第489話 残念な暗殺計画
ポルタ大学人文学部に、フェリペ皇子のお妃候補の三人の幼い令嬢がそれぞれの従者とともに入学した。
クラスの人たちから歓迎される中、さっそくフェリペにお相手をねだる幼女たち。
だが令嬢たちは、魔法学部に居るライナたち三人の元女官がフェリペと仲良くするのを見て嫉妬した。
大学の授業が終わると、ベルナーとロゼッタが借りている家で、令嬢とその従者たちが、お菓子を食べながら作戦会議。
「あの三人、どうしましょうか」
そうリリアが切り出すと、ベルナーは困り顔で「どうするって・・・」
「いっそ消えてもらうというのは?」とリリアが物騒な事を言い出す。
「転校させるとか?」とロゼッタ。
「引っ越しさせるとか?」とローズ。
「地方に左遷とか?」とアネモネ。
ロンドが困り顔で「まさか暗殺しろとか言わないですよね?」
ロゼッタとローズが「さすがにそれは・・・・・・」
だが、リリアは「主のために命を張るのが従者ですわよね?」
「ですが犯罪ですよ」
そうロンドが言うと、リリアは「騎士というのは敵を倒す者ですわよね?」
ベルナーはロンドの耳元で「どーすんだ、これ」
ロンドは小声で「大丈夫。こういう残念な計画は、どうせどこかで破綻する」
なし崩し的に計画立案を進める三人の令嬢と、付き合わされる従者たち。
「住処は官舎よね?」
そうローズが言うと、リリアが「忍び込んで、やっちゃう?」
ロンドが「マゼランたちが居ますよ」
「警備の厳重な王宮よりマシかと」とアネモネ。
「けど、ルナは世話係として王宮に居ますよ」とロンドが突っ込む。
「駄目じゃん」とベルナー。
「そもそも何ですの? フェリペ様と一つ屋根の下とか」
そうリリアが憤懣顔で言うと、ロンドは宥め口調で「いや、お城の屋根は大きいですから」
ローズが「外出に出た所を、というのは?」
「誰が?」とリリアは身を乗り出す。
ロンドが「戦争ならともかく、そういうのはヒットマンの仕事かと」
「まさか雇うの?」と困り顔のベルナー。
するとアネモネが「やり方を教えてくれる指導者が居るわよ。ボンゴレファミリーという組織からリボーンという家庭教師が派遣されて・・・」
ベルナーが「どこの漫画の話だよ」と突っ込む。
アネモネが言った。
「けど、身近にその道のプロだった人が居るとか。ジロキチさんの所に居るムラマサという人よ」
「あの人ってそんなキャラ?」
そうベルナーが言うと、アネモネは「ジロキチさんに負けて改心したって。彼にコツを教わるというのはどうかしら」
「いいのかなぁ」と呟くベルナーとロンド。
三人の従者は、清定の仕事場に居たムラマサに、相談に乗って欲しいと頼み込んだ。
一緒に居た若狭が出してくれたお茶を飲みながら、休憩所で・・・・・。
「それで、相談って何でござるか?」
そうムラマサに言われ、ベルナーとロンドが躊躇していると、アネモネが話を切り出す。
「辻斬りというのについて話を聞きたいんですけど」
一緒に居るジロキチが「それで、まさか誰かを殺るとかいう話じゃないよな?」
ロンドが慌て声で「さささ三人の令嬢を守るため、犯罪者の手口を知りたいんです」
ムラマサが語った。
「暗殺者はまず、やった後バレないように、完全犯罪を計画するでござる」
ジロキチが困り顔で「辻斬りが考える事じゃ無いと思うが」と突っ込む。
ムラマサは「探偵団の先輩たちの教えでござるよ。それで更に、バレてもどう罪を逃れるか」
「どんどん駄目な方に話が行ってるような気が・・・」とベルナーが突っ込む。
ムラマサは更に語った。
「田沼という金権政治家が居たでござる。商業を保護して経済を発展させたでござるが、賄賂をしこたま貰い・・・」
ベルナーが「裏金とか?」
ロンドが「パーティ券を売ったお金のキックバックとか?」
「そんな話でしたっけ?」と疑問顔の若狭。
ムラマサが「それで批判が高まり、正義感にかられた佐野って人が・・・」
ジロキチが「というより、自分がこんなに貧乏なのに許せない叩き切ってやるとか言って、改造銃で・・・」
若狭が「佐野大明神とか山神様とか呼んで彼を祀る神社があちこちに建ったんですよね」
「信者による減刑嘆願が大量に出されて、"妖怪の孫を倒して軍靴の足音の幻聴からジパングを救った烈士だから殺したら千年恨む"とネットに・・・」とジロキチ。
「要はそういう"殺したら味方になってくれる人が大勢出て来る相手"を見繕うでござるよ」
そうムラマサがまとめると、ベルナーが「つまり悪い人?」
「というより、敵の多い人ですよね」と若狭。
「自国を守るための法律を作ったのが、侵略してくる外国にとって不都合だから気に入らなくて、あいつは人間じゃない・・・みたいな方向の政治宣伝で流されてる奴らだろ」とジロキチ。
若狭が「それで、家族を破滅させたカルトの支部長ではなく、祝辞を読んだだけの政治家をターゲットに選ぶんですよね」
「それでその人、助かったんですか?」
そうアネモネが言うと、ムラマサは「そういう事を書きまくった五毛工作員に対する批判がもっと多くて、結局死刑になったでござる」
ロンドは首を傾げて「いろんな話が混ざってるような気がするんだが」
「俺たち何の話をしてたんだっけ?」とベルナーも・・・・・・。
翌日、ポルタ城の王太子執務室で・・・・・。
「・・・という話を執務室でお茶してる時の世間話でムラマサから聞いたんだが、まさかフェリペと仲のいい誰かが邪魔だとか、そういう話じゃないよね?」
呼び出された三人の令嬢とその従者計六名に、そう言って問い質すエンリ王子。
あっさりと計画がバレて、エンリに小一時間説教される令嬢と従者たち。
そしてエンリは言った。
「フェリペをゲットしたいなら、あいつと仲のいい誰かが邪魔だ・・・とかじゃ無くて、自分がもっと仲良くなるような事を考えたらどーよ」
令嬢とその従者たち六名がエンリのお説教から解放されてポルタ城から帰還すると、ベルナーとロゼッタの借家で作戦会議。
「これからどうする?」
そうベルナーが言うと、アネモネが「私たちが仲良くなるような事を・・・って話よね?」
「ってか、フェリペ様と仲良くなるのはお嬢様方なんだが・・・・・」とロンドが突っ込む。
するとアネモネが「こういう時は"将を射んとするなら先ず馬を射よ"と言うわよね。それって、私たちがフェリペ様の周りに居るマゼラン様と仲良くなればいいって事よね?」
ロンドが「つまり、お嬢様とフェリペ殿下の仲立ちをしやすいよう、アネモネがマゼランの彼女になると?」
「そうよ。あくまでお嬢様たちのために、この私が。けして私がマゼラン様が好きで、それ目的にローズお嬢様に無理やりついて来た訳じゃ無いんだからね。勘違いしないでよね」とドヤ顔のアネモネ。
ロンドは溜息をついて「いや、アネモネがマゼラン大好きなのはみんな知ってるから」
するとローズが「チャンダ様とシャナ様も・・・ですわよね?」
リリアが「まさかライナ達も? けどライバルよね?」
ロンドが言った。
「彼女達はライバルではありません。お嬢様方は正妃の候補です。一方、あの元女官はせいぜい側室。お父上のエンリ殿下はイザベラ様の他にあの人魚姫も居ますし、なのでお嬢様方はルナたちと十分に共存可能です」
「つまりハーレム上等」
そうアネモネが言うと、ロゼッタも「三又四又当たり前」
リリアも「ロンドってそういう人だったのね」
ローズも「男って最低」
集中砲火を浴びせられ、ロンドは困り顔で「そんなぁ」
残念な空気の中、ベルナーが話を本筋に戻す。
「とりあえずアネモネはマゼランを落としたい訳だよね?」
「だからお嬢様のために・・・」
そんなアネモネにロンドは「そういう建前はいいから」
ベルナーが「で、どうやって落とす? マゼランはモテるよ」
「だから邪魔なライナを始末・・・・・・」
そう言いかけたアネモネの発言をロンドは慌てて遮り、「そういう発想は止めようって話だったよね?」
するとローズが「ってか、アネモネが亡き者にしたいって、ルナよりライナなの?」
「だってムカつくじゃないですか。ちょっと年が下だからって、そりゃ恋愛対象としての価値は歳がいくほど下がるって言うけど、そんなの卑怯よ。年齢差別反対! リア充爆発しろ!」と息巻くアネモネ。
ロンドは困り顔で「いや、別に年下だから相手にされてる訳じゃ無いと思うんだが、とりあえずそんなに好きならデートにでもしてみれば?」
するとアネモネはいきなり弱気モードになって「私一人で? 男の人と何を話せばいいのよ」
「俺たちだって男なんだが」とロンドが突っ込む。
ローズは「いや、アネモネはロンド様たちを都合のいい同僚としか思って無いと思います」
残念な空気の中、ロンドは言った。
「・・・・・・別にいいけどね。って、言っとくけど、別にアネモネとそういう関係になれないのがショックとか思って無いし、こんなツンデレとそんな関係になりたいとも思って無いし、単に女子のサンプルの一人がたまたまそうだったから確率論的にプラスじゃなくて残念ってだけの話だから勘違いするなよな」




