第494話 デートで悪戯
フェリペ皇子を追ってポルタ大学人文学部に入学した三人の幼い令嬢たちと、フェリペとのデート。
四人をデートの待ち合わせ場所に送り届けた、それぞれの従者たちは、マゼランに無理やりアネモネとのデート相手をやらせると、フェリペのデートの後をつけようとしてまかれた三人の元女官と合流して、猫カフェミケ子で暫しの休息。
その頃、アネモネは・・・・・。
「ここ、恋人たちのデートスポットで定番なんですよ」
そう言って、マゼランの隣で、街を見下ろす小高い公園をウキウキ気分で歩く。
「確かにカップルが多いな」
そうマゼランが言うと、アネモネは「私たちもカップルみたいですよね?」
「まぁ、男女一組だし」と、少々困り顔のマゼラン。
「ベストカップルだと思いません?」
そんなリア充自慢に同調を求められ、「そーかなぁ」と困り顔のマゼラン。
「そうですよ。あの人たちなんて、頭に鳩の糞なんて落とされて、あんなに慌てて」
そう言って、他のカップルの災難をネタにするアネモネに、少々あきれ顔のマゼラン。
「・・・」
アネモネは更に別のカップルを指して、「あの人、彼女に八つ当たりされてますよ」
「・・・何だか、やたらあちこちのカップルが糞害に遭ってるんだが」
そう言って周囲を見回すマゼラン。
その時、アネモネの頭に何かが・・・・・・・・。
触ってみると、鳩の糞。
「ギャーーーーーーッ! 何よこれ。あの鳥類ども、折角のデートを邪魔された恨み思い知れ! 炎の波濤で焼き払ってやるわ」
いきなりの災難に怒り心頭顔で上空に向けて呪文を唱え始めるアネモネに、マゼランは待ったをかけた。
「ちょっと待て。あの鳩たち、魔法で操られているぞ」
「って事は誰かの悪戯?」
そう言って気持ちを鎮め、周囲を見回すアネモネも、場に漂う不自然な魔力を察知した。
「許せん!」
アネモネは鳩に向けられた精神系魔力の流れを辿り、その出所を探る。
「あそこね」
公園を見下ろす高台の一画にある繁みをその発生源と見定め、そこに向けてファイヤーボールを発射するアネモネ。
繁みから、仮面をかぶった六歳ほどの男の子が三人の女の子を抱えて飛び出す。
駆け付けたアネモネ唖然。
「フェリペ様、それにローズ様たちも・・・」
そこに居るのはフェリペ皇子と三人の令嬢。その一人は自らが仕える主。
その主に攻撃魔法・・・である。
ローズは目を吊り上げて「アネモネ、何て事を! 私たちを殺す気ですの?」
「申し訳ありません。ですが・・・・・・」
そう言って平身低頭しつつ、もちろんアネモネもデートを邪魔された不満は治まっていない。
そんな彼女たちを見て、フェリペはローズの肩に手を置いた。
「よしなよ、ローズ嬢。悪戯は大人と子供のガチンコ勝負だ」
マゼランは困り顔で溜息をつき、彼の主のフェリペに言った。
「やっぱり殿下でしたか。それにロキ、こういうのは控えてくれないかな」
ロキが姿を現す。
「俺は主から悪戯の特許状を貰ってるんでな。止めさせたいなら、いつものように捕まえてみろ」
「またやるかい? マゼラン」と、悪戯声全開で構える、仮面をかぶったフェリペ。
マゼランも構えをとって「勝負です、殿下」
仮面分身で出現した幾つもの仮面が宙を舞う。
マゼランは剣を抜いて、襲い来る仮面を叩き落とす。
「これならどうだ」
そうフェリペが言い、マゼランを取り囲む仮面の口からウィンドアロー。
マゼランは魔法障壁でそれを防ぐ。
手に汗握って二人の闘いを見守る三人の令嬢、そしてアネモネ。
「なかなかやるな」とフェリペ。
マゼランは「仮面からの魔法攻撃、上達しましたね。けど、これなら」
マゼランは風の戒めの呪文を唱えた。
蛇のように細長く収束した高密度の風がフェリペを捕えようとするが、フェリペは仮面を足掛かりに跳ねまわって巧みにかわす。
その時、風の壁がフェリペの周囲に現れてフェリペを捕えた。
「やりましたね、マゼラン様」
そう言ってはしゃぐアネモネだが、マゼランは「いや、俺じゃない。これは・・・」
マゼランも同様の風の壁に、動きを封じられている。
「双方そこまで」
その声がした方向に振り向いて、マゼランもフェリペも唖然。
「エンリ様」
「父上」
そこには、大気と融合させた風の魔剣を操るエンリが居た。
「通報があったんでな。どうせまたロキとフェリペの悪戯だろうって来てみたら、案の定だ」
彼の周囲には海賊団の仲間たちも居る。
警察署に連れて行かれて小一時間説教されるフェリペ。
知らせを聞いてミケ子に居た他の従者たちも駆け付けた。
「悪戯もいいが、あまり人に迷惑をかけるような事はするんじゃない。ロキもこういうのは大概にしてくれ」
そう溜息声で言うエンリに、ロキは「カップルに悪戯とか、可愛いものだろ。リア充爆発しろ・・・ってな」
「それが駄目なんだよ。人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて・・・って言うだろーが」とエンリ。
ロキは「そういう障害を乗り越えるのが恋愛だぞ」
「そういうマッチョな恋愛観は要らないから」とエンリ。
「けど、恋愛がスムーズにいくラブコメなんてつまらないだろ」
そうロキが言うと、エンリは語った。
「で、世界が全力で恋愛を邪魔する。結婚を邪魔する。それで敷居が高くなって、恋愛がハイスペ主人公の特権みたいになって、相手に対する期待ばかり高くなる。付き合いきれずに身を引く奴も増えて、これじゃ少子化が進んで当たり前だ」
そんな中、シャナが言った。
「それより、こういう騒ぎにならないようにアラストールに監視を頼んだんだが」
「アラストールって?・・・」
そう言って首を傾げる同僚たちの前で、シャナはフェリペの上着の飾りに偽装したアラストールのペンダントを手に執る。
「おい、アラストール」
「寝てないぞ」とペンダントのアラストール。
「寝てたのかよ」と突っ込むマゼランとチャンダ。
残念な空気が漂う。
「それより、これからどうする? デートの途中なんだよね?」
そうアーサーが言うと、全員、「どうしようか」
「デートコースなら、俺が・・・・」
そうカルロが言うと、エンリが「カルロは何やらせるか解らないからなぁ。小学生にホテルで一泊とか」と駄目出し。
「デートってのは大人の階段ですよ」とカルロ。
エンリは「そういうのは、せめて中学生になってからだ」
そんな会話を聞いて、フェリペが「ねぇ、大人の階段って何?」
リリアが「何かしら」
ロゼッタが「何でしょう」
「アネモネは知ってるのよね?」
そうローズが自らの従者に問うと、アネモネは困り顔で「それは・・・・・」
するとロイドが言った。
「ポルタ小学校に100年前から伝わる七つの伝説の一つですよ。学校のどこかにあって、登る時は十二段。降りる時に数えると何故か十三段。それを見つけると大人に一歩近づくという・・・」
フェリペがはしゃぎ声で「探しに行こうよ」
「いや、あの学校は開校したばかりで100年前には存在して無いから」とエンリは突っ込む。
「ここはヤマト食堂でお食事がお勧めよ」
そう言って目に$マークを浮かべるニケに、エンリは「ニケさん、ぼったくる気だろ」
「失礼ね。相手はスパニア皇太子、しかもデートなのよ。太っ腹な男の甲斐性を・・・」とドヤ顔のニケ。
エンリは溜息をついて「六歳児を相手に言う話じゃ無いと思うぞ」
「鍛冶工房清定で釘作り体験はどうでござるか?」とムラマサ。
「あそこはそんな体験観光なんてなって無いから」とエンリは突っ込む。
ジロキチが「四刀流の稽古を体験」
タルタが「海賊船でクルーズ」
「自分の趣味に引っ張り込もうとするんじゃ無い」とエンリが窘める。
リラが言った。
「どうせならアラストールさんで空の散歩というのはどうですか?」
「確かに・・・街を空から眺めながら、って定番だよね」とアーサーも・・・。
「いや、定番ったって、そんなのそうそう出来るもんじゃ・・・・」とエンリが突っ込む。
三人の令嬢、声を揃えて「やりたいです」
「フェリペ殿下と空のデート・・・・・」と、三人とも、うっとり声で呟く。
「ならファフがやる。インドでチャンダ君とやったよね?」
そうファフが言うと、チャンダはまごつき声で「あれは・・・」
ファフは「楽しかったよね?」
「あれ、デートだったの? まだ10才くらいだったんだが」とチャンダ。
フェリペは「僕は六歳だよ」
何やらファフにお株を持っていかれそうな雰囲気に、ローズが「あの、殿下とデートしているのは私たちなんですけど」と物言い。
「じゃフェリペ君、次はファフとデートしようね」
そうファフが言うと、リリアが「駄目です。次は私と二人っきりで」
ロゼッタが「いえ、私と」
ローズが「私でしょ」
そんな令嬢たちにエンリが「あのさ、ファフが言ってるのって、自分がドラゴンになって君等を乗せるって事じゃないのか?」
「そーだった」
するとペンダントの姿のアラストールが「いや、彼等を乗せる事を依頼されたのは私だ」
「ファフだってやれるもん」
そうファフが言うと、アラストールは「私は彼の海賊団の一員だ」
そんな二人にアネモネが「あの、デート中のカップルはもう一組居るんですけど」
フェリペと三人の幼い令嬢を乗せて空を飛ぶ、ドラゴンの姿のアラストール。
彼の背の上で、幼い三人の令嬢が幼いフェリペを囲んではしゃぐ。
リリアが「空の上って素敵ですね」
ロゼッタが「街の景色がきれい」
「みんなはドラゴンで飛ぶのは初めて?」
そうフェリペが言うと、ローズが「感動ですわ」
「次は私と二人で」とリリア。
「いえ私と」とロゼッタ。
「正妃になるのは私よ」とローズ。
フェリペは溜息をつくと、「そういう喧嘩は控えてくれないかな。それに僕、恋愛ってよく解らないんだ」
「エリザベス陛下とは恋をしたんですよね?」
そうロゼッタが言うと、フェリペは困り声で「そうなんだけど・・・・・・」
彼等を乗せているアラストールが言った。
「恋愛が何かなんて解ってる奴はそうそう居ないぞ。大人になって、誰かを好きになって。けど、それが本当の恋愛なのか、悩む奴も多い。人というのはそういうものだ」
その向うでは、ファフがマゼランとアネモネを乗せて空を飛んでいた。
「私、ドラゴンで空を飛ぶのって初めて。しかも隣にマゼラン様」
そう言ってはしゃぐアネモネに、マゼランは「そうだね」
するとファフが「今度はマゼランとライナを乗せて飛んであげるね」
アネモネは口を尖らせて「子供は黙ってなさい!」




