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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
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第461話 凍気の水瓶

エンリ王子たちの協力で、オッタマ帝国の軍を破ってサンクチュアリに辿り着いたアテナ修道会の五人の聖闘士。

彼等が纏う青銅のクロスをゴールドクロスに変えるため、星座の力が宿るという十二の階層のダンジョンを進む。これに協力するエンリたち三人。

山羊座の階層で一晩、野営した五人の聖闘士とエンリたち三人は、翌朝そこを出て水瓶座の階層を目指した。



洞窟を抜けると一面氷の世界。背後にさっきの洞窟の出口が、巨大な氷山にぽっかりと口を開けていた。

「ここって・・・・・」

全員、唖然とする中、ヒョーガが言った。

「俺の故郷とそっくりです」


「ここ、氷結した海の上だぞ」

そうエンリが言うと、ヒョーガは「間違いありません。沈没船の中に居るママーンに会いに来ていたシベリアの海です」

ニケがいきなりテンションMAXに。そして「氷の下に沈没船? するとその中に一緒に沈んだ金貨ぎっしり」

エンリは困り顔で「そういうのは無いと思うぞ」


「けど、ここはギリシャのオリンポスの山岳の地下の筈ですよね?」

そうセイヤが言うと、エンリは「誰かの心象風景をコピーした固有結界だろうな」

「まさか」

そう言って五人の聖闘士が唖然とする中、リラは言った。

「多分そうだと思います。水というのは月と関係が深く、人の精神と繋がっているんです。だから水を満たした水瓶の水面は水晶玉と同じで、心を映す鏡にも使える」



「その通りです」と彼等の背後で男の声。

振り向くと水瓶を背負った30代ほどのイケメン男性。

彼を見てヒョウガは驚きの声をあげた。

「あなたは、カミュ」

「誰?」

そう他のみんなが言うと、ヒョーガは「俺の師匠です。アテナ修道会に引き取られて訓練を受けた後、故郷だったここに送られて彼の指導を受けた」


そしてヒョーガはカミュに「あなたがここの階層主ですか?」

「そうだ。ヒョウガよ、最後の試練を与える。俺を倒せ」

そう彼に言われて、ヒョーガ唖然。

「あなたを殺せという事ですか?」

カミュは「そうだ。それでお前の母、ナターシャをこの氷から救い出す力が手に入る」

「そんな・・・・・」


「来ないなら、こっちから行くぞ」

そう言うとカミュは、一瞬で間を詰めてヒョーガに拳を打ち込む。

辛うじてかわすヒョウガ。



闘いは始まった。


立て続けに打ち込むカミュの拳を必死に防ぐヒョウガ。

「どうした。訓練の時みたいに本気で来い」

そうカミュが言うと、ヒョーガは「けど今はこのクロスで・・・」

「そんなもので俺は倒せない」

そのカミュの言葉がハッタリで無い事を、ヒョーガはすぐ理解した。

カミュは全身から凍気を発し、その巨大さに立ちすくむヒョウガ。


そんなカミュを見てリラは言った。

「あの人、人間じゃ無いです」

エンリは「まあ、人間離れしているからな。だからって"叩き切ってやる"とか普通言わないけどね」

ニケも「オランウータンみたいに歯を剥き出して吠えるヤマグチヂローとかいう殺人教唆犯の煽動家教授じゃ無いんだから」

「じゃ無くて、彼は氷の精霊です」とリラ。

「何だと?」


カミュを包む膨大な凍気が右の拳に収束する。

「これを受け止めてみろ。本気で跳ね返さないと死ぬぞ」

ヒョウガは必殺技の構えをとった。

「オーロラサンダーアタック!」

双方が拳に乗せて放つ凍気が激突し、ヒョウガは吹っ飛ばされた。



迷いを捨てられないヒョーガに、カミュは言った。

「いい事を教えてやる。そっちの女魔導士は気付いているようだが、俺はここの古代の民が崇めた氷の精霊だ。その民たちに女の生贄を要求し、何人もの女が俺に捧げられた。お前の母親もその一人だ」

「何だって?」

ヒョーガの顔色が変わり、表情に怒りが沸き上がる。

「俺を倒して母親を奪い返すがいい」

そう徴発するカミュに、ヒョーガは「そうさせて貰います」


ヒョウガは怒りを乗せた拳で立て続けにカミュに必殺技を放った。

それをカミュは拳で逸らし、ヒョウガに何発もの一撃を当てた。

ダメージを負いながらも、カミュの挑発の言葉を受け、怒りを新たにして立ち上がるヒョウガ。

増幅された怒りが彼の闘気を昂らせ、カミュに何発もの一撃を当てる。

力を増しながらも次第に暴走していくヒョーガの闘い。そんな彼の闘いを見ながら、エンリの脳裏に一抹の疑問が過った。

(ちょっと待て。何かがおかしい)と、脳内で呟くエンリ。



「カミュさん、彼の母親が生贄だというのは嘘ですよね?」

そのエンリの言葉で、ヒョーガは彼の方に振り向き、そして「何だって?」

「何故そう思うのですか?」

そう問うカミュに、エンリは「だって生贄って古代の話ですよね? ヒョーガも彼の母親も、そんな昔の人じゃ無い」

「あ・・・」


戸惑うヒョーガにエンリは言った。

「君はここで修行時代を過ごした訳だが、神殿の廃墟って無かった?」

「ありました。俺はそこで彼と暮らしたんです」とヒョーガは答える。

エンリは言った。

「廃墟って事は、その信仰も儀式もとっくに廃絶したって事になるよね? 生贄ってのは決まった儀式に則って、信者の中から選ばれてなるものだ。廃絶した信仰でそんなものは無いと思うぞ」


「だったら彼の母親は何だというのですか?」

そう問うカミュに、エンリは答える。

「ロシア帝国が派遣した北極海航路開拓の調査船の乗組員。あの国は海への出口を求めている。シベリアの北には北極海があり、そこは氷に閉ざされた航海困難な海だ。けれども、もしそこに船を通す事が出来たなら、誰にも邪魔されずに東洋への航路が開ける。そんな僅かな可能性を求めて危険な海に強引な航路開拓を試みた、その犠牲者。違いますか?」

「そうだったのか」と呟くヒョーガ。


カミュは言った。

「彼女はその実験航海に、夫と共に幼い子供を伴った。その船が氷山に激突して沈没した時、私は我が子を助けて欲しいという彼女の願いを聞き届け、彼を保護してアテナに預けた」



ヒョーガはカミュを見る。そして足元の氷結した海に沈む氷の中で眠る、彼の母親を想った。

そんな彼にカミュは言った。

「これからあなたに私の最終奥義を授ける」

カミュは、背負っていた水瓶を右肩に担ぎ、その口をヒョウガに向けた。

「私を包む凍気の流れは見えますよね。これをあなたに向けて放ちます。その技を真似て自分のものにしなさい」


「そんなの喰らって大丈夫なのか?」

そうエンリが言うと、カミュは「絶命するならそれまでです」

「いや、ちょっと待て」

そう言ってエンリが止めようとすると、ヒョーガは言った。

「覚悟は出来ています。ですがその水瓶は武器ですよね? セイントは武器を使わず、自らの体のみを武器とします」

カミュは「水瓶はあなたの両腕です」



ヒョウガはカミュに向き合い、構えをとる。

「最終奥義絶対零度!」

そう技名を叫ぶとともに、カミュは水瓶の口から凍気を放つ。

ヒョウガはそれを拳で受け、凍気は彼の全身を包んで、完全に凍結させた。

「ヒョウガはどうなった」

そうセイヤが言うと、カミュは「彼は死んでいません。ですが今、彼は動けないでしょうね」


ヒョウガは凍結した姿で、思考を続けていた。

そしてカミュは水瓶の凍気を放ち続けながら、ヒョウガに呼び掛けた。

「この技を以て反撃し、私を倒しなさい。でないと本当に死にます」

(けど、動けなければどうやって・・・・・)とヒョーガは思考する。



エンリは思考した。

氷は石と同じ固形物。つまり不動の状態にある。

人間の体の大半は水で、水は命の源。それは水が流動の性質が強いから可能となる。

体を流れる液体が養分を運び、筋肉を動かし、骨と骨の間に入って潤滑の役割を果たし、皮膚や脂肪や内臓などあらゆる部位を柔軟なものとする。

あの技は即ち凍気と一体化してそれを操るものだ。その低温は体を構成する液体を含めて全てを凍らせ、一体化した固形物とする。

これを動かすにはどうするか。氷を解かすか? それは凍気を取除く事を意味し、凍気と一体化するのと逆だ。

ゴーレムは岩の塊であり、それを動かすのは魔法だ。あれに普通の人間のような臓器は存在しない。不動なる物体の形を変える事で動くのではないか。

大地もまた不動であり、大地の魔剣と一体化する事で自分は防御MAXになれた。あれはどうやって動いたんだっけ?


エンリは叫んだ。

「ヒョウガ、動くんじゃ無い。凍結して一体の固形物となった自分の形を変えるんだ」

「どうやって?」

そう、凍って声を出す事の出来ないヒョーガに代わって聖闘士たちが問うと、エンリは言った。

「イメージだよ。自分が腕をどう動かすか、足をどう動かすか。凍って動かない肘をどんな角度で曲げるのか。その動く事で変わっていく自分をイメージするんだ」

(そういう事か・・・・・・・)


ヒョウガは思考した。

(肘を曲げるって、こうだよね)

腕に意識を集中すると、氷りついた腕と一体化した凍気を感じる。これに肘を曲げるイメージを投影する。

肘がゆっくりと曲がった形へと変わってゆく。更に肩を動かし、指を動かし、足を動かし・・・。

「あいつ、動いてるぞ」と、ヒョーガを見ていたシリューが、セイヤが、シュンとイッキが・・・・・。


ヒョウガは更に思考した。

(気を放つ水瓶とこの両腕を同じにするって、どういう事だろう)

カミュの水瓶の口から放たれている凍気を見る。

そして(あれを両手の拳から放つって事なんじゃないだろうか。だったら・・・・・・)



両腕を伸ばし、両手を合わせてその指を絡めるヒョーガ。

そして両肘の先の合わせた二本の腕に水瓶の姿を重ね、これに全身に満ちた凍気を凝縮する。

「オーロラエクスギュレーション!」

念じた技名とともに、ヒョーガの合わせた拳から強大な凍気が放たれ、カミュの胸を貫いた。


致命傷を受けて、がっくりと膝をつきながら、カミュは言った。

「よくやった、ヒョウガ。これで凍気を自在に操る術を掴んだ筈だ。この力で沈没船の氷に閉ざされたナターシャを解放してやってくれ」

「あなたはママーンを・・・・」

そう言いかけたヒョーガに、カミュは「その凍った姿に私は強く惹かれた」



カミュの姿は淡い光となって消え、水瓶が残された。

ヒョーガの目の前に残されたその水瓶の周りに全員が集まる。


「これは神殿で祀られていた宝具だろうな。彼はその宝具精霊だろう」

そう水瓶を見て言うエンリに、ヒョーガは「彼は消滅したのでしょうか」

その問いにリラが答えて、言った。

「氷の精霊の世界で生きていると思いますよ」

「確認する事は出来ますか?」とヒョーガ。

リラは「この水瓶を使えば。これに入ってるのは水じゃ無い。水のように凝縮した凍気です。この水面に水晶玉の要領で、精霊の世界での彼を映し出せる筈です」

「是非、見せて下さい」


リラは呪文を唱えた。

水瓶の水面に魔法陣が現れ、幾つかの古代文字が浮かび、光となって映像を浮かび上がらせた。

「・・・」

そこに映し出されたのは、何人もの女性とイチャラブしているカミュの姿。

「もういいです」とヒョーガ。


残念な空気が流れ、ヒョウガは苛立たしげな声で言った。

「何なんですか? あの女たちは」

「大昔に彼に生贄として捧げられた女性だろうな」とエンリが答える。

「彼はママーンもあの中に加えるつもりなんですよね?」

そうヒョーガが言うと、エンリは困り顔で「いや、彼女はそもそも生贄じゃ無いから」


ヒョーガは言った。

「けど、ママーンの美しさに惹かれたって言ってました。俺のママーンをあんなハーレム男に渡してたまるか。あのエロオヤジがぁ!」

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