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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
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第52話 黄金で戦争

南方大陸南端の植民都市を襲撃する預言者ベルベド率いるズールーの軍。

住民たちを救うため、エンリ王子たち7人を乗せて戦場の上を翔るファフのドラゴン。



敵兵は既に港の崖上にある砦に取り付いている。原住民戦士やズンビーに必死に抗戦する植民市の市民兵たち。

向こうまで敵軍の群れが続く。

「あの奥に魔導士の爺さんが居る訳か」とエンリ

「空を飛べば余裕だな」とタルタ。

「飛び道具も無さそうだし」とジロキチ。

するとアーサーが「いや、そうでもないみたい」


ファフの翼の脇を大きな石がかすめる。


「オーガが石を投げてやがる」とカルロ。

「こんな距離まで届くのかよ」とタルタ。

「いや、あれは投石器よ」と、地上を望遠鏡で見てニケが叫んだ。

「オーガがあんなもんを使うのかよ」とジロキチ。


オーガたちが何かを振り回している。

太い紐の真ん中に大石を挟み、紐の両端を以て振り回して遠心力をつける。紐の一方を放すと、遠心力にまかせて高速で石を飛ばす。

無数の石が雨のように飛んでくる。

「アーサー、どうにかしろ」とエンリが叫ぶ。

アーサーは「魔法には詠唱の時間が必要です」

「ドラゴンの炎は?」とエンリ。

「あそこまで届かないよ」とファフ。

ファフの右の翼を大石が直撃し、敵地のど真ん中に墜落した。



エンリが仲間たちに「大丈夫か」

「何とか」とファフ。

「それより周りの敵を」とアーサー。

エンリが言った。

「リラ、セイレーンボイスだ。敵の本陣はすぐそこだ。俺たちが突破して切り込む。ファフはまだ戦えるか」

「飛ぶのは無理だけどね」とファフ。


全員耳栓を装着し、リラは人魚の歌を歌った。

周囲の魔物も戦士もバタバタと倒れて眠りにつく。だがズンビーたちは寄って来る。それだけでもかなりの数だ。

ファフは炎を吐き尻尾を振るって必死に敵を追い払う。

ドラゴンの背中ではリラが歌い、アーサーが呪文を詠唱して光の魔法を繰り出す。



王子たち五人は本陣の魔導士ベルベド目掛けて突撃した。

襲い来るズンビーを先頭を走るエンリが光の巨人剣で切り払い、ジロキチとカルロが切り伏せ、タルタが殴り倒し、ニケが拳銃で撃つ。

魔剣で倒したズンビーは灰となって消えるが、他はすぐ起き上って追いかけてくる。


やがて向こうに呪文を詠唱する魔導士の老人が見えた。ベルベドだ。

その時、ベルベドの背後から頭部の無い巨人が立ち上がり、彼らに襲いかかる。

「鋼鉄の砲弾」

そう叫んで跳躍して鉄化したタルタが、巨人の胸に直撃してこれを倒した。


「爺さん、そこまでだ」

そう叫んでニケが拳銃、ジロキチが刀、カルロがナイフを突きつける。



だが、その周囲は槍を持った地元民戦士に囲まれていた。


タルタに念話の魔道具でリラの声が伝わる。

「すみません、ズンビー兵がここまで登ってきちゃって」

ドラゴンの背中ではズンビーに囲まれたアーサーとリラが手を上げ、目を覚ました原住民戦士が弓を構えて取り囲んでいる。


老人は呪文の詠唱を止め、オーガとキリムは戦を止めて森へ。ズンビーの体は崩れて土となった。

残ったのは無数の現地人戦士たち。



ベルベドは言った。

「どうしますかな。この老いぼれを倒してこいつらと戦うも一興」

「それで砦を攻め落としてあいつらを一掃するも一興ですか。ですが、あなたは予知が出来るんですよね? この後どうなるか見通せるのではないですか?」とエンリ王子。

「この後の事は見通せますよ。あなたは私を殺しませんよね? あなたの目的は交渉ですから」とベルベド。

エンリは「つまり、あなた方が俺たちを殺すかどうかという事だ。それによって未来は大きく変わる」

「そういう未来は見えないのですよ。決断を下した時に見えるのです」とベルベド。


「例えば、俺たちを殺して砦の奴等を皆殺しにしたら、どうなるか」とエンリ。

「恐らく、次の敵が来る。私は老い先短いです。魔導士の居ない我々は攻勢に抗いきれない」とベルベド。


エンリが「俺たちと協定を結べば」

「100年は交易に専念する砦との共存は可能でしょう。だが、その後、あなた方とは別の国からの侵略が始ります」とベルベド。

エンリは言った。

「だったら、それに抗えるよう力をつければいい。黄金を掘り出して知識を買い、国を富ませ、簡単には滅ぼせない国を作る。今どうするかで10年後20年後の未来が変わるのなら。その先の未来もきっと変えられます」

ベルベドは言った。

「解りました。協定を話し合いましょう。私たちは対等です。共に理性ある友として、けしてゴールポストを動かす事はしない」



「私、ここに残るわ。この人たち、見捨てられないもの」

ベルベドと協定内容を話し、合意を得て港に帰る時、ニケはそうエンリに言った。

そんなニケにエンリは「そして金を掘り当ててガッポガッポ・・・ってか? それ却下ね」

「ちょっと」とニケは言って口を尖らせる。


「どーせ奴等騙して利益独り占めしようって訳だろ?」とエンリ。

ニケは「何で解るのよ」

「顔にそう書いてある」とエンリ。


膨れっ面になるニケにエンリは言った。

「ってかニケさんはうちの航海士だろ。それに詐欺行為の出来ない呪い、かけてたよね?」

「呪い解いてよ。私の唯一の収入源なのよ」とニケ。

「詐欺が唯一の収入源とか人として駄目だろ」とエンリ。



拘束されていた金鉱探しの人たちは解放され、エンリたちは港の砦に戻った。

エンリは現地人たちと結ぶ協定について、植民市の住人達に話す。

「内陸に進出するのは禁止。向こうも交易を邪魔しない。これで手打ちって事でいいよね?」

「金の鉱脈は相当な埋蔵量がありますよ。指を咥えて見てろって言うんですか?」と住人たち。


エンリはタルタが幼い頃に賢者から聞いたという言葉を思い出す。

(お金には本当に価値があるのか)



エンリは住人たちに言った。

「なあ、お前等。何で金がお宝って事になってると思うよ」

「錬金術では金属の最高の状態が金だと聞きました」と市長。

「果たしてそうかな? だって金って、刃物にもならない駄目金属だぜ。昔ある人が言ったそうだ、価値があると俺たちが思い込んでいるだけじゃないのか?・・・ってさ」とエンリ。


「けど、そう思い込むにも理由があるんですよね?」と市長。

「それは人間が初めて手にした金属だって事じゃないのか?」とエンリ。

「アダムが誕生した後も神の影響が残る黄金時代の話ですよね?」と司祭が言う。

「じゃなくて、鉄なら精錬が必要だが、金は金のままで掘り出して使える」とエンリ。

「鉄は錆びますから、鉄鉱石ってのはつまりは錆ですけど、金は錆びませんから」と一人の商人が言った。


エンリは説明した。

「つまりさ、精錬なんて技術の無い時代の人にとっては唯一の金属だったんだよ。ピカピカして綺麗でいろんな形に加工できる。だから金属という事自体に価値があった。それで金=金属で貴重品って認識が固まった所に、銅とか鉄とか使えるようになって、それを刃物としては使えても、こいつは金じゃないから価値は低いんだって」

「なるほど」と住人たち。


そして更にエンリは言った。

「お前等は今、交易の要に居る。東の海に乗り出す要地だ。交易で莫大な利益を得られる所なんだよ。それで思い込みじゃなくて、実際に使う事による利益を生み出す財貨が容易に手に入るんだ。見せかけの価値しか無い金を奪い合って奥地の奴等と争うのと、どっちが得だと思うよ」

「解りました。王子が結んだ協定を守ります」と市長は言い、そして全員が頷いた。



そしてエンリは言った。

「それと、ドラゴンに関しては他言無用な。さっきの演説の様子は気勢上げてるお前等全員の顔含めてバッチリ記憶の魔道具で録画してるから、俺が異端審問に行く時は全員道連れな」

住人たちは「えーっ、そんなぁ」

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