第491話 従者たちの合コン
ポルタ大学人文学部に、フェリペ皇子を追って入学した三人の幼い令嬢とその従者たち。
当初、令嬢たちはフェリペと仲の良いライナたちに嫉妬するが、「自分たちが仲良くなる方法をかんがえろ」とエンリ王子に説教される破目に。
そして、令嬢たちがフェリペと仲良くなるための計画は、いつの間にか、マゼランと彼が好きなアネモネが仲良くなるための計画にすり替わった。
そして令嬢の三人の従者たちがマゼランたちに申し込んだ親睦会を、合コンと解釈したマゼラン他二名。
彼等はまだ合コンが何なのかを知らない。
大学の受業が終わると、マゼランたちは官舎に戻って、合コンの準備。
「お前達、どんな格好で行くんだ?」
改まってそう言うシャナに、マゼランは「普通の格好じゃ駄目なのか?」
シャナが「ロゼに聞いたら、気合の入った服装をしろと言ってたからなぁ」
「気合の入った服装・・・ねぇ」
そう言いながらマゼランとチャンダは、各自の衣服ケースからあれこれ引っ張り出すが・・・。
「気合の入った服装って、どんなだ?」
そうマゼランが言うと、チャンダが「つまり珍走の特攻服?」
マゼランは「そんなの持って無いぞ」
「こういうのを気合が入ってる衣装だと聞いたが」
そのシャナの言葉で二人が振り向き、いつの間にか着替えていた彼女を見て、唖然。
「何だよその舞台装置みたいなのは」
衣装に飾りのついた・・・というより、飾りの塊の中に入っているようなシャナの格好を見て、チャンダがそう言うと、マゼランも「背中に背負ってるのは孔雀の尾羽のつもりか? 高さが自分の背丈の倍以上あるんだが」
「コバヤシサ・チーコというオバサン歌姫がこんな格好で気合を入れるそうだ」とシャナ。
頭痛顔の二人に、シャナは「とにかく行くぞ・・・って動けないんだが」
「せめて動けるような服装にしような」
そうあきれ顔で言うマゼランとチャンダに、シャナは「それよりお前等の格好は何だ?」
チャンダが「故郷の人たちから餞別に貰ったお祭り用の民族衣装だが」
マゼランが「騎士が気合を入れるって言ったら、やはり完全装備の鎧だろ」
「いや、戦争に行くんじゃ無いぞ」
そうシャナが言うと、チャンダも「もしかしてまだ決闘だと思ってる?」
するとマゼランが「けど、フェリペ様のパレードでは、この格好だったぞ」
「確かに・・・・・・」
シャナのペンダントのアラストールが言った。
「だったらシャナも戦闘用を着たらどうだ?」
「あれはヒラヒラで戦いにくいんだが」
そうシャナが言うと、アラストールは「けど、戦闘力の高い女性が着る服だというぞ」
三人で酒場に行く。
ベルナーたち三人は既に来ていて、マゼランたちを見て、怪訝そうに・・・・・。
「お前等、何でそんな格好を?」
派手な民族衣装のチャンダに鎧姿のマゼラン。そしてスリットのやたら深いチャイナドレスのシャナ。
「合コンでは気合を入れた服装と聞いたんだが、お前等こそ何で普通の服装?」
そうマゼランが疑問顔で言うと、ロンドが「いや、合コンじゃなくてただの親睦会だが」
残念な空気が流れる。
「誰だよ合コンとか言ったの」
そうチャンダが言うと、マゼランが「お前だろ」
そんな彼等にロンドが「そもそもお前等、合コンって何だと思ってる?」
「男女混合の三対三で仲良くするためわいわいやるんだよな?」とマゼラン。
「いや、男三人と女三人で三組のカップルを作るための出会いの場だ」とロンドが解説。
「そうなんだ・・・」
そう言って溜息をつくマゼランに、アネモネはウキウキ顔で彼の手を執り、言った。
「マゼラン様は合コンのつもりで来たんですよね? つまり、この三人の中で唯一女性のこの私とカップルになるのが目的」
「いや、そういう訳じゃ・・・・・・」
そう言って慌てて否定するマゼランに、ロンドが「ここは嘘でも"はいそうです"と言って相手の機嫌を保つ場面だ」
ベルナーも「そうだぞ空気読め」
マゼランはタジタジ顔で「勘弁してくれ」
「それで王様ゲームは?」と今一つ解って無さげなシャナ。
マゼランとチャンダは「やらないから」
六人で酒と料理を注文し、飲み食いしながらわいわいやる。
そのうち、ほろ酔い気分の態でベルナーが「王様ゲーム、やるぞー」と気勢を上げる。
「いや、これは合コンじゃないのでは?」
そうチャンダが疑問顔で言うと、ロンドが「いいんだよ。ノリだノリ」
ロンドは籤を六本作り、1から5までの番号。そして一本だけ王様と書く。
これを束ねて「王様だーれだ」の掛け声とともに、各自一本づつ籤を引く。
ベルナーが王様を引いて「三番と五番が手を繋ぐ」
三番がアネモネで五番がマゼラン。嬉しそうにマゼランと手を繋ぐアネモネ。
二回目。
「王様だーれだ」の掛け声とともに、各自一本づつ籤を引く。
ロンドが王様を引いて「二番が一番の頭を撫でる」
一番がアネモネで二番がマゼラン。マゼランに頭を撫でられて気持ち良さそうなアネモネ。
三回目。
「王様だーれだ」の掛け声とともに、各自一本づつ籤を引く。
アネモネが王様を引いて「四番が私とキス」
ベルナーとロンド、慌てて「それはさすがに」
するとシャナが「四番は私だが」
とてつもなく残念な空気が漂う中、アネモネは鬼の表情で「ロンド、どういう事よ」
ロンドは慌て顔で「すまん。間違えた」
「間違えたって・・・」とチャンダ。
マゼランは暫し考え、そしてロンドに「お前等、誘導の呪文使っただろ」
マゼラン・チャンダ・シャナは溜息をついて、アネモネに残念な視線を向ける。
アネモネ、バツが悪そうな居直り声で「な・・・何よ」
「悪いけど・・・・・・」
そうマゼランが何か言おうとしたのを遮るように、アネモネは涙声で「いいわよ。私なんて・・・。マゼラン様のばかー」
アネモネは泣きながら酒場を飛び出す。
残念過ぎる空気の中、困惑する四人の男子。
そんな中でシャナは、マゼランの肩に手を置き、そして言った。
「追いかけなくていいのか?」
「追いかけてどーしろと」
そう困り顔で言うマゼランに、シャナは「あれでも女の子だ。自分のせいで女の子が泣いたら、男ってのは胸が痛むんじゃ無いのか?」
「けどなぁ。あいつ性格がアレだし」とマゼラン。
「優しくすると、すぐ調子に乗るし」とロンド。
「ツンデレで見栄っ張りで」とベルナー。
チャンダはそんなロンドとベルナーに「いや、アネモネとマゼランをくっつけようとしたの、お前等だよね?」
その時、シャナのペンダントのアラストールが言った。
「マゼランにも選ぶ自由はある。いきなり付き合えと言われても無理だろう。そういうのは友達として仲良くする事の延長線上にある可能性の一つに過ぎない。友達で終わる男女関係なんて普通にあって当たり前だ。けど、恋愛に至らずとも大きな意味があると思うぞ。一方が期待したとしても、他方がそれに全部答える義務なんて無い。そういうのを踏まえて、受け入れ可能な所まで受け入れてやるって事でお互い納得するのが成熟した人間関係だと思うぞ」
「解ったよ」
そう言うと、マゼランはアネモネを追って店を出た。
マゼランはアネモネを探して付近を歩き、間もなく、物陰で泣いている彼女を見つけた。
「あのさ・・・・」
そう言って話しかけようとするマゼランに、アネモネは「同情なんて要らない。私は大丈夫だから」
「それは良かった」
そう言って戻ろうとするマゼランの上着の裾を掴むアネモネ。
「もう少しここに居てよ」
「・・・・・・」
「私の事、嫌い?」
涙目でそう言うアネモネに、マゼランは「そういう訳じゃ・・・」
「けど、嫌いじゃないと好きは違うよね?」
物欲しそうな目でそう言うアネモネに、マゼランは「そういうのは友達の延長線上にあるんだって、アラストールが言ってた」
「ロンドも同じ事言ってた」とアネモネ。
マゼランは「あいつ等っていい奴だよな」
「そーかなぁ」
「だって君の事、応援してるんだよね?」とマゼラン。
アネモネは少しだけ嬉しそうに「ねぇ、ロンドって私の事、好きなのかな?」
「それはぜーーーーーーったいに無い!」
いきなり物陰から立ち上がって慌て声でそう主張するロンドに、マゼラン唖然。
「お前等、見てたのかよ」
その背後から出て来たシャナのペンダントのアラストールが「彼等も心配しているんだ」
ベルナーも出て来て「他人の恋愛に首を突っ込む事ほど面白い事は無いからな」
アネモネはロンドに不服顔で「ってか、そんなに全力で否定しなくてもいいじゃん」
ロンドは溜息をつくと「肯定して欲しいのはマゼランに・・・だろ?」
「そりゃまぁ」
そうまごつき声で言うアネモネをロンドはちらっと見ると、マゼランに「こいつだって、たまには可愛い所もあるんだよ」
「そりゃまあ」とマゼランもまごつき声。
「どこが?」とアネモネが目をキラキラさせて言う。
「泣いてる所とか」とマゼランに言われ、じーん・・・という表情になるアネモネ。
そんなマゼランにシャナが指摘した。
「それって女を泣かせるのが気持ちいいって事だよな?」
チャンダが「鬼畜だな」
ベルナーが「サドっ気ってやつ?」
アネモネが「マゼラン様、そういうのに興味が?」
「いや、違うから・・・ってかそんなに期待して貰っても困る。ライナも居るし」
そう言って慌てるマゼランの肩にロンドは手を置き、そして言った。
「大丈夫だマゼラン。エンリ様だって人魚姫もイザベラ様も居る」
するとチャンダが「つまり二股三股上等」
ベルナーも「ロンドってそういう奴だよな」
「何で俺の方に矛先が来るんだよ」と抗議顔で口を尖らせるロンド。
シャナはマゼランとロンドの肩に手を置き、言った。
「男ってのは叩かれてナンボだぞ」
マゼランは溜息をついて「そういう創作物世界の残念な常識は要らないから」
ロンドも溜息をついて「勘弁してくれー」
翌日、六人の従者たちはエンリ王子に呼び出された。
執務室で整列した六人に、エンリは言った。
「昨日、大漁亭という酒場から通報があって、六人連れの集団による食い逃げがあったそうなんだが」
「あ・・・」
冷汗顔で互いに目を見合せる彼等に、エンリは「心当たり、無い?」
「ななな何の事かなぁ」と六人は声を揃える。
「それで、そのうちの一人が着ていた鎧が遺留品になっていて、それにマゼラン家の紋章が・・・・・」
そう言ってエンリが示した動かぬ証拠に、マゼランが自白。
「すみません。支払い忘れてました」
彼等はエンリ王子に小一時間説教された。