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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
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第471話 ジパングの怪盗

シャナの灼熱に耐える刀を鍛える、ドラゴンのトモガラの血を受け継ぐ刀鍛冶の少年、裕二。

エンリ王子はシャナを伴ってジパングに渡り、彼女と再会した裕二が鍛えた千本の刀を受け取った。

シャナと共にポルタへ旅立つ決心を固めた裕二。

そして、トモガラの気配を追って来たフレイムヘイズのマージョリーとの戦いの中で、裕二が自らを人の存在を無意識のうちに喰うトモガラと思い込んでいたのが実は勘違いだった事を知る。

そしてマージョリーは、実は生きていたドラゴンのトモガラである裕二の父を伴って、フレイムヘイズ族の里に戻った。



千本の刀は既にファフとアラストールのドラゴンに乗せて一足先に港に停泊しているタルタ号へ飛んでいる。

エンリたちはシャナと裕二を連れて、徒歩で港に向かった。


そして港で船に乗ろうとするエンリに、見覚えのある顔が声をかけた。

「エンリ殿ではござらぬか」

意外な知人との再会に、エンリも驚き声で「古田織部さん・・・」


古田は懐かしそうに言った。

「素晴らしい刀剣が手に入ると聞いて、ここに来たのですが、エンリ殿もそれが目当てで?」

「まぁ・・・・・」

(骨董品の類だけかと思ったら、この人にも侍らしい所もあったんだ)とエンリは脳内で呟き、見直した・・・といった視線で古田を見る。

そして古田は「最近、この国の刀がバテレン商人の間で美術品として求められていると聞きまして・・・」

(やっぱりそっち系ね)とエンリは脳内で呟き、がっかり顔で古田を見る。


古田は自分の刀を抜き、右手で持って翳したそれを、うっとり顔で・・・・・。

「改めて見ると、その美しさ。砥いだ側面に現れる、刃先に向けて流れるように折り重なる無数の綾の如きこの模様」

ジロキチも背負った刀の一本を抜いて「解りますか? これは俺の愛する刀の一本なんですが」

それを見て古田は、更にテンションを上げて「素晴らしい。この腰つきといい胸の張り具合といい・・・」


そんな古田を見て、タルタは「この人、あれが通じるのかよ」

エンリも「ほんと、どこが腰でどこが胸だか」

ジロキチ・ムラマサ・若狭と盛り上がる古田。



そんな彼等の刀剣談義が一段落すると、エンリは古田に訊ねた。

「それで、その刀が手に入る所って?」

「波平体験鍛冶工房ですよ」と古田。

タルタはあきれ声で「あの観光地かよ」


「それで、手に入ったんですか?」

そうエンリが訊ねると、古田は「それが、名刀が作られていたのは二百年も前で、今は観光地として体験工房みたいな事をやっていまして」

「手ぶらで帰って来たと?」とエンリ。

「いえ。折角なので釘作りに挑戦しまして」

そう言って古田は懐から一本の釘を出した。

そして「見て下さい。このシンプルなフォルム。けして鋭くは無いが、何物をも貫く意思を感じさせる、無骨にして素朴なオーラを放つ逸品。これぞ詫び錆びの極致」


「出来立てなんで錆びてませんけど」

そう疑問顔でエンリが言うと、古田は「あと十年もすれば・・・・・・」

エンリたちは一様に思った。

(やっぱりこの人の方向性は解らん)



「それで大阪城へはこれから?」

そうワクワク顔で問う古田に、エンリは迷惑そうに「そういう訳では・・・・・・」

古田は涙目で訴えた。

「水臭いではござらぬか。秀吉様は次は何時エンリ殿に会えるのかと、心待ちにしておられます。是非・・・・・」


結局、大阪城に寄る嵌めになったエンリ王子と仲間たちは、古田を乗せてタルタ号出航。



大阪城でエンリたちは、秀吉と家臣たちの歓迎を受けた。

本丸御殿の広場で宴会が開かれ、家来や女性も交えてわいわいやる。


上機嫌な秀吉と家来たちの相手をしながら、エンリは何やら違和感を感じる。

広場に案内される廊下のあちこちで、すれ違う武士たちが放つ殺気。それを思い出し、エンリは秀吉に訊ねた。

「ところで、何やら城内が物々しいようですが」


「物盗りが来るらしいのですよ」と能天気顔で答える秀吉。

リラが唖然顔で「泥棒ですか?」

エンリも唖然顔で「ってか、これから来るって。予知能力のある人でも?」

「いえ、その泥棒本人から予告が来まして」

そう言って秀吉が出した、五右衛門カードと書かれたカード型の予告状に曰く。

「今宵、城内に秘蔵された斬鉄剣なる名刀を頂きに参上する。石川五右衛門」


「この五右衛門って?」

そうエンリが問うと、秀吉は「伊賀の出身らしいのですが、最近世間を騒がせている泥棒でして」

「ルパンみたいな事をやってる奴が居るって訳かよ」とタルタ。

「目立ちたがりなのかな?」とカルロ。

ジロキチが「むしろ逆のような気がするが・・・・・」


「それで、その斬鉄剣って?」

そうエンリが訊ねると、秀吉は「それが、心当たりが無くて。その名前からすると、鉄をも斬れる名刀という事なのでしょうけど」

シャナが「鉄くらい私だって切れるぞ」

ムラマサが「拙者にも切れるでござる」

そんな二人にエンリは「お前等は特別だから」



その時、襖が開いて、真田幸村が報告に来た。

「警備の手配が整いました」

それを聞いたエンリは疑問顔で「城内のどこにあるか解らないとしたら、どうやって警備するんですか?」

「侵入した賊を捕えるため、城中に式神を配置しています」と答える幸村。


「どう思う?」とエンリは部下たちに・・・。

ジロキチが「相手はあの真田十勇士だぞ」

ニケが「けど五右衛門って人も忍者なんだよね?」

アーサーが「多分、隠身くらいは使えるよね?」

「それより斬鉄剣って、もしかして・・・」

そうエンリが呟くと、古田はワクワク顔で「さぞ見事な名刀なのでしょう。是非拝んでみたい」


そしてエンリは、人化した姿で宴に加わっていたタマに「城内の猫たちから刀に関する情報を集められないかな?」

「猫はそう多くは居ないみたいだけど」

そうタマが答えると、タルタが「けど雀とか鼠とかトカゲとか居るよな?」

「猫以外とも話せるのか?」とエンリ。

タマは「話せるけど、向うは猫を怖がるわよ」

「だったら・・・・・・」



宴が終わると、エンリたちは御殿の庭に出た。そして、そこに居る雀をアーサーが風魔法で捕まえる。

「殺さないで下さい。私には妻と十匹の子供が・・・・」

そんな雀の命乞いをタマが通訳すると、エンリは「殺さないから、聞きたい事があるんだ」


情報集めを約束した雀を放つと・・・。

「次は鼠だね」

そう言うエンリに、アーサーは「ネズミ捕りでも仕掛けるんですか?」

「アーサーは鼠の使い魔が居たよね?」とエンリ。


アーサーのネズミの使い魔で、城内に居る鼠をおびき出して、罠で捕まえる。

「殺さないで下さい。私には妻と二十匹の子供が・・・」

そんな鼠の命乞いをタマが通訳する。

「そんなに子供作ったら鼠だらけになるぞ」

そのエンリの言葉をタマが鼠に伝えると、鼠は慌てて「嘘です。私はまだ童貞です。メスを知らずに死ぬのは嫌です」

タマの通訳を聞いて、エンリは「殺さないから、聞きたい事があるんだ」



そして・・・・・。

ネズミと雀が情報を集めて戻って来る。その報告を聞いて頷くエンリ王子たち。

「なるほど、そういう事か」



その夜・・・・・・・。


黒く塗られた三角形の巨大な凧が大阪の夜空を舞う。

その凧に一人の男が乗っていた。

黒い袴に灰色の上着、長髪の髪にやや面長で、目つきの鋭い風貌。そして腰に一本の刀を差していた。


凧が城を見下ろす高度に達すると、男は城に向けて大き目の油を塗った半透明の呪符を翳す。

「あそこか」

そう呟くと、彼は凧を傾けて、綱を切る。

凧は滑空し、城に向けて滑るように降下。

その時、一本の矢が凧に向けて放たれ、凧に貼られた丈夫な紙を貫いた瞬間、爆発した。


男が城内の一画に飛び降りると、周囲に、わらわらと侍たちが群がる。

「石川五右衛門、大人しくお縄につけ」

そう叫ぶ侍たちに、凧から飛び降りた男=石川五右衛門は「俺が落ちて来るのがここだと、何故解った」

「蛇の道は蛇という奴でな。俺は予知の力があるのさ」

侍の一人がそう言うと、五右衛門は「そうではあるまい」と・・・。


五右衛門は火遁の術を使い、一瞬、周囲は火に包まれた。

侍たちは式神札となって燃える。

「あちこちにバラまいた式神で足止めのつもりか。甘いな」と五右衛門は呟く。



だが・・・・・。

「そうでも無いぞ」

その声に五右衛門が振り向くと、そこには三人の忍者が居た。

彼等は一瞬で五右衛門を取り囲み、そして名乗った。

「猿飛佐助」

「霧隠才蔵」

「望月六郎だ」


五右衛門は印を結び、影分身の術を使った。

煙とともに、大勢の五右衛門が出現。

「どれが本物か解るまい」

そう声を揃える五右衛門たちだが・・・。


「そこだ」

そう叫んで佐助が投げたくないを、五右衛門が弾く。

それとともに、多数居た五右衛門の分身が煙とともに消えた。


「ならこれはどうだ」

そう言うと五右衛門は、再び影分身の術を使うとともに、隠身の術を使う。

煙とともに一斉に出現した五右衛門が、一斉に姿を消した。

「隠身は精神を集中すれば見破る事も出来る。だが、隠身を纏ったこれだけの数。見破る事など出来まい」と姿なき五右衛門たちは声を揃える。


才蔵が印を結び、蛍霧の術を使った。

一瞬で周囲が薄い霧に包まれ、個々の分身の居る場所の霧が光を放った。

「この場から遠ざかろうとする者が本物だ」と忍者たちに号令したのは、いつの間にか姿を見せていた穴山小助だ。

既に大勢の侍が、周囲を取り囲んでいる。真田十勇士と彼等が指揮する侍たちだ。


突破しようとする五右衛門の分身たちと十勇士たちの乱戦となった。

「本物は強いが他はそれほどでもない。とにかく数を減らせ」と侍たちに号令する小助。

乱戦の中、十勇士たちは次々と、霧の光を頼りに意識し、切りかかって一瞬で切り伏せるが・・・・・。


「これも違う」

「こいつも違う。本物はどれだ」

そう口々に言いながら苛立ちを見せる十勇士たち。


その時一人が、立ちはだかる侍を切り伏せ、包囲を抜けた。

「そいつが本物だ。追え!」

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