表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
517/541

第517話 税の担い手

その頃、フランスの財政難は、ますます深刻さを増していった。

その最大の原因は国家収入の不足にある・・・と見たリシュリュー宰相は、フランスの国土の三分の二を占める貴族の領地収入への課税以外に解決策は無いと考えた。

だが彼の案は、頑なに課税を拒む貴族たちの反対で立ち往生していた。



「どうかルイ先王陛下のご命令を」と、執務室での直談判で、王命による打開を求めるリシュリューだが・・・。

ルイ先王は困り顔で「こちらにも貴族たちからのプレッシャーが激しくてな」

「まさか弱みを握られているとか」

そうリシュリューに言われ、先王は慌て顔で「そそそそんな事は無いぞ」


その時、家来が報告に来た。

「先王陛下にイケメン公爵からの伝言がありまして。"あの夜約束した事をお忘れではありませんよね?"と・・・・・」


別の家来が報告に来た。

「ハッテンバー子爵の使者から手紙を預かっておりまして」

先王はその場で、手紙の封を開けて中身を読む。

曰く「私の陛下への・・・・・・・」


ルイ先王は溜息をつく。

そしてリシュリューに「とにかく疲れたので後は任せる」


そして、ルイ先王は行方を晦ませた。



「という訳なんですが・・・・・」

ポルタ城には、そんなリシュリューの愚痴を通信魔道具で聞かされる、エンリ王子が居た。


間もなく訪れるであろう、ユーロ全土を巻き込む動乱に対処するため、かねてよりリシュリューに警告を発し、対策のための連絡を密にしているエンリであったが、事態が悪化の方向へ向かう現実に頭を抱えつつ、エンリは言った。

「また何時もの調子で、ホストクラブにでも匿われているんでしょうね」


「あそこに踏み込むと後が面倒だからなぁ」とため息をつくリシュリュー。

エンリは無責任声で「身代わりを立てるというのは? オルレアン公は双子で顔は瓜二つですよね?」

リシュリューはあきれ声で「そんな乱暴な・・・・。いや、まてよ」



リシュリューはオルレアン公の屋敷へ。

客間でオルレアン公に面会し、協力を求めるリシュリュー宰相。

「あなたのサロンに進歩派の貴族が居ますよね。旧主派を抑えるために彼等の力を借りたいのです」


オルレアン公はサロンの会員たちの中からネッケルを推薦し、彼は財務長官に就任した。



そしてネッケル財務長官就任の日・・・・・。


彼が財務局に登庁すると、財務局の幹部たちが待ち構えていた。

「あなたが新任の財務長官ですか?」

「ネッケルです」と、彼はとりあえず自己紹介。


早速、次官が本題を切り出す。

「どころで、良くない噂を聞いたのですが、貴族の領地に税を課す事を目論む輩が居るとか居ないとか・・・」

「御不満ですか?」とネッケル。

すると一人の財務役人が「我々は税を払う側では無く、受け取る側です」


「税を受け取るのは国家であって、個人では無い。貴族は役職について仕事をして給与を貰い、それで生計を立てるのが正道です」

そう反論するネッケルに、別の財務役人が「領地は先祖から受け継いだ財産だ」

「それは中世の古い考えです」とネッケル、更に反論。


「国家は我々と同様に、国王が祖先から受け継いだものだ。我々の領地に対する権利を否定するという事は、ルイ陛下の立場を否定するのと同じですぞ」

そう、額に青筋を立ててまくし立てる財務次官に、ネッケルは言った。

「私はそのルイ陛下の命を受けている。国王の仕事は税を受け取る事では無く、国家を繁栄に導く事だ。税は国王の収入では無い」



貴族の反対を押し切って、領地課税制度の立案を進めるネッケルに対し、猛然と嫌がらせが始った。


街を歩くと卵が飛んで来る。

屋敷の入口に生ごみの山。

社交界では悪い噂が流れた。

「ネッケル家の執事が顔に絆創膏が・・・・・・」

「風俗店のビキニのお姉さんのいかがわしいサービスで・・・・・」

「公費でお友達と花見に・・・・・」

「パーティ券の売り上げの一部をキックバック・・・・・」



ネッケルは貴族たちの吊るし上げに根を上げて、リシュリューの所へ駆け込んだ。

「どうにかして下さい。利権にしがみ付く旧守派の足掻きがハンパじゃないです」


リシュリューは溜息をついて「そんな奴ら、論破してやればいいじゃん」

「壊れテレコみたいに論破された主張を繰り返すだけですよ」とネッケル。

リシュリューはあきれ顔で「ネットで半島国批判に噛み付いてる奴らみたいなものだろ。四文字レッテル用語連呼するだけの無能どもだ」

「そんな貴族でも大勢居ますから」とネッケル。

「それでトレンドだってんだろ? あんなの一人百回づつマクロで書き込む工作員が半分以上書いてるって、解析結果が出てるんだが」

そうリシュリューが言うと、ネッケルは「そういうどこぞの異世界のネタは要らないんで」


そしてリシュリューは言った。

「・・・・・庶民はもっと大勢居るんだけどなぁ。ここは三部会を開いて公開の場に持ち込むしか無いかぁ」



こうして課税問題を討議するための三部会が開かれた。

だが・・・・・・・・・・。


ネッケルの課税案は、貴族議会では大勢の貴族議員による吊るし上げを受けた。

頼みの庶民議会では・・・・・

「政府がどうしにかしろ」と大合唱するだけの庶民議員たち。


紛糾する貴族議会に手を焼くリシュリューとネッケル。

その日の質疑を終え、宰相の執務室で頭を抱える二人。


「何のために議会ですか?」

そう困り顔で言うネッケルに、リシュリューは「平民議員に対抗させる筈だったんだがなぁ」

「けど三部会って、貴族議会・僧侶議会・平民議会に分かれて、別々に議論するんですよね?」とネッケルは突っ込む。

「そーいやそーだった」



リシュリューは庶民議会で貴族への糾弾を発言させて記憶魔道具で録音し、貴族議会でその音声を流す。


逆ギレする貴族議員たち。

「庶民に好き放題言わせていいのか。政府がどうにかしろ」

「そーだそーだ庶民なんて猿だ。貴族の高級クラブに入りたいだけのイエローモンキーだってヤマモトタロー氏が言ってたぞ」

「憲法が定めた手続きに従って憲法を改定するという憲法破りを目論む猿どもめ」

そんな多数派議員に少数の改革派議員が「いや、憲法の規定に従うのは憲法破りじゃ無いぞ」


「フランス国民男性として生まれたってだけで、母親の腹から出る以外に何の苦労もしてない無能どもじゃないか」と、貴族議会での多数派貴族議員は更に逆切れ。

「それ、むしろ貴族を揶揄した表現なんだが」と突っ込む改革派議員。

「彼等は貴方達を猿だって言ってるが」と、別の改革派議員も突っ込む。

多数派議員、発狂状態で「他人を揶揄した事も無い品格ある貴族に対して、何という侮辱だ! フラップ裁判に訴えて弾圧してやる!」

改革派議員たち、あきれ顔で「あんたはどこぞの小西議員か」



ネッケルは、オルレアン公のサロンに、この問題を持ち込んだ。


多くの会員が貴族議員たちを批判した。

「我々市民が高い税金を払っているというのに、金持ちの貴族が税を逃れるっておかしいだろ」

「そもそも税って何だっけ?」

そう一人の会員が提起すると、別の会員が「支配する者がされる者から取り立てるんだよね?」

「それ、ヤクザのみかじめ料みたいなんだが」と、更に別の会員が突っ込む。

そして更に「要するに、強盗が刀を突き付けて金を奪うようなものか?」


リーダー役のラファイエットが言った。

「中世まではそうだっただろうさ。何せ、武力支配がイコール政治って時代だったからな。けど、これからは違う。納税は社会を動かす力を提供するって事で、税を払う国民こそ国家の担い手だよ。だったらその力をどう使うかに意見を言う権利がある。国が強く豊かになる事で利益を得るのが国民だからこそ、それは正しい意見を言う動機となる。貴族が税を払わず口だけ出すとか、おかしいだろ」


すると一人の会員が「外国人移民も商売の収入から税を払うから、彼等にも政治参加の権利があるって、リベラル教の尊師が言ってるけど」

それに対して別の会員が反論。

「彼等が権利を行使できるとしたら、祖国だよ。そこを離れて住んでいる祖国以外の国を強くしたいと、移民は思ってない。彼等は既に道路や港や、警察が安全を守る社会という形で、税を払った見返りとしての利益を得ている」

「つまり、税には二つの意味があるという事だよね。その両方を満たしているのが国民だよ」とラファイエットは結論付けた。

そして、一人の会員が「ポルタの王太子が言ってた。商人の持ちたる国・・・って」



そんな議論の末席で、ナポレオンは話を聞いていた。


彼はアパートの自分の部屋に戻る。机の上にはあのbaka-note。

裏表紙に書かれた精霊デュークの顔が言った。

「何か面白い事でもあったか?」


「ガチな政治談義はよく解らん。納税者の権利って言うんだが」

そうナポレオンが言うと、デュークは「アレだろ? イギリスのジョン王が貴族に税を課そうとして、吊るし上げを喰らったって。税を取るなら発言権を認めて了解をとれって言われて、それでイギリス議会を作ったんだよな」

ナポレオンは「それで税自体はどうなった?」

「今の騒ぎみたいに、うやむやになったと」とデューク。

「何だかなぁ」


ナポレオンは思った。

(俺はテッペンに立ちたい。それが駄目でも、自分の国で一方的に支配されて税を取られるだけの底辺は嫌だ)

そして彼はbaka-noteの税という項目に、一文を付け足した。

曰く「国民は、これを支払う代わりに、その使い道に意見を言える権利がある」



翌日・・・・・。

パリの街の人たちは、あちこちで税負担に関する不満を口にし始めた。

「国民が税だけ取られて意見を言えないって、どうなの? 税を払って無い貴族が政治に口だけ出すって、おかしいよね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ