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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
481/513

第481話 鉄鋼の国

ついに蒸気機関を完成させたポルタとイギリスだったが、鋳造による蒸気機関の量産が可能なイギリスに追い付くため、エンリ王子たちは、それを可能とする製鋼技術を手に入れる必要に迫られていた。

そんな中で、職を求めてイギリスから来たという製鉄技術者。


エンリ王子と仲間たちはポルタ大学へ行く。そして職工学部長から、そのイギリス人製鉄技術者に引き合わされた。

「ヴァーレです。エセックスから来ました」

そう名乗るイギリス人技術者に、エンリは「あなた達が使ってる技術って、高炉製鉄だよね?」

「はい。高温で鉄を精錬するため、水車動力で風を起こして炉内の炭を燃やすものです。ドイツのライン製鉄が開発して、イギリスに渡ったものを発展させたのですが、我々が使ってきた木炭に代わって石炭が使われるようになると、近くに石炭の出る山の無いエセックスは不利になって、すっかり寂れてしまいました」

そう語るヴァーレに、エンリは「とりあえず、イギリスの製鉄の様子を知りたい。案内してくれるか」



エンリ王子は仲間たちを連れて、ヴァーレとともにシマカゼ号に乗ってイギリスに渡り、馬車に乗ってエセックスへ向かう。


「それで、豊富になった鉄鋼を、どんな用途に使っているのかな?」

そうエンリが問うと、ヴァーレは「織物機械を動かす蒸気機関ですね。機械自体も鉄を使いますし、あとは建造物。橋とか鉄道とか・・・」

「鉄道? 道路に鉄板でも敷くの?」とエンリ。

ヴァーレは「その上に蒸気機関で走る乗り物を走らせようと、スティーブンソンという発明家が開発中でして」

タルタが「船以外にも蒸気機関の乗り物かよ」



道に二本の鉄の棒が敷かれている所に出くわす。

その鉄の棒を指して、ヴァーレは「あの上を走る乗り物ですよ」


「馬車じゃ駄目なんですか?」

そう若狭が言うと、ジロキチが「それ、マスゴミに擁立された左派政権の女性大臣の台詞な」

アーサーが「いや、あれは馬車じやなくて二番・・・って俺たち何の話をしてたんだっけ?」

「蒸気機関で走る乗り物だろ」とタルタ。

「船並みに一度に大量の貨物を運ぶんです」とヴァーレが説明。


エンリは言った。

「そんなものが・・・・・。船は大量の貨物を効率よく運ぶから、物流の基幹は河川を船で・・・ってのが定番だが、陸上で船並み・・・って、運河が不要になるぞ」



その時、地響きを立てて何物かが近づく音とともに、ヴァーレが「来ます」と彼等に告げる。

レールの上に左右の車輪を乗せた車が馬に引かれて通り過ぎる。

「あれが蒸気機関車?」

そうエンリが言うと、リラが「引いてるのは馬ですけど」

タルタが「つまり蒸気機関で動く馬型ロボット」

全員、感嘆声で「すげー」


ヴァーレ、困り顔で「いや、あれは馬車で、引いているのは普通の馬ですから」

残念な空気が漂う中、エンリたちは「そりゃそうだよね」

「誰だよ。馬型ロボットとか言ったの」

そうタルタが言うと、ジロキチがあきれ顔で「お前だろ」


「いや、蒸気機関車はまだ開発中ですから」とヴァーレ。

「けど、馬車なら普通の道でも走れるんじゃないの?」

そう疑問顔で言ったエンリに、ヴァーレは解説した。

「それが、このあたりは土が軟弱でして、雨が降るとすぐぬかるみになって、鉄鉱石のような重いものを運ぶと、車輪がぬかるみに嵌って動けなくなるんです。だから、ああいうレールを引いて走る鉄道馬車を使うという訳で」


エンリは「つまり、蒸気機関車はその延長って訳か」

「雨によるぬかるみでござるか。だからこれから道路に鉄板を敷くでござるな」

そう納得顔で言うムラマサに、エンリは「いや、鉄道ってのはこのレールの事だから」


エンリは思い出した。南方大陸で鉱石の袋を背負って運んでいた鉱山奴隷を。

彼は脳内で呟いた。

(袋に入れて背負うより、荷車でも使えば楽なんだろうが、坑道の床はでこぼこで石がゴロゴロして荷車は使えない。けど、あそこにこのレールを敷けば、楽に運べて労働は軽減されるのではないか。うまくいけば奴隷労働は不要になるかも・・・)



製鉄業者たちの集落に着く。

木造や煉瓦作りの建物が建ち並ぶ中を、ヴァーレに案内されるエンリたち。

建っているのは技術者たちの家や仕事場、鉄鉱石や製品としての鉄鋼の倉庫だ。


「これが高炉です」

そう言ってヴァーレが示したのは、煉瓦製の背の高い大きな窯。

それに接続して、風を通す横向きの煙突のようなものが地を這うように作られ、小屋へと続いている。

「水車の回転をあの小屋の機械で風に変えるのです」と彼は解説する。


小屋からは二本のベルトが川に向って伸びている。

「水車の回転をあのベルトで送風機に送ります」

そうヴァーレが言うと、アーサーが「ポルタの織物工場の動力と同じですね」

「それで、高炉というのは今まであなた達がやってきたやり方ですよね?」とエンリ。

「そうですが」

そうヴァーレが頷くと、エンリは「それで作った鉄だと蒸気機関には使えない。蒸気窯が圧力に耐えられない。より優れた鉄を作る方法がある筈ですよね?」

「コートという技師が造った反射炉ですね。こちらです」と言ってヴァーレは、更に集落の奥へエンリたちを案内した。



更に大きな背の高い煉瓦造りの製鉄窯がある。


「より高温で溶かした鉄を、風に反応させて高品質な練鉄へと、鉄を変質させます」とヴァーレは解説。

ニケが「反応させるとどうなるの?」

「硬くて割れやすい鉄が柔軟な鉄に変わります」とヴァーレは解説。


「その原理って何だろうな?」

そうエンリが言うと、タルタが「風魔法の応用?」

エンリは「それは違うと思う。これはあくまで科学による手法の筈だ。ニケさん、解るかな?」

「何かの物質による反応だと思うわよ」とニケ。


ヴァーレは言った。

「コート氏はそのあたりを教えてくれませんから。それで、この集落は一つのチームなので、出来れば我々全員を雇って欲しいのです」

「歓迎します」と言ってエンリはヴァーレに握手の手を差し出した。



ヴァーレの製鉄チームの受け入れが確定すると、アーサーが言った。

「あの、王子。彼等を使ってポルタで製鉄を始めるんだよね?」

「そうなるね」と頷くエンリ。

アーサーは「ポルタには良い鉄鉱石の鉱山なんて無いと思うけど」

「あるさ。石炭もな」と事も無げに言うエンリ。


そして彼はヴァーレに「それで、出来れば石炭というのを知りたい。それが出ている鉱山を見たいのだが」

「ご案内します。ここから少し距離があります。昔から一部で暖房に使われていたんですが、ただ、そのままでは木炭の代わりに使えないんです。それをダービーという技師が開発した技術で処理して、コークスというものを作るんです」とヴァーレ。



ヴァーレの案内で、エンリたちは馬車に乗って石炭鉱山に移動。  


鉱山村の入口に門番が居る。

ヴァーレは門番に「エセックスのヴァーレです。コークスの取引の参考に、作られている様子が見たいという人が居まして」

そしてヴァーレに案内されて、エンリたちはコークス工場へ。

無造作に資材が積まれている倉庫に入る。


「これが石炭です」

そう言って手渡された黒い物体を観察するエンリ。

「木目みたいな模様だな」

そうエンリが言うと、ニケが「木目ね。多分、地下に埋もれた木材が長い年月をかけて炭に変化したものだと思うわよ」

「化石みたいな?」とエンリ。


ムラマサが「そういえば、石炭を大量に使ってその消費に貢献すると、化石賞という勲章が貰えると聞いたでござる」

「いや、あれは勲章というより、一種の嫌がらせだと聞いたぞ」とエンリが突っ込む。

ジロキチが「シーノは滅茶苦茶使うけど、何故か貰えないらしいね。戦狼外交とか言って軍事力で脅してヤクザみたいな事をやってるから嫌われているとか」

若狭が「怒らせると怖いから敬遠されてて、温厚なジパングが毎年貰ってるとか」

リラが「やっぱり人格って大事ですよね」

「いやそれ、温厚だから嫌がらせしても我慢して大事にならないって話だろ」とエンリが突っ込む。


「やっぱり嫌がらせかよ。どんな奴等がやってるんだ?」とタルタ。

「気候行動ネットワークという浣腸団体でござる」とムラマサ。

「浣腸じゃなくて環境な」とジロキチが突っ込む。

「頭の中が化石な人達だよね?」とニケ。

「NPOという世界市民の団体とか」とカルロ。

「何だよ世界市民って」

そうエンリが疑問顔で言うと、タルタが言った。

「それ、ギリシャで民主主義を終わらせた思想だぞ。自分達が国家の主だから真面目に国を考えようってポリスで頑張ってた人たちに、自分たちは国境を越えた世界の市民で国家なんて関係無い。"ただの庶民のくせに国の政治なんかに拘るのは国家に頼る弱者でヒキニートのコドオジが惨めな私生活の憂さ晴らしでやってるに決まってる"とか」


「何だよヒキニートのコドオジって」

そうエンリがあきれ顔で言うと、カルロが「ネットの向うに居る人に対する私生活透視エスパーだって聞いたけど」

タルタが「それで意見を言う口を塞がれて、ポリスの独立が妨害されて、専制君主としてのイスカンダル王に支配されたんだ」

タマが「タルタがまともな事言ってる」

ファフが「タルタじゃないみたい」

「俺を何だと思ってる?」と、タルタが口を尖らせる。

ニケが「けど、ロシアとかシーノとかが工作員使ってやりそう」



「それでコークスって?・・・」と、エンリが横道に逸れた話を元に戻す。

「これです」

そう言ってヴァーレから手渡されたものは、粉を固めたような黒い物体で、小さな穴がたくさん開いている。

「ニケさん、違いは分かる?」

そう言ってエンリはそれをニケに手渡すと、彼女はそれを観察し、言った。

「硫黄ね。燃やすと強い酸になって鉄を溶かすのよ。このまま使って製鉄すれば、出来た鉄はすぐ劣化するわ。それを抜く処理をしたんでしょうね」


「同じ事は出来そう?」とエンリは問う。

ニケは「多分石灰に反応させるんだと思うわ。石灰はアルカリで、酸を中和するのよ」

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