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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
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第46話 東洋の人魚

ジパングで信長に招かれたエンリ王子たちは、毛利側の海賊水軍との戦いで、ついに秘宝の手掛かりを得た。

そして海賊水軍を破った信長は安土へ戻った。エンリたちも同行する。

安土城でジパングにある人魚伝説について話を聞くエンリたち。


「それで人魚というのはどこに?」とエンリ。

「若狭の国だ。八百比丘尼という女人が居たという」と信長。

「どんな人なんですか?」とエンリ。

「不老長寿の体で八百年生きて、世の無常を感じ、食を断って自ら死を選んだという」と信長。

アーサーはリラを見て「人魚って長命なのかな?」


すると信長は言った。

「彼女が人魚なのではなく、人魚の肉を食べて不老長寿になったというのだ」

「じゃ、人魚が居た訳じゃないんだ」とタルタ。

「いや、その話が本当なら、人魚の肉はあった。つまり人魚は居たって事だろ?」とエンリはタルタに・・・。

「確かに」とタルタ。


リラは「会いに行きたいです」

「秀吉、案内してやるが良い」と信長は秀吉に案内役を命じた。



羽柴秀吉の案内で若狭へ向かう。秀吉のお供が一人随伴する。

琵琶湖の東岸を通るルートを北に進み、途中の街を通る。


街の様子を見て、エンリは秀吉に言った。

「随分栄えてるんですね」

「私の領地があるんですけど、北からの交易路が通るんですよ」と秀吉。

「大事な所を任されてるんですね。随分と手柄をたてたでしょう」とエンリ。


秀吉は「実は私は戦はあまり得意ではなくてね、軍師のおかげで勝ててはいるんですが」

「けど、天下取りの戦で勝ち進むのに功績を上げたんですよね?」とエンリ。

「戦にとって大事なのはお金ですから」と秀吉。

するとニケがいきなりテンションMAXで「そうですよね。お金があれば何だって出来る。お金は命。お金は全て。お金は・・・」

エンリは残念そうな顔で「誰かこの人黙らせてくれ」



そんなエンリを見て苦笑しながらアーサーは「まあ、お金があれば傭兵を雇えますからね」

すると秀吉は語った。

「けど、実の所、お金さえあればいいという訳でも無いんです。例えば、兵に食べさせる兵糧を調達するのはお金ですよね。けど、もしお金があっても、商人が敵と通じていれば売ってもらえない。武器も調達できない。商人はあちこちの市場での商品の相場を知るのが不可欠ですから、情報を持っている。だから、敵に動きがあればいち早く察知できる」

「つまり商人との繋がりですか?」とエンリ。


リラが「人とのつながり・・・ひとつながり」

タルタがリラに「ダジャレか?」

「いや、大事な事だと思います。世界を支配するって言うけど、世界を動かすのは結局、いろんな人とのつながりですよ」とアーサー。

エンリは言った。

「ともあれ、商売に明るい領主の居るこの地の未来は明るい・・・でもないようですが」と、周囲を見て、何やら残念そうな表情に・・・。



いつの間にか町場を抜けて農村地帯を進む中、周囲の農民たちが疲弊しきっている。

秀吉が道端で途方に暮れている農民に訊ねた。

「お前達、どうした?」

農民が「秀吉様、雨が降りません」と訴える。


周囲から縋るような目の農民が集まって、口々に訴える。

「日照りがまだ続いて・・・」

「稲が枯れてしまいます」

「野菜も随分駄目に・・・」

「食べ物が底を尽きそうです」

「どうかご慈悲を」


彼等を見て、ファフが言った。

「みんなお腹空いてるの?」

「子供たちは飢えて死にそうなんです」と農民の女性が訴えた。

「解った。お魚とってきてあげるね」

そう言ってファフは、ドラゴンの姿になって琵琶湖に入ると、上がって来て口を開け、十数匹の魚を吐き出した。



感激して地面に両手をつく農民たち。ファフを拝むように口々に言った。

「竜神様だ」

「水神様だ」

「有難や」

「いや、そんなに感謝されてもなぁ」と照れるファフ。


だが・・・。

「ってか、ちょっと様子が変だぞ」と、農民たちの様子にエンリは異常な何かを感じて、言った。

まるで何かに憑りつかれたかのように農民たちはファフに縋る。

「水神様、どうかご慈悲を」

「恵の雨を」


ファフは困惑して「何なの? これ」

ジロキチが説明して言った。

「ジパングではドラゴンは雨を降らせる水の神って事になってるんだよ」


ファフ唖然、そして困り顔で「えーっ? どうしよう主様。ファフ、そんなスキル無いよ」

「ってか、こういうのって水魔法の出番なんじゃ・・・」とタルタ。

エンリは「アーサー、任せた」



見渡す限りの田圃がすっかり干上がっている

アーサーが呪文を詠唱し、ウォーターボールの魔法を使う。

大きな水の球体が空中で炸裂し、田圃に飛沫となって降り注ぐ。干上がっていた田圃は再び水で満たされた。


感激する農民たちはアーサーに向って、口々に感謝を述べる。

「神の奇跡だ」

「有難や」

「貴方様は・・・」


アーサーは照れて「いや、ただの通りすがりの・・・」

「竜神様の僕でいらっしゃるのですね?」と農民たち。


アーサー唖然。そして「いや、僕って・・・」

するとファフがお調子MAXな声で「そうなの。アーサーはファフの下僕なの」

「お前なぁ」とアーサー、ファフに向かって口を尖らせる。

ファフは「アーサー、苦しゅうない。ほら、御奉仕して御奉仕」

アーサー、あきれ顔で「馬鹿な事やってないで、出発しましょうよ」


すると秀吉がアーサーに言った。

「あの・・・その前に、他の村の田圃もお願いできますか? ここらへん一帯、私の領地なんで」

アーサーは困り顔で「勘弁してくれ」

エンリはアーサーに「魔法使いは世のため人のため・・・ってお前、いつも言ってたよな?」



あちこち引き回されて水魔法をやらされるアーサー。

日が暮れる頃には、そこら中の水田が日照りなど嘘のように水を満たしていた。



「あー疲れた」

宿に着くと、そう言ってアーサーは食事もとらずに、泥のように眠った。


村人が感謝して宴を開いてくれる事になった。

「主役はどうした?」とタルタ。

「疲れて寝てるよ」とファフ。

「折角の地元民の好意なのに、無粋な奴だな」とエンリ。

「仕方ない。俺達で接待受けるか」とジロキチ。



翌朝、宿を発って北に向かう。

仲間たちは昨晩の宴の話題で持ちきり状態。


「昨日はご馳走、美味かったなぁ」とタルタ。

「酒も旨かった」とジロキチ。

「女にモテるって最高」とカルロ。

「ここの農民、意外と小銭持ってるのよね」とニケ。

「かっこいいお兄さんいっぱい」とファフ。

「みんな王子様を尊敬していましたね」と人魚姫。

「どうしたアーサー」とエンリが、隣で膨れっ面のアーサーに・・・。


アーサーは目一杯の不満顔で言った。

「何で起こしてくれなかったんですか」

「魔法使いは世のため人のためって言ってただろーが」とエンリ。



山を越えると若狭だ。


若狭に入る時、秀吉は随伴した家来に言った。

「なあ、北に足を延ばせないかな?」

「柴田様の所ですか?」と家来。

それを脇で聞いて、エンリは「何かあるんですか?」

家来は「秀吉様の好きな人が居るんです」と答える。


エンリとその仲間たちは口を揃えて「だったら行くべきだと思います」


だが家来は「けど人妻なんです。殿、あの人に嫌われているんで」

「それは言わない約束だろ」と秀吉は困り顔で家来に言う。

「誰ですか?」とアーサーが秀吉の家来に・・・。

「お市様。信長様の妹君ですよ」と家来は答える。



秀吉は辛そうに「無理に行って傷を抉るのもなぁ。何しに来たとか言われたら立ち直れない」

そんな秀吉にエンリは言った。

「大丈夫ですよ秀吉さん。国の大臣たちは書類の判子突きの苦役の中で、外国から来た女性の監督に鞭で打たれて働かされているうち、罵られる事に快感を覚えるようになりまして」

「あなた達、面白がってますよね?」と秀吉。


何やら残念な雰囲気。



エンリは話題を変えて「それで、この北ってどんな所なんですか?」

「それなりに豊かな所で、朝倉という勢力を滅ぼした後を支配しているのが柴田殿で、今その北に居る勢力と戦っているんです」と秀吉の家来。


「北にはどんな領主が?」とエンリ。

「領主は居ません。大阪にあった本願寺の信徒たちが相談して国を動かしているんです」と秀吉の家来。

「小領主同盟ですか?」とエンリ。

「殆ど農民ですよ。"百姓の持ちたる国"と言われています」と秀吉の家来。


エンリは驚き顔で「そんな事が可能なんですか?」



一行は人魚伝説の地に向かう。

森に囲まれた寺。門の向こうに大きな建物の屋根が見える。

それを指して秀吉は「あの寺に八百比丘尼の伝説があります」


寺の境内に入り、住職に案内を求める。

「比丘尼様に会いにこられたのですね?」と住職。

「会えるんですか?」と人魚姫リラ。

「こちらへ」と言って住職は、洞窟の脇にある小さなお堂に案内した。


歩きながら、想像で好き勝手言う仲間たち。

「どんな人なんだろう」とタルタ。

秀吉の家来が「人魚の肉を食べて15才の美しい姿のまま永遠の命を得たという話ですけど」

「そんなのに会えるのかぁ」とカルロ。


「美人なんだよね?」とジロキチ。

「けど15才はロリキャラの範疇だろ」とアーサー。

「いや、ロリキャラは中学生までだ」とエンリ。

「ロリコン王子が言うと説得力が違うわね」とニケ。

エンリは困り顔で「だから俺、ロリコンじゃないから」


お堂の前に着き、住職は「こちらです」と言って、その堂の扉を開けた。

その一室に入ると、祭壇に座る八百比丘尼の姿が彼等を迎えた。


仲間たち唖然。そして言った。

「木像じゃないか」

「まあ、崇拝対象に会うって言ったら普通そうだよ」とアーサー。

「けど、これって美人なのか?」とカルロ。

そんな中でエンリが思い出したように「いや、そもそも俺達の目的は人魚だろ」


すると住職が「人魚でしたらこちらに」

「会えるんですか?」とエンリ。

「いや、また木像か何かだろ」とタルタ。



住職が祭壇の前に備えられた木箱を開けると、中に人魚の赤ん坊のミイラがあった。

そして住職が言った。

「言っときますけど、これを食べれば・・・なんて思わないで下さいね」

「いや、いらないから」と仲間たち。


「けど、本当に居たんですね」と感慨深げなリラ。

するとタルタが「あのさ、人間と魚の姿を一つに、ってこれ、ある意味ひとつながりの秘宝なんじゃ・・・」

「確かに、永遠の命があれば修行を続けて経験値MAXで無双できる」とエンリ。


するとアーサーは「いやこれ、贋作ですよ。猿と魚の干物を繋げたものです」

「本当につないだのかよ」と、がっかりするタルタ。


エンリは住職に訊ねた。

「あの、これは昔からここにあったんですか?」

住職は「いえ、見世物小屋をやってた方が奉納したものです」


「やっぱり人魚なんか居なかったんじゃないか」とタルタ。

「伝説上の生き物だもんな」とカルロ。

「おとぎ話だよね」とニケ。

「いや、人魚、ここに居るし」と、ジロキチがリラを指して言った。

「そうだった」と仲間たち。


アーサーはエンリに「どうしますか?」

「何か伝説の元になったものがあるのかも知れない」とエンリは言って、リラを見た。

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