第473話 刀鍛冶の恋人
魔剣の炎に耐える千本の刀を入手したエンリ王子のタルタ号は、その刀を鍛えた裕二を乗せてポルタに帰還した。
とりあえず裕二をポルタ城の客間に落ち着かせるエンリ。
そしてシャナの主、即ちフェリペ皇子とその従者も、エンリとともに彼を迎えた。
「ようこそポルタへ」
目一杯の背伸び顔でそう言う六歳の幼児に、裕二は「お名前は?」
エンリはフェリペの肩に手を置いて「俺の息子のフェリペだ」
シャナも「これでも私の主だぞ」
裕二は残念顔で「封建社会って大変なんだな」
「馬鹿にするな。僕はとっても強くて強きを助け弱きを挫くヒーローだぞ」
そう口を尖らせて言うフェリペに、シャナは「主、それは弱きを助け強きを挫く、だぞ」
「そうだった」
そうまごつき声で言うフェリペに、裕二は「偉いな、少年。がんばれよ」
そんな彼にシャナは「いや、強いのは本当だ」
「だからシャナはこの子の家来になったのか?」と裕二。
シャナは「主従に年は関係無い」
「そうなのか」
するとフェリペは「シャナはメロンパンが食べられるから家来になったんだよ」
「つまり食べ物に釣られた?」
そう怪訝そうに言う裕二に「これがメロンパンだ」と言って、シャナはマジックボックスからメロンパンを出して裕二に見せる。
裕二はそれを手に取って「普通に菓子パンだな」
そんな裕二にフェリペは「それより君も、僕の海賊団に入らないか?」
「つまり海賊ごっこ?」
シャナが「いや、実際に海に出て冒険するぞ」
「子供をそういうのに巻き込むのは危ないと思うが・・・・・」と裕二。
「僕はヒーローだ」
そう言ってフェリペは鉄の仮面をかぶり、ノリノリで変身ポーズを決める。
「闇のヒーロー、ロキ仮面!」
困り顔の裕二はエンリに視線を向けた。
エンリも困り顔で「そういう可哀想なものを見る目で俺を見るのは止めて」
「いや、子供はああいうのを見て、勇気を学ぶんですよね?」
そうフォローする裕二に、エンリは「解ってくれるか」
するとフェリペは更にノリノリで「父上はロキ仮面の初代なんだよ。ノルマンの人たちを守るために、変身して悪い皇帝軍と戦ったんだ」
残念な空気の中、疑問顔の裕二にエンリは涙目で「だから、そういう可哀想なものを見る目で俺を見るのは止めて」
どうにか場の空気が正常に戻ると、エンリは裕二に言った。
「それよりお前、シャナと一緒にフェリペの従者になる気は無いか?」
シャナも裕二の上着の裾を掴み、「そうだな。裕二、私たちの所に来い」
その時・・・・・・。
「シャナさんの彼氏が来たって本当ですか?」
ライナ達三人がテンションMAXで登場。
裕二を包囲して盛り上がる、三人の女の子。
「優しそうな人」とリンナ。
「シャナさんいいなぁ」とライナ。
ルナが「シャナさんとどこまで行ったの?」と裕二に詰め寄る。
リンナも「キスとかした?」
ライナも「あんな事やこんな事は?」
タジタジとなる裕二。
そして彼がまごつくと、三人の矛先はシャナに向かう。
ルナが「どうなんですか? シャナさん」
三人、声を揃えて「正直に言っちゃいなさいよ。裕二さんとどこまで行ったんですか?」
そんな彼女たちに、シャナは「裕二となら、どこまででも行けるぞ。何しろこいつはドラゴンの力で空だって飛べる」
「キャーーーーーーーー!」
黄色い声が炸裂。困り顔の裕二と、何やら解ってなさげなシャナ。
エンリは困り声で「いや、その行くとか意味が違うと思うぞ」
やがて場が落ち着くと、ライナが言った。
「そういえば、裕二さんのお父さんってドラゴンなんですよね? 裕二さんもドラゴンなんですか?」
「そうなの? ファフと一緒だぁ」
そう言ってファフが裕二の左手を引っ張る。
「いや、違うんだが・・・・・」
そう困り顔で否定する裕二に耳を貸さず、ファフは更にテンションを上げて「ねえねえ、ドラゴンに戻ってみせてよ。ジパングのドラゴンってどんなの? 水の神様なんだよね?」
タジタジになる裕二。
「そーいや、ファフは刀を船に運ぶ係で、彼の闘いや父親を見てなかったな」
そうエンリが言うと、シャナのペンダントのアラストールが「私も見てないが、裕二は変身したドラゴンでは無いぞ」
「裕二、見せてやったらどうだ」
そうシャナが言うと、裕二は「そうだな。ドラゴニックオーラ!」
掛け声とともに、裕二の全身から光を放つ。そして宙を舞う裕二。
「ドラゴンの戦闘力を纏ったオーラだ。どんな攻撃だって跳ね返すぞ」
そう説明する裕二にライナたち、はしゃぎ声で「最強じゃないですか」
実演を終えて着地する裕二に、ライナは言った。
「それで、シャナさんとは何時結婚を?」
「結婚?」と怪訝顔の裕二。
リンナが「アラストールさん、俺の妹は誰にも渡さん・・・とか言いませんよね?」
「それは・・・」
「結婚って何の話だ?」と、なお状況を把握できない裕二。
「シャナさんの恋人さんなんですよね?」
そうルナに言われ、裕二は「そうだっけ?」
ライナが「シャナさんは、恋人に会いにジパングに行ったんですよね?」
「そうなのか。それで恋人には会えたのか?」
そんなすっ呆けた事をシャナに問う裕二に、ライナたち三人は「いや、あんたの事でしょーが!」
そんな裕二にシャナは、寂しそうに言った。
「いや、私がジパングに行ったのは、炎に耐える千本の刀を手に入れるためで、こいつ等は早とちりしただけなんだ。忘れてくれ」
シャナがその場を去ろうとすると、ペンダントのアラストールが「それでいいのか? シャナ」
シャナは「いいんだ。裕二はただの友達だ。それが別れてから200年間、お前と二人であの洞窟に居て、他の人間に会う事もなくて、いい奴だったな・・・ってずっと忘れられなくて、主たちの仲間になってから、周りの奴等が彼氏とか彼女とか作って、いちゃいちゃしてるのを見て、私にも裕二が居たな・・・って、それだけだ」
裕二は言った。
「俺もずっとシャナの事が忘れられなかった」
「裕二・・・・・」
そう呟いて彼を見つめるシャナの肩に手を置き、彼女を見つめて裕二は言った。
「俺の恋人になってくれ」
「いいぞ」
黄色い歓声を上げる三人の女の子。
リンナが「それじゃ、早速結婚式ですね」
ニケが「いい式場を紹介するわよ。男の甲斐性の見せ所よ。結婚資金に糸目なんてつけないわよね?」
ファフが「大きなケーキが出るんだよね?」
タルタが「ご馳走も酒もいっぱい出て・・・」
若狭が「披露宴はゴンドラで降りて来て」
ムラマサが「お神輿に乗って入場するって聞いたでござる」
ジロキチがあきれ顔で「どこの結婚式だよ。ってか気が早すぎだろ」
「その前に、魔法学部でドラゴニックオーラの解析を・・・・・」
アーサーがそう言うと、三人の女の子たちの攻撃が彼に集中。
「何言ってるんですか?」とリンナが・・・。
「アーサーさん鬼畜!」とルナが・・・。
アーサー、タジタジ顔で「いや、人体実験とかじゃないから。精密検査みたいなもので・・・」
「じゃなくて、二人の仲を邪魔するとか、馬に蹴られて死んじゃいますよ」
そうライナが言うと、シャナのペンダントのアラストールが「いや、彼の身の振り方も決まって無い、って話なんだが・・・・・」
「あ・・・・・」
シャナ、顔を赤くしながらアラストールに「もしかして、それでいいのか?って」
「話はまだ終わってないだろ? って意味で言ったんだが」とアラストール。
残念な空気が漂う。
「それで、これからどうする?」
そうエンリが裕二に言うと、ニケがすかさず「私の金蔓・・・じゃなくてパートナーになるわよね? それでドラゴニックオーラの力でお金ガッポガッポ」
エンリ、すかさず「却下!」
カルロが「ホストになりませんか?」
「おい!」
カルロは続けて「ルックスは俺に劣るけど、人当たりが良さそうだからきっとナンバーワンに」
「おい!」
更にカルロは続けて「何人ものセレブ女に貢がせてお金ガッポガッポ」
「ニケさんかよ」とエンリ、あきれ顔。
シャナは怖い顔で灼熱の刀を半分ほど抜いて、その刃をカルロの首に突き付ける。
「おい! カルロお前、刀の錆になりたいか?!」
タルタが「やっぱり海賊だろ」
ジロキチが「四刀流の後継者に」
アーサーが「魔法を勉強してみませんか?」
それぞれ好き勝手な事を言うエンリの仲間たち。
そんな中、タマが言った。
「ってか、働く必用あるの?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「あの千本の刀の代金、まだ貰って無いわよね?」とタマは指摘。
「いや、ちょっと待て」と、慌ててストップをかけようとするエンリを無視して、タマは続けた。
「秀吉様から受け取った同じ数の同じ名刀に払ったのと同じ額、貰える筈よね?」
「あ・・・・・」
「いや、別に俺は・・・・・」
そう言ってまごつく裕二の肩をマゼランはポン、と叩くと「こういう事はちゃんとしないと駄目だぞ」
タルタが「人間、働いたら負けだぞ」
「ニートはさすがに嫌だ」
そう裕二が困り顔で言うと、ムラマサが「仕事なら自宅警備員という立派な役目があるでござる」
「シャナさんのヒモ」とカルロが・・・。
「女性を支える専業主夫」とチャンダが・・・。
裕二、困り顔で「勘弁して下さいよ」
フェリペが泣きそうな声で「あの・・・・・・。僕の従者になるんじゃないの?」
シャナも「そうだぞ。私の隣に居て一緒に働こう」
「それはいいが、従者って、つまり宮仕えだよね?」
そう裕二が言うと、チャンダはドヤ顔で「国家公務員は勝ち組だぞ」
「偉い人の機嫌とって家柄マウント貴族の上から目線にヘコヘコするだけの簡単なお仕事・・・・・・・・・・・・」
マゼランはそこまで言うと、しゅんとなってチャンダと顔を見合せる。
そして「俺たちってそんな立場なんだよな」
落ち込むマゼランとチャンダ。
裕二は溜息をつくと「母さんが言ってたんだ。宮仕えだけはするな・・・って」
「お祖父様が領主からの無理難題で、散々苦労したんですものね」とリラ。
「それに俺は刀鍛冶だから」
そう裕二が言うと、若狭が「だったら父の所で働きません?」
ムラマサも「そうでござる。裕二殿も刀剣男子になるでござる」
「いや、それは違うぞ。刀鍛冶は作る方で、作られる方じゃない」と突っ込むエンリ。
「ここにも刀鍛冶は居るんですか?」
そう裕二が言うと、エンリは「ジパングから移住したんだよ。戦乱は絶えないから需要がある」
「なります。ポルタの刀鍛冶に俺はなります」と裕二は言った。
裕二は清定の工房に就職した。
そして数日後、エンリは仲間たちとともに、様子を見に行った。
ちょうど作業を小休止して、若狭が入れてくれたお茶を飲んでいる所。
エンリは清定に訊ねた。
「裕二の仕事ぶりはどうだ?」
清定は「それが、作業が滅茶苦茶早くて、あっという間に刀を作っちゃうんですよ。しかも、鉄を切るくらいの名刀を・・・。これじゃ、私の出番が無い」
「やっぱり俺、迷惑でした?」
そんな事を済まなそうに言う裕二に、清定は縋るような涙目で「頼むから辞めないで」
そんな彼等の様子を見て、アーサーが「どうしますか?」
「どうって?」
怪訝顔でそう言うエンリに、アーサーは言った。
「鉄を切れる刀が他国に流出するかも・・・って事ですよ。炎剣兵団用の千本の他に、秀吉様からの千本の刀を買い取りましたけど、同じものがこれから作られて勝手に出回る事になったら・・・」
エンリ王子唖然。
そして「・・・ここを軍の専属にするか」
「買い取るにも費用がかかりますけど」とアーサー。
エンリは言った。
「軍にあった剣を売り払えばいいんだよ。それに、槍や楯も彼に作って貰えば、最強の軍隊になるぞ」