第49話 秘宝で担保
かつて海賊バスコがジパングから東へ向かったという情報を頼りにオケアノスの海を東に向かうエンリ王子たち。
水不足に苦しみながら、ようやく水のある島を見つけて、補給に立ち寄る。
島に上陸するエンリたち。
川に行くと、管理小屋みたいな建物があった。
エンリは小屋に居る現地人に「船旅の途中なんだが、水の補給がしたい」と申し出る。
現地人は言った。
「どれだけ必要ですか? ちなみにサービス期間は終わりましたんで、通常価格となりますが」
仲間たち唖然。
そしてタルタが「金とるのかよ。ガッチリしてるな」
現地人の管理人は「どうも」と言って頭を掻く。
「いや、褒めてないから」とタルタ。
「先代王からの方針でして、このあたりの島は水を欲しがる所が多いんで」と管理人。
カルロが「ケチ臭くないか?」と苦言を呈すると、管理人は言った。
「先代王が言った言葉があるんです。"水と安全はただではない"と」
タルタが「何だか嫌な説得力を持つ言葉だな」
金を払いつつ、海賊バスコの情報を聞く。
「随分前にそんな名前の人が船に乗って来たような」と管理人。
「憶えていそうな奴は居ないのか?」とエンリが訊ねる。
管理人は「王宮に行けば解ると思います」
王宮に行って、話を聞く。
王宮の事務の人が帳簿を調べて、エンリたちの問いに答えた。
「海賊バスコですか。随分前に来てますね。水と食料を求めたんですが、手持ちが無いという事で、貸しにしたんです」
「つけが効くのかよ」とタルタ。
「信用取引という奴ですよ」と事務の人。
「海を渡る冒険者が二度も通るとは限らんぞ」とアーサー。
「担保をとってますから」と事務の人。
タルタが「ガッチリしてるな」
事務の人は「どうも」と言って頭を掻く。
「いや、褒めてないから」とタルタ。
そしてエンリが「ところで、担保ってどんな?」と尋ねる。
事務の人は「確か、秘宝の片割れ、とか言ってました」
「な・・・何ですとーーーーーーーーー!」と仲間たち唖然。
タルタはあきれ顔で「全ての海を支配する"ひとつながりの秘宝"の片割れを担保かよ。しかも水食糧代に」
「まあそう言うな。水が無いのは命に関わる」とエンリ。
「俺たちそれ、嫌というほど思い知ったもんな」とカルロ。
「それで、その片割れはどこに行った? 俺たちそれ探しにあちこち廻ってるんだが」とエンリは事務の人に問う。
だが事務の人は「駄目ですよ。彼がお金返しに来たら渡さなきゃ。取引は信用第一です」
「けど、結局返しに来なかったんだよね?」とエンリ。
「けど、借金のかたですから、ただで上げる訳には」と事務の人。
エンリは「俺たちが代わりに払う。いくらだ」
「毎度あり―」と言って、事務の人は算盤を弾いた。
そして代金を支払う。
「で、その秘宝は?」と、事務の人に問うエンリ王子。
事務の人は「どこだっけ?」と言って、王宮の人に・・・。
「あれ、人にあげちゃいましたよ」と王宮の人。
エンリたち唖然。
エンリは事務の人に「おい・・・、お金返しに来たら渡さなきゃ。取引は信用第一とか言ってたよな?」
宝箱を探す事になる。
「それで、いったい誰にあげたんだ?」とエンリ。
事務の人は「受け取ってから、しばらく王宮の倉庫に保管してたんで、番人が知ってる筈です」
番人に聞く。
「前の番人が年取って隠居したんで、俺が引き継いだんですけど、俺が引き継ぐ前の話なんで、隠居した元番人が知ってるかと」と番人が答える。
「元番人ってどこに居る?」とエンリ。
元番人に聞く。
「あれは結婚式の引き出物に使ったんで、嫁入り先に贈りましたよ」と元番人。
「その嫁入り先って誰だ?」とエンリ。
嫁入り先の人に聞く
「長男が生まれた誕生祝のお返しに、親戚に贈りました」と嫁入り先の人。
「その親戚はどこに居る?」とエンリ。
その親戚に行くと「親父の友人の葬式があったんで、その見舞に贈りました」と親戚の人。
「その友達の家を教えてくれ」とエンリ。
その友達の家に行くと「今の王様の成人式でお祝いに・・・」
結局王宮の物置に戻って来る。
「これが、成人式のお祝いですね」
そう言って番人が案内した倉庫の隅に、宝箱があった。かなり豪華な造りだ。
「これがその秘宝の手掛かりか」とタルタがワクワク顔で言う。
「開けるぞ」
そう言ってエンリ王子が箱を開けると、中は空だ。
「この中味はどうした?」とエンリは番人に訊ねる。
番人は「秘宝ってこの箱じゃないんですか?」
「箱は入れ物だ」とエンリ。
「でもこんなに豪華なんだし」と番人。
「ってか、中にどんなものが入ってた?」とエンリ。
番人は「さあ」
エンリは「これ開けた奴は居るか?」と番人に訊ねる。
番人は「誰だっけ?」と言って、他の王宮の人たちに・・・。
すると王宮の人の一人が「あいつだろ。風呂焚きやってる奴」
「そーいや説明書きか何かの紙切れが入ってたって言ってたな。読めないし。誰も欲しがらないから要らないよねって」と、もう一人の王宮の人。
エンリは「捨てたのか? 捨てたんならゴミ置き場に案内しろ」
山のように積まれたゴミ袋。開けてチェックするが、紙らしいものは無い。
「紙とか捨てなかったか?」とエンリは王宮の人たちに訊ねる。
王宮の人たちは互いに顔を見合わせて「普通、燃やすだろ」
「何ですとー」と王子たち唖然。
タルタが「世界の海を支配する秘宝を燃やすとか」とあきれ顔。
その時、アーサーが言った。
「ちょっと待て、さっき風呂焚き係とか言ってなかったか?」
タルタが真っ青になって「風呂の焚き付けにする気だ」
風呂焚き場で、鼻歌歌いながら火を起こす風呂焚き係。
タルタが叫び声を上げて突進する。
「その焚き付け、ちょっと待った!」
そう叫んで飛び込むタルタ。焚き付け係が慌てて避ける。
タルタは風呂窯にもろに飛び込む。
そして「あちちちちち」と叫んで煙の出る尻を抑えて風呂窯から飛び出した。
風呂焚き係はあきれ顔で「気を付けて下さい。火はついてなくても灰は常時熱いですよ」
焚き付けになる寸前に救出した秘宝の片割れらしき紙を広げるエンリ王子たち。
何やら図面のようなものが書かれている。
「何かの図面かな?」タルタ。
「それより、さっきの宝箱はどこかで見た事あるような気がするんだが」とジロキチ。
「パナマの洞窟で見た奴じゃないのか?」とアーサー。
「じゃ、あれもバスコが書いたのか?」とエンリ。
「あれは運河の図面だったよな?」とタルタ。
その時、ニケが叫んだ。
「そうよ。レオナルド先生、言ってたじゃない。バスコは先生の先生の兄弟弟子で、測量術の天才だって。だからあんな凄い運河を設計できたのよ」
「って事はこっちも地図で運河の設計図かな?」とジロキチ。
「けど、この島の地図じゃないよね?」とタルタ。
「そりゃ、そうだ。単に借金のかたに置いてっただけなんだから」とアーサー。
「だとすると、どこの地図だ?」とエンリ。
一同、地図を見て考え込む。
エンリが気付いて言った。
「これ、エジプトだろ。こっちが地中海で、こっちが紅海。その東がアラビアで、地中海に流れてるこの川がナイル川だ」
「って事は、この地中海と紅海を結んでる道路みたいな直線が、運河か?」とジロキチ。
「あそこは海が通じてないから、交易品を陸揚げして、短い距離を陸路で運ぶんだよ。あそこに運河を通せば、滅茶苦茶便利になる」とカルロ。
ニケが言った。
「あのさ、あのパナマの運河を設計したのがバスコだとすると、測量するために向こう側まで行ってる筈よね? って事はそこにバスコの拠点があるんじゃ・・・」
「だったら秘宝もそこに」と仲間たち。




