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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
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第05話 銭ゲバな航海士

航海士の居ないまま不用意に海に出たエンリ王子たちは、たまたま襲って来たダルクという海賊の一味を撃退し、海賊ダルクを捕虜にした。

ダルク海賊団の根城はポルタ第二の港町にある。

この港に上陸したエンリ王子たちは、捕虜にした海賊ダルクを縛って、根城まで案内させる。



「ほら、キリキリ歩け」と、ダルクにつけた縄を握ったタルタは言った。

「このダルク様にこんな事をして、ただで済むと思ってるのか」と、なお虚勢を張るダルク。

だが「海軍に差し出してもいいんだが」とアーサーが言うと、先ほどの威勢はどこへやら。

ダルクは「それだけは勘弁してくれ」


エンリはダルクに言った。

「とりあえず根城に案内して貯め込んだ財宝を差し出す。お前はそれで自由の身。紳士的な取引だろ?」

「これ、強盗だろ」とダルク。

ジロキチは「略奪集団の親玉が何言ってる。それに、戦争で捕虜に身代金を要求するのは、普通に貴族の軍でもやってる事だ」

ダルクは観念して「解ったよ」



ダルクの根城に到着。

やや大きめの商人の家といった感じの石造りの建物だ。

「ここが海賊の根城かよ」とジロキチ。

「普通の家じゃん」とタルタ。

ダルクは「いや、目立ったら軍に見つかってアウトだから」


ドアを開けて中へ・・・。

両手の縄を解いてやると、ダルクは奥の部屋から小さな金庫を持ってきた。

「これが全財産だ持ってけドロボー」と言って差し出すダルク。

「たったこれだけ?」とタルタ。

「世の中不景気なんだよ。海賊が宝箱に金銀財宝なんて漫画やアニメの中だけだ。現実を見ろ」とダルク。


だがエンリは言った。

「ポコペン公爵の船から奪った黄金の剣はどうした」

ダルクは「うぐぅ」

「ドリアン商会の商館襲った時に持ち去った黄金像があっただろ」とエンリ。

ダルクは「ぐぬぬぬぬぬぬ」


そしてダルクは溜息をつくと「解ったよ。こっちだ」

地下室に入る秘密の通路の入口を開けるダルク。

階段を降りて地下室に入ると、大きな宝箱がある。

宝箱を四人がかりで運び出し、荷車に積む。



荷車を押して五人がその根城を後にすると、ダルクはがっくりと膝を落として右手を伸ばし、「待ってくれ。俺のお宝」

エンリ王子は振り返って、ダルクに言った。

「この際、海賊なんて足洗って地道に生きろ」



荷車を引いて海賊の根城を立ち去る五人。


歩きながらタルタは宝箱を見て「これ、どうする?」

「とりあえず換金して今後の費用だな」とエンリ。

「なら、この街の商業ギルドですね」とアーサー。


だが「いや、財宝は海賊のロマンだぞ」とタルタは言った。

エンリ王子は「金は必要だ。特に、誰かさんが盛大に壊してくれた船の修理費がな」

「・・・」



しばらく歩くとタルタは「とりあえず腹減った」

「どこかで飯にするか」とエンリ。


屋台で串焼き肉五人前を買って道端で食べる。

「食べ足りない」とタルタが言った。

「俺たち、金持ってるよね?」とジロキチ。


エンリは「まあ、そう言うな、店の中で飲み食いしてる間に宝箱の荷車持ち逃げされたらシャレにならん。とりあえず、この財宝を・・・」

いつのまにか宝箱を積んだ荷車が消えている。


エンリたちは青くなって「財宝、どこに行った?」

「あそこ」とリラは筆談の紙に書き、通りの向こうを指す。



一人の女がものすごい勢いで荷車を引いて高笑いしながら逃げていくのが見えた。

「あの女、あんな重いものを」とジロキチ。

エンリは「タルタ、任せた」

タルタは「了解。鋼鉄の砲弾!」


タルタは鋼鉄の体となり、きれいな弧を描いて宙を飛び、爆走する女が引く荷車に直撃した。

荷車は大破し、女は目を回している。


「アーサー、新しい荷車の調達、頼む」とエンリ。

「こいつ、どうしますか?」とアーサーは、目を回している女を見て、言った。



新しい荷車を調達して宝箱を積む。そして縛り上げた女をその上に乗せる。

そして商業ギルドの商館へ。



エンリ王子は商館に入ると、受付の商館員に言った。

「商館長を呼んでくれ」

「生憎と外出中です。すぐ戻ると思います」と商館員。


宝箱を商館に運び込む。

そして、待っている間に、宝箱を持ち出そうとした女の尋問を開始。



両手を縛られて待合室の椅子に座らされた女は名乗って言った。

「私はニケ。航海士よ」

「何でダルクの財宝を奪った」とエンリ王子。


ニケと名乗る女は言った。

「奪ったのはあなた達でしょ。あれは私たちダルク海賊団のものよ」

「お前は海賊の一味か?」とエンリ。

「そうよ。あの船の仲間はみんな散り散りになったけど、私はあなたの船にしがみついて、ここまで来たの」とニケ。


「なら海軍に・・・」とアーサーが言いかけると、ニケは慌てて言った。

「ちょっと待ってよ。私は海賊の仲間じゃないわ」

「どっちなんだよ」とエンリ。


ニケは「私はあそこに潜入したスパイよ」

「誰が送り込んだ?」とエンリ。

「私自身の意思よ。財宝を取り戻すためにね。私、ポコペン公爵の小間使いだったの。けど、財宝を奪われた責任をとらされて屋敷を追い出されたの」とニケ。

「そうだったのか」と王子。



しんみりした空気が漂う中、ニケは語り続けた。

「私の父は飲んだくれのギャンブル狂い。母はいつも泣いてたわ」とニケ。

「辛かったね」とリラは筆談の紙に・・・。

「ギャンブルなんてやる奴は人間の屑よ」とニケ。

「そうだよね」とリラは筆談の紙に・・・。


「それで、幼い頃に奉公人として売り飛ばされて。そんな私を育ててくれた公爵様の恩に報いようと、家宝の宝剣を取り戻すために海賊団に潜り込んで、航海術を憶えながら奪還の機会を伺っていたの」とニケ。

「そうだったの。辛かったね」とリラは筆談の紙に・・・。

「いいの。宝剣さえ公爵様の元に戻るなら」とニケ。



するとエンリ王子は言った。

「お前、うちの航海士にならないか?」


ニケは「あなた達は?」

「タルタ海賊団だ。これから海に出る所なんだが、航海士が居なくてな」とタルタ。

「もう海に出てたじゃない」とニケは怪訝顔で言う。

「下手したらあのまま遭難したかも」とタルタは能天気に笑って言った。


ニケは次第に乗り気になって「それで略奪でお金持ちになるのね?」

タルタは「いや、略奪というより宝さがしなんだが、"ひとつながりの大秘宝"というのを探すんだ」

「それって、おとぎ話でしょ?」とニケ。

「俺はあると信じている」とタルタ。


「本当にあったら、売れば莫大なお金になるわね」とニケは目を輝かせる。

「いや、売らないけどね」とタルタ。


ニケは言った。

「なります。あなた達の航海士に、私はなります」

「これで仲間は揃ったな」とタルタ。

「良かったですね、王子様」ととリラは筆談の紙に・・・。



その時、周囲に居た何人かの男が彼女に気付いて、口々に言った。

「お前、ニケじゃないか」

「賭場荒らしのニケが昼間っから何やってるんだよ」

「賭けの借金ちゃんと払えよな」

ニケは慌てて「あの・・・人違いでは?・・・」


エンリ王子は怪訝顔で彼等に「皆さん、こいつの知り合いですか?」

「この街の賭け事の常連ですよ。いつもインチキやろうとするから賭場荒らしって呼ばれてますけど、大抵負けるから随分借金が溜まってましてね」と男たち。


エンリは、あきれ顔でニケに「お前、ギャンブルなんてやる奴は人間の屑だって言ってたよね?」

ニケは居直り顔で「いいじゃない。飲む打つ買うは女の甲斐性って言うし」

「いや、言わないから」とエンリ。


男たちはエンリとその仲間に「それで、あんた達は?」

「今日から私の雇い主よ」とニケは言った。

「なら、使用人の借金は雇い主が払ってくれるんだよな?」と男たち。



その時、三人の男性が商館に入ってきた。

受付はその先頭に居た男性に「商館長、お待ちしていました。お客様です」


「私も客を連れて来たのだが」と商館長。

「ダルク海賊団を倒して没収した財宝を換金したいというのですが」と受付は、エンリたちを指して言った。

「財宝という事は、ポコペン公爵家の宝剣やドリアン商会の黄金像も?」と商館長。

「入ってましたが」と受付。


商館長は言った。

「それはちょうど良かった。こちらはポコペン公爵家とドリアン商会の代理人の方でね。家宝の奪還を依頼されたのだよ」

二人の代理人はエンリ王子の手を執って「あなたが奪還して下さったのですね。何とお礼を」

「いや、悪を挫くのは当然のことで」と照れ顔でエンリは答える。



そして代理人の一人がニケを見て「そちらの女性は?・・・お前、ニケじゃないか!」

ニケは慌てて「あの、人違いでは?・・・」


アーサーはポコペン公爵の代理人に言った。

「ニケさんは宝剣を取り戻すために海賊団に潜入していたんです。奪われた責任で屋敷を追い出されたからと」

すると代理人は怪訝顔で「いや、あの件は関係無いが。そもそも奪われたのは船の上で、そこにこいつは居なかったのだから」


「じゃ、彼女は何で?」とアーサー。

代理人は「屋敷の金を持ち逃げしたんですよ」


「あの、彼女の父親って?・・・」とアーサー。

「うちの執事で、至って真面目な奴ですが何か」と代理人。

「この女は・・・」と、エンリの仲間たち全員、あきれ顔でニケを見る。


そして代理人はエンリに「それで、あなた方は彼女の・・・」

「今日から私の雇い主よ」とニケは言った。

「なら、使用人が持ち逃げしたお金は雇い主として返して頂ける訳ですね?」と代理人。

エンリは心の中で(勘弁してくれ)と呟いた。



そんな様子を見て商館長は言った。

「まあ、その件は後程という事で、とりあえず財宝の話を・・・」


宝箱の中身の換金額を計算するギルド職員たち。



エンリ王子は二人の代理人に言った。

「それで、二つの財宝はどのように? まさか無条件で返還せよとは・・・」


「こちらにとっても家名の象徴ですので、時価で買い戻させて頂くつもりで来ました。ですが・・・」と代理人たち。

「何か御不審な点でも?」とエンリ。

「奪った本人はどうされましたか?」と、ポコペン公爵の代理人。


「身代金という事で差し出させたので、それと引き換えに開放したのですが、まさか、彼と裏で組んで買い戻させて売却代金を山分けするつもりとでも?」とエンリ。

「そうでない保証は必要かと」と、ドリアン商会の代理人。



アーサーは言った。

「でしたら、こちらはポルタ王国王子、エンリ殿下です。ポルタの威光を示すため、自ら海に乗り出したのです。王子、印籠を」

エンリ王子はポルタ王家の紋章の入った印籠を見せる。

そして「これで信じて頂けましたかな?」とエンリ。


「解りました。時価で買い戻させて頂きます」と、二人の代理人。

「では、代金を」とエンリ。

「王家にお貸ししている債権と相殺という事で」と、二人の代理人。


エンリは縋るような目で言った。

「あの、この場で受け取るという訳には・・・」

「ジョアン王も良い御子息を持たれた」と、ポコペン公爵の代理人。

「まさに救国の王子」と、ドリアン商会の代理人。


「この場で代金を・・・」とエンリ。

「国家破産から国を救ったこの功績は必ずポルタの歴史に残るでしょう」と、ポコペン公爵の代理人。

「エンリ王子万歳」と、ドリアン商会の代理人。

「あの、代金は・・・」とエンリは涙目で。


商館長は笑ってエンリ王子に言った。

「まあまあ。二つの財宝以外の宝石や金細工はこちらで買い取りますので」



結局、受け取った代金の半分近くは、船の修理費と、ニケの借金や持ち逃げしたお金の返済に消えた。

エンリ王子はがっかりしつつも「とにかく、まとまった収入が入ったんだ」


宿屋の一階の酒場で祝杯を上げるエンリ王子たち一行。

「修理が終わったら本格的に船出だ」とタルタが気勢を上げる。

「誰かさんが船を壊さなきゃ」とニケがタルタに・・・。

「それを言うなら、何でお前の借金こっちが持たなきゃならないんだよ」とアーサーがニケに・・・。


エンリは「まあまあ・・・。それとニケさんや」

「何でしょうか」とニケ。

「今後一切、賭け事禁止ね」と王子。

「そんなぁ」とニケ。

エンリは「アーサー、やっておしまい」


タルタとジロキチがニケを両側から押えにかかる。

ニケは「ちょっと、何するのよ」

「ああいう賭け事が出来ないよう、呪いをかけるんだよ」とアーサー。

ニケは「止めてよ。私の唯一の楽しみなんだから」

「賭け事が唯一の楽しみとか、人として駄目だろ」とエンリ王子は言った。



両脇をタルタとジロキチに抑えられたニケ。アーサーは人差し指をニケの額に当てて呪文を唱える。

「これで、ああいう賭け事に手を出すと、一生お金を触れない呪いがかかるから」とアーサーはニケに言った。

ニケは口を尖らせて「どうせなら賭け事に必ず勝つ呪文にしたらどうなのよ」

「そんな呪文は無い」とアーサーはあきれ顔。


そしてエンリ王子は「それとね、ニケさん」

「何でしょうか」とニケ。

「そのお腹はどうしたの?」とエンリ。

ニケは涙目で「妊娠してるの。海賊団の飢えた男たちに・・・」


エンリ王子は溜息をついてニケに言った。

「いや、そんな四角い赤ん坊は居ないから。それ、ダルクが最初に出した金庫だよね?」

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