「俺だって」
そんな会話を耳にしたナポレオンは、アパートに帰るとbaka-noteを開いた。
「みんなが武器を持って、国を牛耳る悪い組織の力を打ち破るのって、何ていうんだ?」
ノートの精霊デュークは「クーデターって言葉があるよな」
「それは組織どうしが争って権力を奪うんじゃないのか? ジミン結社とリツミン団が争うみたいな。組織を持たない民が・・・ってのは?」
そうナポレオンが問うと、デュークは「うろ覚えだが、東洋に革命という言葉があるぞ」
ナポレオンは革命という項目を書き込んだ。
曰く「外国と結託するような悪い権威や組織が国家に対する影響力を振るって民を害した場合、民は自らの意志で武器をとり、国家を取り戻す権利がある」
その夜、警察は一斉に国民議会の議員たちを襲った。
そして逮捕者を監禁施設に連行する。
バスチーユ監獄へ・・・・・。
警察の動きを察して難を逃れた議員たちも居た。そして彼らに同調する改革派や共和主義者たちも・・・。
彼らに対する弾圧が始った。
噂は急速に広まり、それは合言葉となって、人々の間を駆け巡った。
「この国は俺たち国民のものだ。自分達の力で自分達のための国を取り戻す。これは革命だ!」
アンドレの所に連絡が入った。
そして彼は同居人を叩き起こす。
「オスカル、すぐに近衛の兵営に行くぞ」
「まだ勤務時間じゃ無いが・・・。そうか、フランスの危機なのだな?」
そう、ねぼけ眼をこすりつつオスカルが言うと、アンドレは「そういう事だ」
オスカルは拳を握りしめ、決意を語る。
「私の主は既に姫殿下だ。この国のために喜んで身を捧げ、財政難を乗り越えるぞ」
アンドレ、唖然顔で「・・・何、言ってる?」
「財政難のフランスはついに残業無制限のブラック国家に・・・」とオスカル。
「いや、そういう話じゃなくて・・・」と、アンドレは困り顔で・・・。
オスカルは更に拳に力を込めて「では姫殿下の危機か! 誰かがあの10歳の少女の命を! どこの誰だ。そんな奴人間じゃ無い。叩き切ってやる!」
アンドレ、あきれ顔で「いや、どこぞの危ないヘイト活動家な法学教授じゃないんだから。お前、オランウータンみたいな顔になってるぞ。危機ってのはお前自身の事だ」
「誰かが私の貞操を?」
そんなオスカルにアンドレは言った。
「じゃ無くて、大貴族が牛耳る警察が庶民議員を次々と逮捕しているんだ。邪魔になりそうな政府関係者も拘禁される。兵営に行けば奴等も手が出せない」
二人で兵営に行くと、隊員たちは既に集まっていた。
「隊長」
そう言って駆け寄る隊員たちに、オスカルは「言っておくが残業手当は出ないぞ」
隊員たちは、口々に言った。
「そういうのはいいんで。俺たちも弾圧の話は聞いてます。みんな庶民の出なんで」
「議会の人たちが捕まってるって」
「貴族のやり方が酷いって。別に叛乱とかしようって訳じゃ無いのに」
「けど、まさか俺たちに"国民議会を潰せ"なんて命令は出ないですよね?」
そう言って不安顔を見せる隊員たちに、オスカルは「安心しろ。我々の仕事は庶民の弾圧などでは無い。幼い姫殿下とついでにルイ陛下を守る事だ」
「王はついでですか?」
そう突っ込む隊員に、オスカルは「私はその使命を帯びてドイツから来たのだからな」
「けど、陛下は幼くても、王命を出せる立場にあるぞ。彼らの手に落ちたら、民への弾圧の道具にされるだろうな」とアンドレ。
「その国王夫妻はどこに?」
そうオスカルが尋ねると、アンドレは「銃士隊が保護している」
「彼等で大丈夫なのか?」とオスカル。
アンドレは「彼等なら大丈夫だ」
「けど、いくら手練れとは言っても、数は貴族の私兵とそう変わらないぞ。こっちは軍隊だから安全なんじゃ無いのか?」
そう、不安顔で言うオスカルに、アンドレは「奴等もそう思ってる。だから我々で彼等の目を引き付ける」
「そういう事か」
そう言ってオスカルは、兵営の塀垣の外側で中に居る近衛兵たちの動きを監視する兵たちを見る。
「奴等は陛下がここに居ると・・・」
そうアンドレが言うと、オスカルは「そうなのか?」
「いや、彼らがそう思っているだけだが、それは我々にとって好都合だって事さ」と意味深な事を言うアンドレ。
オスカルは納得顔で「なるほど。国王夫妻の命はこのオスカル親衛隊長とともにあるのだからな」
アンドレは脳内で呟いた。
(ここに居るっていう偽情報を流した事は言わないでおいた方が良さそうだな)
間もなく、将軍が数人の兵を連れて、兵営に乗り込んで来た。
「何の御用ですか?」
そう、対応に出たオスカルが問うと、将軍は言った。
「過激分子による反乱が発生した。君は彼等の策謀から幼い国王夫妻を守ったのだな?」
「はぁ?・・・・・」
「君のような優秀な軍人が、我がフランスの誇りだ」と、何やらオスカルを煽て始める将軍。
「それほどでもありますけどね」と、満更でも無さげなオスカル。
将軍は更に「解決の暁には多大な褒章を用意している」
「そんなのはいいんで。全ては部下の頑張りですよ」と、謙遜しはじめるオスカル。
「という訳で、後は我々に任せて、夫妻を引き渡して貰おう」
そう本題を切り出した将軍に、オスカルは「お断りします」
「ここに居るのだよな?」
と詰め寄る将軍に、オスカルは「居ますが、あなた方には・・・・・」
アンドレ、オスカルの足を思いっきり踏む。
そして彼は将軍に「何か間違った情報が錯そうしているようですが、ここに国王夫妻は居ません」
オスカルは小声でアンドレに「何で否定するんだよ」
「秘密裡に匿ってるって設定なのに、正面から肯定してどーすんだよ」とアンドレ。
「そりゃそーか」
オスカルは将軍に向き直り、そして「という訳で、国王陛下ご夫妻は、ここには居ません」
「嘘をつくと、ためにならないぞ」
そんな脅し口調の将軍に、オスカルは「私は陛下の剣です。その私が居ないと言ったら居ません」
将軍は引き返し、一旦。兵営から去った。
だが、間もなく戻ってくる。
再びこれに対応するオスカルは、頑とした口調で「国王夫妻なら、どなたが来ても居ないものは居ません」
すると将軍は「それはとりあえずいいんで、反乱軍の鎮圧を命ずる」
「反乱? どこの貴族兵ですか?」
兵営に緊張した空気が漲る中、そう言って、すっ呆けを試みるオスカルに、将軍は「フランス人でありながら国家に武器を向ける者は、全て叛乱軍だ」
オスカルは抵抗する。
「民を弾圧せよという事ですか? ですが、それは我々の仕事ではありません。我々近衛の仕事は陛下を守る事です」
「その守るべき陛下がどこにいるか解らないのでは、守りようが無いではないか」と将軍は反論。
「その反乱とやらの標的は、陛下なのですか?」
そう問うオスカルに将軍は「彼らの標的は国家であり、国家とは国王だ」
オスカルは言った。
「いいえ、国家とは国民です。彼等はただ、意見を聞いて欲しいだけです。不当な逮捕を止めれば、すぐ解散します」
「そんな事が何故言える?」と将軍。
「ここの兵たちの家族だからです。彼等が知っている」とオスカル。
「これは命令だ。背くのは重罪だぞ!」
そう言って脅す将軍に、オスカルは「なら私を逮捕して監獄にでも入れたらいいでしょう」
「おい、オスカル・・・」
焦り顔で彼女を止めようとするアンドレに、オスカルは「大丈夫。こんな騒ぎはすぐに終わる」
そんな彼女に将軍は「いいだろう。だが君に抗命を促した兵たちも全員同罪だ」
「そんな・・・・」
オスカルは背後に居る部下たちを見た。
そして「解った。命令に従おう」
「隊長・・・・・・」
悲痛な表情でそう呟き、項垂れる隊員たちに、オスカルは命令を下した。
「出撃の準備を」
唇を噛むオスカルにアンドレは言った。
「大丈夫だ。銃を撃っても、要は当てなければいいだけだ。適当に戦うフリをしていればいい」
「督戦要員は居るだろ?」
そう疑問顔で言うオスカルに、アンドレは「背中から流れ弾が当って名誉の戦死・・・なんて、よくある事さ」
オスカル、唖然顔で「アンドレお前、時々えげつないな」
「それほどでも」
そう照れ顔で言うアンドレに、オスカルは「いや、褒めてないから」




