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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
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第492話 女官と令嬢

ポルタ大学人文学部に、フェリペ皇子を追って来た三人の幼い令嬢とその従者たちが入学して、数日が過ぎた。



そして昼休み・・・・・・。

何時ものように人文学部棟の中庭の芝生でフェリペたちが三人の令嬢とその従者とともに10人でお弁当を囲む。


だが・・・・・・・・。

令嬢たちがあれこれ差し出すおかずを食べながら、フェリペがふと「ライナ達、来ないね」

いつも昼食時にフェリペの脇に居た三人の元女官が居ない。


「よほどお嬢様方が怖いのかな?」と言うシャナの台詞に冷汗を浮かべるマゼラン。

だが、当の三人の令嬢は気にする素振りも無く、それどころかリリアは「いい気味ですわ。このまま殿下の前に二度と姿を見せなければいいのよ」・・・。


「ちょっと可哀想な気もするが」

そう呟くベルナーに、ロンドはそっと小声で「大丈夫だ。お城に戻ればルナは世話係だ」



その日の授業が終わり、10人で大学を出て一緒に街へ・・・。

だが、しばらく経つとフェリペは、令嬢たちに言った。

「悪いけど約束があるんだ」


「どなたと?」

そうリリアが言うと、ロンドは彼女に「あの年頃の男子はギャングエイジと言って、同世代の同性間の付き合いで人生を学び、君主としての知恵を身に着けるんですよ」

「仕方ないですわね」とリリア。


ベルナーは小声でロンドに「ギャングエイジってのは小学校高学年じゃないのか?」

ロンドは小声でしれっと「いいんだよ。あれで納得したんだから」



フェリペはマゼランたち三人の従者とポルタ城に帰還。

正式な世話係のルナと、他二人が「お帰りなさいませ、フェリペ様」と、彼を出迎える。

城の廊下をフェリペと女官たちで、彼の自室へ。



「今日のおやつは?」

そう待ち遠しそうに言う幼いフェリペに、ルナが「若狭さんから教えて頂いたジパングのお菓子ですよ。お米を使ったもので・・・」

「もしかして塩せんべい? あれ、あまり美味しく無かったんだけど」と、少々がっかり気味のフェリペ。

「文豪イノウエは、あれをジパングの美食の代表だと言ってましたけど。けど、今日のはこちらです」

そう言ってルナが出したお茶とお菓子を見て、フェリペは嬉しそうに「大福だぁ」


ライナがお茶を入れる中、四人で大福についてあれこれ。

「お餅の中に餡子という甘味が入ってるんだよね。小麦を焼いたものに餡子を入れたのがお饅頭で・・・」

そうフェリペが言うと、リンナが「それに恐怖を感じる人も居るそうですけど」

「パンに入れるのはヒーローの食べ物だよね?」とフェリペ。

ライナが「ヒーローは食べられる側だったような気がするのですが」

「餡子っていろんなお菓子に入ってるよね」とフェリペ。

ルナが「いたらきという大富豪御坊家御用達のお菓子もあるそうですよ」



おやつの大福を食べるフェリペ。


「中に餡子以外の何か他のものが入ってるみたいなんだけど」

そう彼が言うと、ライナは「いちごを入れてみました。ジパングで流行ってるそうですよ」

そしてフェリペは言った。

「美味しいね。ロゼッタ嬢たちにも食べさせてあげたいなぁ」



翌日、大学の諸連絡前の人文学部の教室で、令嬢たちがフェリペを囲んでわいわいやっていると・・・。

「お嬢様方、お早うございます」

そう言ってライナ達が教室へ・・・。


「何の用かしら」

そうローズが言うと、ルナがお菓子の箱を出して「これを召し上がって頂こうかと」

リリアが棘のある口調で「こんなもので誤魔化しても無駄ですわよ」

そんな令嬢たちにフェリペは「食べてごらんよ。美味しいよ」


「殿下・・・」

驚いたような表情でフェリペを見て、そう呟く令嬢たちに、ライナが言った。

「昨日、殿下がこれを召し上がった時、お嬢様たちにも食べさせてあげたいと仰いましたので」

じーん・・・・という表情の幼い三人の令嬢。


感動顔でリリアが「殿下、そんなにも私たちの事を・・・って、ちょっと待って。今まで大学が終わると約束があるって、あの人たちとの?」

「そうだけど。おやつが美味しいんだよ」と、能天気顔のフェリペ。


溜息をつく令嬢たち。

「そうですわよね。六歳の幼児ですものね」とローズが・・・。

「お菓子で簡単に釣られる年頃ですものね」とロゼッタが・・・。

「"飴玉をあげる"で簡単について行ってしまうような幼稚っぷり・・・・・」とリリアが・・・。

「私たちも同じ六歳なんだけど」

そう言いながら、ライナたちが持って来たいちご大福を食べる、三人の令嬢。


「やっぱり美味しいですわね」

そうローズが言うと、リリアは「これが敗北の味ですのよね」

そして三人は脳内で呟いた。

(見てなさい。もっと美味しいお菓子を作って、殿下の心を取り戻してみせますわ)



その日の講義が終わると、三人はお菓子作りの本を買い、ロゼッタの家でお菓子作り。

そして、一応完成したお菓子を三人で試食しながら、あれこれ・・・・・。


「これ、クッキーですわよね? 何でこんなに黒いのかしら」

そうローズが言うと、リリアが「あのいちご大福の餡子もこんな色でしたけど」

その黒いクッキーを齧って、ロゼッタが「炭の味しかしないんですが」

「苦いですわね」とローズも。

「これが敗北の味ですのよね」

そうリリアが言うと、ローズが「誰と戦って何に負けたのよ」


「決まってるじゃない。寂しさに負けたのよ」とリリア。

「いいえ、世間に負けたの」とロゼッタ。

「この街も追われたわ」とリリア。

「いっそ綺麗に・・・って何の歌詞よ」とローズが突っ込む。

リリアが「だからお菓子の・・・・・・」


残念な空気が漂う中、ローズは言った。

「止めましょう。こういうのは、ちゃんとした先生に教わるものよ」



「・・・・・って訳で、お菓子の作り方を教えてくれる人を探してくれるかしら」

別室に控えていた従者たちが令嬢たちの帰宅の準備をする中、そうリリアに言われたロンドは「解りました。ちようどいい人達が居ますよ」

そして彼はその"ちようどいい人達"に連絡した。



翌日・・・・・・。

お城の厨房を借りて、三人の令嬢のお菓子作りの講習会。


「よろしくお願いします。って、何であなた達が?」

そう言って唖然とする幼い3人の令嬢。

先生役として呼ばれた3人の元女官も唖然顔で「お菓子作りを教わりたいって、お嬢様方だったんですか?」


令嬢たち赤面。

そしてリリアは慌て声で「レレレレディーの嗜みとして、それくらい出来なくては。けして殿下と仲のいい誰かに対する対抗心とかじゃ無いので、勘違いしないで下さいね」


元女官たち溜息。

「では今日はケーキの焼き方を・・・」と言って、用意されていた道具と材料を出して、ケーキ作りの実習開始。



焼き上がったケーキを試食する令嬢たち。


ロゼッタは顔を綻ばせて「美味しいですわね」

「これが敗北の味ですのよね」

悔し声でそう言うリリアに、ローズは「それはもういいから」



翌日・・・・・。


大学の諸連絡前の教室で、フェリペが令嬢たちにクッキーを渡した。

「これを君達に・・・って、手焼きなんだけど、ルナから話を聞いてね」

「あの女官が?」

三人の令嬢は一様に意外そうにそう呟き、互いに顔を見合わせる。

リリアは小声でローズとロゼッタに「つまり、女子力を誇示しようって訳ですわよね」


三人はそれぞれ一個づつ取って食べる。

そしてリリアが「美味しいですわね。ちょっと甘味が強すぎですけど」

ローズが「歯ごたえが今一というか」

それを聞いてフェリペは「まだ修行不足かぁ。作り方を教わって僕が焼いたんだけど」


三人の令嬢唖然。

「殿下の手作り?」と言って一瞬目を輝かせるが、すぐに先ほどのダメ出しを思い出す。

そして三人、大慌てで口を揃えて「とととととても美味しいですわ。極上ですわよね」

「甘味はイコール美味しさ」とリリア。

「とろけるような舌ざわり」とローズ。


「けど、どうして私たちに?」

そうロゼッタが言うと、フェリペは「誰かに何かしてあげるって、気持ちいいよね」

「けど、私たちって殿下を追いかける立場なのに」とローズ。


「そんなの関係無いよ。前にイギリスのエリザベス姉様とお付き合いした時、恋の駆け引きとかって話を聞いて、相手が自分を追いかけるように仕向けたら勝ちだって。けど、そのうち解ったんだ。恋に勝ち負けなんて無いって」

そんなフェリペの言葉を聞き、赤面顔で俯く幼い令嬢たちを見て、マゼランは言った。

「今度みんなでピクニックに行きませんか?」

ローズが「お弁当持って、あの女官たちも・・・」

ロゼッタも「ならベルナーたちも一緒でいいですわよね」



次の休日、みんなで郊外の小高い丘を登った。


頂上の見晴らしの良い草原で、お昼のお弁当を広げる。

三人の令嬢はそれぞれ豪華な重箱弁当。

女官たちはドライカレーのおにぎりに、カレーを挟んだナン。

お弁当を食べながら、あれこれお喋りする13人。


「君たちはどんな所に住んでるの?」

そうフェリペが問うと、リリアが「親戚の貴族の屋敷ですわ」

ローズが「取引のある商人の家に住まわせて頂いてますの」

「つまりそれぞれの家のメイドかぁ」とフェリペ。


ロゼッタが「そういう人が居ないので、家を借りてベルナーと二人で」

「じゃ、これはベルナーが?」

そうお弁当を指してフェリペが言うと、ベルナーが「ロゼッタお嬢様の手作りですよ」

「そうなの?」

そう驚き顔で言うフェリペに、ロゼッタは「普段の食事はベルナーが作ってくれるんですけど、フェリペ様に食べて頂きたくて」

リリアとローズも「私たちだって自分で作ったんですのよ」

「そうなんだ。知らなかった」とフェリペ。


するとローズが「ライナたちもそうなのよね?」

「いえ、これはチャンダ様が・・・」とリンナが引け目顔で・・・・・。

「カレーだものな」と言ってマゼランが笑う。

ライナが「お菓子作りは得意だけど、料理はちょっと・・・」

そんな元女官たちにリリアは「そういえばあなた達って、屋敷でも料理はやってなかったですわよね」


令嬢たちは一様に思った。

(要するに得意分野で勝負すればいいだけだったのね)



そんな令嬢たちを見て、マゼランは「あの、殿下、こういう時って、味を褒めるものですよ」

フェリペは慌てて令嬢たちに「美味しいよ」

「それだと義務的に言わされてるみたいだぞ」と、あきれ顔のシャナ。

幼い令嬢たちは声を揃えて「でも、嬉しいです」

「ってか、自分が作ったんだと相手が知って無きゃ意味無いですよ」とロイドが指摘。

ベルナーも「確かに・・・・・」


「にしてもお嬢様たち、何時の間に料理なんて」

そうルナが言うと、リンナも「しかもそのお年で・・・」

「異性を落とすなら胃袋を掴むのが早道・・・って教わりましたの」とリリア。

シャナが「それって、フリッツフォンエリックという格闘家が得意とするプロレス技だよな」

「恐ろしい事を言うんじゃ無い。カルロがいつも言ってる事だ」と、彼女のペンダントのアラストールが突っ込む。

「そのカルロ様って、諜報局に出入りしてる、あの方ですわよね?」

そうロゼッタが言うと、フェリペが「父上の海賊団のメンバーだけど、もしかして料理も?」

「そうですけど」と令嬢たち。


マゼランとチャンダは思った。

(あのヤリチン、外に変な事教えてなきゃいいけど)

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