第493話 令嬢たちの日常
フェリペ皇子を追ってポルタ大学人文学部に入学した三人の幼い令嬢たち。
その日はフェリペとのデートの約束があった。
「ロゼッタ様、朝ですよ」
そう言って彼女をおこしに来る、従者のベルナー。
ロゼッタは甘え声で「おはようベルナー。頭撫でて」
ベットから起き上がったパジャマ姿のロゼッタ。
ベルナーをベットに座らせ、その膝に乗って頭を撫でて貰って、気持ち良さそう。
「今日はフェリペ様とデートの日ですよ」
そうベルナーが言うと、ロゼッタは「お着換え、手伝って貰えるのよね?」
「メイドたちみたいにうまく出来ないんですけど」ベルナー。
ロゼッタは「私、もう子供じゃないもん」
「何だか矛盾が・・・」
そう言いながらクローゼットから普段着を出すベルナー。
彼はロゼッタの親が借りた借家で、一人で彼女の面倒を見ている。
着替えを済ませると。ロゼッタは「ベルナー、高い高いして」と言って甘える。
「フェリペ様をものにするなら、あまり私に構わない方が・・・」そう言いながら、"高い高い"をするベルナー。
はしゃぐロゼッタ。
そして彼女は床に降ろされると「ベルナー、私ってウザい?」
「私はお嬢様は大好きですけどね。従者として」
そう彼に言われ、ロゼッタは「ベルナーは別腹なの」
ベルナーの作った朝食を食べ終わると、ロゼッタは「お出かけの服を選んで」
「私に、そんなセンスは・・・」
そう言いかけるベルナーに、ロゼッタは「フェリペ様は殿方ですから、同じ殿方から見て可愛い服装がいいと思うの」
「それでしたら・・・・」
「リリア様、朝ですよ」
そう言って彼女をおこしに来る、従者のロンド。
リリアは眠そうに「もう五分寝かせて」
「今日はフェリペ様とデートの日ですよ」
そうロンドが言うと、リリアは「急げば間に合うわ」
「ちゃんと眠気のとれたお顔になってないと、差がついてしまいますよ」とロンド。
ベットから起き上がったパジャマ姿のリリア。
「お着換え、手伝って貰えるのよね」
「ここのメイドにやって貰った方が・・・」
そうロンドが言うと、ロゼッタは「六歳にもなって一人で着替えも出来ないのか、なんて思われたら、ボヤッキ家の名誉に関わりますわ」
二人はリリアの家の親戚の貴族の屋敷に住まわせて貰っている。
朝食を済ませて、ロイドにお出かけの服装を選ばせる。
「何だか男の子みたいなチョイスですわね」
そうリリアが突っ込むと、ロイドは「フェリペ様はヒーローですから、隣で戦ってくれる助手のようなポジションがアピールするかと」
「ローズ様、朝ですよ。今日はフェリペ様とデートの日ですよ」
そう言って彼女をおこしに来る、従者のアネモネは何故かウキウキ顔。
「何であなたの方が嬉しそうなの?」
そうローズが突っ込むと、アネモネは「お嬢様の晴れ舞台ですから」
二人はローズの家と取引のある商家に住まわせて貰っている。
着替えを済ませ、朝食を食べ終わる。
お出かけ服に着替えるローズとアネモネ。
アネモネに手伝って貰って着替えたローズは、着替えているアネモネの衣服を見て、言った。
「何だかアネモネの方が気合の入った服装に見えるんですけど」
三人の令嬢、それぞれ従者とともに約束の待ち合わせ場所へ。
彼女たちは、ほぼ同時に待ち合わせ場所に到着。
「こんにちわ」と言って彼女たちを出迎える、フェリペと三人の従者が居た。
彼を見てローズは「どうしましょう。フェリペ様を待たせてしまうなんて」
リリアは「ロイド、あなたの責任ですわよ」自分の従者に・・・。
そんな彼女たちにフェリペは「いいんだ。こういう時は男の方が先に来ているものだって・・・」
「エンリ様が?」
そうロゼッタが言うと、フェリペは「いや、カルロが」
チャンダが困り顔で「ああいう奴の言う事をあまり真に受けない方がいいと思うんですが」
シャナが「普通は王子は白馬で迎えに行くものだと聞いたぞ」
フェリペは困り顔で「僕、まだ馬に乗れないから」
「ってか、おとぎ話じゃ無いんだから普通は馬車で迎えに行きますよね」とロイド。
フェリペは「それだと、相手が三人居ると順番がなぁ」
アネモネが「そもそも相手が三人というのも・・・・・」
「四人デートというのもあると聞くぞ」
そうシャナが言うと、マゼランが「それはカップル二組のダブルデートだ」と突っ込む。
「やっぱり一対一ですよね」
そうベルナーが言うと、ロゼッタが「なら、次の休日は私と」
リリアが「いえ私よ」
ローズが「私でしょ」
フェリペは困り顔で「こうなるからなぁ」
「という訳で、後は若い四人で、ごゆっくり・・・・・」
従者たちは四人の幼児たちを残して、その場を去った。
六人の従者たちは、街を歩きながら、彼等の幼い主たちについて、あれこれ・・・・・・。
「大丈夫かな?」
そうチャンダが言うと、マゼランが「デートは監視なんて付けないのが常識だ」
「それにアラストールのペンダントを預けてあるから、いざとなれば奴が何とかしてくれる」
「それって監視と違うのかな?」とベルナー。
「彼は保護者だ」とシャナ。
「もっと駄目な気がするんだが・・・・・・」とロイド。
そんな同僚たちに、マゼランは「とりあえず俺たちも、どこかに行って羽を伸ばすとするか」
六人で通りを歩き、大道芸を見て、屋台で串焼きを買って食べる。
「そろそろかな」
そうロイドが時計台を見ながら言うと、他の面々も互いに顔を見合わせる。
「何が?」と、一人だけ解って無さげなマゼラン。
そんな彼に、チャンダが「俺たち、用事があるんで、後はお前等で」
「おい、ちょっと待て」と言って慌てるマゼラン。
ベルナー・ロンド・チャンダ・シャナは揃ってその場を去った。
「マゼラン様、二人だけになっちゃいましたね。仕方ないので二人でどこかに行きませんか?」
そう言ってマゼランの左手を掴むアネモネ。
マゼランは脳内で呟いた。
(あいつ等、本気で俺をこの人とくっつける気かよ)
そしてチャンダたち四人は・・・・・・。
「それで、用事って何だ?」
そう言う、今一解って無さげなシャナに、ロンドは「お邪魔虫は退散するって事さ」
「あの二人ってお邪魔虫なのか?」
怪訝顔でそう言うシャナに、チャンダは「俺たちの事だ。アネモネはマゼランが好きだからな」
するとシャナは言った。
「つまりこの後、自由時間という事か。だったら行きたい所があるんだが」
「意外だな。シャナはメロンパン以外に興味は無いと思ってたんだが」とチャンダ。
「私を何だと思ってる」と不満顔のシャナ。
「それで行きたい所って?」
そうチャンダが言うと、シャナは「夕張メロンパンという新製品の試食会だ」
全員あきれ顔で「結局それかよ」
しばらく通りを四人で歩いていると、ライナたち三人の元女官が途方に暮れているのに出くわした。
チャンダが彼女たちに「お前等何やってる?」と・・・。
リンナ、途惑い顔で「チャンダ様にシャナ様に・・・」
チャンダは残り二人を指して「ベルナーとロンドな」
「べべべ別にフェリペ様たちのデートを付け回したりとかしてませんから」
そう慌て気味な弁解声で言う元女官たちに、ロンドは「俺たち、何も言ってないが」
「で、殿下たちはどこに?」
そうチャンダが問うと、ライナが「ミケ子でしばらく猫相手に遊んだ後、店を出て・・・・・」
「ついて行こうとして、まかれた訳ね?」とチャンダ。
ルナは困り顔で「どうしましょう」
チャンダは「多分、ロキの仕業だな。きっとあいつと一緒に、あちこちで悪戯して回るつもりなんだろうな」
「毎度の事だ」とシャナ。
「いいのかなぁ」
そうベルナーが言うと、シャナが「大丈夫だ。アラストールがついてるから、殿下の身に危険が及ぶ事は無い」
ロンドは「いや、悪戯が度を越して迷惑を撒き散らすのが心配なんだが」
「多分、アラストールが止めてくれると思うぞ」と楽観的なシャナ。
そんな彼等にリンナが言った。
「それよりミケ子、窓から覗いてるうちに触りたくなっちゃいまして」
七人でミケ子に入ると、店員のレジーナが出迎えた。
「いらっしゃい」
すいている店内の客席の一つには見知った顔。
ライナが「タルタさんも来てたんですか?」と声をかけると、彼は目の前の猫を抱き上げて見せた。
「私も居るけど」と言って、ケットシーの姿のタマが出て来る。
七人が席に就くと猫が寄って来る。
抱き上げて煮干しをあげようとすると、タルタが「こいつ等はこっちの方が喜ぶぞ」と言って、缶詰を出した。
「それは?」
そう問うルナに、タルタは「猫缶だ」
シャナが「つまり猫肉だな?」
タマが憤懣声で「恐ろしい事を言わないでよ。こんなに可愛い猫を食べるなんて野蛮人のする事よ」
「犬を食べる文化はあるけどね」
そうベルナーが言うと、ロンドが「あの文化はあまり話題にしたくないんだが・・・」
するとタマが「犬はいいのよ。人間に尻尾を振って媚びるだけの下等動物なんだから」
「タマってこういうキャラだよね」と、あきれ顔のチャンダ。
レジーナが「猫の餌用の缶詰ですよ」と説明する。
「餌じゃなくて食事よ」とタマが訂正を要求。
タルタが「いや、餌だろ」
小皿に盛った猫缶の魚肉を猫の前に置き、猫が美味しそうに食べる。
リンナが魚肉を一欠けら、掌に載せて猫の前に・・・。
リンナの掌から美味しそうに食べる猫。
「可愛い」と声を揃える三人の元女官。
「また来ていいですか?」
そうライナが言うと、レジーナは「ぜひ来て下さい。ここはサービス業ですから」
レジーナは彼等にコーヒーとお菓子を出す。
そして彼女は「シャナさんはあれですよね?」
「そういえば夕張メロンパンの試食会だったな」とシャナ。
レジーナは「試作品を貰って来てありますよ」
普通のメロンパンと違う色のそれが出され、シャナが食べる。
「なかなか美味いな」
そう言いながらそれを食べるシャナに、レジーナは「ジパングで開発した新種を使っているそうですよ」
シャナは「あそこから輸入した訳か。まさか半島国が種を盗んでの違法栽培じゃ無いよな?」




