第503話 まちかどのフレイムヘイズ
その日、シャナは裕二とデートに出かけていた。
並んで街を歩くシャナと裕二だが・・・・・・・・・。
「ライナたちから、やたらデートに行けと言われて来ているんだが、一体デートって何をするんだ?」
そうシャナが言うと、裕二が「俺にも解らん。とにかく男女がお出かけして、一緒に行動するのがデートなんだよな?」
シャナは「新米OLがベテランの先輩に連れられて営業を廻るとかもデートなのか?」
「とにかく、渡されたプランに沿ってあちこち廻る訳だよな」
そう言って、ライナに渡されたデートプランの紙を見る裕二。
シャナは、そこに書かれたデートスポットを見て、首を傾げる。
「けどこのプラン、ここを廻れっていろんなポイントがあるが、デートというポイントはどこにあるんだ?」
裕二は「このうちのどこかの別名かも」
「いや、もしかしてデートというのはこのコース自体の事じゃないのかな?」
そうシャナが言うと、裕二は「つまりスタンプラリーか」
大道芸人の芸を見るシャナと裕二。
派手な服装のマッチョが口から火を吐く。
それを見て、裕二とシャナはあれこれ言う。
「あんなのアラストールなら簡単にやれるぞ。裕二はどうだ?」
そうシャナが言うと、裕二は「俺が親父から受け継いだのは、このドラゴニックオーラだけだからなぁ。けど、シャナだって刀から炎を出せるよな?」
「けど、人間が口からというのは、下手すると火傷するぞ」とシャナ。
裕二は「それであの芸人はあんなにタラコ唇なのか」
「そういえばアラストールのペンダントは?」
そう、思い出したように裕二が言うと、シャナは「ライナに没収された。デートの邪魔だそうだ」
「確かに、スタンプラリーで選手以外の助けが入るのはルール違反だ」と裕二。
芸が終わって観客が散る。
二人は芸人の前にある器に小銭を入れる。
そして「ところでタラコ唇」
そうシャナに言われて、芸人は「ほっといて下さいよ」
「スタンプはどこで押して貰えるんだ?」とシャナは訊ねる。
「はぁ?」
デートコースを廻るシャナと裕二は、レストランで食事をすると、そこを出て次のポイントに向かった。
そして、歩きながら、あれこれ・・・・・。
「それなりに美味かったな。メロンパンには劣るが」
そうシャナが言うと、裕二は「シャナも、いろんな料理の味を覚えた方がいいぞ」
「けど、お前の男料理をライナは、食事ではなく餌だと言ってたが」とシャナ。
裕二は「煮物にいろいろ入れるから、栄養のバランスはとれてる筈だが」
「私はそれなりに美味いと思ったがな」
そうシャナに言われ、裕二は「そうなのか」と呟き、暫し思考・・・・・。
裕二は本屋の前で立ち止まると「ちょっと寄っていいか?」
「構わんが」
裕二はシャナと二人で書店に入り、料理の本を買った。
本屋を出てしばらく歩くと、突然、シャナの表情が険しくなった。
「トーチが居るぞ」
「トーチって?」
そう裕二が訊ねると、シャナは「トモガラが人間の存在を食べた、食べ残しだ。トモガラに襲われて存在を食われると、存在のごく一部を残したトーチになるんだ。その人間が消える時の衝撃を緩和させる存在なんだが、本人は襲われた記憶を失い、気付かぬまま感情も存在感も希薄となり、誰にも知られず消えていくんだ」
裕二も険しい表情になって「そのトーチがここに居るって事は・・・・・」
「トモガラが居て被害が出てるって事だ」とシャナ。
二人は顔を見合せる。
そしてシャナは「探そう。討伐して被害を食い止めるんだ」
シャナがトーチの気配を辿ると、街路の隅に人形が落ちているのを見つけた。
「トーチの気配はこいつだな」
「トモガラって人形の存在も喰うのか?」
そう裕二が言うと、シャナは「いや、こいつはダミートーチだ」
「どうしてそんなものを・・・」と裕二。
シャナは「何かの術式に使うんだろうな」
デートは中止となり、二人はエンリ王子の所に行って、事態を説明した。
「なるほど。術式ってどんな事を?」
そうエンリが問うと、シャナは語った。
「解らないが、何をやるにしてもエネルギー源は存在の力だ。それを補充するために人を喰う」
するとアーサーが「魔法学部に手掛かりが居ます」
エンリはその場に居た仲間たち、そしてシャナと裕二を連れて、ポルタ大学魔法学部へ。
そしてパラケルサスの学部長室へ。
アーサーから状況の説明を受けたパラケルサス。
「実は、その存在の力というのを解明する手掛かりが居ます」
「トモガラだな? もしかしてそいつが・・・」
そうシャナが言うと、パラケルサスは「彼は人を喰いません」
ジロキチが「つまり、竹筒を口に嵌めて二年間喰わなかったとか、先代学部長がそいつが人を喰ったら腹を切ると」
「つまりハラキリショー?」
そう言って盛り上がるタルタに、ジロキチは「違うから!」
「ってか、そういうのじゃ無くて、彼は別のものを喰うのが専門のトモガラなんです」とパラケルサス。
「別のものって?」
そうシャナが問うと、パラケルサスは「トーチですよ」
そして彼は別室に「入ってきてくれ」と声をかけた。
シルクハットをかぶった初老の男性登場。
「屍拾いのラミーと申します」
「屍拾い・・・って、縁起の悪い二つ名ですよね」
そう若狭が言うと、パラケルサスは「他のトモガラが食べた残りとして消える運命にあるトーチに残された存在を食べるんですよ」
「それで屍拾い・・・ですか」とリラ・
「何故このポルタに?」
そうエンリが問うと、ラミーは「この街に多くのトーチが居まして、食べる物に困らない」
「つまり食べ物に釣られたという訳ね?」とタマ。
「食い意地の張った奴だな」
そうシャナが言うと、タマは「シャナはメロンパンに釣られて従者になったけどね」
「・・・・・」
「けど、この街にそんなにたくさんのトーチが居るって事は、たちの悪いトモガラが盛大に食い散らかした訳だよな?」
そうエンリが言うと、シャナは「じゃなくて、人形を使ったダミートーチだろ」
「そうなんです。存在を宿した人形があちこちに落ちていて、いくら食べても無くならない。お腹いっぱい頂きました」
ラミーはそう言うと、視線をシャナの手にある人形に向ける。
「あなたが持ってるのも、そうですよね。もしかして手土産ですか?」
「じゃなくて、これは何かの術式用だろ」とシャナ。
「術式ですか?」
そう言ってラミーが首を傾げると、シャナのペンダントのアラストールが「そもそもこれって、誰かが作ったものだよな?」
「そうなりますね」と頷くラミー。
「何かのために?」とアラストール。
残念な空気が漂う中、ラミーは言った。
「という事は、私が食べたのは落とし物ではなく・・・。持ち主に済まない事をしてしまった」
その場に居る人たち、あきれ顔で「考えてなかったのかよ」と呟く。
「それで、何のために・・・でしょうか」
そうラミーが言うと、アーサーは「トーチを使う術式って、ありますよね?」
ラミーは「ありますけど、禁呪みたいになってて、使う奴なんて居ないですよ」
「あまりにも恐ろしい力があるとか、深刻な副作用が?」
そうリラが言うと、ラミーは「いえ、先ず、成功しないんです。街に巨大な結界を張るため、複雑な魔法陣を組むんですが、魔法陣を描くポイント座標としてトーチを使います」
「ちょっと待て。トーチがポイント座標って、勝手に動き回るだろ」とシャナが突っ込む。
ラミーは「だから、魔法陣を正確に描けない」
「ちなみにそれって、何という術式ですか?」とアーサー。
「"都喰らい"と言って、その街に住む人間の存在の力を、丸ごと食べてしまうという・・・」
そうラミーが説明すると、ジロキチは「普通、そっちで禁呪になるだろ」
「それじゃ、このダミートーチを仕掛けた人は、ポルタの街の人を・・・・・・」
そうリラが心配そうに言うと、ラミーも「それで得た膨大な存在の力を、何か大きな事に使うつもりなのでしようね」
「大変じゃないか」とタルタも深刻顔で・・・。
「けど、さっきも言ったように、まず成功しないです」
そう能天気な顔で言うラミーに、エンリは「それって勝手に動くトーチだからだよな。けど、動かないダミートーチなら」
「あ・・・・・・・」
その頃、ポルタの街に聳える時計塔の最上階に、白いスーツを着たイケメンが居た。
彼は両手で大事そうに持った女の子の人形に語りかける。
「愛しいマリアンヌ。もうすぐ"都喰らい"が完成する。その力で君を人間の姿にしてあげる」
そんなイケメンのささやきに応える、マリアンヌと呼ばれた女の子の人形。
「フリアグネ様・・・・・・」




