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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
482/552

第482話 カーニバルの港

ジパング刀の製法を応用して蒸気の圧力に耐える蒸気機関を開発したポルタ。

だがイギリスは、量産可能な鋳鉄による蒸気機関を確立した。

エンリ王子はイギリスに対抗するため、鋳鉄による蒸気機関の製造が可能な優秀な鉄鋼の量産体制の確立を目指した。

そして新たな製鋼技術を得るためイギリスの製鉄業者ヴァーレをスカウトし、イギリスに渡って彼等が持つ反射炉の技術とその燃料となる石炭の精製を目の当たりにした。



ヴァーレの製鉄村の住民たちの採用が確定し、彼等を乗せてシマカゼ号はポルタに向かった。

その船上でエンリは仲間たちと、今後についてあれこれ・・・・・。


「それで、ポルタにある鉄鉱石の産地って?」

そうニケが言うと、アーサーが「石炭もあるんですよね?」

「今まで知られてなかったって事は、隠し鉱山ですね?」とジロキチ。

タルタが「レコンキスタの時代からアラビア人の妨害を逃れて秘密裏に武器を作ってた所か」

リラが「戦傷者を癒す隠し湯とか」

カルロが「女性とか居て、あんな事やこんな事も」


そんな妄想を暴走させる部下たちに、エンリはぴしゃりと「違うから」

するとムラマサが「忍びの里でござろう」

若狭が「伊賀や甲賀みたいな?」

カルロが「九の一の養成所みたいなのがあって、女の子がハニートラップのためのテクの訓練を受けていて、人知れず異世界から襲い来る淫魔と戦う」


エンリは溜息をつき、そして言った。

「ここはそういうエロ漫画の世界じゃ無いから。俺が言ってるのは西方大陸だよ。ポルタは小国で、イギリスはうちに比べれば大国だ。けど、球体大地全体として見れば小さな島国だ。大陸なら、いくらでも鉄は採れる」


「けど西方大陸って、金や銀ばかりだろ? 鉄や炭なんてあるのか?」

そんな間抜けな事を言うタルタに、エンリは「金銀は希少だから価値があるんだ。それがある所に鉄が無い訳無いだろ」



シマカゼ号がポルタに着く。

港で船を降り、製鉄村の人たちは担当官が引き連れて、集団での宿泊が可能な兵営へ。

ヴァーレは今後の打ち合わせのため、エンリたちとポルタ城へ。


途中で彼等と別れて自宅方向へ向かう若狭に、エンリは「若狭さんは清定さんの所に行って、旅の支度ですよね?」

「長旅になるから、父にご飯の事とか伝えておかなきゃ」

そう答える若狭に、ヴァーレは「若狭さんのお父さんって、どんな人なんですか?」

「ジパング刀の刀鍛冶ですよ」

それを聞いてヴァーレのテンションが上がる。

「ぜひ仕事を見せて欲しいです。あの優れたジパング刀の原料なら、さぞ優れた鉄鋼なのでしょう」

若狭は「それは期待しない方がいいと思うけど」



ヴァーレは若狭と一緒に清定の仕事場へ向かう。何だかんだで全員ついていく。

仕事場にいた清定にヴァーレを引き合わせる若狭。


清定はヴァーレの要望に応え、素材となる鉄を出した。

「これがジパング刀を作る鉄ですか」

そう言いながら鉄素材を観察するヴァーレに、清定は「玉鋼と言って、質は悪くないのですがムラがあるんです。だから、叩いて薄く延ばして折り畳み、また叩いて・・・」


ヴァーレの前で刀を鍛えてみせる清定。

「随分手間をかけるんですね?」と言いつつ、変化していく鉄の様子を観察するヴァーレ。


刀の元が出来、それを細長く叩き伸ばして刀の形が出来る。

「最後に焼きを入れます」

そう言うと清定は、刀身の両側に粘土を縫って炭火に入れる。

「これは何のための工程ですか?」

そうヴァーレが問うと、清定は解説した。

「これで刃先が固くなります。刃先が柔らかいと潰れてしまいますが、全体が固いと折れてしまう。だから、硬い刃先を両側の柔らかい部分で支えるんです」


それを見てニケは思考した。

(粘土を塗るのは反応を防ぐためよね。そして炭火に反応した部分が固くなる。だとしたら、反応して硬い鉄にするのは炭の成分?)

反射炉を見た時に聞いた、鉄を風に反応させる・・・という説明を思い出すニケ。

(炭は燃えるわよね。けど風が無いと燃えない。反射炉で風に触れさせるって事は、鉄に含まれた炭の成分を燃やして追い出すという事なんじゃないかしら)



ヴァーレを乗せてシマカゼ号で、西方大陸に向けてタルタ海賊団出航。

ポルタ大学自然学部鉱石科の教授も同行した。


船の甲板で海を眺めるエンリに、タルタは「西方大陸っても広いけど、どこに行くんだ?」

「一応どこもスパニアの領土で、領主はみんなスパニア貴族のコンキスタドールだよね?」とジロキチも・・・。

エンリは「リオのカブラル伯さ。奴はポルタの出身だからな」



リオの植民市の港に入る。

崖の上に大きなキリスト像が見える。


港にカブラル伯が居て、思いっきりの歓迎顔でエンリたちを出迎えた。

「よくおいで下さいました」

「しばらく滞在する事になるが」

そうエンリが言うと、カブラル伯は「光栄です」

そんな様子を見て、アーサーはエンリに「随分歓迎されているね」

エンリは「俺は女帝の夫君で、世界航路を開拓した英雄だからな。そりゃ尊敬もするさ」


そしてカブラルはエンリたちに言った。

「それで今度はどんな儲け話を?」

「はぁ?」と、エンリと彼の仲間たち唖然。

「ニケさんも一緒って事は、パウブラジルだけじゃ無いんですよね?」と、わくわく顔のカブラル。

エンリ、がっかり顔で「尊敬してる訳じゃ無かったのかよ」と呟く。

「ってかパウブラジルってここで採れるの?」

そうタルタが言うと、ニケは「ここと北のアマゾナの密林地帯の間にあるブラジル高原よ」


エンリは気を取り直すと、カブラルに訊ねた。

「それで、ここの情勢って、どうなっている?」

彼は「南に居て最大の勢力を誇っていたブエノス伯は、イザベラ様への叛乱を企てた罪で大幅に領地を縮小され、今は私が最大勢力です」

「あー、あの件ね」

そう困り顔で言うエンリに、カブラルは尊敬顔で「彼の叛心を巧みに暴いたのはエンリ様だと聞きました」

「いや、まあ、あはははははははは」

そう誤魔化し笑いを飛ばすエンリに、カブラルは更なる尊敬顔で「その時のお話を是非」

エンリ、冷汗顔で「いや、その話は国家機密だから」

「そうでしたっけ?」と、エンリのお茶濁し誘導の足を引っ張る彼の部下たち。


「それに武士の情けというか、ブエノス伯もちゃんとペナルティーは受けた訳だし、これ以上古傷を抉るような事をするのもどうかと思う」

そう言って無理に話を断ち切るエンリに、カブラルは能天気顔で「何とお優しい。さすがはイザベラ様のご夫君」



何とかブエノス伯の話題を打ち切ったエンリは、ほっと一息つくと、街を見回わす。

そして「それより庶民たちが随分賑やかだな」

「今日からカーニバルですから」とカブラル伯。

「お祭りだね」

そう言って、はしゃぎ出すシマカゼ。


通りに出店が並び、人々がウキウキ気分になっている。女性たちの衣服の露出度が高い。

サンバのリズムとともに山車が通りを進み、大勢の人々が踊りながら山車とともに練り歩く。

女性たちの衣装はやたら露出度が高く、そしてやたら派手。

「随分と賑やかですね」と、リラもウキウキ気分。


シマカゼが踊りの輪に飛び込む。

そして「みんなも踊ろうよ」

ファフが、タルタが、ムラマサが踊りに加わる。

女性たちを片っ端からナンパするカルロ。

怪しげな商売を始めるニケ。

そんな部下たちにエンリが困り顔で「遊びに来たんじゃ無いぞ」

リラが「けどシマカゼもみんなも楽しそう」と言ってエンリの左腕を掴む。


エンリは軽く溜息をつくと「遊びたい奴等は別行動でいいか。ここからは大人の時間だ」

いきなりカルロがドアップで「って事は綺麗なお姉さんとあんな事やこんな事を」

「違うから。ってか、"大人"って単語をそういう意味に使うのは止めろ。政治とビジネスだよ」とエンリは突っ込む。

いきなりニケがドアップで「つまりお金儲けよね?」

「言っとくが、詐欺とか非合法な商売とは違うからな」とエンリは釘を刺す。


そんな彼等を見てアーサーが溜息をつくと「あいつ等、どうしますか?」

エンリは「遊ばせておけ。それでタマ、奴等を見ててくれ。後で合流するぞ。それと、猫たちの情報を集めてくれ」

「ここの状況を知りたいのよね?」

そうタマが確認すると、エンリは「特に、カブラル伯の評判。それと、現地人との関係だ」

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