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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
510/544

第510話 二組のカップル

四年後に起こるであろう全ユーロを巻き込む動乱に備えるため、エンリ王子が構想した、魔剣の炎を分与した刀を使う兵団。

その兵士たちを育成するため、庶民の子弟を集めた訓練生たちを鍛える訓練所。

そこで厳しい訓練に励む訓練生たちに、熱い視線を向ける、近所の織物工場の若い女工たちが居た。



その日の訓練所で・・・・・。


何時ものように訓練が終わり、訓練生たちが寮に戻った。

自室のベットに倒れ込む者、食堂で水をがぶ飲みする者、ホールで愚痴をこぼし合う者・・・。

「あー疲れた」

「一歩も動けん」

そんなグダグダな台詞が、ホールにたむろする訓練生たちの間から、あちこちで聞こえる中・・・・・。


「なあザック、こんなのが何時まで続くんだ?」

シドという名の訓練生が隣に居る仲間に言うと、ザックと呼ばれた訓練生は「さあな」と、気の無い受け答え。

「昨日も二人辞めたって言ってたな」

そうシドが言うと、ザックは「辞めたい奴は辞めればいいさ。俺はここしか居る所が無い」

「つまりボッチかよ」

そうシドがからかい口調で言うと、ザックは「お前は違うのか?」

「・・・・・まあ、似たようなもんかな。別の世界に行けたらなぁ」



「そんなお前等に朗報だ。女神の居る天国に連れて行ってやるぞ」

入口から入って来た、いかにも軽そうなトッパーという訓練生が、ホールに居る全員に声をかける。


「何だよそれ」

そう気の無い声で言う訓練生たちに、トッパーは「聞いて驚け。女が三人も居るんだ」

「何の風俗だよ」

そう先ほどの訓練生が言うと、その隣に居る訓練生が「ポッキリ価格でご奉仕とかいう、ぼったくりバーだろ」

更にその隣に居る訓練生が「払えなくて怖いお兄さんに腕をポッキリとか」


そんな彼等にトッパーは「あのフォーリー軍曹より怖い奴なんて居るもんかよ」

「違いない」と、訓練生たちの間から笑いが出る。

そしてトッパーは言った。

「けど、これから行くのは風俗じゃない。合コンだ。近くの織物工場の女の子が三人来る。早い物勝ちだ」


一人の訓練生が「俺パス。疲れて足腰が立たん」

「けど、アレは勃起つよな?」と、その隣に居る訓練生が・・・。

更にその隣に居る訓練生が「そういうのは速攻で嫌われるぞ」

するとシドが「俺行く。ザック、お前も行こうよ」と、友人を誘いつつ手を挙げた。



その夜、三人の訓練生が、合コン会場となっていた近くの酒場へ繰り出した。

合コンの話を持って来た、いかにもチャラ男なトッパー。そしてシドと、彼に強引に付き合わされたザック。


酒場には三人の若い女性が来た。

シドはその中の一人を見て、ザックに言った。

「見ろよ、あの太腿。やっぱり女っていいよな」

「太腿フェチかよ」とあきれ顔のザック。

トッパーも「大根にニーソとか履かせてるクチか?」と冗談を飛ばす。


六人の男女が席につき、男女三対三で、それぞれ自己紹介。

男性三人に続いて女性三人もそれぞれ名乗った。

「私はケィ」

「ポーラです」

「リネットよ」


三人づつ向き合って、お酒を飲みながらおしゃべり。 

「皆さんって、兵士として訓練を受けてるんですよね?」

そうケイが言うと、トッパーが「滅茶苦茶きつい、特別な訓練さ」


「エリートコースだって聞いたけど」と言ったリネットは、先ほどシドが太腿を評した女性だ。

「まあね」とザックが、いささか気の無い口調で答える。

「訓練を終えたら騎・・・・」

そう言いかけたポーラの足を、リネットが思い切り踏む。

そしてポーラの耳元で小声で「騎士の地位が目的とか思われたら引かれちゃうでしょーが」


「どうしてそんな大変な所に志願したんですか?」

そうケイが言うと、トッパーが「故郷に錦を・・・って奴?」

シドが「自分自身の力で生きていける力を・・・ってね」

「素敵ですね」とリネット。

「俺は元々、居場所なんて無いから」

そう、遠い目でぼそっと言うザックを見て、ポーラは影のようなものを感じ、胸の奥の何かが疼いた。


合コンの時間はしばらく続き、やがてザックはポーラと、シドはリネットと、次のデートの約束を交わした。



寮に戻る訓練生たち。


ザックは同室のシドに訊ねた。

「デートって何をするんだ?」

「何って・・・。楽しい事をしてお喋りだろ」

そうシドが答えると、ザックは「楽しい事って何だ?」

「いや、定番ってあるだろ。娯楽って奴がさ」とシド。

「俺には縁の無い話だな」

そんなザックを見て、シドは思った。

(こいつ、どんな人生送ってきたんだ?)


そしてシドは言った。

「まあ、自分が楽しむっていうより、女を楽しませるんだがな。食事とか観劇とかピクニックとか」

「で、お喋りって漫画やアニメ?」

そうザックが言うと、シドは「そういうオタクネタは普通引かれるぞ。女の子が喰い付く話題だよ」

ザックは「どんなのに喰い付くんだ?」

「そりゃ、ファッションとか芸能とか・・・」とシド。

「何だそりゃ」

そんなザックを見て溜息をつくシド。


「・・・まあ、女の子というより相手が・・・だけどな」

そうシドが言うと、ザックは「俺、ポーラがどんな人かなんて知らないんだが」

シドは「だったら先ず、相手を知る所からだ。恋愛とは理解と甘えさ」

「支配と独占だと言う奴も居るが」とザック。

シドは「そういう本音は怖がられる。ってかそれヤリチンの発想だぞ」

「尊敬と奉仕だという奴も居るが」

そうザックが言うと、シドは「俺たち、尊敬されるようなキャラじゃ無いだろ」



そしてデートの日・・・・・・。


シドはリネットとのデートを、そつなくこなした。

レストランで食事し、演劇を見て、夜はホテルで・・・・・・。



そしてザックは・・・。

とりあえず喫茶店に入るザックとポーラ。


「君は何が楽しいんだ?」

座席に座ると、いきなりそんな事を聞くザックに、ポーラは戸惑い顔で「何が・・・って?」

「これからどこに行こうかって話なんだが」とザック。

ポーラはあきれ顔で「もしかしてノープラン?」


ザックは言った。

「友達が、デートは女の子が楽しい事をするんだって言ったんだ。けど、俺は君の事をまだよく知らない。恋愛は理解だって奴は言ってた」

「恋愛は・・・って、これって告白?」と、ポーラはドキマギ顔で・・・。

「よく解らないけど、俺は本音で行きたい」

そんな事を言うザックを見て、ポーラは思った。

(もしかしてグイグイ来る人?)

そして「返事はもう少し待ってくれるかしら」


するとザックは「そういうのはいいから、とりあえずこれからの事なんだが、デートって、定番ってあるんだよな?」

「食事とか観劇とかピクニックとか・・・」

とりあえず、そうポーラが答えると、ザックは「だったら、とりあえず俺の部屋に来ないか?」

いきなりの展開にポーラは脳内で(えーーーーーーーっ!)



なし崩し的にザックについて行くポーラ。


喫茶店を出て街を歩き、訓練兵たちの寮に入り、厨房に入って料理道具と調味料を持ち出すと、ザックは寮を出た。

「あの・・・・・・、部屋に行くんじゃ・・・」

怪訝顔でそう言うポーラに、ザックは「そうか。厨房は俺の部屋って訳じゃないものな。もしかして、見たかった? いろいろ散らかっているんだが」

ポーラは慌てて「いや、いいです」

そしてポーラは思った。

(女性に慣れてるんだか慣れてないんだか・・・・)


「それで、これからどこに行くの?」

そうポーラが訊ねると、ザックは「ピクニックさ。近くの森にいい所があるんだ」

「だったらお弁当を用意しなきゃ」と、ポーラは意気込んで見せるが・・・・・・。

「そのためにこれを持って来たんだが」と言って、ザックは持ち出した調理用具を見せる。

「けど食材は?」

そう怪訝顔でポーラが言うと、ザックは「現地調達」



訓練所の馬を借り、ポーラを前に乗せて森に向かうザック。


森の中を川が流れ、草原が広がる場所で馬を降りた。

ポーラは周囲を眺めて「いい所ね。ザックたちの秘密の場所?」

「訓練場だよ。サバイバル訓練のね」

そう言うと、ザックは河原に降り、石を組んで竈を作り、薪を集める。


そして繁みに入って蛇を捕まえる。

「それ、食べるの?」

そうポーラがドン引き気味に言うと、ザックは右手で首を掴んだ蛇と目を合わせ、そして「そうだよね。女の子に蛇はさすがに・・・。もしかして虫も駄目?」

「それもちょっと」とポーラは更にドン引き顔で・・・。


ザックは川魚を捕まえ、キノコをとり、食べられる草や木の芽を摘む。

そして兎を捕まえた。

竈の薪に火を付け、調理開始。

兎の毛皮を剥いで肉をとり、川魚を三枚におろす。

兎の肉を刻んでフライパンで焼き、にじみ出た油でキノコと草と木の芽を炒め、川魚を火で炙る。


完成した料理を器に盛って、二人で食べる。

「美味しいね」

そうポーラが言うと、ザックは「俺たちはサバイバル料理の鉄人だからな」

笑うポーラ。そして彼女は思った。

(こういうのも悪くないな)



二組のカップルが誕生した噂は、すぐに訓練生たちの間に広まった。

(この訓練に耐えて一人前になれば、女にモテる)

そんな思いで、彼等の訓練にも力が入った。

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