第499話 身代わりでデート
フェリペ皇子を追って、ポルタ大学人文学部にそれぞれの従者とともに入学した、三人のお妃候補の幼い令嬢たち。
三人の令嬢がそれぞれフェリペに、二人っきりのデートをせがむ中、ニケが魔剣師匠から聞き出した前世の記憶を元に造った遊園地がデートスポットとして話題になる。
そして、三人の令嬢と、同じ日時に同じ遊園地でデートの約束をしてしまったフェリペ皇子。
掛け持ちを演じる破目になった彼は、トイレに行くと言っては席を外し、三人のデート相手の所をぐるぐる・・・。
だが、席を外す口実としてトイレしか思いつかない彼に、次第に限界が来る。
「もしかしてお腹の調子がよろしくないですか?」
そう、心配そうに言うロゼッタに「大丈夫。すぐに良くなるから」
そう言って席を外すフェリペは、ロゼッタから見えない所に来ると、ロキを呼び出した。
「そろそろ限界だよ。どうにかならないかな?」
その時、二人組の男子学生が通りかかった。
「あれ、フェリペ殿下じゃないですか」
「君たちは人文学部の・・・」
三人の令嬢に「モェー」を連発する、この二人組の同級生の事を思い出すフェリペに、彼等は名乗った。
「ビーノです」
「ゼスです」
「よく女子からキモいって言われてる」と、クラスの女子の彼らに対する反応を思い出すフェリペ。
「・・・・・・」
「けどキモいってどういう意味なの?」
真顔でそう問うフェリペに、二人は困り顔で「それは突っ込んだら負けという奴ですよ」
「それと、君たちがよく言うモエーって言葉も気になるんだけど」
二人は更なる困り顔で「それも突っ込んだら負けという奴でして・・・」
頭上に幾つもの?マークを浮かべるフェリペに、ロキは言った。
「主よ、この二人はロリコンといって、小さい女の子が好きな特殊性癖なのだよ」
「そうなの?」と言ってフェリペは二人に視線を向ける。
ビーノとゼスは「まあ、遠くから見てるだけの無害なオタクなので、どうかお気遣い無く」
「そうなんだ」と、まだよく解っていない風な表情のフェリペ。
するとロキが言った。
「主よ、これは使えるのではないか?」
「使えるって?」
怪訝顔でそう言うフェリペに、ロキは「この二人に主の身代わりで彼女達の相手になって貰うのさ」
「そうか」
フェリペはビーノとゼスに「君たちに頼みがあるんだけど」
「何でしょうか?」
「今、ロゼッタ嬢たちが来てるんだけど、あの三人のうちの誰かに、僕の代わりにデート相手になって欲しいんだ」
そうフェリペに言われて「えーっ、さすがにそれは・・・・」と目一杯尻込みするビーノとゼス。
「それに、俺たちって、あの子たちに好かれてませんよね?」
そうビーノが言うと、ロキは「別に嫌ってもいないと思うが」
「そうなんですか?」
そう言って嬉しそうに身を乗り出すビーノとゼスに、ロキは「眼中に無いという奴だろうな」
二人はがっかり顔で「そうでしょうね」
そしてロキは言った。
「仮面変形の術を使って主に変装するのさ」
「あの、サバイバル合宿でセルソが使ったっていう・・・」とゼスが呟く。
「けど、女の子の相手なんて、やった事無いし」
そう言って、なお尻込みする二人に、ロキは「大丈夫だ。仮面をかぶって変身すると、記憶や思考も影響を受けて、化けた相手と同じように行動できるのさ」
「それじゃ、あのロリ令嬢とデートでイチャイチャ・・・・・。モエーーーーー!」
一転して盛り上がる二人のオタク男子を見て、フェリペは思った。
(そのモエってどういう意味なのかなぁ)
ロキは仮面分身の呪句を唱え、出現した仮面を二人に被せた。
「仮面変形」
呪句とともに、仮面がフェリペの顔となり、体形が縮んで子供の背丈へ。そして服装も・・・。
二人は互いの姿を見る。
そして驚き声で「本当に子供になってる」
二人は声を揃えて「ビーノとゼス、行って来るでござる」
「頑張ってね」
そう言ってフェリペが見送る、フェリペと同じ姿の二人だが・・・。
「・・・・・って、誰の所に行けばいいの?」
とりあえずビーノがロゼッタ、ゼスがリリアの所へ行くという事になる。
二人は声を揃えて「では改めてビーノとゼス、行って来るでござる」
張り切って身代わりデート相手の幼女の所へ向かう、ビーノとゼス。
彼らが去ると、フェリペは言った。
「ねえロキ。あの二人、ムラマサみたいなんだけど」
「あれはオタクが時々使う言い回しだ」とロキは解説する。
そしてフェリペは自分の担当する相手の所へ向かおうとするが・・・・・。
「ところで、僕は誰の所に行くんだっけ?」
「残る一人はローズ嬢の所だ」とロキ。
ビーノがロゼッタ、ゼスがリリア、待ちぼうけを喰わされている幼い女の子の所に、二人はほぼ同時に現れた。
「待たせたでござる」
そのフェリペの姿の男児の台詞に、幼い令嬢は「ござる?」
「いや、その・・・」と、いきなり地を出してしまった事に戸惑う二人の変身オタク男子。
それを察したロキは、二人の仮面変形を調整し、フェリペの思考パターンの影響力を強めた。
「待たせたね」
いつものフェリペと同じ様子を見て、幼い令嬢は安堵しつつ、「お腹はもう大丈夫ですの?」
「完全回復さ。ヒーローが何時までも腹痛なんかに負けていられないからね。じゃ、行こうか」
初めての二人っきりのデートで、相手の左腕に密着する女の子たち。
フェリペに変装したビーノとゼスは、思わず脳内で叫んだ。
(我が人生に悔い無し)
だが・・・・・・・・・・。
間もなく二人は脳裏で(こんなものなのかな?)と呟く。
想像したほどの感動を実感できないビーノとゼス。
フェリペ相手のつもりであれこれ言う女の子に、頭に浮かんだフェリペの記憶を頼りに受け答えしながら、ビーノもゼスも思った。
(やっぱりこの子は俺じゃなくてフェリペ皇子を好きなんだよな)
そして、すれ違う、より年上の女子にむしろ魅力を感じてしまう自分に、二人のオタク男子は戸惑う。
彼等は気付かなかった。
仮面変形の作用により、同年代としての幼女よりも、むしろ年上が好みのフェリペの嗜好の影響を強く受けていた事に・・・・・。
そんな中で幾つもの乗り物をこなし、時々、甘い物を買って二人で食べる、フェリペの姿の男児と幼い令嬢の三組のカップル。
それぞれの相手に、周囲のカップルの真似をねだる、三人の幼い女の子。
彼らがそれぞれ、園内のカフェで昼食を食べて店を出て間もなく、拡声魔道具による音声放送。
「午後1時から、広場でヒーローショーが始まるよ。天界刑事ガリベンがやって来るぞ。君たち、ポルタ遊園地で僕と握手!」
それを聞いて、フェリペはデート相手のローズに言った。
「面白そう。行ってみようよ」
ショーの開演時間が近づき、広場に観客の子供たちが集まる。親子連れも多い。
ショーが始まり、怖そうなヤンキー風女幹部登場。
「あたいは魔王様の右腕と呼ばれた魔界の№2レディーサタン。この遊園地はあたいら魔王軍が占拠だよ。お前達、やっておしまい!」
丈の長い特攻服の背中に喧嘩上等と書かれた戦闘員たちが現れ、観客たちに釘バットを向ける。
司会のお姉さんが拡声魔道具で「みんな、ヒーローを呼ぼう。助けて、ガリベン」
舞台の端から冴えないヒョロガリ男子を連れた巨乳のお姉さん登場。
「ガリベン、子供たちがピンチよ」
ヒョロガリ君、全力の尻込みポーズで「えーっ、僕、ただのいじめられっ子だよ」
そんな彼に巨乳お姉さんは「大丈夫よ。異世界転生者のあなたには、神様ボーナスで貰った変身アイテムがあるわ」
「そうだね」
ヒョロガリ君、変身ポーズ。
「装着、ガリベン眼鏡」
足元で煙玉が炸裂し、煙の中からヒーロースーツとマスクを付けた役者登場。
「装着、天界刑事ガリベン」
巨乳お姉さんもボースをとって「サポートは助手のアネーにお任せ」
ヒーロー役は女幹部役を指して「レディーサタン、お前達の悪事もこれまでだ!」
「出たなガリベン! あんたの相手はこの改造魔人たちよ。来な! ヤンキー1号、2号、3号」
そんな女幹部の指令で、改造魔人の着ぐるみをつけた3人の役者。
バトルが始まり、ヒーローの必殺技が炸裂。3人の改造魔人を次々に倒す。
「これまでだよ。この会場の人質を傷つけられたくなければ、武器を捨てな」
女幹部は、会場のあちこちで子供たちに釘バットを向ける十数人の戦闘員役を指して、人質設定を宣言。
「何て卑怯な」とヒーロー役。
助手のアネーが拡声魔道具で観客たちに呼びかける。
「みんなの中に、ガリベンと一緒に戦ってくれる勇気のある子供たちは居ないかしら。この特殊戦闘スキルを付与するガリベンメガネと、戦闘員を倒す事のできるモノサシブレードを貸してあげるわ」
その呼びかけに答えて3人の子供が手を上げた。
「え??????」
それは、全く同じ顔に同じ背格好に同じ服装の三人の男児。




