第464話 動乱の預言
南方大陸南端の現地人部族、ズールー族の予言者ベルベド。
かつてエンリ王子が仲間たちとともに訪れ、時に争い、時に同じ目的を以て共闘した、無二の盟友である。
その彼が、予言能力の解明のため、ポルタを訪れた。
ポルタ大学魔法学部のパラケルサス学部長とエンリ王子が港で彼を迎える。
ポルタ城の客間で旧交を温める、エンリとベルベド。
お茶を飲んであれこれ語る中、ベルベドはエンリに警告した。
「近いうちにユーロ全土を巻き込む戦乱が起こり、ポルタもそれに巻き込まれるでしょう。それに備える事をお勧めします」
「そういうのは何度も潜り抜けて来ましたけどね。スパニア内戦とか北方戦争とか」
そうエンリが言うと、ベルベドは「どこかの国の戦争に参加するのではなく、全ユーロが戦場になるのです」
ベルベドは自らが予見した未来を語り、それについて、エンリと仲間たちはあれこれ・・・。
通話の魔道具でスパニア宮殿に居るイザベラに連絡。
話を聞いたイザベラは、魔道具の向うから語る。
「今のユーロを主導するのは国教会同盟よ。スパニア・イギリス・フランスの三大国が連携をとって。ついでにポルタも・・・」
「うちはついでかよ」と不満声で口を挟むエンリ。
すると、ベルベドは「動乱の中心は、そのフランスです」
「まさか・・・・・」
「けど、有り得るわね。イギリスとフランスは元々ライバル関係だったもの」
そうイザベラが言うと、タルタも「それにリシュリューは油断のならない陰謀家だって言うからなぁ」
「奴がドイツに取り込まれると?」とジロキチ。
ニケが「だったら教皇派の勢力も加担するわよね」
そんな彼等にエンリが「けどさ、戦争を起こすのは本当に王家なのかな?」
「・・・王家で無ければ何だと?」
そうアーサーが言うと、エンリは「例えば、王家を倒した革命政権だよ」
「いや、フランスは確かに軍事大国だけど、それって強いのは軍だぞ。それを王家が抑えている」とジロキチ。
エンリは「けど、軍の兵士の数は全国民から見たら微々たるものだぞ。あの国を全国民が本気で自分たちのものだと意識したら、全国民が兵となるって事にもなりかねない。そして、ユーロの全ての国は王が支配している。その王政というシステムそのものを否定するって事は、全ての国を敵に回すって事になる」
「このポルタも戦場になるのでしょうか」
そう心配そうに言うリラと対照的に、ニケはテンションMAXで「とにかく戦争になるのよね? だったら軍事費を三倍にしなきゃ。それで武器商人と組んでお金ガッポガッポ」
「予算をどーすんだと・・・」
そうカルロが言うと、エンリも「それだよなぁ」
ベルベドがポルタ城を辞してパラケルサスと共にポルタ大学魔法学部に向かう。
エンリは財務長官を執務室に呼んだ。
そして戦争の危機について語り、予算確保の可能性を質す。
財務長官は言った。
「大丈夫です。そんな難局を乗り切る宝具があります」
タルタが「お金の湧く壺とか?」
ニケが「賢者の石よね? 錬金術でお金ガッポガッポ」
「そんなうまい話ある訳無いじゃないですか。税率を上げるんですよ」
そう言って財務長官はメガネを出す。
「増税メガネという宝具で・・・」
残念な空気が漂う中、財務長官は解説を続けた。
「キシダという宝具精霊が・・・」
ちょうど良い具合に窓が空いていたので、エンリはポーンとそのメガネを窓から投げ捨てた。
残念な空気を誤魔化そうと、アーサーが「まあ、軍が大きければいいってもんじゃ無いけどね」
「そうですよ。リーダーの知恵と勇気で・・・」と、財務長官もヨイショ顔で・・・。
エンリは困り顔で「そういう丸投げは止めて。全ユーロを制圧する大勢力が出現するかも・・・って話だぞ」
「けど、少数で大軍を破るのは気持ちいいって言ってましたよね?」とカルロが突っ込む。
「過去の偉大な王の事績を参考にしてはいかがかと」
そんな事を財務長官が言い出すと、ムラマサが「歴史を鑑として・・・って奴でござるな」
ニケがあきれ顔で「それ、どこぞの半島国が毎度言ってる台詞なんだけど」
エンリもあきれ顔で「あれはやってる事が逆だよ。その歴史を捏造しまくりで、検証して間違を指摘すると逆ギレて"過去を反省するなら事実を確認などしない筈"とか言って、本当の歴史を隠蔽するのがあの半島国だ」
ジロキチもあきれ顔で「ってか今や歴史と言わずに記憶と言ってるけどね。記憶なら嘘を記憶しても記憶だからって」
エンリはポルタ大学兵学部戦史研究科へ。
そして教授たちに、過去の優れた王にまつわる戦史を調べるよう命じた。
数日後、エンリたちは戦史研究科の教授たちから調査がまとまったとの報告を受け、ポルタ大学へ。
「先ず、タタール帝国のチンギスハン。軽装騎兵を用いた集団戦を編み出し、巧みな用兵と大胆な戦術で・・・・・・」
そうドヤ顔で報告する教授に、エンリは突っ込む。
「あの当時はともかく、今は集団戦なんて常識だぞ」
教授の報告は続く。
「次に、ローマを滅亡一歩手前まで追い込んだ将軍ハンニバル。不可能と思われたアルプス越えによる奇襲を行い、巧みな用兵と大胆な戦術で・・・・・・」
「奇襲は相手の不意を突く訳だからな。奇襲前提とか無いわぁ」とジロキチが突っ込む。
カルロも「信長さんは言ってたよね。戦争で奇襲をやるのは生涯で一回だけって」
報告は更に続く。
「最後に、半島北部の将軍様。縮地法という魔法を使って瞬時に部隊を移動させ、松の葉を千切って兵士を産み出し、巧みな用兵と大胆な戦術で・・・・・・」
「そういうインチキカルト独裁の収容所国家のホラ話は要らないから。ってか誰だよ。そんなのの話を持ち出した奴は」
そう言ってエンリが溜息をつくと、若狭も「役に立ちそうにないですね」
「戦史研究科、廃止するか?」
そうエンリが言うと、教授たちは冷汗顔で「実は以前から廃止の話はあったんですが、廃止しないでくれという嘆願がありまして」
タルタが「失業は嫌だから首にしないでくれと言ってる、雷鼠の着ぐるみを着た下ネタ捏造犯の職員とか?」
「いえ、留学生です。楊遠理というタカサゴ島から来た奴でしてね」
そう言って教授が示した嘆願書に曰く。
「自分は実は軍人になるつもりは無くて、ただで歴史を勉強できるってだけでここに入学したので、廃止されるととっても困ります」
残念な空気が漂う。
「やっぱり廃止しようよ」とエンリの仲間たちは口々に言う。
「実はもう一つ・・・。三つの大陸にまたがる大帝国を築き、インドにまで進出したイスカンダル王。兵に普通の倍の長さの槍を持たせ、王自ら先頭に立って兵たちを鼓舞し、巧みな用兵と大胆な戦術で・・・」
そう言って報告を追加した教授に、エンリはうんざり顔で突っ込む。
「その"巧みな用兵と大胆な戦術"って毎度出て来るんだが、具体的にどう巧みでどう大胆なんだ?」
「まあ、歴史って所詮伝聞で、過去の人の話ですからね。実際にその時代に居て自分の目で見た人じゃないと」と弁解する教授。
「そういう人って、みんな過去の人になってるから歴史なんだろーが!」
そうエンリが突っ込むと、タマが指摘した。
「いや、ちょっと待って。タルタって古代ギリシャの人よね?」
みんなの視線がタルタに集中する中、エンリは彼に問うた。
「お前の時代に居たイスカンダル王って、どうやって戦争に勝ったんだ?」
「みんな言ってたぞ。巧みな用兵と大胆な戦術で・・・・・・」と間抜けな事を言うタルタ。
エンリは「だーかーらー、具体的にどう巧みでどう大胆なんだよ」
「俺はまだ子供で戦場を見た事が無いからなぁ。俺の親父なら見てると思うけどね。何せ王様の軍の兵隊だったから」とタルタ。
リラが言った。
「なら、降霊術で召喚しますか?」
エンリたちはポルタ城に戻り、アーサーは降霊術の準備にとりかかった。
魔法陣を描き、エンリとタルタ、そして他の仲間たちが見守る中、アーサーはその中央に立って降霊の呪文を唱える。
一人の男性のゴーストが召喚された。
ゴーストはタルタを見る。
「お前、タルタか。プラトンアカデミーで金属化したって聞いたが、戻れたのか。随分立派になったじゃないか」
「親父も随分偉そうになったな」
そうタルタが言うと、彼の父親のゴーストは「それ、褒めてないだろ。とはいえ、実際偉くなったけどな」
「下士官にでも昇格したか?」とタルタ。
ゴーストは「聞いて驚け。俺はそんじょそこらのゴーストじゃ無い。英霊だぞ」
「英霊って・・・・・。どこぞの神社の名簿にでも載ったか?」
そうタルタが突っ込むと、アーサーは指摘した。
「いや、確かに普通のゴーストと違う。あなたは英霊の座から来たのですね?」
「何だよその英霊の座って」
そう問うエンリにアーサーは「歴史上の偉大な英雄や伝説上の存在が集う、特別な霊域ですよ」
「いや、確かに仕えた王様は超大物だろうけどさ、親父自身はヒラの兵隊だろ。そのヒラの兵隊が全員英霊の座に居るって、十万人が全員英霊だって事だぞ。偉大な英雄が供給過剰で価格が大暴落だ」
そう突っ込むタルタにゴーストは「まあ、そうなるわな。けど俺は英霊そのものじゃ無くて、イスカンダル王の宝具としてあそこに居るんだ」
エンリの顔色が変わる。
「もしかして、あなたは、かの王とともに?」
「ここに招く事も出来るぞ。聞きたい事があるんだよな?」
そう答えたゴーストに、エンリは「お願いします」