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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
520/550

第520話 税と公債

フランスの財政難に対処すべく、貴族たちへの課税案が決まりかけた中、露見した王家の浪費問題。

批判の対象が王家にすり替わる中、これに対応すべく王室経費の削減策の検討が始まった。

だが、新王妃の実家ドイツ皇帝家がこれに抗議し、パリ庶民の反感は幼いアントワネットに集中した。



そして・・・・・・。


王族の経費節減はある程度進んだが、批判が収まる事は無かった。

近衛の兵営でも、兵たちがその話題であれこれ・・・。


「まあ、元の浪費が大きかったからなぁ」

そう言って溜息をつく、隊長のオスカルに、兵の一人が「アピールが足りないんじゃないですか?」

「けど、あまり前面に出すと、新王妃の分の節減ができない事もアピールされちゃいますよ」と、別の兵が・・・。

更に別の兵が「ドイツの女帝は抗議を取り下げて無いですし・・・・・」



そんな部下たちを見て、オスカルは考え込む。

そして、思いつめた表情で彼女は言った。

「王族だけじゃ駄目だ。我々臣下にも、やれる事がある筈だ。私はこれからは給料を返上する」


兵たち唖然。そして彼らは声を揃えてオスカルを諫めた。

「それでどうやって食っていくんですか?」

「私は軍人だ。戦地では野草を食べて生き残る術は身に付けている」とオスカル。


「そんな生活を続けたら体を壊しますよ」と兵の一人が・・・。

別の兵が「やめて下さい。隊長が心配です」

更に別の兵が「俺達、隊長が居るから苦しい訓練を続けて来れたんです」

そんな兵たちに、オスカルは"じ~ん"・・・といった表情で「お前たち・・・」

兵たちは「隊長・・・」

「お前たち・・・」


「それに、上官が給料を返上したら、俺達部下が何でそれに習わないんだ、って絶対言われますよね?」と兵たち。

オスカルは残念顔で「・・・・・・要するに自分の給料を守りたい訳ね?」



オスカルが帰宅し、同居しているアンドレが作った夕食を食べながらの会話の中で、給料の返上についての話題が出た。

「言っとくが、俺はやらないからな」

そうアンドレが言うと、オスカルは「それはお前の権利だ」


アンドレは不安顔で「まさかこの官舎を返上とか、言わないよね?」

「私は野宿には慣れている」

そう真顔で言うオスカルに、アンドレは「俺はどうするんだよ!」


残念な空気が流れる中、アンドレは言った。

「それに返上したはいいが、その後ここに確実に住む奴が居ないと、ここはただの不良在庫だ。木造建築は人が住まないと急速に廃墟化するから、管理費が必要になる。予算削減のつもりが逆効果だ」



翌日、オスカルが出勤すると・・・・・・。


「隊長、相談があります」

兵たちが数人、隊長室に来てオスカルに談判。


彼等が語った決意を聞いて、オスカルは・・・。

「ここの練兵場を畑にすると?」

「俺達の食いぶちだけでも稼がなきゃ、って思いまして」と兵たち。

「お前たち・・・・・・」

オスカルは部下たちの真剣な眼差しを前に、感動の涙目。


そして彼女は暫し思考を巡らせる。

「農具が必要だな。それに訓練だって欠かせる訳にはいかない」

「大丈夫です。素手で耕します」と兵たち。

「何だと?」


唖然とするオスカルに、兵たちは言った。

「武術の神様と呼ばれる人が言ったと聞きます。土を耕すため素手で地面を掘り返す事で、拳法の突きの技を鍛えると。素手による耕作は武術の全てのエッセンスが詰まっているのだと」

オスカルは困惑顔で「そんなの漫画やアニメの中だけのような気がするが・・・・・」



広い練兵場で兵たちが作業開始。

そして一時間後・・・・・。


兵たちは一様に悲鳴を上げていた。

「手が、手がぁ・・・・」

「爪がとれてる」

「指の先がボロボロ」


オスカルは残念顔で溜息をつく。

そして同様に残念顔の補佐官に言った。

「アンドレ、治癒魔法が出来たよな。こいつらにかけてやってくれ。それと、工兵隊に行けば塹壕堀り用のシャベルを借りられる」



兵たちが道具を手に、作業再開。

広い練兵場が畑に変り、穀物の種が蒔かれた。


きれいに並んだ麦の畝を眺めて、満足顔の兵たち。

「早く芽が出ないかなぁ」

そう一人の兵が言うと、別の兵が「俺の実家は農家なんだが、穀物の芽が出るってのは感動モノだぞ」

更に別の兵が「けどそのパターンって、たちのわるい先輩使用人の嫌がらせで、芽の出たばかりの畑が滅茶苦茶に荒らされるんだよな」

「そんなの漫画やアニメの中だけ」と副官のジェローデルが突っ込む。


「収穫が楽しみだなぁ」と声を揃える兵たち。

「それに、労働の後の酒は格別だぞ」と、一人の兵が・・・。

「よし、これから飲みに行くぞ。今日は私のおごりだ」

そんな事を言い出すオスカルに、部下たちは盛り上がる。

「隊長最高!」


アンドレは残念顔でため息をつき、そして言った。

「ちょっと待て。俺達何のためにこんな事やってるんだっけ?」

場のテンションは一気に萎み、残念な空気が漂う。



財務局では、ネッケル長官の陣頭指揮の基、王家の経費節減は進んだが、焼け石に水。


財務局の幹部たちを集めて対応策を議論する中、ネッケルは言った。

「やはり貴族の領地に税をかける必要があるな」

「三部会での許可が必要ですよ。貴族会議で大紛糾します」と、役人たちは声を揃える。

そんな彼らにネッケルは「けど、可決一歩手前まで追い込んだよね?」

「けど・・・・・」



貴族への課税に、ネッケル以外が全員反対する中、次官のブリエンスが「まあ、お茶でも飲んで落ち着きましょうよ」


お茶が全員に配られ、みんなでそれを飲む。

すると、ネッケルはたちまち顔が青ざめて「済まん、トイレに・・・・・」


会議室を駈け出るネッケルを見送ると、幹部の一人が次官に「もしかして一服盛りました?」

ブリエンスは「それは言わない約束だ。彼が居たら話が進まん」

「彼はそれは自分の台詞だと言うと思いますけどね」と幹部の別の一人が突っ込む。



そして、鬼の居ぬ間にと、ブリエンス次官の主導で会議再開。

「やはり庶民への増税だよ」

そう一人の役人が言うと、別の役人が「三部会での許可が必要ですよ。庶民議会で大紛糾します」

「やはり借金しか無いのかなぁ」

そうブリエンスが言うと、更に別の役人が「既に莫大な負債が溜まってますけど。利息が利息を産んで大変な事になりますよ」と突っ込む。


「ポルタでは借り換えで済ませたけど。利息を"といち"と称して十年で一部」と一人の役人が指摘。

「よくそんな借り換えに債権者が合意したよね?」

そんな役人たちの疑問声に、先ほどの役人が「それが、虫眼鏡でないと見えないような但し書きで・・・・・」

ブリエンスは身を乗り出して「それでいこう」

一人の役人が「いやそれ、殆ど詐欺だから。それに、みんな知ってるから二度と通用しないですよ」と突っ込み、場は残念な空気に・・・。


「今のポルタは紙幣を発行してますけどね」

そう一人の役人が言うと、ブリエンスは身を乗り出して「それでいこう」

それに対して別の役人が突っ込んだ。

「何時でも金と交換するって事で、発行する紙幣と同額の金貨の備蓄が必要だって聞きますけど」


「けど、金の準備はずっと少ないそうだぞ」

そうブリエンスが楽観論を述べると、先ほど発言した役人が指摘した。

「信用される国でないと、金との交換の要求が殺到するんですよ。今のフランスで発行すれば、間違い無くそうなりますね」

ブリエンスは溜息をつく。

「紙幣ってのは返済期限未定の借金と同じだからなぁ」


「公債として一定の財産を持つ者に購入を義務付けるってのは?」

そう、一人の役人が言うと、別の役人が「それ、実質税と同じだから」

「いや、債権だから税とは違うぞ」とブリエンスが言い出す。

別の役人が「税を債権と言い張ってるだけだと言われますよ」と止めに入る。


すると一人の役人が語った。

「いえ、債権だと百回言えば債権になるのです。ジパングにおいてリベラル教が支配するマスゴミが石破という傀儡王を擁立し、国民から多くの反発を買いました。その時、トランプ帝国が法外な関税率の値上げを突き付け、石破王はこの税率を引き下げる事で功績を上げようと、赤沢という大臣を派遣したのですが、彼は何とか一割下げて貰おうと、80兆円を投資し、その利益の9割を相手国に差し出す約束を・・・」

「いや、投資というのは利益を上げて資金を回収するためのものですよ。その利益を相手国に差し出すって、投資じゃ無くて、ただの貢納でしょう」

そう、別の役人が突っ込むと、先ほどの役人が「そうです。ただの貢納です。それを投資だと言い張る事で投資という事になるのです。今回の事も、これは税ではなく債権だと言い張る事で、債権という事になるのです」


役人たちは一様に思った。

(いいのか? それで・・・・・・)



やがて、ネッケルがトイレから戻ってくる。

すっきり顔のネッケル長官に、こちらもすっきり顔のブリエンス次官は得意げに言った。

「長官、話がまとまりました」

「どうなった?」

「富裕市民に公債の購入を義務付けるという事に」とブリエンス。


ネッケル唖然。

そして「それ、実質税と同じだろ?」と駄目出しを試みる、が・・・・・・。


「いえ、借金ですから税ではありません」

そう言って、全員がドアップでネッケルに迫り、彼はタジタジに・・・・。

そしてネッケルは「ととととにかく、上にはそのように報告するが、多分、駄目出しが来ると思うぞ」



ネッケルは宰相の執務室に行き、幹部たちが強引に決めた公債案をリシュリューに報告した。

リシュリュー、唖然顔で「なんじゃそりゃーーーーーー!」

「やっぱりそういう反応になりますよね?」と言ってネッケルは溜息。


「あなたは何をやってたんですか?」

そうリシュリューに言われ、ネッケルは「それが、お茶を飲んだら急に腹痛が痛くなってトイレに・・・」

リシュリュー溜息。

そして「それ、一服盛られたんですよ。とにかく、強制的に買わせるって実質税ですから、三部会での承認が必要になります」


「彼等は借金だから税じゃないって言ってまして」とネッケル。

リシュリューは「絶対反発が来ますよ。とにかく再審議を・・・・」



その時、数人の大貴族がどやどやと執務室に乗り込んで来た。

そして彼らは一様に揉み手のおだて口調で「おや、リシュリュー宰相にネッケル財務長官。先ほど耳にしたのですが、財政対策がまとまったと。富裕庶民が漏れなく公債を購入して国家予算を救う。実に素晴らしい解決策だ」

「いや、決まった訳では無いですから・・・」と焦り顔のリシュリューとネッケルだが・・・。


大貴族たちは更にドアップで畳みかける。

「税じゃ無いから三部会による承認も不要」

「これでフランスも安泰」


更に別の大貴族たちも乗り込んで来る。

「おや、リシュリュー宰相にネッケル財務長官、お手柄ですな」



次から次へと押し掛けて、公債案を褒めちぎる大貴族たち。

その勢いに押されまくるリシュリューとネッケル。

大貴族は言質をとったつもりのドヤ顔で、意気洋々と引き上げた。


執務室では、残されたリシュリューとネッケルが、顔を見合わせて溜息。

「どーすんだ、これ」

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