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人魚姫とお魚王子  作者: 只野透四郎
457/554

第457話 獅子と乙女

エンリ王子たちが難民たちを保護するアテナ修道会に協力し、行く手を遮るオッタマ帝国の軍を破って辿り着いたサンクチュアリ。

五人の聖闘士の青銅のクロスをゴールドクロスに変えるため、彼等はエンリ・リラ・ニケの三人の助けを得て、星座の力を宿す十二の階層のダンジョンに挑む。

そして彼等は蟹座の階層を守るカルキノスのキャンサーを倒した。



洞窟を抜けて次の階層へと向かうエンリたちと五人の聖闘士。

「次は獅子座だね」とセイヤ。

「ライオンでも出て来るのかな?」

そうエンリが言うと、ヒョウガは「ライオンって?」



そんな事を話しているうちに、洞窟を抜けて広い場所に出る。

樹がまばらに生えた草原だ。

「ライオンというのは、南方に住む猛獣だよ。イスカンダル王がペットとして飼っていたって話もある」

草原を見回しながら、エンリがそう話を続けると・・・・・。


「つまり王権の象徴だ」

そう言いながら木陰から姿を現した、大きな獅子魔獣。


「我は覇王に仕える偉大なる獣王」

そうドヤ声で言う獅子魔獣に、エンリは「つまりペットだよね?」

獅子魔獣は感情的な口調で「ペットいうな! 世界を制する覇権の象徴だ。ローマ帝国より中華の皇帝に贈られ、ジパングの企業が自社製品を引っ張る私の姿を描いたものを、かの皇帝は中華に対する侮辱であると激怒し、攻撃の言葉を発した」

「遺憾砲ってやつだよね?」

エンリがそう言うと、獅子魔獣は「それによって、かの国は炎上した」

「一つの国を灰に?」

そうシュンが驚き声で言うと、エンリは「いや、ネットで大勢が悪口言ったってだけの話だから」


「それだけ偉いという事だ」

そう獅子魔獣が言うと、ニケは「偉い・・・って。無理やりな言い掛かりで民衆を煽動してヘイトを煽る宣伝戦争の道具よね?」

エンリも「洗脳教育で対外偏見を植え付ける軍国主義だものなぁ」

「そういう危ない話はそのへんにしておいた方が・・・」とリラがストップをかける。

そして獅子魔獣は「という訳で私は無敵だ。かかって来るがよい」



ヒョウガが必殺技を放つ。

「ダイヤモンドダスト!」

だが、彼の放った凍気の拳は、獅子魔獣の肩を覆う鬣を凍らせたものの肉体には届かず、その衝撃は丈夫な毛皮が防いだ。

「ペガサス流星拳!」

セイヤの必殺技を獅子魔獣は、爪を立てて振り下ろす前足で受け止めた。

「こいつ、強い・・・」と、聖闘士たちは真剣な表情で身構える。



そんな聖闘士たちに、獅子魔獣は言った。

「私を倒せるものはただ一つ。かつてローマの皇帝に仕えていた時、ブリタニアから遠征して来たアーサー王と戦った事がある。彼の聖剣エクスカリバーだけが私を傷つける事が出来た。それが無ければ私は倒せない」

「エクスカリバーってこれだよね?」

エンリ王子が魔剣を抜く。それを見た獅子魔獣、唖然。

「何故それがここにある? あれはアーサー王の滅びとともに失われた筈だ」

「彼が湖の精霊に返したものを、俺の先祖が貰ったんだよ」とエンリ。


「それがあれば奴を倒せるんですね?」

そうシリューが言うと、エンリは残念そうに「けど、これは俺にしか使えないからなぁ」

シリューは右手で空手チョップの構えをとり、そして言った。

「残念です。ですが、聖闘士はこの肉体を武器に戦う者です。この手刀を鍛えて聖剣を越える武器とします。空手チョップは無敵だと東洋の格闘家が言っていた。武器を持たないプロレスラーにとって、これは刀に代わる武器となります」


「プロレスって、修行で獅子と互角に戦える虎に変身するんだよね?」とセイヤ。

エンリは残念顔で「いや、あれは虎のマスクを被ってるだけだから」

ニケも残念顔で「それにプロレスって、栓抜きを隠し持つ悪役を設定してる、ただのショーよ」

「つまり栓抜きという最強の武器に対抗するのが空手チョップ」

そうシリューが言うと、エンリは困り顔で「いや、栓抜きは武器じゃ無いと思うが」


その時、リラが言った。

「あの、王子様。私のウォータードラゴンに魔剣の力を与えたのと同じ事は出来ないでしようか?」



エンリは暫し思考した。

そして「シリュー。お前は自分の必殺技の属性は解るか?」

「多分、水だと思います。廬山昇龍覇は廬山を流れ落ちる滝の勢いを突き破って天に上る水龍の闘気を乗せたものなんです」

そうシリューが言うと、エンリは「その闘気を拳に載せてみろ。この剣の力を分けてやる」


シリューは右手の手刀に水の闘気を込めた。右手の闘気はどんどん密度を高め、陽炎のように立ちのぼる。

エンリは水の魔剣を抜き、シリューの手刀に当てる。

そして呪句を唱えた。

「汝、水の闘気。無双なる敵をも破りし内なる神剣。マクロなる汝、ミクロなる我が剣と一つながりの宇宙たりて、我が聖剣の無敵の力を汝のものとせよ。剣気分与!」


魔剣の水の魔力がシリューの手刀に流れ込み、その手の中に収束して鋭い剣の形のオーラとなった。

自分の右手に漲る力を感じ、シリューは呟く。

「これが聖剣エクスカリバーの力。これならどんな強敵でも倒せる。さあ、獅子魔獣。ここからが勝負だ・・・って、あれ?」



獅子魔獣はニケにマタタビ酒を飲まされ、酔っぱらってゴロニャン状態。

ニケは獅子魔獣の喉を撫でながら、笑って言った。

「ライオンも猫科だから、当然効くわよ」

「けど、いいのか?」

そう残念声で言う聖闘士たちに、エンリは「いいんじゃね? 平和が第一だよ」


釈然としないシリューであった。



獅子座の階層の出口から洞窟の通路を進む。

「次は乙女座だね」

そうセイヤが言うと、イッキが「女の子でも出て来るのか?」

ニケが「今日び美少女戦士なんて珍しくも無いけどね」

「姫騎士とか戦乙女とか?」

そうリラが言うと、エンリは「まさかノルマンに居た婆さんワルキューレみたいなのじゃ無いよね?」



洞窟を抜けると、木造建物内部らしき広いフロア。

そこに女の子が居た。

金髪のやたら長いツインテール。水兵服に似た布面積の少ない上着に短いスカート。

そしてポーズをとって決め台詞を叫ぶ。

「美少女戦士ドータームーン。月に代わってお仕置きよ」


残念な空気の中、セイヤは溜息をついて言った。

「俺たち、お仕置きされるような悪い事なんて、したっけ?」

「ってかドーターって娘だよね? って事はマザームーンなんてのも居るのか?」

そうヒョウガが言うと、女の子は「失礼ね。うちは先祖の祟りとかデマカセ言って壺を売り付けたりしないし、歴史を捏造して"お前等の国は加害者だからエバ国家として奉仕して全財産差し出せ"みたいな民族偏見垂れ流したりしないわよ」


「それより、ちゃんと相手の方を向いてしゃべった方がいいと思うぞ」

何やらあさっての方向を向いている、そのドータームーンを名乗る女の子に、そうエンリが言うと、彼女は「目を瞑っているから、あなた達がどこに居るか解らないのよ」

「ってか目を開けたらどーだよ」

そうあきれ顔で言うエンリに、ドータームーンは「この目を開くと大変な事になるわよ」

「はいはい、何か魔物的なものが封印されてるとかいう中二病設定ね?」

そう、あきれ顔で言うセイヤに、ドータームーンは「じゃ無くて、敵にダメージを与える力を蓄積しているのよ」


「どこかで聞いたような話なんだが・・・。で、あんたは何?」

そうエンリが問うと、ドータームーンは「仏教を開いた釈迦の生まれ変わりよ。天上天下唯我独尊」

そう言って彼女は右手で天を指し、左手で地を指す。

「眼鏡マッチョのお兄さんもやってた奴だよね?」とイッキが突っ込む。

「やっぱり中二病じゃん」とヒョウガも突っ込む。

そんな彼等にドータームーンは「あなた達のボスだって女神アテナの転生とか言ってるわよね?」とドヤ顔で反論。

「それは・・・・・・」と反論に詰まるセイヤたち。


するとエンリは言った。

「悪いけど、俺たちはユーロ人で宗教は唯一神信仰なので、仏教関係無いから」

「実は私はキリストの生まれ変わりでもあるのよ」とドータームーン。

エンリは「けどここはオッタマ帝国で、宗教はアラビアの信仰」

「実はムハマンドの生まれ変わりでもあるのよ」とドータームーン。

「もしかして孔子とかソクラテスとかモーゼとか・・・・・」

エンリがあきれ顔でそう言うと、ドータームーンは「よく解ったわね」

聖闘士たちもあきれ顔で「つまりインチキなカルト教祖」



そんな彼等にドータームーンは、ブチ切れ声で言った。

「痛い目を見ないと解らないようね。長い時間をかけて蓄積した眼力パワーを思い知るがいいわ」

そして彼女は目を開けた。

だが、すぐに右手を目の上に翳し、顔をしかめて「ま・・・眩しい」

「目を瞑ってたから光に慣れてないって事で、そうなるよね」と、あきれ顔のエンリ。

ドータームーンは怒りに燃えた目で「よくもやってくれたわね」

エンリは溜息をついて「ただの自爆だろ」


「喰らえ。必殺"ゴミを見るような視線"」

そう技名を叫び、ドータームーンはセイヤたちに"ゴミを見るような視線"を向けた。

そして彼女は妄想の世界で二頭身キャラとなると、「解説」と書かれたプラカードを掲げて「解説しよう。JKのこの視線で全ての思春期男子は再起不能のダメージを受けるのだ」


エンリは溜息をついて「そんなの漫画やアニメの中だけ」

四人の男子聖闘士も「そーだーそーだ。お前みたいな頭の悪そうな勘違い女が何だってんだ。俺たちにはアテナ一人居れば他の女なんて要らない!」

エンリはそんな彼等に残念顔で「それも大概だと思うんだが・・・」



すると、シュンがイッキの左手を掴み、拗ね顔で「兄さんには私も必用無いのですか?」

「そそそそんな事は無いぞ。シュン、俺に必用なのはお前だけだ」

そう言って、イッキはシュンの手を執る。

シュンはイッキを見つめ、そして「兄さん」

イッキはシュンを見つめ、そして「シュン」

「兄さん」

「シュン」

二人の世界に浸るイッキとシュンに、他の三人は困惑顔で「そういうのは後にして」


だが、そんな兄と妹のイチャラブに、ドータームーンは困惑を素通りして、怒りの声を上げた。

「いい加減、そういう見せつけ、止めて貰えるかしら」

「いや、見せつけてる訳じゃ・・・・・・」と困惑するイッキとシュン。

ドータームーンは悔し涙を浮かべて「私だってタキシード仮面様という恋人がいるんだからね。あんた達よりずっと大人でかっこいいんだからね」

「けど、もしかして、あまり相手にされてない?」と、シュンが鋭い指摘。


ドータームーンは妄想の世界で「ガーン」と書かれたオノマトペを背景に、完全に凍り付いた。

そして「言ってはならん事を・・・・。こんなにキュートでスリムな美少女が必死にアプローチしてるっていうのに。リア充爆発しろ!」



怒りの炎の妄想を背負ったブチ切れ状態のドータームーンに、聖闘士たちは困惑顔であれこれ・・・。

シリューが「何だか知らないけど怒らせちゃった」

「どーする?」

そうヒョウガが言うと、イッキが「戦うしか無いよね」

「けど女の子だぞ」とヒョウガ。

「やり辛いよなぁ・・・」とシリュー。

「だったら・・・」

そうシュンが言いかけた時、「俺が行く」と言って進み出たのはセイヤだった。



構えるセイヤにドータームーンはファイヤーボールを放つ。

それをセイヤは必殺技で受け止めた。

「ペガサス流星拳」

炎の塊を彼の拳が粉砕する。


ドータームーンは次々に攻撃魔法を放つ。

「ウォーターランス」

「シルフブレード」

「サンダーボルト」


全ての攻撃魔法を拳で粉砕しつつ迫るセイヤを見て、焦り顔でドータームーンは言った。

「な・・・・・何よ、私を殴るの? 女の子を殴るなんてヒーローのやる事じゃ・・・」

「男女平等パーンチ!」


セイヤの右ストレートを顔面にまともに受けて、ドータームーンは吹っ飛ばされた。

「ぶったわね。お母さんにもぶたれた事無いのに」

そう言って泣き出すドータームーン。

そんな彼女を前に、困り顔の聖闘士たち。



エンリは「もういいだろ。彼女は戦闘不能だ。先に行くぞ」と言って、彼等に移動を促した。

シリューとヒョウガは「いいのかなぁ」

八人でフロアの反対側の出口へ向かう中、セイヤは言った。

「俺にこの技を教えたのは、マリンさんという女性聖闘士の先輩だ。女と戦うのは慣れてる」


そして彼は、泣き喚いているドータームーンの脇を通り際に、湿布薬を投げた。

「打ち身に効く。顔に傷が残らないよう、貼っておけ」

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