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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
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第509話 兵士と女工

四年後に起こるであろう全ユーロを巻き込む動乱に備えるため、エンリ王子が構想した、魔剣の炎を分与した刀を使う兵団。

これに使うため、エンリ王子がジパングで入手した、魔剣の炎に耐える千本の刀。だが、これを使う兵団は未だ訓練中だ。

そしていよいよ、訓練生たちに炎の魔剣を与える日が来た。



訓練場に整列する訓練生たちの前に立つエンリ王子と、教官のフォーリー軍曹。

「では、これより個々の兵が手に持つ刀に、魔剣の炎を付与する」

そうフォーリーが言うと、全員に裕二が鍛えた炎に耐える刀を配付。


「では、前回と同じく、薪を積んで・・・・・」

そうフォーリーが言いかけた時、エンリは言った。

「ちょっと待て。薪の使い過ぎは森林資源の破壊だぞ」


訓練生たちもあれこれ・・・・・。

一人の訓練生が「そういえば、どこぞの半島国ではオンドリャーとかいう伝統的な床暖房で大量の薪を使うため。山が禿山になったって言うよな」

その右隣の訓練生が「ああはなりたくないよね」

すると先ほどの訓練生が「けど、あの国はあれが世界の床暖房の起源だから、これを教えた自分達を教師として尊敬すべきだと主張してるとか」

その左隣の訓練生が「そりゃ嘘だよ。各国の床暖房は、全く無関係に各地で考案されたのを、あの半島国は妄想で威張ってるだけさ」

その後ろの訓練生が「ああはなりたくないよね」

するとまた、先ほどの訓練生が「俺たち、何の話をしてるんだっけ?」


そんな中、エンリは「ともかく、炎の剣を使うたびにいちいち薪とかじゃなくて、炎の巨人剣から直接炎を付与したらどうかな」

「その手があったかー」とフォーリー軍曹。

「いや、あれは刀ではなく炎と一体化する訳ですから」

そうアーサーが言うと、エンリは「それで刀自身が炎を纏うんだよな。だったら刀身に油を塗って炎を移すってのはどうだ?」



全員が、配布された刀の刀身に各自で油を塗る。

訓練生たちは二列に並び、その列の間にエンリが抜いた炎の巨人剣。

「全員、点火」

そのフォーリー軍曹の号令とともに、訓練生たちは両側から油を塗った刀を巨人剣の炎に接触させる。

全員の刀に塗った油に魔剣の火がつき、エンリは炎の一体化の呪句を唱える。


全ての兵が持つ剣は炎の魔力に包まれ、炎の剣の分身となった。

訓練生たちのテンションが上がる。

「すげー」

「俺たち、最強だよね」


だが・・・・・・・・。

「けど やたら熱いんだが」と一人の訓練生が・・・。

別の訓練生も「束を持つ手がやけどしそう」



そんな彼等を見て、エンリは「これ、どうにかならんか?」

「大丈夫です」とフォーリー軍曹。

そして彼は訓練生たちを一喝した。

「お前達、何だそのザマは! 東洋の賢者は言った。"心頭滅却すれば火もまた涼し"と。これくらいの熱さは根性で乗り越えろ。これより熱さに耐える訓練を・・・」

ドン引き状態の訓練生を見て、エンリは溜息をついた。

「そういう精神主義は要らないから」

アーサーが「炎をコントロールする細工が必要ですね」



刀は一旦、回収された。

そして、ポルタ大学魔法学部魔道具科で、刀の改造作業を進める。



訓練所では、その間も厳しい訓練が続く。

「腕立て伏せ500回の後は、スクワット500回」

怒鳴り声で号令するフォーリー教官に、訓練生たちは「イエスマム」



そんな早朝からの訓練を、通りに面した塀垣の外から足を止めて眺める、職場に通う女性たちが居た。

近所の織物工場で働く若い女工たちだ。


「あの人たちって兵士よね?」

そう一人の女性が言うと、その隣に居る女性が「王太子直属のエリートだって言うけどね」

更にその隣に居る女性が「騎士だったりするのかな?」

「みんな庶民だって聞いたけど」と、先ほどの女性。

「ああやって訓練を終える頃には、あの教官みたいなマッチョになるのかな?」

そう、隣の女性が言うと、先ほどの女性は「そういう肉体派はちょっと・・・・・・」


そんな世間話を中断して、彼女たちは職場の工場に向かう。

そして工場では彼女たちの労働が始まる。



昼食の休み時間、数人の女工たちが付近の食堂に入ると、食事をしながら会話する数人の訓練生と二人のジパング人が居た。


「お前等って農民の出なんだよな?」

そう訓練生たちに問うのは、剣術の指南役で来ているジロキチだ。

「開墾はもっときついですよ」

そう、一人の訓練生が言うと、もう一人が「けど、手柄を立てて出世する騎士って、憧れますよね」


「ジパングにも居るでござる。新選組とかいって」

そう言うのは一緒に来ているムラマサである。

「すごく駄目そうな名前なんですけど」

そう一人の訓練生が言うと、ジロキチが「いや、総長は山本じゃなくて近藤という人なんだが」

「なるほど。駄目じゃない方の新選組ですね」と、ジロキチの向かいの席に居る訓練生。


「隊員はみんな農民で、武士になれるってんで入隊して剣術を磨いて・・・・・」とジロキチ。

ムラマサの向かいに居る訓練生が「武士ってユーロで言えば騎士ですよね?」

「それを目指して厳しい剣術修行。それで隊員はみんな剣豪クラスのエリート部隊。けど鉄砲の時代に刀じゃ、結局力を発揮できなかったそうでござる」

そうムラマサが言うと、ジロキチが「鉄砲玉なんて刀で弾き返すものだ」

「そんなのジロキチさんだけですよ」と困り顔の訓練生たち。



やがて食事を終えて勘定を払い、店を出るジロキチ・ムラマサと訓練生たち。


彼等が去ると、食事中の女工たちの一人が言った。

「さっきの話、聞いた?」

その隣に居る女工が「あの人たちって、訓練を終えたら騎士になるの?」

「じゃ、今の内にゲットして結婚すれば男爵夫人?」と、更にその隣に居る女工。


彼女たちのテンションが上がる。

「お貴族様の仲間入りじゃないのよ」



エンリ王子の執務室では・・・・・。


何時ものように仲間たちのたまり場状態の中、ジロキチとムラマサの話を聞いて、考え込むエンリが居た。

「なるほどな。確かに鉄砲の時代に刀だけってのは時代遅れだよな」

「けどそれをジロキチが言うとか、雪でも降るんじゃないのか?」

そうタルタが言うと、エンリも「鉄砲玉なんて刀で弾き返すものだとか言ってる奴が」

「あいつ等にそれは無理無理ですから」とジロキチ。


「とにかく刀以外の武器も必用って事だよな。楯とか飛び道具とか・・・・・」とエンリ。

若狭が「つまり魔法を付与した盾と飛び道具」

カルロが「どんな鉄砲でも弾く楯と、どんな楯でも撃ち抜く鉄砲」

タルタが「その鉄砲でその楯を撃ったらどうなる?」

「武器に魔法付与ってのは、どの国も試みてるけどね。けど魔力量とか対抗術式とかで限界がありますよ」とアーサー。


「俺の土の魔剣との一体化で得た防御力を付与するのは?」

そうエンリが言うと、リラが「工夫次第だと思います」

「それに素材の問題がありますよ。軽くするなら木ですが、強くするなら鉄が必要。けどそれだと重くなって大きく出来ない」

そうアーサーが言うと、エンリは「土の魔剣との一体化なら、土でないと」

「焼物は土だよね」とタルタ。

エンリは頭を抱え、「結局、工夫次第って事かぁ」と・・・・・・。



兵団の訓練生たちは・・・・。


くたくたになった兵たちをどやしつける、教官のフォーリー軍曹。

「お前等、それでも男か!」

「イエスマム」

「お前等の股間についてるのは何だ! それともどこかに落としてきたか!」とどやしつけるフォーリー軍曹。

「イエスマム」

そんな掛け声を返しつつ、訓練生たちは脳内で呟いた。

(あの鬼教官。調子に乗りやがって)


そんな彼等にフォーリーは号令を飛ばす。

「次は木人相手に打ち込み200回」

「イエスマム」



等身大の木の人形が並ぶ中、数人で周囲を囲み、木刀で打ち込むが、疲労と筋肉痛で力が入らない。

そんな訓練生たちを見て、フォーリーは「気合が足りんぞ! お前等、それでも男か!」

「イエスマム」

「お前等の股間についてるのは何だ!」

そんなフォーリーのどやし声に訓練生が返す「イエスマム」の掛け声にも力が入らない。


「一旦止め」

そう言ってフォーリーは訓練生たちを起立させ、彼等の間を歩きながら、激を飛ばす。

「そんなので敵を倒せるか! お前等は屑でのろまな亀だ!」

「イエスマム」

「そんなお前等でも気合が入るようにしてやる」とフォーリー軍曹。



フォーリーは木人の顔に、自分の似顔絵を描いた紙を貼る。

そして彼は訓練生たちに号令を飛ばす。

「これを誰かだと思って叩いてみろ。打ち込み始め!」


訓練生たちの脳裏に日頃の教官への怒りが沸き、グダグダだった木剣に力が入った。

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