第466話 炎剣の兵団
近い将来に起こるであろう、ユーロ全土を巻き込む動乱からポルタを守るヒントを求め、降霊術で召喚したイスカンダル王と対話したエンリ王子。
その中で得た、魔剣の炎を分与する兵団。
その構想の実現を、エンリは軍に命じた。
そんな話を伝え聞いたエンリの仲間たちが、彼の執務室にたむろしつつ、あれこれ・・・・・。
「つまり俺が指揮する兵隊って事ですよね?」
聞いた話を勝手に解釈してノリノリになるジロキチに、エンリはぴしゃりと「違うから!」
「俺に千人の部下かぁ」と話を聞かないジロキチ。
エンリは「だから違うって」
ムラマサも「こういうのって千人隊長と言うでござるか?」
若狭も「規模で言うと連隊ですよね」
「階級なら大佐だよな」とタルタも・・・。
エンリは頭痛顔で「だから違うって。これはあくまで正規軍。お前等は俺の海賊団のメンバーだろーが」
「どう違うの?」
そうファフが言うと、エンリは「海賊は軍じゃ無い」
「けど私掠船は放し飼いの海軍だよね?」とニケ。
「つまり陸軍と海軍」とタルタ。
エンリは困り顔で「それも違うような気がするんだが・・・」
「集めた奴等は俺が鍛えてやるんですよね?」
そうジロキチが言うと、エンリは「四刀流は無理だと思うぞ」と釘を刺す。
ジロキチは「せめて三本は使えるように」
「駄目」
「二刀流なら誰でもやれるだろ?」
そう言って食い下がるジロキチに、ムラマサが「主、押されてるでござるよ」
エンリはあきれ顔で「値引き交渉やってるんじゃ無いから。それに、左手が空いてるなら、むしろ楯とか銃とかだろ」
「それで、どうやって兵隊を?」
そうリラが言うと、エンリは「軍の強い奴を選抜する訳だが、強い奴なんてどれだけ居るか・・・・・」
「そういうのって時代遅れだと思いますよ。百年戦争の長弓隊は農民から集めてましたからね」とアーサー。
「だよなぁ」とエンリは呟く。
エンリは軍務局に行き、将軍に兵の選抜を命じる。
その中で百年戦争の話を出すと、将軍は感情的な声で言った。
「ポルタ騎士は断じて弱くないですぞ」
エンリはタジタジとなる。
そして「とりあえず、十人ほど選んでみてくれ」
数日後、選りすぐりの精鋭を十人選抜したとの報告を受け、エンリは練兵場へ。
得意顔でエンリを迎える将軍。
「入場せよ」
その号令とともに、十人の兵が足並みを揃えて行進開始。
「どうですか? 王太子殿下。あの力を感じさせる体形とか・・・」
そう鼻ヒクで誇らしげに言う将軍に、エンリは「まあ、見ばえがするのは解った」
行進して来る兵士たちを待ち構えるエンリと将軍たち。
右側から行進して来た兵たちは、エンリたちの目の前を通り過ぎて左側へ抜けて練兵場を一周。
「おい・・・・・・! この行進、何時まで続けるんだ?」
そう疑問顔で問うエンリに、将軍はドヤ顔で「本格装備のプレートアーマーを身に着けても、ちゃんと歩けていますよね」
エンリは溜息をつくと「これでよくスパニア内戦で戦えたよなぁ。ってか、今時の戦争はもっと軽装備だろ」
将軍は「それだと弓矢が当たったら死ぬじゃないですか」
(駄目だこりゃ)とエンリは脳内で呟く。
エンリは方針を転換し、農民からやる気のある者を募集して訓練を施す事にした。
王太子直属の兵団の新設が発表され、応募者を集めて訓練するため、首都から少し離れた場所に訓練所が開設された。
計画は順調に進み、エンリは仲間たちとともに訓練所を訪れた。
エンリの前に勢ぞろいした訓練兵は皆、只ならぬ野生のオーラを放っている。
彼等の先頭に立って出迎えた軍人に、エンリは「お前が教官か?」
「フォーリー軍曹であります」
そう答える、南方大陸からの移住者らしき彼は、スキンヘッドのいかついマッチョで、腕に刺青。
そんな彼を見て、仲間たちがあれこれ・・・。
「何で南方大陸人?」
そうタルタが言うと、アーサーが「今日び人魚姫映画のヒロインでも南方大陸出身者だものなぁ」
ニケが「いや、この手の軍隊青春モノの鬼軍曹なら、これがテンプレよ」
そんな彼等にフォーリーは言った。
「私は殿下の命により、戦闘奴隷から解放されました。我らエンリ殿下直属鉄人兵団、命を賭してその御恩に報いるつもりです」
「では、腕前を見せて貰おうか」とエンリ。
フォーリーは訓練兵たちに号令する。
「エンリ殿下にお前達の訓練の成果を見て頂く」
訓練兵たちは一斉に「イエスマム」
エンリの部下たちは顔を見合せ、小声で「何だよその掛け声」
そして訓練兵たちが全員一斉に取り出したそれを見て、エンリたち唖然。
「武器はフライパンか?」
そうジロキチが言うと、エンリも「戦争っていうより夫婦喧嘩の武器だろ」
「では準備開始」
そのフォーリー教官の号令で、駆け足で準備を始める訓練兵たち。
「何の準備だよ」とエンリは怪訝顔で・・・。
数人で班を組んで調理台を並べ、石を積んでかまどを作り、集めた薪で火を起こす。
「隊長、食材を確保しました」
そう報告する訓練兵たちを見て、エンリは唖然顔で「いや、料理対決やれとか・・・・・。ってか食材って?・・・・・」
蛇にトカゲに怪しげな野草。そして虫。
フォーリー教官は言った。
「サバイバルですよ。強い軍は、あらゆる環境の中で生き延びて、敵と戦う」
「つまりレンジャー部隊」とエンリは呟く。
「では調理開始」
訓練兵たちは蛇の皮を剥き、トカゲや蛙の肉を取り出し、野草を刻み、虫の羽や足をとり、竈の火で熱したフライパンに・・・・・。
「完成です」
そう訓練兵たちが報告すると、フォーリーは「では殿下、実食を」と言って、料理の盛られた皿を捧げ持つ数人の訓練兵を整列させる。
「ただのゲテモノ料理集団になってないか?」と疑問顔で言うエンリ。
「ってかこれ、食べるの?」と、ニケも困り顔で・・・。
フォーリーは言った。
「殿下は我々"サバイバル料理の鉄人隊"の総指揮官ですから」
残念な空気が漂う中、エンリは呟いた。
「鉄人ってそういう意味かよ」
ジロキチも「趣旨が完全にズレてる気がするんだが」
そして・・・・・・・・・。
マッチョたちに囲まれて怪しげな料理を食べるエンリと仲間たち。
エンリは食べながら「けっこうイケるな」と呟いた。
ゲテモノ料理の実食が終わると、エンリは訓練兵たちを整列させた。
「これより、お前たちに特別な武器を授ける」
全員に剣が配られる。いかにも特別仕様っぽい鞘。
だが、訓練兵たちはその鞘から剣を抜くと、いささかがっかりした顔で「普通の剣ですね」
そんな彼等にエンリは「これから普通じゃ無い剣になるのさ」
多量の薪を細長く並べ、部隊を半分に分けて両側に整列させる。
そして薪に火をつける。
燃える細長い焚火にエンリが炎の魔剣を突き刺し、訓練兵たちも、全員一斉に自らの剣を抜いて炎に突き刺す。
エンリは呪句を唱えた。
「汝炎の世界。万物を焼き溶かす破壊と再生のエネルギーにして数多の剣に宿りたる灼熱の刀気。マクロなる汝、ミクロなる我が剣と一つながりの宇宙たりて、我が聖剣の万能の灼熱を以て汝を満たせ。灼熱分与!」
焚火の炎は一気にその熱を増し、それは炎に差し込まれた多数の刀へと伝わった。
訓練兵たちが剣を焚火から抜くと、剣はそのまま炎の魔力を纏い、灼熱の気を放っていた。
炎の剣を手にした訓練兵たちは、テンションMAXで口々に・・・・・・。
「すげー」
「これが俺の炎の魔剣」
「これがあれば俺たち、誰にだって負けん」
「そーいう寒いギャグは要らないから」
だが・・・、やがて彼等の剣は、その熱に耐えきれずに溶け落ちた。
残念な空気の中、エンリは訓練兵たちに言った。
「ま・・・まあ、これは予行演習というか、こういう武器でこれからお前等は戦うんだという見本だ。本番の武器はこの後支給するので、期待して待っているように」
ポルタ城に帰還したエンリたちは・・・・・・。
エンリの執務室で残念顔であれこれ言う仲間たち。
「とんだ盲点だったな」
そうエンリが言うと、アーサーが「そりゃ、鉄は高温ならそれ自体燃えるし、溶けもしますよ」
「けど、もっと凄い刀なら・・・」
そう呟くエンリに、リラが「刀っていうならジパング刀ですよね?」
若狭が「父さんに相談してみては、どうでしょうか」
エンリたちは清定の工房に向かう。
仕事場でエンリたちを迎えた清定は、若狭から話を聞く。
そして「そりゃ、鉄は高温ならそれ自体燃えるし、溶けもしますよ」
「ジパング刀でもか?」
そう問うエンリに、清定は解説した。
「こいつの性能は硬い鉄と柔らかい鉄が極薄の多層構造になっているからでしてね。それで互いに支え合っていて、衝撃に耐えられる。けど、熱に耐えられるようになっていないんです」
「王太子なのに、そんな事も知らないのか?」
何時の間にか入口に居て、そう発言した女の子に、リラは「シャナさん、どうしてここに?」
「この刀が刃こぼれするんで、砥いで貰いに来るんだが・・・」とシャナは、鞘に収まっている自分の刀を出す。
清定がシャナの刀を研ぐ間、若狭が入れてくれたお茶を飲みながら、あれこれ語るシャナ。
「私の刀も炎を宿すが、普通の刀だと耐えきれず溶けてしまうんだ」
「その刀は大丈夫なんですよね?」
そうリラが言うと、シャナは「これは裕二が鍛えた刀だからな」
「だったらそいつに鍛えて貰えば・・・」
そうジロキチが言うと、アーサーが「いや、シャナさんが彼に会ったのは200年も前ですよ」
エンリも「それに鉄人隊は千人居るからなぁ。その人一人で千本の刀を鍛えるとか無理だろ」
するとシャナが言った。
「いや、あると思うぞ。裕二が鍛えた千本の刀」




