第504話 紅世王の脅威
シャナと裕二がデートの途中で見つけた、ダミートーチと呼ばれる存在の力を付与した人形。
それは、ポルタの街を標的とした「都喰らい」という術式が組むためのものである事が発覚した。
街の人々の存在を丸ごと食べてしまうという、その計画を阻止すべく、エンリの執務室で作戦会議。
そこに居るのはエンリとその仲間たち、そしてシャナと裕二、パラケルサスとともに、協力者となった人を喰わないトモガラのラミー。
ポルタの街の地図を広げ、ラミーが人形のダミートーチを食べた場所に印をつける。
シャナがみつけた人形の場所にも・・・。
そしてダミートーチのポイントを線で結ぶ
「この魔法陣の中心に、敵の本拠地がある筈なんですが」
そうラミーが言うと、パラケルサスは「情報量が足りないですね」
シャナが「まだ食べてるだろ」とラミーを追及。
ラミーは「どこで食べたか覚えてなくて。見ての通りの老人なもので、最近、アルツハイマーが激しく」
「いや、トモガラは長命で年をとらないだろ」とシャナが突っ込む。
全員が溜息をつく中、アーサーが「これは、街に出て探すしか無いですね」
「手分けして探すぞ」とエンリは号令した。
その頃・・・・・・。
街に、袋を担いで女の子の人形を持った白いスーツのイケメンが居た。
「次はここだ」
そう言って彼は、公園のベンチの上に人形を置く。
「存在の力を宿したダミートーチの人形、随分配置しましたよね」
そう、イケメンの手の中の人形が言うと、イケメンは「何しろ街一つを覆う巨大で複雑な魔法陣だものな。けど、全ては愛しいマリアンヌのため」
「フリアグネ様。こんな私のために」と、マリアンヌと呼ばれた女の子の人形。
フリアグネと呼ばれた白スーツのイケメンは「俺は君さえいれば・・・・」
その時、先ほど人形を置いたベンチの所に、女の子とその母親が・・・。
「こんな所に人形があるよ」
そう女の子が言って人形を手に取ると、母親は「きっとサンタさんからのプレゼントね」
「スーザ、いい子にしてたから」と女の子。
それを見てフリアグネは慌てた。
「ちょっと待て。それは落とし物じゃなくて私の・・・・・」
そんな彼に女の子は人懐っこそうな笑顔で「おじさんがサンタさんね?」
母親も感謝の笑顔で「ありがとうございます」
「違うから!」
そうフリアグネが全力を込めた抗議顔で言うと、母親は「そうでしたね。たいへん失礼を」
「解ればいい」
そして母親は女の子に言った。
「この人はおじさんじゃなくてお兄さんよ。こういうモテ鯛アピールの人には最大の地雷なんだから、気を付けなきゃ」
「ごめんなさい。サンタのお兄さん」
そう女の子に言われてフリアグネは「解ればいい・・・じゃなくて、私はモテ鯛でもサンタでも無い」
「だってプレゼントの袋、背負ってるよね?」と女の子。
「これはプレゼントじゃない。理由があって置いているんだ。返してくれ」
そう言って人形を取り返そうとするフリアグネに、女の子もムキになる。
「これ、スーザが先に見つけたんだもん」
「だからそれは私が・・・・」
そのフリアグネの台詞を遮って、女の子は更に主張した。
「スーザのだもん。おじさん、大人なのにお人形遊びとかするの?」
そんな女の子を優しく諭す母親。
「駄目よ。世の中には変態といって、変った趣味の人も居るの」
女の子も「そうだね。この国の王子様もお魚王子だもんね」
「そそそそんな事は無いぞ」とフリアグネは顔を真っ赤にして否定する。
「でも、おじさんが左手に抱えてるのもお人形だよね?」と突っ込む女の子。
フリアグネは主張した。
「お人形といってもいろいろあってだな。伝統的な人形師の作った工芸品は、れっきとした文化財なんだぞ。なのに、ギャルは人形だからキモい女の子趣味だとか、物の価値も解らん馬鹿女がイジメヒャッハー気分で・・・」
「けどおじさん、さっきその人形と会話して、すりすりしてたよね」と容赦なく突っ込む女の子。
フリアグネ、開き直る。
「あーそーだよ。どーせ俺は人形フェチの変態だよ。だがな、人形には無限の可能性があるんだ。フィギュアといって、アニメ映像から抜け出したようなリアルなビジョアル。しかも細部まで精密に表現されて、服を脱がせればあんな所やこんな所が・・・・」
周囲から集中する残念な視線に気付き、我に返るフリアグネ。
「とにかくそれを返せ」
「嫌だ」
その時、女の子と人形を取り合うフリアグネの肩に手をかける警官が居た。
「ちょっと君、署まで来て貰おうか」
彼を物凄い目で睨むフリアグネ。
「その汚い手をどけろ、この権力の犬が! お前等から食ってやろうか」
フリアグネは警官の手を払いのけると、ふわりと宙に浮いた。
そして、芋虫のような巨大モンスターが出現。
「お前等全員、俺の獲物だ!」
悲鳴を上げて逃げ出す女の子と母親、そして野次馬たち。恐怖に顔を引きつらせる警察官。
「封絶」
その掛け声とともに、街が黄昏色の薄闇に覆われ、人々の姿が消えた。
芋虫のモンスターに一人の女の子が炎の剣を翳し、気合とともに振り下ろすと、その灼熱の衝撃波でモンスターは真っ二つになって炎に包まれた。
それは、ダミートーチを探して街に出ていたシャナ。
彼女は宙に浮く白スーツのフリアグネに言った。
「お前、トモガラだな?」
「フレイムヘイズか」
そう言って不敵な笑みを浮かべるフリアグネに、シャナは「お前を討伐する」
「相手が悪かったな。俺は紅世の王。人形遣いのフリアグネだ」と彼は名乗る。
彼の左腕に抱かれて「御主人様」と不安そうに言う人形のマリアンヌに、フリアグネは言った。
「大丈夫だよ」
フリアグネの周囲に幾つもの光球が現れる。
そして彼は右手に小さな鐘を持ち、鐘を鳴らすと一斉に光球がシャナを襲う。
シャナは炎の剣を振るって全ての光球を切り伏せる。
フリアグネが再び鐘を鳴らすと、更に多くの光球がシャナを襲った。
「ドラゴニックオーラ」
全身を光りで包まれた裕二が宙を舞い、襲いかかる光球を拳で叩き伏せる。
撃ちもらした光球をシャナが切り伏せた。
フリアグネが更に鐘を鳴らすと、いきなりシャナの背後に光球が現れ、同時にそれは爆発した。
「シャナ!」
吹っ飛ばされたシャナを宙を飛んで受け止める裕二。
「大丈夫か」
爆風によるダメージに耐えつつ「平気だ」と答えるシャナ。
フリアグネがまた鐘を鳴らし、再びシャナの背後に光が現れて爆発した時、裕二は咄嗟にシャナを抱えて彼女を庇い、彼のオーラが衝撃を阻む。
更にフリアグネの鐘を鳴らすと、シャナの周囲数か所に光が現れて同時に爆発。
「シャナ!」
そう叫びつつ裕二は爆風から逃れようと、シャナを抱えて高速でそこを飛び出す。
そんな二人にフリアグネは「お前達は私には勝てない」
「そんな事、あるもんか」とシャナ。
裕二は灼熱の刀を構えるシャナを抱えてフリアグネに向けて宙を突進する。
フリアグネは左手に大きな白い布を翳し、突進して来る裕二に向けて振る。
シャナが布を切り払った時、フリアグネの姿は消えていた。
二人が振り返ると、フリアグネはあざ笑うように彼らの背後の宙に立っている。
そこに向けて宙を突進しフリアグネに向かう裕二とシャナだが、彼等に向けてフリアグネが投げた布が宙に広がり、二人の視界から彼の姿を隠す。
裕二がそれをよけた時、そこにフリアグネの姿は無い。
二人の背後に現れたフリアグネが鐘を鳴らすと、シャナを抱えた裕二の全周囲で多数の光球が爆発し、シャナは再びダメージを受けて気を失った。
(シャナを回復させなきゃ)
そう脳内で呟いて、裕二は傷つき気を失ったシャナを抱え、宙を飛んで逃げた。
無数の光球を従えてフリアグネが追って来る。
その時、ペンダントのアラストールがドラゴンの姿になり、追って来るフリアグネに炎を吐いた。
フリアグネは蝶のように宙を舞って炎をかわしつつ、シャナを抱えて低空を飛んで逃げる裕二を見下ろして鐘を鳴らす。
宙を飛ぶ裕二とシャナの周囲で立て続けに爆発し、さらに多数の光球が、まとわりつくように二人に迫る。
高速で飛び回って必死に爆風を避ける裕二の行く手に、見覚えのあるスーツ姿の女が居た。
分厚い本を開いて呪句を唱える。
「天網恢恢些末な網は漏れた所は塞げばいーじゃん」
女が右手を縦横に振ると、彼女の目の前に縦横に直行する十数本の光の線が目の粗い格子を形作った。
その線が描く方形の一つにシャナを抱えた裕二が飛び込む。
女が再び右手を縦横に振ると、光の格子を形作る縦横の光の線はその数を一気に増やして光の網を成し、裕二を追って来た多数の光球は全てそれに衝突して爆発した。
フリアグネは宙に浮いたまま、光の網の向うのスーツの女・・・フレイムヘイズのマージョリーを見下ろした。
「弔辞の読み手か」
「どうする?紅世の王。私はこのおチビちゃんみたいな訳にはいかないわよ」とマージョリー。
「まあいいさ。どうせもうすぐ完成だ。せいぜい足掻くがいい」
そう言い捨てて、フリアグネは姿を消した




