第507話 都喰らいの牙
ポルタの街の人々の存在を丸ごと喰らうべく、紅世の王フリアグネが仕掛ける「都喰らい」という術式。
このために人形を使ったダミートーチを街中に仕掛けるフリアグネと、それを阻止するシャナと裕二、そしてエンリ王子たちとの戦い。
彼等はトモガラたちが操る「存在の力」の正体が、インド魔術の「空」の反転ではないかとの仮説を立てた。
「ブラバッキーさんが来てくれる事になったぞ」
インド魔術を知るユーロ人魔導士である彼女と、ようやく連絡がついたとの報告を受けたエンリが、その場に居る人たちにそう伝える。
エンリの仲間たち、そしてフェリペの部下たちも居る彼の執務室では、その話題であれこれ・・・・・・。
「今までどこに居たの?」
そうタルタが言うと、エンリは「ロンドンの時計塔魔法学校でインド魔術の講師をしていたそうだ」
「時計塔が学校?」と祐二が怪訝顔で・・・。
「ウィリアム征服王がランフランクス教授を招いて創設したんだよ」
そうエンリが言うと、リラはイギリスに行った時の事を思い出して「エンリ様と過去へ行った時の事ですよね?」
フェリペが「時計塔って、そんな昔からあったの?」
「元々は時間の管理は教会の仕事だよ。あの教授はカンタベリーの大司教だったからね。けど、増えたのは都市が教会の支配を脱して商人中心の街になってから、教会堂に代わる都市のシンボルとして、街のどこからでも見える高い建物を建てたんだ」とエンリが解説。
「けど、ポルタは商人が持ちたる国だよね? 何故、時計塔が無いの?」
そうフェリペが言うと、全員、首を傾げて「何でだろう・・・・・」
「それより都喰らいなんだが・・・」
そうエンリが言うと、リラが「本拠地探しが必要ですよね?」
「街全体を覆う魔法陣を設定するため、一望できる高い建物が必要なんだが・・・」とアーサー。
「そんな建物あったっけ?」と全員、顔を見合わせる。
「教会堂と、このポルタ城くらいなものよね?」
そうニケが言うと、タルタが「もしかしてポルタ城に?」
「って事は王子がフリアグネの黒幕」
そう言い出すカルロに、エンリは「んな訳あるかぁ!」
「けど、お魚フェチとお人形フェチで相性バッチリでござる」とムラマサ。
エンリは憤懣顔で「お前等なぁ!」
コンクリ壁に覆われた薄暗い取調室の中、小さな机で向かい合うエンリ容疑者。
取調官のカルロが「全部吐いてすっきりしろ。田舎の両親が泣いてるぞ。かつ丼食うか?」
そんな妄想を掻き消して、エンリは「そういう古いギャグは要らないから」
「まあ、ここじゃ無いのは確かだとすると、後は教会堂?」
そうアーサーが言うと、エンリが「この間調べたよね?」
「いや、まだ調べてない所が一ヶ所」とカルロが言い出す。
「どこだ?」
カルロは「神棚に祀ってる御真影の裏」
「いや、ここはジパングの戦時中じゃ無いし、これはスパイアニメでも無いから」とエンリが残念顔で突っ込む。
「ハラキリショー、見れないのか?」
そうタルタが残念声で言うと、ジロキチが「無いから!」
「ところで王子は何食べてるの?」
と、タルタが何やらどんぶり物を食べているエンリに・・・・・・。
「さっき出されたかつ丼だが・・・」
そうエンリが言うと、タルタは「古いギャグは要らないんじゃなかったっけ」
「ファフも食べたい」と、エンリの上着の裾を引っ張るファフ。
エンリたちは城の窓から街を見渡す。
「探し物って難しいですね」とリラ。
フェリペが「カルロのダウジングでも駄目なの?」
「そもそもへそくりとかと違って、どこかに隠せるものでも無い。街を一望すれば一目瞭然の筈なんだ」とエンリは言って、溜息をつく。
「普通の街でそんな高い建物って、城と教会堂と、それから・・・」とライナが呟く。
得たいのしれない違和感が場を支配する中、その場に居た誰もが思った。
(あと、何か一つ。誰もが知ってる筈なのに、みんな忘れてる・・・・・・・・・・)
「それとも忘れさせられてる?」
そうリラが言った言葉で、エンリの脳裏に一筋の糸が繋がった。
エンリは言った。
「もしかして認識阻害の魔法? アーサー!」
アーサーは街に漂う魔素を読む。
「確かにこれは認識阻害魔法ですね」
「破れるか?」
そうエンリに言われ、アーサーは妨害魔法の呪文を唱えた。
窓の外に不明瞭な何かがぼやけた姿を見せ始める。
それを指してエンリは叫んだ。
「あそこ・・・。そーだよ、時計塔はこの街にだってあったじゃないか」
「それを無かったと思わされて・・・」と裕二。
「じゃ、あそこにフリアグネが?」とシャナが・・・・・・。
アーサーは時計塔らしきぼやけた場所に妨害魔法の焦点を合わせた。
認識阻害を破られ、時計塔が姿を現す。
エンリはパラケルサスとラミーとともに待機させていた近衛隊に出動を命令。
そして城からは二体のドラゴンがエンリとフェリペの部下たちを乗せて飛び立ち、彼等と合流する。
時計塔では・・・・・。
「御主人様」
そう不安声を発する人形のマリアンヌ。
フリアグネも焦り声で「認識阻害が破られたか」
「ここ、見つかっちゃいましたね」
そうマリアンヌが言うと、フリアグネは「すぐに人形たちを配置して術式を作動するぞ」
「まだ数が十分ではありませんが」とマリアンヌ。
だが、フリアグネは「魔法陣を略式化すれば数は足りる」
時計塔から一斉に放たれた人形たちが、宙を飛んで町中の配置場所に向かう。
アラストールのドラゴンの上ではラミーとフェリペの部下たち。
ラミーが探知した人形の光球を、フェリペとその部下たちが攻撃魔法で次々に撃ち落とす。
ヤンの飛行機械にはマーモの銃とヤマトの機械背嚢の砲が空中に居る人形を狙う。
ファフのドラゴンの上ではマージョリーが探知。
エンリが風の魔剣で操った竜巻で人形を巻き上げ、アーサーが炎の波濤で焼き払い、巻き込まれなかった人形をリラの氷の散弾とニケの炎属性の銃弾が次々に仕留める。
「存在の力は消せなくても、人形に宿らせたなら、人形を物理的に壊せばいい話よ」
そうマージョリーが言うと、本の宝具のマルコが「さすが我が色呆け姫。肉体派は物質が命ってか?」
「お黙り、馬鹿マルコ!」
地上では軍の兵士たちを率いるカルロが、地上に降りた人形をダウジングで探知。
ジロキチたちも兵をひき連れて人形を狩る。
通りを高速で走るシマカゼが地上に降りようとしている人形を撃ち抜く。
「邪魔はさせないぞ」
そう言って宙に浮かび、エンリたちの人形狩りを阻止しようと構えるフリアグネの前に、シャナが宙空で立ち塞がる。
「お前の相手は私だ」
ドラゴニックオーラに包まれた裕二に背後から抱えられたシャナ。裕二は頭に猫の姿のタマを乗せている。
灼熱の剣を抜いて斬りかかるシャナにフリアグネは「懲りないのですね」と言って、人形の光球を転移させる体勢をとった。
その瞬間、シャナの姿が消えた。
「どこに行った」
そう言って焦るフリアグネの背後で「こっちだ」
背後に裕二に抱えられたシャナが現れ、灼熱の刀を構えて突進して来る。
フリアグネの前に布が出現し、シャナの行く手を覆おうとした瞬間、炎の剣の衝撃波で断ち切られた。
そしてシャナの斬撃を辛うじてかわすフリアグネ。
シャナと裕二が姿を消しては別の場所に現れ、襲って来る。
迎え撃とうと飛ばす人形の光球は全て刀で斬り落とされる。
「あれでは転移で攻撃しようにも照準が合わない。彼等も転移が出来るというのか」
そう困惑顔で言うフリアグネに、彼の左手に居る人形のマリアンヌが「違います。あれは隠身で姿を消しているんです」
裕二の頭の上のタマが「仕組みがバレたみたい」
「けど、だったら・・・・」
そう言って、シャナと裕二は姿を消した。
「あのまま切り込んで来るつもりです」
そうマリアンヌが緊張声で言うが、フリアグネは「大丈夫だ」
彼が操る布が伸びて、フリアグネの周囲を螺旋状に取り巻まく。
(防御のつもりか。けど、隙間だらけだぞ)
そう脳内で呟きつつ、隠身の状態で突入するシャナと裕二は、だが、布の脇をすり抜けた瞬間、多数の光球が目の前に現れ。一斉に爆発して二人を爆風で押し戻した。
そんな彼等にフリアグネは「この布に囲まれたテリトリーを突破するのは不可能ですよ。術式が完成するまで、指を咥えていなさい。それまでこの人形たちが相手を・・・」
その時、フリアグネは彼の右脇で宙に浮いている、それに気付いた。
「何だ?この仮面は」と言って、フリアグネはそれを右手で執る。
シャナの目の前にも同じ仮面が現れた。
それはフェリペのロキの仮面の分身。それが言葉を発した。
「シャナ、あいつの所に飛ばしてあげる」
シャナが仮面を左手に執ると、仮面は呪句を発した。
「仮面転送」
布に囲まれ無数の光球が浮かぶ球体のテリトリーの中心で仮面を手にしたフリアグネの目の前に、その仮面を掴むシャナの姿が現れる。
「これで終わりだ」
そう言いながらシャナは右手の灼熱の刀を振り下ろした。




