第468話 刀鍛冶の少年
近い将来に起こるであろう、ユーロ全土を巻き込む動乱に対応するための、魔剣の炎を分与する兵団の創設に着手したエンリ王子。
そのための炎の熱に耐える千本の刀を求めて、エンリと仲間たちはシャナを伴い、タルタ号に乗ってジパングを訪れた。
エンリたちは平戸を出て、タルタ号は裕二の居る地方へ向かった。
船の甲板で海図を広げ、航路を確認するニケとエンリたちに、シャナはその一点を指して、言った。
「先ず、裕二の故郷へ行きたい。裕二の両親の墓がある筈だから」
「名工が居たっていう?」
そうエンリが確認すると、シャナは「彼の娘はトモガラの能力の副作用で体を悪くして死んだ筈だ。だから一族はとっくに絶えていると思う」
「せめて線香の一本でも・・・って訳ですね」とリラ。
港に船を泊め、シャナの案内で徒歩で裕二の故郷だった所を目指した。
目的地に着くと、街が出来ていた。
街の入口の看板に曰く「ようこそ刀鍛冶の里波平へ」
エンリ、唖然顔で「やたら栄えているんだが」
「観光地になってるじゃん」とアーサーも唖然顔。
観光施設があちこちに建っている。
刀鍛冶体験道場、刀剣の湯、刀剣執事喫茶花丸、旅館波平・・・・・。
武器屋が並び、土産物屋で木刀を売っている。
ジロキチ、若狭、ムラマサがテンションMAX状態。
「刀剣執事喫茶、入ってみません?」
そう若狭がはしゃぎ声で言うと、ムラマサが「あの刀剣饅頭、美味そうでござる」
ジロキチが「いや、先ず武器屋だろ」
他のメンバーも釣られて観光気分に・・・・・・。
そんな彼等にエンリはあきれ顔で「お前等、何しに来たんだよ。俺たち観光客じゃ無いぞ」
ニケも「なってないわね」
「やっぱり、こういう時にまともなのは、ニケさんだけだよなぁ」
そうエンリが言うと、ニケは「刀に特化した観光地なんて、すぐ飽きられるわよ。最初は珍しさで客が集まる。それに気を良くして資本投下して、人出が絶えたら全部パーよ・・・って、どうしたの?王子」
エンリ、溜息。
そして残念声で「いや、やっぱりニケさんって、こういう人だよね」
村の本家に行くエンリたち。
「ここの初代の孫に裕二という少年が居た筈だが」
そう言ってシャナが案内を頼むと、当主が出て来た。
裕二について当主は語った。
「十代の若さで祖父や父を越える刀を鍛えた刀鍛冶の天才だったそうですが、まもなく家出したとの事で・・・」
「その後、ここは誰が?」
そうエンリが問うと、当主は「彼の母親、つまり初代の娘が再婚して、跡継ぎを婿に貰ったと聞きます」
「母親は体を壊して早死にしたと聞いたが」
そうシャナが質すと、当主は「噂では妖怪に憑りつかれたと・・・。けど、結局ただの風邪だったみたいで」
シャナ唖然。
墓地に案内され、初代とその娘の墓に手を合わせるシャナ。
そして村を出て、シャナの先導で山道を歩くエンリたち。
木立の中を進みながら、シャナは「この先に彼を匿う宝具がある筈だ」
更に山道を登るエンリたち。
次第に傾斜を増す上り坂を進みながら、シャナは「この道を登ると彼を匿う宝具がある筈だ」
尾根に登り、下りの山道を歩くエンリたち。
「この谷を越えると彼を匿う宝具がある筈だ」
そう言いながらも、困り顔を見せるシャナに、エンリは「もしかして迷った?」
シャナは「もしかしなくても迷った」
残念な空気が漂う中、エンリは「どんな所なんだ?」
「彼が建てて住んでた小屋と仕事場がある」とシャナは答える。
「木造の?」
そうエンリが確認すると、シャナは「そうだが」
残念な空気の中、エンリは言った。
「こんな山の中で200年も経ったら、とっくに朽ちてると思うぞ」
「・・・・・」
残念な空気の中、アーサーが「草木の生え方も変わってると思いますが」と追い打ちをかける。
「どうしよう」
残念な空気の中、途方に暮れるシャナとエンリたち。
「こういう時は俺の出番ですよね」
カルロはそう言うと、ダウジング棒を取り出した。
「こっちです」
カルロの先導で山中を歩くエンリ王子たち。
やがて、草の生えた広い平坦面に出た。
「ここですね」
カルロが持つダウジング棒が指し示す藪の中に、半ば埋もれた形で、不思議な形のそれはあった。
「それが零時迷子か」
そうエンリが言うと、シャナは「そうだ。裕二はこの中でフレイムヘイズ族の追及を逃れたんだ」
シャナはそれに手を当て、短い呪文を唱えると、周囲の景色は一変した。
周りを森で囲まれた草原。川が流れ、木造の建物が建っている。
「ここは固有結界ですね」とアーサー。
シャナは「宝具自らが生み出した、存在の力に満ちた空間だ。ここでなら誰にも知られずトモガラでも生きていける」
その時、森から出て来た少年が、彼等を見て声をかけた。
「シャナ」
その少年を目にしたシャナの表情に嬉しさが満ちる。
「裕二、生きていたのか」
裕二と呼ばれた少年は怪訝顔で「生きてた・・・って、まだ何年も経っていないが」
「・・・」
「異界では現世と時間の流れが違いますから」とリラが解説した。
シャナは裕二に、別れた後の事を話す。
「外ではそんなに時間が過ぎたのか」
そう感慨深そうに裕二が言うと、シャナは「あれから200年経ってるぞ」
「じゃ、シャナは200才の婆さん・・・・・」と裕二。
するとシャナのペンダントになっていたアラストールが「いや、彼女は私が水の精霊の格を与えたから、年はとらないんだ」
アラストールはドラゴンの姿になった。
「父さんと同じトモガラのドラゴン」
そう驚き顔で言う裕二に、シャナは「いや、アラストールはドラゴンだがトモガラじゃないぞ」
ファフは裕二の上着の裾を掴んで「ファフもドラゴンだよ」
「そうなんだ」
「それで、君はここで刀を?」
そうエンリが言うと、裕二は「トモガラの力のせいで死んだ両親の供養のために」
「けど、元々の原因は祖父が領主から要求された千本の刀なんだよね?」とタルタが突っ込む。
そしてシャナは裕二に事実を告げた。
「その両親なんだが、お前の母親、生きてたぞ」
「そうなの? だって母さん、あんなに弱って。すぐ咳込むし、熱も出て苦しそうに」
そう言う裕二に、エンリは「それ、ただの風邪の症状な」
「・・・・・・・・」
「トモガラに存在を食われたせいじゃ無いらしい」とシャナ。
「そうなんだ」と裕二、唖然顔。
そしてエンリは本題を切り出した。
「それで、その千本の刀が必用なので、譲って欲しいんだが」
裕二は「解りました」
建物の中にあった千本の刀を荷造りし、ドラゴン化したファフとアラストールの背に乗せる、裕二とエンリの仲間たち。
シャナは短い呪文を唱えると、そこは元の山中の平坦面。
千本の刀を背負ったファフとアラストールは、港の船を目掛けて飛んだ。
その場に残ったエンリたちを見て、裕二は改めてシャナに問うた。
「それで、この人たちは?」
「私の主の父親だよ。フレイムヘイズの里には居られなくなったのでな」とシャナは解説。
裕二は済まなさそうに「俺のために零時迷子を持ち出したせいで・・・・・」
「けど、ちゃんと居場所を見つけたぞ」とシャナ。
裕二はシャナの手を握り、そして言った。
「そうか。さよなら、シャナ。ちゃんと約束を守って会いに来てくれて、嬉しかった」
「さよなら、裕二」とシャナも・・・・・。
そんな二人にエンリは言った、
「あのさ、もし良かったら、一緒にポルタに来ないか?」
「だって俺はトモガラで・・・・・」
そう、まごつき顔で言う裕二に、エンリは「俺は一国の王太子だ。君が安全に暮らせる場所くらい用意出来る」
「そうしろ、裕二」と嬉しそうに勧めるシャナ。
リラも「そうですよ。ずっと恋人さんと一緒に居るべきです」
「いや、恋人って訳じゃ・・・」
そう戸惑い顔で言う裕二を見て、シャナは少し寂しそうに「違うのか?」
裕二は一瞬思考顔になると、エンリに向き直り、そして言った。
「・・・解りました。連れて行って下さい」
その時、一人の女が現れた。
そして裕二を見て「あなたがここのトモガラね?」




