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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
478/513

第478話 高速艦の少女

ポルタ大学職工学部がついに蒸気機関を完成させた。


大学の実験室で、その完成品を前に、エンリ王子たちに得々と成果を誇るオカマン教授。

「独自の技術で世界初の動力を実現させ、ポルタはユーロのトップに躍り出たのです」

そう力説するオカマンに、エンリは「まあ、そうだな」

「全てはエンリ王子の功績です」

そうヨイショするオカマンに、エンリは照れ顔で「それほどでもあるけどね」

「この功績は永遠に語り継がれる事でしょう」

技術者たちが紙吹雪を撒き、オカマンが扇子を両手に大げさな身振りでヨイショな雰囲気を盛り上げる中、ドン引き顔の部下たちを他所に、照れまくるエンリ。

煽てに弱いエンリ王子であった。


「という訳で、信賞必罰と申します。現場で頑張ったスタッフたちにも是非・・・・・」

そんなオカマンの本音でエンリの気分は一気に醒める。

(要するに予算を上げろと・・・)と脳内で呟くエンリ。


「けど、世界初って言うが、イギリスでも発表してないだけで、もう完成してるかも知らんぞ」とエンリは突っ込む。

「それは・・・・・」

「しかも、独自の技術と言いつつ、かなりの部分、イギリスの真似だよね?」とエンリは無慈悲に突っ込む。

「それは・・・・・」

「しかもジパング刀の作り方の応用だと、手間がかかるから、あまり大々的な量産は出来ないよね?」とエンリは容赦なく突っ込む。

「それは・・・・・」


そしてエンリは指摘した。

「イギリスはおそらく量産を始めるだろうな。作り方の改善が必要だ。とにかく、鋳物でも爆発しない優秀な鉄だな。冶金科の責任は重大だぞ」

「がががが頑張ります。なので予算の増額を・・・・・」

そう声を揃える教授たちに、エンリは「具体的な成果が先だろ」

「そんなぁ・・・・・」



「けど、これで蒸気船が作れますね」

そうリラが言うと、エンリは嬉しそうに頷いて「ポルタの海運は磐石だ」

するとアーサーが「それよりこの試作品、どうしますかね?」

タルタがドアップで「そんなの決まってるじゃん。俺たちの船の動力だ」

「風任せを卒業した航海ってどんなだろう」とニケがわくわく顔で・・・。

「最強の海賊船だ。これならドレイク提督にだって勝てる」とタルタもわくわく顔で・・・。


そんな彼等にエンリは待ったをかける。

「ちょっと待て。これだけの国家プロジェクトの成果を俺が私的に使ったら、公私混同とか絶対言われる」

「何を遠慮する事があるのよ。今は絶対王政の時代よ。権力者の玩具として最強じゃない。兵器開発ってそのためにあるのよね?」

そう力説するニケに、エンリは困り顔で「それ、どこぞの偽平和主義の発想な」


するとオカマンは言った。

「ですが、試作品なので試用期間が必用かと」

「確かに・・・・・」

そう言ってエンリは暫し思考する。


「よし、こいつは新タルタ号の動力だ。俺たち海賊団の最強の武器になるぞ。何しろ俺は絶対王政国家の王太子。権力者の玩具にかける金に天井なんてあるもんか。欲しいは正義だ!」

そう言って盛り上がるエンリを見て、彼の部下たちはあきれ顔。

「どこぞの偽平和主義の発想はどこに行った」と彼等は一様に呟いた。



エンリ王子たちは、試作した蒸気機関を海賊学部造船科に持ち込む。

そして研究室に居た教授たちに、エンリは動力船の試作を命じた。


「この蒸気機関を使って新タルタ号を・・・ですか?」

そう教授たちが言うと、エンリは「世界最初の動力船だ」

研究室の空気が盛り上がる。

「腕が鳴るなぁ」

そう一人の教授が言うと、他の教授たちは「腰も鳴りますね」と言って、両手を腰に当て、腰を前後に振る。

「そういうどこぞの格闘ギャグ漫画のネタは要らない」と困り顔で突っ込むエンリ。


その時、タマが指摘した。

「けど、これで風力が不要になると、航海士は要らなくならない?」

「確かに、何やかやで予算をくすねる人がリストラになれば、随分と会計が楽になる」とエンリはその気になる。


ニケは慌てて「ちょっと待ってよ。私を首にする気? 魔導艦のヤマトを使うフェリペ皇子たちだって、ヤンもマーモも首にしてないわよね?」

「あいつらは機械技師で医者で潜入スキルもあるからなぁ」とエンリ。

ニケは憤懣顔で「私だって医師で砲手だわよ」

「そりゃそうか」

そしてニケは指摘した。

「それに風力は不要にならないと思うわよ。この動力だけだと相当な量の燃料が必要だから、風のある時は風を使わないと遠洋には出られないから」



「それでどんな船を?」

そう教授たちが言うと、アーサーが「どうせなら魔導船の二番艦にしませんか?」

カルロも「そうしましょうよ。軍艦の魂を持つ女の子とのキャッキャウフフは海の男の夢です」

エンリは溜息をついて「そんなのイギリスのオッサン2名だけ」

「ってか、カルロの場合軍艦の魂は不要なんじゃ・・・」とアーサーも・・・。


「けど、みんな乗り気みたいですよ」と言って、リラが周囲で盛り上がっている仲間たちに視線を向けた。

ムラマサが「メンタルモデルは誰にするでござるか?」

カルロが「ルックスは最重要だよね」

ニケが「設定スキルは60種は欲しいわよね」

若狭が「なるべく低コストで」

ジロキチが「四刀流が使えるようにはならんか?」

エンリはあきれ顔で「お前等なぁ」


するとタルタが言った。

「けど、海上の魔法戦にすごく有利だぞ。とにかく俺は、ドレイク号に対抗できる船が欲しい」

ファフが「タルタがまともな事言ってる」

タマが「タルタじゃ無いみたい」

タルタは憤懣顔で「お前等俺を何だと思ってる!」


すると、造船科の教授の一人が「つまりスピード重視ですか? だったら彼女ですね」

「猫耳は必須よね」とタマが言い出す。

別の教授が「ケモミミの軍艦娘なんて居ないですが、近いデザインの娘なら・・・・・・」

エンリは困り顔で「だから、そういうのは要らないから」


教授たちは設計作業を開始し、エンリたちは城に戻った。



そして、時が経ち・・・・・・・・・・。

蒸気機関を使った魔導船が完成したとの報告を受け、エンリたちが受け取りにポルタ大学の造船科へ。


ドックで仕上げを終えたばかりの船を前に、盛り上がるエンリと仲間たち。

「これが俺たちの新しい船かぁ」

そうエンリが呟くと、教授が「シマカゼ号です」

「その艦名、新タルタ号じゃ駄目?」と、タルタが物欲しそうな目で・・・。


「シマカゼ号です」

そう言って、カルロの目の前で、金髪ロングの女の子がドアップで駄目押しする。

タジタジとなるタルタの肩をポンと叩き、エンリは言った。

「タルタ、諦めろ。ヤマトさんの時もそうだっただろーが」

「そんなぁ」



「で、この子がこの艦のメンタルモデルか?」

そう、女の子を見て言うエンリに、女の子は「シマカゼです。駆けっこなら誰にも負けません」


「にしても・・・」とエンリは彼女を見て呟く。

小柄で細身。ブロンドのロングに黒いリボンが二本、兎の耳のように立っている。

紅白の横島ニーソに金属製のゴツいブーツと三つの二連砲塔付き機械背嚢。

そして、ヤマト以上に布面積の少ない上着に、ヤマト以上に短いスカート。


「これ、大丈夫かな?」

そうジロキチが言うと、若狭が「外に連れ出すと速攻で職質されそう」

「ってかそのスカートと・・・」

目のやり場に困る・・・という顔でそう言いかける男性陣に、シマカゼは言った。

「大丈夫。これは見せ下着だって教授が言ってた」


エンリは溜息をつくと、教授たちに「つまりお前等の趣味?」

彼等は言い訳顔で声を揃えて「違いますよ。設定資料にこうなっていたんです」


「どうせヘンリー王とドレイクの趣味だろ」

そうジロキチが言うと、ムラマサは「拙者は気に入ったでござる」

「ムラマサってそういう趣味だっけ?」と若狭が不審そうな視線を彼に向ける。

だがムラマサは能天気声で「靴下が実に目出度いでござる」

「つまりお祭り娘?」

そう能天気に言うファフに、エンリは「そういう趣旨じゃ無いと思うぞ」



「それで提督は誰?」

改めてそう問うシマカゼに、エンリは「海軍に居るが」

「じゃ無くてユーザー登録する人の事だよね?」とカルロ。


「船長ならタルタだが・・・・・」

そう逃げ腰顔で言うエンリに、タルタは「いや、俺たちの司令官はあんただろ」

「言っとくが俺はロリコンじゃ無いぞ」とエンリは予防線を張る。

仲間たちはエンリを指し、声を揃えて「とにかく彼がユーザーのエンリ王子だ」


「よろしくね、提督」と、エンリの顔を覗き込むようにして言うシマカゼ。

「・・・まあ、船の事はよろしく頼む」

そう頭を掻きながら言うエンリに、シマカゼは「で、初心者ホイホイのシマカゼを選択した提督はロリコンさんなんだよね?」

エンリは慌てて「違うから。ってか初心者ホイホイって何だよ」


そんなエンリの肩をタルタはポンと叩き「いや、彼女を選択した以上は王子が責任を持つべきだと思うぞ」

「早い艦がいいと言ったのはタルタ、お前だろーが」とエンリは突っ込む。



「それより猫耳はどうしたのよ。それじゃむしろ、うさ耳じゃないのよ」

そう言った猫の姿のタマを、シマカゼはしゃがんで、じーっと見る。

「猫さん猫さん、あなたはだーれ?」

「私は猫の貴族のケットシー・・・・・」

そう言いかけたタマの言葉を遮るように、シマカゼは「吾輩は猫である、ですかそーですか」

「・・・」


「それでお名前は?」とシマカゼ。

「タマよ」

そう答えたタマの台詞をシマカゼはスルーして「名前はまだ無い、ですかそーですか」

タマは憤懣声で「人の話を聞きなさいよ!」

「人じゃなくて猫だけどね」とタルタが突っ込む。


「なら、私が名前をつけてあげる。あなたは今日から連装砲ちゃん四号だよ」

そうシマカゼが言うと、彼女の機械背嚢の三体の二連砲塔に足が生え、そこから飛び降り、そして言った。

「僕たちの後輩だよね」

「よろしくね」

タマは「だから違うってば」


「こいつら自分で動けるのかよ」

その三体を見てそう言うエンリに、教授は「彼女の使い魔みたいなものでして」


リラと若狭、連装砲ちゃんたちを見てテンションが上がる。

「可愛い」とリラ。

「武器というより、ゆるキャラみたい」と若狭。



ユーザー登録の手続きを終えるエンリ王子。

エンリは教授たちに「それじゃ、船の整備を頼んだぞ」と言い残して、仲間とともに研究室を出た。



城に戻ろうとポルタ大学を出て、通りを歩くエンリ王子たち。だが、何故か周囲の視線が痛い。


「俺たち、何か不審な要素ってあるか?」

そうエンリが言うと、アーサーが「そりゃ有名人ですし」

「けど、王太子だから・・・ってんなら尊敬の眼差しだろ。これってまるで不審者に対する視線だぞ」とエンリ。

「そりゃ変態お魚王子ですし」とカルロが言い、頷く仲間たち。

エンリは不満声で「お前等なぁ」


「あの、視線を集めているのは彼女なんじゃ・・・・・」

そう言ってリラは、彼等の後ろに居る女の子を指した。

エンリたち唖然。


「シマカゼ、何でついて来てる?」

そうエンリが、いつの間にか後ろを歩いていたシマカゼに言うと、彼女は「提督は軍艦娘とキャッキャウフフするんだよね?」

エンリは溜息をつくと、「そういう意図は無いんだが・・・。とにかくこの格好、何とかしろ。これじゃ目立ちすぎだ」

カルロが「いや、女性の衣服は布面積が少ないほど良いと」

「誰の台詞だよ」とエンリは突っ込む。

カルロは「小は大を兼ねると」

「逆だろ」とエンリ。



困り顔のエンリに、リラが「とりあえず、上に何か羽織ればいいかと・・・」

「だったらこれを着てろ」

そう言ってエンリは上着を脱いでシマカゼに羽織らせる。


「これ、提督の服」

シマカゼはそう呟いて、嬉しそうにそれを抱きしめた

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