第513話 軍団の青春
四年後に起こるであろう全ユーロを巻き込む動乱に備えるための、魔剣の炎を分与した刀を使う兵団。
その兵士たちを育成する訓練所で厳しい訓練に耐える訓練生たちと、彼等に「貴族の仲間入り」の夢を託して、交際する織物工場の女工たち。
当初は炎の魔剣の分身を使う軍団の予定が、楯と弓矢が追加され、必要な技能とともに訓練内容も大幅に増えた。
そんな中で、更なる武装の必要性を探る、エンリ王子と仲間たち、そしてフォーリー教官と魔法学部魔道具科の教授たち。
城の会議室で、彼等はなお議論を重ねていた。
「鉄砲はどうする?」
そうエンリが言うと、タルタが「ボウガンで足りるだろ」
「けど、銃声で敵をひるませるのに効果的だぞ」とジロキチ。
「なら、爆竹を使うでござる」とムラマサ。
エンリは困り顔で「そういう話では無いと思うが」
ニケが「それに鉄砲って、けっこう重いから、持ち運ぶのは兵の筋力が必要よ」
「更に鍛えれば済む事ですよ」
そうフォーリーがドヤ顔で言うと、エンリが「そういうマッチョ思考もどうかと思うが」
「効率よく連射するなら改造すればいいかと。ニケさんの短銃みたいに」と魔道具科の教授。
カルロが「それに、槍の柄と同じで、荷車で運べばいいかと。常に持ち歩く必要も無いですから」
「まあ、訓練だけはしておこうか」とエンリ。
「あと、馬は?」
そうエンリが言うと、フォーリーが「馬で移動する訓練はやっていますが、騎馬戦の訓練も追加しますか?」
「馬への攻撃は盾じゃ防げないからなぁ」とエンリ。
アーサーが「訓練だけでもやっておけばいいかと。どんな状況になるか解らないし」
鉄砲と騎馬戦の訓練も追加された。
そして・・・・・・。
ついに、訓練期間が終了した。
すっかり逞しくなった訓練生たち。織物工場の女工たちとの間に、多くのカップルが生まれていた。
彼等が訓練所を卒業する式典の日、近所の野次馬とともに恋人の晴れの舞台を見に来た女性たちが詰めかける。
エンリ王子たちも来賓として招かれ、訓練生たちが整列する中、フォーリー軍曹が演台に立って、訓練生たちにねぎらいの言葉を述べた。
そして訓練生を代表してザックが演台に立って、卒業の辞。
「俺たちは特別な軍団の一員となるため、特別な力を与えられて、今ここに居ます。それを使うのは俺たち自身。俺たちの国を、みんなを、何より自分自身と愛する人を守るため、俺は強くなりたかった。一人じゃ何も出来ないから、みんなと一緒に強くなって、みんなでこの居場所を守る。厳しい訓練で脱落した仲間も大勢居ます。けど、あいつらだってきっと鍛えた分だけ強くなって、きっとどこかで自分の居場所を守っている。だから絶対無駄じゃ無かった筈です。ここで俺は仲間を得て、愛する人を得た。今日が俺たちの愛と青春の旅立ちだ」
仲間たちポカーン。そしてあれこれ・・・・・・。
シドが「何だよ愛と青春って」
トッパーが「恥ずかし過ぎだろ、そのフレーズ」
「お前、自分で言っててどーよ」と、他の仲間たちも・・・。
ザックは口を尖らせて「いいだろ。一度言ってみたかったんだから」
「いや、いいけどさ」と全員、あきれ顔。
式典が終わると、女工たちはそれぞれの恋人の所へ。
「頑張ったね」
「すっかりマッチョだね」
「腹筋とかピクピクするの?」
そんな事を言いながら、はしゃぐ女の子たち。照れる訓練生。
そして一人の女の子が自分の恋人に言った。
「今日から晴れて騎士様だね」
他の女の子も「貴族の仲間入りかぁ」
訓練生たちポカーン。
そして、周囲の仲間たちと互いに顔を見合わせて「そうなの?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
訓練生たちは、その恋人を連れて、エンリ王子の所へ。
「あの、俺たちって騎士になるの?」
そう一人の訓練生が言うと、他の訓練生も「だったら男爵の叙任式ですよね?」
エンリは「そんな予定は無いが」と、事も無げに・・・。
女の子たち、唖然。
そして「えーっ! 私たち、何のために・・・・・」
「男爵夫人の生活は?」
「お貴族様の仲間入りは?」
「そんなぁ」
訓練生たち、唖然。
そして女の子たちに「お前等、そんな事考えて俺たちと付き合ってたのかよ」
こうして、殆どのカップルは別れた。二組のカップルを除いて。
別れなかったザックとポーラ、そしてシドとリネット。仲間たちは二組のカップルのため結婚式を挙げた。
首都で兵団として編成されるべく、彼等は首都へと去り、ポーラとリネットも夫と一緒に去った。
そして、無人となった訓練所が残った。
女工たちには、織物工場でのいつもの労働が続く。
午前の仕事が終わり、昼食の休み時間に控室であれこれ雑談する中で、訓練生たちとの交際が話題に上る。
「儚い夢だったね」
そう一人の女の子が言うと、周囲の女工はポーラとリネットを思い出して「あの二人、どうしているかな?」
「新兵の給料じゃ苦しいから、新しいバイトでも探してるだろうね」とその隣に居る女の子。
別の女の子が「けど、身分とか無関係に愛を貫くって、素敵よね」
更に別の女の子が「私は出世する旦那をゲットしてセレブになるんだ」
その隣に居る女の子が「そうよね。パイロットと結婚して外国に住むのが夢だわ」
「パイロットって何だっけ?」と、別の女の子・・・。
更に別の女の子が「ってか外国ったって・・・・・」
その時、一人の女の子が休憩室に駆け込んだ。
「聞いた? あの訓練所、また兵隊さんたちが来て訓練やってるよ」
女の子たち、互いに顔を見合わせる。
そして「見に行こうよ」
訓練場の中を塀垣から覗くと、新しい訓練生たちが教官にしごかれていた。
そんな彼等を見て、一人の女の子が「あれって新兵よね?」
「けどここ、エンリ殿下直属の軍団のための特別な兵隊のための施設よね?」と、その隣に居る女の子。
別の女の子が「補充じゃないのかな? 大勢脱落して辞めたって言うし」
「けど、あの教官、フォーリーさんじゃ無い」と、更に別の女の子が指摘する。
そして「どこかで見たような・・・・・」
そんな彼女たちに通りから声をかける女性が居た。
「あら、あなた達」
女の子たち、唖然。
「ポーラ、新兵のザックさんと結婚して首都に行ったんじゃ・・・」
織物工場を退職してこの地を去った筈の彼女に、女の子がそう言うと・・・・・。
ポーラは訓練生をしごいている教官を指して「ザックなら、あそこ」
「あの教官、ザックさん・・・」と、彼を見て女の子たち唖然顔。
そんな彼女たちにポーラは「今は軍曹よ」
「新兵でいきなり下士官って・・・」
そう一人の女の子が言うと、別の女の子も「けど騎士じゃないんだよね?」
ポーラは言った。
「もう軍隊は騎士制度の時代じゃ無いんだって。これからの軍隊は爵位じゃなくて階級。フォーリーさんは中尉に昇進して全体の軍団編成を任されてて、 ここを出た人達はエリート軍人として、あちこちに新設された訓練所でまた応募した訓練生を鍛えて、その人達を指揮する立場になるの」
「あれで終わりじゃ無かったんだ」
そう女の子たちが言うと、ポーラは「だって新設する兵団は千人よ。ここで訓練受けた人って百人居なかったよね?」
「そういえば・・・・」
女の子たちは一様に思った。
(別れるんじゃなかった。けど終わりじゃない)
ザックにしごかれてヘロヘロになっている訓練生たち。背中に重りを乗せて、延々と続くランニング。
彼等に教官のザック軍曹の叱咤が飛ぶ。
「お前等、それでも男か!」
「イエスマム」
「お前等の股間についてるのは何だ。それともどこかに落としてきたか!」
「イエスマム」
そんな訓練生たちに熱い視線を送る女の子たち。
彼女たちは一様に脳内で呟いた。
(今度こそ、あの中から有望株をゲットしてエリート軍人の妻になるんだ。それが私たちの愛と青春の旅立ちよ)
また、しばらくアップロードを休みます。再開は後ほど・・・・・・。




