第501話 探偵の令嬢
ポルタ大学の留学生としてフェリペ皇子を追いかけて来て入学した三人の令嬢と、その従者たち。
彼等彼女等がフェリペとその従者たちとのキャンパスライフを満喫し始めた頃・・・・・・。
その日の講義を終えて一緒に帰宅しようとする令嬢たちに、フェリペは言った。
「これからサークル活動があるんだ」
「そういえば聞いた事があります。キャンパスライフといえばサークル活動だって」
そうローズが言うと、ロゼッタも「ヤリサーというのがあって、あんな事やこんな事を・・・」
フェリペが「あんな事ってどんな事?」
「どんな事だろう?」と疑問顔で互いに顔を見合せる三人の幼い女の子たち。
「誰から聞いたの?」
そうフェリペが彼女たちに問うと、リリアが「海賊学部のドニファンという方ですわ」
マゼランが「あいつの言う事は真に受けない方がいいと思います」
「それで、フェリペ様はどんなサークルに?」
そうリリアが言うと、フェリペは「探偵団だよ。リラ姉様もここの学生だった時に入っていたって聞いたよ。事件とか解決したりするヒーローの活動で、金田一先輩という凄い人が居るんだ」
「金田先輩ですよ」とマゼランが訂正。
三人の令嬢は互いに顔を見合せ、フェリペに「私たちも参加できるでしょうか?」
令嬢とその従者たちも入部しようという話になり、魔法学部のライナたちと合流して、探偵団のたまり場となっている遠坂准教授の研究室へ・・・・・。
遠坂准教授は出かけており、研究室には明智部長と金田が居た。
令嬢とその従者たち六人の入部と聞き、明智は大喜び。
「歓迎するわ。前は部員が二人で顧問の方が多いくらいだったのだけれど、フェリペ君たちが入っていきなり9人。更に入って15人。大勢力になって、どんどん難事件を解決よ。名探偵と呼ばれたお爺様の名に賭けて」
「いや、人数が居ても事件の解決には直結しないと思うんですけど」
そう金田が突っ込むと、明智は「けど、部費は増えるわよね」
「それは言っちゃいけない事だと思うんだが」と、マゼランは困り顔。
「とりあえずお茶にしましょう。はじめさん、棚にお饅頭があった筈よね」
そう明智が言い、ライナがお茶を入れ、金田が戸棚を開ける・・・が。
金田、怪訝顔で「饅頭、無いですね」
「これは事件ですわね。きっと誰かが盗み食いを・・・」
そうリリアが言い出し、ローズが「犯人を見つけなければ」
「真実は一つですわよ」とロゼッタも・・・・・・。
「いや、たかが饅頭くらいで犯人捜しとか・・・・」と金田は困り顔で彼女たちを制そうとするが・・・。
「金田一先輩」とリリアが・・・・・。
「いや、金田だけどね」と彼は訂正。
「それって自分が犯人だからって言われる流れですわよ」と、リリアの追求の矛先が金田に向く。
「・・・・・・・」
残念な空気の中、三人の令嬢の犯人捜しが始った。
「先ず、動機のあるのは誰かしら?」
そうローズが言うと、リリアが「お菓子を欲しがるのは子供ですわよね」
ロゼッタが「この中で子供といえば・・・・・」
三人の令嬢が互いに顔を見合せる。
ローズは慌てて「私は違いますわよ」
「私も」とリリア。
「私だって」とローズ。
するとリリアが「ローズさん、真っ先に自分は違うと言いましたわよね? それって、実は自分が犯人だという負い目があるからでは無いのかしら?」
ローズが必顔死で「そう言うリリアさんだって、人に罪を擦り付けようと必死なのが怪しいですわ」
三人の間での暫しの沈黙。
その沈黙をリリアが破った。
「ロゼッタさん、口に餡子がついてますわよ」
「え?」
ロゼッタは思わず鏡を見る。そして「何もついてませんけど」
「確認しましたわね? つまり身に覚えがあるって事ではありませんの?」と勝ち誇るリリア。
「そんな・・・・・」
フェリペは溜息をつき、彼女たちに言った。
「こういうの、止そうよ。それに、僕だって子供だよ」
「犯人がフェリペ様な筈がありません」と声を揃える三人の令嬢。
「いや、甘やかしてくれるのは嬉しいんだけどさ。こんな事で君達が喧嘩するのを見たくない」
そうフェリペに言われ、三人の令嬢は"じーん"・・・といった顔で「フェリペ様・・・」
そしてフェリペは言った。
「そもそも大人だって甘い物は好きだよね?」
するとライナが「ルナは"お菓子が無ければ生きていけない"って言ってたわよね?」
そんなライナにルナは憤懣顔で「友達を売る気?」
シャナも「私はメロンパン以外に興味は無い」
マゼランとチャンダは困り顔で「いや、誰もシャナを疑ってないから」
そんな中でロイドが言った。
「そもそも新入部員の六人は戸棚に饅頭があるなんて知らないから、お嬢様方が犯人なんて有り得ないと思います」
「ロイド、偉い」
そうリリアに言われ、ロイドは「恐縮です」
そしてリリアはロゼッタとローズにドヤ顔を見せる。
「という訳で、あなた達二人の無実を証明したこのロイドは私の従者ですのよ。ロゼッタさん、ローズさん、私に感謝なさい。ほーっほっほっほ」
残念な空気が漂う。
「とりあえず、あそこに饅頭があるのを知ってたのは誰なんですか?」
そうベルナーが言うと、シャナが「私は知ってたぞ。けど犯人じゃ無い」
マゼランが困り顔で「だから疑ってないって」
「金田一先輩は知ってたんですよね?」
そうロンドに言われて「だから金田だってば」と彼は訂正。
すると明智部長が「はじめちゃんは犯人じゃ無いわよ。だって彼、甘党じゃないもの」
チャンダが「けど、探偵は頭脳を働かせるのに糖分を欲しがるものだと、目に催眠系の魔力を持つ名探偵が言ってたけどな」
「そういう他所の作品の話は要らない」
そう金田が言うと、ロンドが「いや、金田一先輩がそれを言うのは一種の自己否定だと思うんだけど」と突っ込む。
「だから俺は金田・・・ってか、俺が好きなのは酸っぱい物なんだよ。頭をすっきりさせるからね」と金田。
リンナが「お腹に子供が居ると酸っぱい物を欲しくなるって聞いたけど」
「いや、俺は男だから」と金田は困り顔。
「そういえば子供ってどうやって生まれるんですの?」
いきなりロゼッタがそんな事を言い出し、年上たちは困り顔で「それは・・・」
残念な空気が漂う。
「マゼランとチャンダは知ってたよね?」
そうフェリペに言われ、マゼランとチャンダは互いに顔を見合わせる。
そしてマゼランが「まあ、コウノトリが運んで来る訳じゃないって事は知ってますけど」
「お饅頭をコウノトリが?」とフェリペ。
マゼランとチャンダ、前のめりでコケる。
そして「そっちですか」とチャンダが残念声で・・・。
マゼランは「あそこに饅頭があった事は知ってますよ。だってあれ・・・・・」と言って戸棚を指す。
戸棚に張り紙が貼ってあり、曰く。
「お土産のお饅頭があります。みんなで食べてね。ローラ」
「顧問のローラ先生のお土産だった訳ね」とアネモネが残念声で・・・。
「持ち込んだのは昨日の午後だったよね?」
そうマゼランが言うと、金田が「何時無くなったか・・・って事なんだが、何時まであそこにあったか、確認した人はいる?」
全員が首を横に振る。
「誰も確認しなかったんですか?」
そうロイドが言うと、明智が「餡子は急には悪くならないからね」
その時、顧問の間桐準教授が入ってきた。
「新入部員が入ったって聞いたんだが」
「この六人ですよ」と、明智が令嬢とその従者たちを紹介する。
「ところで何やら揉めていたみたいなんだが」
そう間桐が言うと、マゼランが「戸棚にあった饅頭を盗み食いした人が居て、犯人捜しを・・・」
「それってこれか?」と言って間桐は箱を出す。
「食べた犯人は間桐先生?」
そうフェリペが言うと、間桐は「いや、食べてないぞ。召喚魔法の実験のために借りただけだ」
「饅頭を供物に?」とマゼランが言うと、間桐は説明した。
「いや、饅頭自体が使い魔になるという実験だよ。アンパンに宿った付喪神が強力な必殺技を繰り出すという人工ヒーロー精霊の話を聞いてな。ジャムおじさんというテイマースキルを持つ召喚魔導士が完成させた術式なんだそうだが、小麦粉を焼いて中に餡子という点では饅頭と同じだから、同じ事が出来る筈だって事で」
明智が「それを持ってジャムおじさんの所へ?」
「いや、中に入ってるのはジャムじゃなくて餡子なので、餡子おばさんの所へ」と間桐。
「そんな人が居るんですか?」
そうロンドが言うと、間桐は「御手洗餡子というジパングから来たくノ一なんだが」
フェリペが「どうだったの?」
「"餡子お姉さんと言え"と言われてぶん殴られた」と間桐。
全員、溜息をつく。
そして金田が「あの人ならそうでしょうね。それで人工ヒーロー精霊は?」
「それが、これはあんまんじゃなくて肉まんだという事が解って、実験は失敗に終わったよ」と間桐。
全員、溜息をつく。そして「そういう問題か?」
そして金田が言った。
「まあ、ジパングでは饅頭といえば餡子だけど、もともとミン国の食べ物だからなぁ」
「とにかく無事に戻った事だし、お茶にしません?」と明智部長。
その場に居た全員が思った。
(あの騒ぎは何だったんだろうか)
みんなでお茶を飲み、肉まんを食べる。
「甘くないお饅頭も美味しいね」
そうフェリペが言うと、マゼランが「独特の風味というか・・・・・」
ロンドが「まさか悪くなったりとか、してないよね?」
間桐は「餡子は急には悪くならないから」
「けどこれ、餡子じゃないよね? 挽肉とか入ってるけど」と金田が突っ込む。
「あ・・・・・・・・」
翌日、全員がお腹をこわしてベットとトイレの間を往復した。




