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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
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第483話 鉄の大陸

鋳鉄により蒸気機関を量産するイギリスに対抗するためエンリ王子は、イギリス人製鉄業者ヴァーレをスカウトすると、鉄鉱石と燃料になる石炭の資源を求めて西方大陸のブラジルのリオの街を訪れた。

そして、ここに領地を持つポルタ出身のカブラル伯の歓待を受ける。



エンリたちはカーニバルで遊んでいるシマカゼ他数名を残して、カブラル伯の館へ向かった。

館で一息つくと、早速、カブラル伯に話を切り出す。


「お前、侯爵になる気は無いか?」

スパニア貴族であるカブラル伯は、怪訝顔で「イザベラ様にとりなして頂けると?」

「王太子として、俺が叙任してやると言ってるんだ」とエンリ。

「つまり、ポルタの貴族になれと?」

そう困り顔でカブラルが言うと、エンリは「主が複数居る諸侯なんていくらでも居るさ。領主として生き残りたいよね?」

「この地をポルタ領にすると? それはスパニアから奪うという事になるのでは?・・・」


そう言ってスパニアへの義理立てに拘るカブラルに、エンリは言った。

「ここはいずれ独立する」

カブラルは警戒心を滲ませて「現地人を煽動して・・・ですか?」

「扇動も何も、独立を求める動きはユーロ中にある。民主主義という言葉を知っているか?」とエンリ。

「フランスの共和主義理想論者たちの主張と聞いております」

そう答えるカブラルに、エンリは「四年後には、それがユーロの常識になる」


「それは全ての国の王家が滅びるという事では無いのでしょうか? スパニアもポルタも・・・」

そう言って次第に深刻そうな表情を深めるカブラルに、エンリは言った。

「その流れを拒めば、そうなるだろうな。だが、国内で幾つもの勢力が争う中で、調整役が必用となる。それには伝統を引き継ぐ王が最も適している。もし王がそれを拒み続け、そして国を圧政で支配し続けるなら、今度は国が亡びる」

「・・・・・・」


言葉を失うカブラルに、エンリは更に説く。

「ユーロ各国が勢力を競い、生き残りをかけて争う中、強くなる要は、全ての民が対等の国民の一人として国に意見を言える立場。それによって自らが国の主の一人なのだという自覚。その中で民は何らかの形で国防に参加し、国を富ませる道を切り開き、悪意ある外国への迎合を阻止する。それで初めて本当の意味で強く豊かな国となる。これが国民国家だ。その流れを止める事は、ユーロでも、ユーロ人が支配するこの大陸でも出来ないだろうな」

カブラルは「やはりポルタの一部になれという事なのですね? ですが、それを判断するのはイザベラ様です」

エンリは「そのイザベラにとって、この大陸の独立が織り込み済みだとしたら?」



記憶の魔道具で、マキャベリとの対話を再生するエンリ王子。


「その価値観は、ユーロ人が進出した地に根付くでしょう。ならば、西方大陸の民も独立を望む事は必然です」と、魔道具から流れるマキャベリの声。

イザベラの声が「私たちはあの地との繋がりを失うのでしようか?」

「いえ。別の繋がりを持つ事になるでしょうね。それは例えば、かの地に根付くであろうスパニアの文化」とマキャベリの声が答える。


魔道具の記憶音声を聞き終えたカブラルは、暫し沈黙した。

そして「イザベラ様がそんな事を」

「どうする? 独立となれば、下手をすればお前等、現地人に追われる。ここには既に多くのスパニア人が居る。だが、現地人はまだ多く居る。奴隷として連れて来られた南方大陸人も」とエンリは追い込みをかける。

「我々には鉄砲も騎馬隊もあります」

そう言って強気を見せるカブラルに、エンリは「負けずに戦争となれば、ここは荒廃し、今度はイギリス人やオランダ人が乗り込んで来るだろうな」



カブラルは俯き、真剣な表情で思考した。

そしてエンリに向き直り、「解りました。あなたの臣下になりましょう」


「そうなった場合に奴隷は解放して欲しい」とエンリ。

「使っているのは農業奴隷と鉱山奴隷ですが・・・」

そうカブラルが言うと、エンリは「本来なら賃金を払って労働者を雇うべきものだ。農業はアンデッドのズンビーを使える。鉱山奴隷の最大の仕事は、鉱石の運搬だ。床がでこぼこで荷車を通せないからな。そこにレールを敷くんだ。イギリスでは蒸気機関というものを使って、それで動かす運搬機械をレールの上で・・・」


その時、ヴァーレがエンリに意見した。

「ちょっと待って下さい。蒸気機関は大型で坑道なんかに入りませんよ」

「確かに・・・・・・」

鉱石科の教授も「それに、閉鎖した所で火をたくと、風が瘴気を含みますよ」

「それはそうか・・・」

アーサーも「権力者が賢者ぶって指導と称して、素人考えであれこれ口を出すと、ろくな事になりませんよ」

「そうだな・・・・・」

仲間たちから小一時間説教・・・・・・・・・・・・・・の流れになりかけたエンリだが・・・。

「ちょっと待て。そうじゃ無くて、そもそも運ぶのが大変なら荷車くらい使おうって話だろ。だけど床がでこぼこで荷車を通せないから、そこにレールを敷いてその上で荷車を動かそうって、そういう話だ」

残念な空気が漂う。


若狭が「つまり、小学生の男女が駆け落ちする時に使うアレ?」

「そういう古い映画の話は要らない」とエンリが突っ込む。

「あと、地下の坑道で湧き出る水をどう汲み出すか、って問題もありますけど」と鉱石科の教授。

エンリは「そういうのは工夫次第でどうとでもなる」


「解りました。それで、この地で具体的に何をするのですか?」

そうカブラルが問い、エンリは応えて言った。

「鉄の鉱山だよ。それと石炭という、地下に大量の炭が眠っているものもある筈だ。イギリスがそれを使って大々的に鉄を増産して、強大な国になろうとしている。それに対抗しようにも、ポルタは小国で地下資源に限界がある。今までこれだけ金銀を産出したこの地なら、間違いなく豊富な資源が眠っている」

カブラルは「ここの北のブラジル高原にそれがあると・・・。解りました。役人として派遣している部下たちに情報を集めさせましょう」



カブラルとの交渉が終わり、エンリはイザベラに連絡した。

通話の魔道具でブラジルでの活動計画を語るエンリ。


「西方大陸にポルタの拠点を確保したい」

そうエンリが言うと、イザベラは「交易用の都市なら、今までので足りる筈よね?」

「製鉄だよ。そのための資源が無いと、イギリスに対抗しようが無い。これから世界は鉄と、それを使った機械で大きく前に進む」

そうエンリが説くと、イザベラは「蒸気機関ね」


「これまで動力は基本人力か、せいぜい家畜だった。それだと生産力とそれを産み出す富に限界がある。その限界が崩れるんだ。その動力源として地下に埋もれていた炭を使う」

そうエンリが更に説くと、イザベラは「石炭ね」

「知ってたのかよ」

そうエンリが意外そうに言うと、イザベラは「元々イギリスで暖房用に使われていたものよ。蒸気機関は石炭の鉱山の坑道に沸く地下水を汲み出すために発明されたの。それをワットという技術者が改良したのよね」


エンリは溜息混じり声で「そんな事を知ってたなら教えてくれたら・・・」

「あなただって私にその都度報告なんてしなかったじゃない。蒸気船を作るとか」とイザベラ。

「・・・・・・・・・」

イザベラは更に「四年後のユーロ全体を巻き込む大戦争で使うのよね?」

「そういう事だ」

そうエンリが言うと、イザベラは「それで、スパニアの無敵艦隊のための動力船、造ってくれるのよね?」


エンリは言った。

「そのつもりだ。だが、今のジパング刀の鉄を使うやり方だと量産は限界がある。だから、イギリス並みに量産できる鉄を使った蒸気機関が必要だ。そのためにカブラル伯領の鉄を使いたい」

「解ったわ」

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