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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
458/552

第458話 罪責の天秤

エンリ王子たちが難民たちを保護するアテナ修道会に協力し、行く手を遮るオッタマ帝国の軍を破って辿り着いたサンクチュアリ。

星座の力を宿す十二の階層のダンジョンに挑む五人の聖闘士と、彼等を助けるエンリ・リラ・ニケの三人は、乙女座の階層を守るドータームーンを倒して、次の階層を目指して洞窟の通路を歩く。



通路の途中に小さな部屋があった。中央にオベリスクと、その背後の台に五つの石。

「あれが賢者の石ね」

そう言って駆け出そうとするニケの首根っこをエンリが掴んだ。

「リラ、ニケさんがあれをネコババする前に、さっさと儀式を済ませてくれ」

ニケは口を尖らせて「私を何だと思ってるのよ」


リラがオベリスクに触れると、言葉のような概念のようなものが彼女の脳内に流れ込む。

「では儀式を始めます。その石をひとつづつ手に執って、クロスの胸に」

五人が台に向き合って、目の前の石を手に執って胸に・・・。

リラが呪文を唱えると、部屋全体に立体魔法陣が広がる。

石の周囲にも小さな魔法陣が現れ、古代文字が浮かぶ。

石が放った光がクロス全体に伝わり、光を放ちながら、それは白銀へと変わった。


「終わりました」

「じゃ、これ貰っていいのよね?」

そう言ってニケは、シュンが持っていた石をひったくるように手に執るが・・・・


彼女は石をあれこれ調べると、不満顔で「ただの石になってるじゃないのよ」

そんな彼女にエンリは言った。

「使い終わると石に戻るんだな。ダイナモンドが空気に触れて石になったみたいなものだろうな」

「そんなぁ。まあいいわ。これを調べれば何か解るかも。うまくいけば作り方とか、賢者の石に戻す方法とかもね」

そう言ってニケは、石になったそれを懐に入れた。



エンリは銀色に輝く聖闘士たちのクロスを見る。

「それ、シルバークロスにレベルアップしたんだよね?」

シュンは手鏡に自分の鎧姿を写して「綺麗・・・」と、うっとりした声で・・・。


だがセイヤは「滅茶苦茶パワーアップ・・・した気がしない」

シリューも「本当に強くなってる?」

同様に不満顔なヒョウガとイッキ。

そんな彼等を見て、エンリは「リラ、鑑定してみてくれ」



リラは鑑定の呪文を唱えるが・・・・・。

「攻撃力、防御力、素早さの付与・・・、どの数値も変わって無いですね」

セイヤたちは落胆声で「そんなぁ」

「けど、特殊スキルが一つ。毒物耐性は最強になっています」とリラは付け足す。

エンリは「そーいや銀は、毒を感知するとか無力化するとか。貴族が銀の食器を使うってのも、それだっていうよね」

セイヤは四人の仲間と顔を見合せ、そして「とにかく先へ進もう」


小部屋を出て再び通路を歩きつつ、エンリは思った。

(最上階に行けばゴールドクロスに変る訳なんだが、そっちはどうなんだろうか)



天秤座の階層に入る。

石造りの壁に囲まれた広い室内。

そこに一人の男が居た。

「お前がここの階層主か?」

そうエンリが問うと、男は「私は釈迦の転生者だ。天上天下唯我独尊!」

乙女座の階層でドータームーンがとったのと同様のポーズをとる彼に、エンリは残念顔で「そういうの、間に合ってるから」


すると男は言った。

「ユーロ人だから仏教関係無いと言うのだな? だが、私は唯一神信仰の開祖キリストの転生者でもあり、ついでにアラビア信仰のムハンマド、儒教の孔子、そしてモーゼとソクラテスの転生者でもあるのだ」

「つまり、そう言い張ってるインチキなカルト教祖」

そうセイヤが突っ込むと、男は「ただの宗教では無い。人々を幸福に導く科学だ」

エンリはあきれ顔で「そういう平和学だの科学的社会主義だのみたいな、科学と名乗ってるだけの偽科学は要らないから」


「大体、そういうのは乙女座で同じ事言ってた奴でお腹いっぱいだ」

そうイッキがあきれ顔で言うと、男は「あれは不肖の弟子だ」

「弟子にも同じ転生者だって言わせているのかよ。隣に同じ奴の転生者が二人とか、おかしいだろ」

そうシリューがあきれ顔で言うと、男は「だってそう言えば信者が有難がるし」

「あのなぁ!」

「それに転生はブームだ」と男は付け足す。

「駄目だこりゃ」



「とにかく、お前達にはここで消えてもらう」

そう言うと、男は天秤を出した。

「究極宝具、審判の天秤だ。俺とお前達の魂をこれに載せて、その重さを計る」

そう宣言する男に、イッキは「つまり魂を抜き取ると? そして死体と同じにされると言うのか」

「何て恐ろしい」

そう言って身構える聖闘士たちに、男はドヤ顔で言った。

「抵抗しても無駄だ。抜き取るのは魂本体では無くコピーなのだから」


セイヤは気の抜けた声で「なーんだ。それで相手が無力化するって訳じゃ無いのかよ」

「怖がって損しました」とシュンも気の抜けた声で・・・。

すると男は「いや、双方の重さを計る事で、負けた側が無力化するのだ。そして私が負ける事は絶対に無い」

「計るって何を?」

そうニケが言うと、ヒョウガが「コスモの量だろ?」

「いや、魔力とか気とか言わないと、この世界では通用しないぞ」とエンリが突っ込む。



男は呪文を唱えた。

彼自身と、そして対峙する八人の胸に、小さな魔法陣。そこに光が現れて宙を飛び、男の胸から現れた光は天秤の右へ、八人の胸から飛来した光は天秤の左へ・・・。

そして天秤は左に大きく傾いた。

「俺たちのコスモが強いって事は、俺たちの勝ちだ」とセイヤが言うが・・・・・・。


いきなりエンリたち八人の体に、強い負荷がかかった。

混乱状態の彼等に男は解説した。

「これはコスモとか魔力とかでは無く、罪の重さを計るものだ。この天秤に宿る神がお前達に有罪を下したのだ。その重さによりお前達は地の底へ沈み、地獄へと引きずり込まれる」


「地獄なんてものは実在しない。死ねば祖霊の世界に帰るだけだ」

そうエンリが言うと、男は「それでは信者を脅してお布施をガッポガッポ出来ないだろうが」

「お前なぁ」とエンリはあきれ声で・・・。

だが、ニケは「いえ、その通りよ。宗教はビジネスなのよ」

「ニケさんは黙っててくれ」とエンリは困り声で・・・。


「そもそも俺たちの罪って何だよ」

そうセイヤが言うと、男は「お前達、虫を殺しただろう。虫だって命であり、殺せば罪だ」

「いや、蝿や蚊みたいな害虫は殺すだろ」とエンリ。

男はドヤ顔で「それだって罪だ。ミミズだってオケラだってアメンボだって、みんなみんな生きているんだ友達なんだぞ」



その時、蚊がブーンと飛んできて、男の頬に止まった。

男は反射的に頬をパチン。


とてつもなく残念な空気の中、エンリは男に「お前今、虫を殺したよね?」

「そりゃ蝿や蚊みたいな害虫は殺すだろ」と男は臆面も無く・・・・・。

「さっき言った事と矛盾してるぞ。害虫だって生きてるんじゃなかったっけ?」

そうエンリが追及すると、男はドヤ顔で言った。

「俺は因果を超越した最終解脱者。害虫は前世の罪で人に害を成さなければ生きられない存在に生まれた。それをポアして救うのは功徳だ」


そんな彼にエンリは「なるほどな。お前、免罪体質者だろ」

「それって、あの人を殺しても犯罪係数はゼロのままという・・・」とセイヤたち。

そしてエンリは言った。

「その天秤で計るものは罪ではなく、魂の罪に対する認識だ。つまりお前は、罪の意識を全く自覚しないサイコパス」

「そっちの方がよほど質が悪いよね」とセイヤたちは彼を非難した。

「お前って"世界は自分ためにあって、自分がマウントの上に立って他人を見下すのが正しい"と本気で思ってるよね? それで他人の上に立てないからと、現実に対して"恨"とか言って逆ギレる。そういう、どこぞの半島国の文化と同じだ」

そうエンリが続けると、男は「それは上を目指して努力する美しい向上心だ」


エンリは言った。

「そう言って自賛するけど、つまりは他人を自分の空っぽなプライドの道具だと思ってる外道だろ。それで言いなりにならない他人の行動を勝手に罪認定して、やたら誇張して言葉を飾った憎悪表現を振りかざし、具体的事実を以ての反論に耳を塞いで、壊れたテープレコーダーのように同じ罵詈雑言を繰り返すんだよね。それで戦後処理を終えて責任を果たした隣国の対等な国としての正当な立場を否定し、歴史を捏造して、"永遠に犯罪国として謝罪賠償すべき"だとか"言いなりにならないのは誠意に欠けた無責任民族"だとか"捏造を指摘するのは排斥すべき歴史修正主義"だとか。それって結局、歴史捏造や条約破りを罪とも思わない自分たちの、ただのミラーイメージだ」

すると男は「だったらどうだと言うのだ。お前たちが無力化されたこの状況は変わらないぞ」

「それはどうかな?」



その時、左に傾いていた天秤は動き、上がっていた右は下がって、天秤は均衡を回復した。

それを見て、男は目を吊り上げて喚き散らす。

「お前達、自らの罪責を否定する外道に落ちたか。我が聖典"戦争と罪責"がお前達の罪を暴いているぞ」

エンリは「罪だ何だと言ってるお前のインチキな理屈を蹴飛ばしただけだ」


五人の聖闘士は天秤を持ったカルト教祖を袋叩きにした。



エンリは、男が聖典と呼んだ、その本を手に執る。

「この本、どこぞの精神科医が書いたものだな。ああいうのは道理とかと無関係な、人の身勝手な感情を扱うから、下手にこういう問題に関わると、人を騙す詐欺師へと走るんだよな」

するとニケが「詐欺は立派なビジネスよ。この著者のパクリ元だった名著"平気で嘘をつく人"はベストセラーになってお金ガッポガッポ」


ドン引きする五人の聖闘士を前に、エンリは溜息をついた。

そして「次に行くぞ」

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