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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
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第460話 お宝を暴食

エンリ王子たちが難民たちを保護するアテナ修道会に協力し、行く手を遮るオッタマ帝国の軍を破って辿り着いたサンクチュアリ。

十二の階層のダンジョンに挑む五人の聖闘士と、彼等を助けるエンリたちは、射手座の階層でケンタウロスのオブジェが放つ五本の矢を撃破した。

射手座の階層を出て、洞窟の通路を歩いて次の階層を目指す、五人の聖闘士とエンリたち三人。



山羊座の階層に出ると、草原が広がっていた。

そこで草を食んでいる二頭のヤギが居た。一頭は真っ白、もう一頭は真っ黒。

「侵入者が来たぞ兄弟」

そう白ヤギが言うと、黒ヤギが「そうだな兄弟。男五人。女が三人だ」

「そうだな兄弟。紙の匂いがするぞ」と白ヤギ。



そんな二頭のヤギを前に、あれこれ言うエンリと聖闘士たち。

「こいつ等が階層主か」

そうエンリが言うと、シリューが「普通のヤギ魔獣みたいですけど」


すると白ヤギが「そうさ。俺たちは普通のヤギ魔獣」

異様な気配を感じ、セイヤたちは身構える。

「気をつけろ。何か仕掛けて来るぞ」

そうセイヤが言うと、黒ヤギが「普通のヤギだから紙を食べる」

「紙だと?」

二頭のヤギは声を揃えて「という訳で、頂きまーす」



白ヤギがヒョウガに、黒ヤギがイッキに飛び掛かる。

構える二人の聖闘士。

飛び掛かり、一瞬で距離を詰めた二匹のヤギは、・・・そして二人とすれ違った。


二人が背後を振り向くと、二頭のヤギはそれぞれ薄い本を咥えていた。

白ヤギは「"熟女の肉布団"か。なかなか良い趣味をしているな。婆専という訳か?」

黒ヤギが「いや、大人の女と言ってあげるべきだと思うぞ」

「それでそっちは?」

そう白ヤギが問うと、黒ヤギは「"妹の蜜"。妹萌えという訳か」


「それは・・・・・・」

震える声でそう呟きながら、ヒョウガもイッキも真っ青に、そして真っ赤になった。

「返せ! 俺のお宝本」

そう二人が叫ぶと、二頭は「やなこった」



必死にヤギを追いかけるヒョウガとイッキを、あざ笑う如く華麗に逃げ回る二匹のヤギ。

エンリはあきれ声で「お前等、そんなの持ち歩いてるのかよ」

シュンは不審そうな視線をイッキに向けて「兄さん、不潔です」

そんな妹にイッキは声を荒げて「そんな目で俺を見るな!」

ニケは「これだから男って」

リラは「年頃ですものね」


逃げながらヤギは咥えたお宝本をもぐもぐと咀嚼。

「イカ臭い風味がなかなか」

そう白ヤギが言うと、黒ヤギは「描かれた女もなかなか」

白ヤギは「えげつないポーズもなかなか」


そんな二頭のヤギに、ヒョウガとイッキは震える声で「止めろ。止めてくれ」

高笑いするヤギたち。がっくりと膝をつく二人の聖闘士。

「何て恐ろしい」とリラ。

「ってかゲス過ぎだろ」とエンリ。

「そういうのを持ち歩く方が悪い」とニケ。


二人の仲間を庇うかのように、セイヤは言った。

「仕方ないんです。聖闘士はプライバシーゼロで所持品検査は日常茶飯事だから、大事なものは持ち歩くしか無くて・・・」



二匹のヤギはセイヤとシリューに視線を向けた。

「次はお前たちだな」

身構える二人の聖闘士。

青ざめるシリューにセイヤは言った。

「大丈夫だ。摺り取ろうとして近付いたら、この拳で一撃かけてやる」

だが、二頭のヤギは「それはどうかな」


二頭のヤギはステイルの呪文を唱えた。

一瞬、場を光が覆い、おさまった時には二頭はそれぞれお宝本を咥えていた。

「そっちの白い奴は"隣のお姉さんベッドルーム編"か。なかなかいい趣味をしているな」と白ヤギ。

「そっちの緑色の奴は"巨乳ナース狂い咲き"。なかなかいい趣味をしているな」と黒ヤギ。

セイヤとシリュー、愕然。



残念な空気の中、セイヤは震える声で言った。

「ステイルなんて使われたら防ぎようが無いぞ」

エンリが「ゲスな奴は女の子の下着をあれでゲットして、とっても恥ずかしい目に合わせるって言うからな」

「どこかで聞いた話ですね」とリラ。

「女の敵ね」とニケ。


エンリが「エロ本チェックはセクハラだけどな」

シリューが「男の敵だ」

するとリラが「いいえ、そんなの持ってる方が悪いです」

シュンが「エッチなのはいけないと思います」

ニケが「これだから男って」

「そういう扱いの差の付け方はどうかと思うが」

そうエンリがあきれ顔で言うと、ニケは「仕方ないのよ、女がこういう反応しないと下ネタギャグは成り立たないもの」

四人の聖闘士男子は声を揃えて「理不尽だぁ!」


そんな彼等を見て、高笑いするヤギたち。

白ヤギが「描かれた女もなかなか」

黒ヤギが「えげつないポーズもなかなか」

そんな二頭のヤギに、ヒョウガとイッキは震える声で「止めろ。止めてくれ」


がっくりと膝をつく二人の聖闘士を前に、ヤギは咥えたお宝本をもぐもぐと咀嚼。

そして二頭は声を揃えて「イカ臭い風味もなかなか」

シュンのゴミを見るような視線を浴び、四人の思春期男子は真っ白に燃え尽きた。



エンリは溜息をつくと、シュンの肩に手を置き、そして言った。

「それくらいにしてやれ。お前等のそういう反応が奴らの狙いだ。期待通りにあいつらを軽蔑するのは一種の利敵行為だぞ」

「そうですけど」と口ごもるシュン。


そしてエンリは二頭のヤギに問う。

「それで、お前等は何なんだ?」

二頭は声を揃えて「俺たちはエロ本チェッカーズ。白ヤギ黒ヤギのお手紙ブラザーズさ」

「チェッカーズってギザギザハートがどーとかっていう?」

そうシュンが言うと、エンリは「それは違うと思う」

リラが「互いに出した手紙を読まずに食べて、昨日の手紙の御用はなあに?って言うんですよね?」

「そんな間抜けな事にはならないさ。俺たちはそれを食べる事で紙に描かれた内容を把握できる」と黒ヤギは言った。


そして白ヤギが「描かれた女もなかなか」

黒ヤギが「えげつないポーズもなかなか」

「止めろ。止めてくれ」

そう、うわ言のように呟く四人の思春期男子を前に、エンリは「それはもういいから」



そしてエンリは言った。

「で、これからどうする? あの四人はもう戦力にはならないぞ」

「ここは私が兄さんの仇を討ちます」

そうシュンが言うと、エンリは「止めを刺したのは君のあのゴミを見るような視線だけどね」

「あ・・・」


そしてエンリはシュンに言った。

「それに君は下がってた方がいい。奴らはあのステイルの呪文で君の下着を奪う事だって出来るんだからな」

「あ・・・」



エンリは五人を背後に、二匹のヤギと向き合う。

彼を見て、白ヤギが「もう一人獲物が居るぞ兄弟」

黒ヤギが「そうだな兄弟」

そんな二頭にエンリは「俺のお宝本を奪う気か? やれるものならやってみろ」


エンリに向けて構える二頭のヤギ魔獣。

だが・・・・・・。

「変だぞ兄弟。こいつ、紙の匂いがしない」と白ヤギは途惑い声。

黒ヤギも途惑い声で「そういえば・・・・・・」

「お前等、紙のお宝本を食べるんだよな? けど、俺のお宝本はこいつだ!」

そう言ってエンリがポケットから出したものを見て、二頭のヤギは愕然。

「それは、記憶の魔道具・・・・・・」


「食えるものなら食ってみろ」

そんな勝ち誇り声でそれを振りかざすエンリに、二頭のヤギは「そんなぁ・・・・」

エンリは言った。

「これを使えば画像や文章だけではなく、映像でも音声でも記憶再生できる。あらゆる形態の情報を一括して扱うマルチメディアこそ、これからの情報ツール。IT革命の時代に紙などというアナログツールは時代遅れだ」

二頭のヤギは「ガーン」と書かれたオノマトペを背に、力なく項垂れる。

そして「俺たちって、時代に取り残された化石だったのか」



真っ白に燃え尽きた二頭のヤギを取り囲む四人の聖戦士男子。

「お宝本の恨み、思い知れ!」

四人は二頭のヤギを袋叩きにした。


戦いが終わり、夕日を背にして兄と妹が手を執り合う。

「済まなかった。シュン。こんな奴に遅れをとるなんて」

そうイッキが言うと、シュンは「兄さんが何を隠し持っていても、私は兄さんの味方です」

イッキはシュンを見つめ、そして「シュン」

シュンはイッキを見つめ、そして「兄さん」

「シュン」

「兄さん」

二人の世界に浸るイッキとシュンに、他の三人は困り顔で「そういうのは後にして」



その場に居座る残念な空気を誤魔化そうと、エンリは声を上げた。

「まあ良かった。これでこの階層もクリアだな」

だが・・・。


「ところで王子様も、ああいうのを持ち歩いていたんですね?」

そう言ってリラは、まだエンリの右手にあった記憶の魔道具を取り上げようと・・・。

「いや、これは・・・」

そう言って困り顔で抵抗しようとするエンリに、ニケは「これだから男って」


追及の視線が集中し、エンリはタジタジとなる。

リラは「私が居れば、こんなもの必用ありませんよね?」

「いや、それは・・・・・・」

リラは目一杯の強気モードで「これは没収します。いいですよね?」

「・・・・・はい」


お宝を没収されてガックリモードなエンリを他所に、ニケは五人の聖闘士たちに言った。

「今日はここで野営するわよ」

「いや、後二つで攻略完了だけど」

そうセイヤが言うと、ニケは「体力の消耗を防ぐのはダンジョン探検の基本よ。セーブポイントはこまめにとらなきゃ」

「いや、RPGやってる訳じゃ無いんだが・・・」とエンリは困り顔で突っ込む。



結界を張り、焚火を炊いて夕食を食べる。


そしてエンリはまもなく寝落ちした。

その不自然な寝落ちの仕方を見て、リラはニケに「もしかして睡眠薬ですか?」

ニケは言った。

「これから楽しいお宝鑑賞会ですからね。そういう訳でリラ、さっき王子から没収したアレ、出して貰おうかしら」


思わず身を乗り出す四人の思春期男子。

リラは「いや、ニケさん、ああいうのは教育上・・・・・」

シュンも「そうですよ。不潔です」

「けど王太子が金と権力で手に入れたお宝よ。さぞかし凄いあんな事やこんな事・・・。それに、今時の教育現場では性教育は必須よ。性知識の欠如は歪んだ性行動を産むわよ」と能書きを垂れるニケ。

「けど・・・・・」


戸惑うシュンに、ニケは「シュン、あなた男性のアレがどんな形してるか、知ってる?」

シュンはもじもじしながら「それは・・・象さんですよね?」

「何で知ってるの?」

そう四人の男子が不思議そうに言うと、シュンは顔を赤らめて「小さい頃、兄さんとお風呂に入って・・・」

するとニケは「けど違うわよ。亀さんよ」

「そうなの?」

そう言ってシュンは四人の男子を見る。彼ら四人も声を揃えて「そうなの?」

「ニケさんは何で知ってるんですか?」

そうシュンが言うと、ニケは「大人を舐めないでよね。私にだって恋人くらい居るわ」


五人の尊敬の眼差しを浴び、ニケは言った。

「という訳で一人金貨三枚」

五人の思春期男女、唖然。

そしてシリューが「お金取るんですか?」

「当然でしょ? この手のビジネスは詐欺や窃盗と並ぶ金儲けの早道よ」

そうドヤ顔で言うニケに、セイヤが「性教育がどーのとか言ってましたよね?」

リラは溜息をついて「ニケさんってこういう人だから」



「それじゃ再生するわよ」

固唾を飲む五人の思春期男女の視線が集中する中、ニケは記憶の魔道具の映像を再生。

「何?・・・これ」


水槽の中で二匹のサーモン。

底に敷かれた小砂利を尻尾で払って浅い窪みを作り、メスが卵を、オスが精子を・・・。


「これってケベックに行った時のサーモンの人口増殖」

そうリラが言うと、イッキが「思い出した。ポルタの王太子はお魚フェチと言って、魚に欲情する変態」

五人はガッカリ顔で「そんなぁ」

「お金返して下さい」

そうヒョーガが言うと、ニケは目一杯の焦り顔で言った。

「ま・・・まぁ、これで子供がどうやって生まれるか解ったわよね。女性の卵子が男性の精子と反応するのよ。けしてコウノトリが赤ん坊を運んで来るって訳じゃ・・・」

「それくらい知ってます!」と憤懣顔のシュン。


「それにリラなんか、あんなに」

そう言ってニケは、何やら喜んでいる様子のリラを指した。

ブーイング全開な五人を他所に、リラは魔道具の映像を見て嬉しそう。

「見て下さい。あのサーモンの尻尾。私が人魚になった時のとそっくり。やっぱり王子様にとって私は理想なんですね」

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