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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
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第48話 最果ての海洋

ジパングで海賊バスコの情報を得たエンリ王子たちは、オケアノスの海を東へ進路をとった。



海で獲った魚を刺身にして、ジパングで仕入れた醤油で食べる。

食べながら「これ、いけるな」とカルロ。

「これなら魚だけってのも悪くない」とアーサー。

「壊血病の心配も無いし、当分食い物に困らない」とエンリ。

「ところで喉が渇いた」とタルタ。

ニケは「水は節約しなきゃ。食べ物は一週間くらいは無くても生きていけるけど、水分は三日とらないと命に関わるからね」


オケアノスの海を島づたいに進む。島がどこにあるか、ドラゴンで偵察する。



島を見つけると現地人に会い、海賊バスコの情報があるか確認し、食べ物と水の調達を試みる。


現地人は「食べ物は魚がありますが、水がありません」

「そうですか。残念だが仕方ない。次に期待しよう」とエンリは残念そうに言い、引き上げようと、彼等に背を向ける・・・が。


現地人が縋るような目で「あの、少しでいいから、水があったら分けて貰えませんか」

「いや、こっちも水不足は深刻なのです」と困り顔のエンリ。

「子供が脱水症で死にそうなんです。どうか」と涙目で訴える現地人。

結局、なけなしの水を分けてあげる破目になる。



次の島に上陸。

「水はありますか?」とエンリ。

「少しなら」と現地人。


井戸に案内されるが・・・。

子供が掘ったような小さな穴に水が溜まっている。

現地人が水の表面部分をお椀で掬う。

そして「どうぞ」


エンリが一口飲んで「これ、塩水ですよね?」

現地人は言った。

「塩分は薄いんで、渇きは癒えます。ここらへんの島はどこも、こんなふうに地面は珊瑚の砂が堆積したもので、雨が降って地下水になりますけど、土地も低くて海水も浸み込むんで塩気が混じるんですよ。真水は塩水より軽いんで、上の部分は飲めますけど、井戸の下の方は海水と同じです」


エンリは溜息をついて、隣に居るアーサーに言った。

「こりゃ、火山があるような大きな島でなきゃ、水の補給は無理だな」



水不足が深刻になる。みんな喉の渇きで元気が出ない。


元気の無いタルタが元気の無いジロキチに言った。

「壊血病には生魚だよ」

「これは壊血病じゃないから」とジロキチ。

一人元気に、みんなの世話をやく人魚姫リラ。タルタは「姫はどうして元気なの?」

「元々海の中に真水なんてありませんから」と人魚姫。


そんな中で雨が降る。

みんな大喜びで鍋やら洗面器やらを出すが、雨はすぐ止む。

がっかりする仲間たち。



雲一つ無い空を見上げる仲間たち。

「日照りが終わらない」とタルタが嘆く。

ジロキチがファフを見て「水神様、ご慈悲を」

「ファフ、そんなスキル無いよ」と困り顔のファフ。


タルタが言った。

「なあジロキチ、お前の国ってドラゴンが水の神様だってんなら、それを祀る雨乞いのまじないとかあるんだよな?」

「子供の時に見た事あるけど」とジロキチ。

するとニケが「それ、やってよ。こうなったら苦しい時の神頼みよ」


ファフがドラゴンになって海から船に向き合う

さっき降った雨で溜まった水を器に入れて水神役のドラゴンに捧げる。

「これ、飲むの?」とドラゴンになったファフが困り声。

「捧げ物だからね」とタルタ。


ドラゴンが器の水を飲む

「水神様、どうか恵みの雨を」とジロキチ。

「そう言われてもなぁ」とファフ。

「こんなので雨、降るのかよ」とタルタ。

「まあ、おまじないなんて気休めだからね」とニケ。



その時、ポツポツと雨が降り出した。

「本当に降ったよ」と仲間たち唖然。

みんな大喜びで鍋やら洗面器やらを出す


雨は次第に強まり、風も強まり、やがて嵐になった

大慌てで帆を畳み、荒れ狂う波を乗り切ろうと、ニケは舵と格闘する。

ようやく嵐がおさまり、ピンチを脱した船。



エンリは仲間たちに言った。

「素人療法は危険だよ。こういうのはプロに任せなきゃ」

「いや、本当にあのおまじないで雨が降ったのかよ」とジロキチ。

「ってか、プロなんてどこに居るのよ」とニケ。

「アーサーはおまじないのプロだよね?」とファフ。

アーサーは「あんな迷信と一緒にするな。魔法は宇宙の根源を明かす神秘の叡智だ」と言って口を尖らす。


「その叡智で水、どうにか出来ないの?」とニケ。

「物質創成は大変なんだよ。水魔法ってのは大抵、近くにある水の転移だ」とアーサー。

カルロが海を指して「ここに水が大量にあるじゃん」

「海水はしょっぱくて飲めないだろ」とアーサー。


エンリが「けど海水って、水に塩が溶けたものだから、水だけを転移できるんじゃないの?」

「そうなの?」とアーサー。

エンリが「塩焼きの単純労働者だって知ってる事だぞ」

「けど、そういう呪文は無いですよ」とアーサー。

「新式魔法式として作れないの?」とニケ。


アーサーがしばらく考える。そして言った。

「浄化魔法の応用で作れるかも。けど、真水を分離するには触媒の塩が必要だ」

カルロが「食卓塩がある」



みんなで調理場に行くと、タルタが干し肉をつまみ食いしていた。

そして仲間たちを見て、タルタはそこに居るカルロに「ちょうど良かった。カルロ、調味料の塩が切れたんだが」

全員の残念な視線に気付くタルタ。

「俺、何かまずい事した? あ、干し肉か? 魚があるだろ。刺身美味しいよね」とタルタは仲間たちに言った。

ニケが溜息をついて「そうじゃなくて」・・・。


タルタに状況を説明。

「新式魔法式作るのに塩が必要って、そういう事は先に言えよ」とタルタ。

「この非常時につまみ食いなんてする奴が悪い」とカルロ。


タルタは「しょうがないだろ。水が無いのにこの暑さで、汗はかくんだもんな」

「タルタ、汗臭い」とファフ。

「シャツを海水で洗えってか。ますますベタベタするよ」とタルタ。

「ってか、海水で濡らしたシャツを乾かせば塩の結晶が採れるんじゃ・・・」とニケ。


するとエンリが「ってか、そのシャツについてる、白い粉は何だ?」

「汗にも塩分が含まれてるんだ。その塩を使ったらどうだ」とカルロ。

アーサーが「そんな汚い塩は嫌だ」

「贅沢言うな」と仲間たち



タルタのシャツに付いた塩を触媒に使って、アーサーは自室に籠って研究を続け、三日目に魔法式が完成した。

船の甲板で魔法式を試すアーサー。


見物する仲間たちを前にアーサーが「では、これより、新式魔法式、アンチソルトの実験を始めます」

「やんややんや」とジロキチ。

「アーサーすげー」とタルタ。

「新しい魔法式作っちゃうんだもんな」とカルロ。


アーサーが説明を始める。

「この魔法は水浄化呪文の応用で、海水に多量に含まれる塩分を・・・」

「前口上はいいから、さっさと始めろ」とタルタが野次を飛ばす。

アーサーは「解ったよ、それじゃ、早速・・・」



その時、ニケがそれに気づいて、言った。

「ちよっと待って。あれ、島じゃないかしら」

海の向うに大きな島がある。火山らしい山が緑に覆われている。


みんなで望遠鏡で島を観察。

「川が流れてるよ」とタルタ。

「あれなら水が手に入る」とニケ。

「助かったんだ」とジロキチ。


喜びに沸く仲間たちを眺めて、複雑な気持ちでアーサーは三日間の研究を思い出し、そして呟いた。

(あの努力は何だったんだろう)

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