第452話 幻惑の拳
オッタマ帝国の弾圧を逃れた難民たちを保護したアテナ修道会に協力する、エンリ王子率いるタルタ海賊団とフェリペ皇子のマゼラン海賊団。
ともに戦うのは、秩序神アテナの転生を名乗る少女と、星座の力を宿すというクロスを纏う五人の聖闘士。
難民たちを安全な結界に逃がすとともに、青銅のクロスを完全なゴールドクロスに変えるため、彼等はサンクチュアリを目指し、行く手を阻むオッタマ軍との戦いが始まった。
オッタマ軍本隊との戦闘で、兵士たちとともに多数のゴーレムを使った敵の先鋒隊。
だが、兵士はニケの催涙弾で無力化され、その間にゴーレムたちの破壊に成功した。
「こいつ等を操ってる魔導士はどこだ?」
先鋒隊の兵士たちの排除に成功した戦場に転がるゴーレムの残骸を見て、エンリがそう言うと、アーサーは「どうやら背後の本隊ですね」
「すると、攻撃魔法の撃ち合いになるな」
そう呟くと、エンリは暫し思考を巡らせた。
スパニア内戦での戦いで、先代教皇が召喚した天使を思い出し、そしてエンリは言った。
「アテナさん、神様の力で敵を無力化するって出来ますか?」
「魔法の無力化なら。けど、味方も魔法を使えなくなりますけど」とアテナは答える。
「意味無いじゃん」と口を揃える仲間たち。
だが、エンリは「いや、やって貰おうよ。攻撃魔法が飛び交って流れ弾が飛んで来るとなると、大勢の避難民を抱えるこっちが不利だ。それに向こうが魔法に頼った戦術をとってるなら、それが効かない不利は向うが上だよ」
「解りました」
そう答えると、アテナは女神の呪文を唱えた。
「我はアテナ。秩序神の名により、自然の理に抗いし全ての魔の行使を禁じる。魔力封印」
「魔力が消えちゃった。どうしよう。避難民を守る防御シールドが」
魔力の気配の消失とともに、ライナたちがそう言うと、エンリは・・・・・・・・。
「あ・・・。ととととにかく、奴らはもうモンスターを召喚できない。ファフ、アラストール、奴らを蹴散らしてやれ。タルタの鉄化は使えるよね?」
タルタはドヤ顔で「魔法じゃ無いからな」
「ジロキチと若狭も戦えるか?」
エンリがそう言うと、ジロキチもドヤ顔で「当たり前だ」
ムラマサも「拙者は元々刀でござる故」
「俺、魔力が無いと何も出来ないんですけど」
そうアーサーが言うと、エンリは「アーサーには期待してない」
「そんなぁ」
「それと王子の魔剣の力も魔力ですから」
そうアーサーが言うと、エンリも「そんなぁ」
「私の刀の炎は使えるぞ。これは気の力だからな」
そうシャナが言うと、エンリは「いいなぁ」
「父上、僕の仮面分身は使えます」
フェリペがそう言うと、彼の隣にロキが現れて「俺はそこのアテナと同格の神だからな」
「あと、セイヤさん達の力も有効ですよね?」
エンリがそう言うと、五人の聖闘士は声を揃えて「もちろんです」
その時、リラが言った。
「先ほどまで戦っていた三つの部隊は合流して来ないんでしょうか?」
「あ・・・・」
アテナは「使い魔たちの報告では、こちらに来る様子は無さそうです」
「徹底的にやっつけたものな」とタルタ。
「負傷兵の救護で手一杯なんだろう」とジロキチ。
「というより、占領したグラコビスの街での略奪に夢中」とアテナ。
エンリは残念顔で「・・・・・・聞かなかった事にしよう」
魔法を使えない敵の本隊は混乱していた。
ファフとアラストールが翼を広げて空から敵本隊を襲う。
暴れまわる二体のドラゴンに、敵は必死に大砲で応戦する。
セイヤたち五人、そしてエンリとフェリペの部下たちが突入して敵を押しまくり、崩れた所を修道士軍団が掃討。
ヤンの飛行機械はヤマトを乗せ、フェリペの仮面分身による仮面を縦横に並べた筏はエンリを載せて、反撃しようとする敵の牽制。
その間、避難民たちは後方に待機。そしてアテナの使い魔のフクロウが上空を飛んで戦場を監視。
セイヤたちが先頭に立って敵を浸食する中、アテナの念話が警告を発した。
「騎馬隊が二隊、戦場を迂回して、修道士隊の背後を突くべく移動しています」
一隊にヤンの飛行機械を向かわせ、ヤマトの砲で牽制する間に、セイヤ達五人が到着し、騎馬隊を薙ぎ倒す。
だが、もう一隊が避難民たちに向けて突進。
襲い来る騎馬隊に粗末な槍を構える避難民の男性たち。彼等の前にアテナが杖を持って立ち塞がる。
そこに仮面の筏に乗るエンリとフェリペが宙を飛んで駆け付けた。
「あれはイェニチェリだ。手強いぞ」
そうエンリが言うと、フェリペは「大丈夫です。僕は闇のヒーローだ」
騎兵たちに襲いかかる空飛ぶ鉄の仮面。だが、騎兵たちは全ての仮面を剣で叩き伏せる。
「奴らを止めるのが先決だ。馬の足を狙うんだ」とエンリは叫ぶ。
幾つかの仮面が、地上すれすれを飛び、馬の足を直撃。
馬は次々に倒れ、騎兵たちは落馬した。
起き上がった騎兵の前にフェリペが短剣を持って飛び降りる。
「闇のヒーローが相手だ!」
そう言って構えるフェリペに、エンリは「ちょっと待て、フェリペ」
ロキ仮面の素早さで短剣を構えて飛び掛かるフェリペを、騎兵は剣を振るって弾き飛ばした。
「フェリペ!」
飛ばされ、地面に叩きつけられた幼いフェリペに剣を翳して突進する騎兵。
その前にエンリが飛び降り、魔剣を抜いて立ちはだかる。
エンリは脳内で呟いた。
(奴は鍛え抜かれた戦士。俺の魔剣は今はただの剣だ。どこまで戦えるか解らんが、どんな有利な戦いだって流れ弾に当たれば死ぬ。今がその時だってんならそれでいい。奇跡なんて要らないから!)
風のように突きかかる騎兵の剣を叩き落とそうと、エンリは渾身の力を込めて、魔力を封じられた魔剣を振り下ろした。
そして、騎兵の剣はエンリの胸を貫いた。
(やっぱりこうなるよね)
その時、エンリの耳にアテナの声が届いた。
「諦めてはいけない。水の剣を抜きなさい」
(水の剣って・・・)
そう脳内で呟きつつ、エンリは両手の内にある魔剣に水の魔力を感じる。
(いや、だって・・・・・・・・・・)
封じられている筈と思いつつ、エンリは魔剣を鞘に戻す。
そして「水あれ」と念じて魔剣を抜いた。
魔剣に水の魔素が収束している。気力を振り絞って脳内で一体化の呪句を唱えた。水との一体化により一瞬で胸の傷は回復。
(どうなってる? いや、今はフェリペを守るのが先だ。目の前に居る騎兵を倒すぞ)
そう脳内で呟くと、エンリは風の魔剣に切り替え、風との一体化による素早さで目の前に居る騎兵を切り伏せた。
そして、落馬から起き上がり襲って来る騎兵たちを次々に倒した。
仲間たちも魔力が復活するのを感じている。そして彼等の脳内にアテナの念話が届く。
「少しの間だけ魔力封印を解除します。敵がこれに気付く前に、魔法で大勢を決して下さい」
マゼランとチャンダが炎の波濤で周囲の敵を薙ぎ倒し、三人の女官はフェリペの仮面の筏に乗って、戦場の上空から敵本陣にファイヤーボールの雨。
リラはウォータードラゴンの頭上から水の散弾を放ち、エンリも仲間たちの所に戻って、炎の巨人剣を振り下ろして敵を薙ぎ倒す。
「一撃入れたら離脱して下さい。ファイヤーレインを使います」
そう味方に念話を送ったアーサーに、セイヤの念話が届いた。
「俺たちは奴らの本陣を叩きます」
「巻き込まれますよ」
そう念話を返すアーサーに、セイヤは「俺たちを誰だと思ってる。降って来る炎なんて全弾かわしてやる」
上空の魔法陣から降りそそぐ炎がオッタマ軍を焼く。
それを掻い潜って五人は敵の司令部に突入し、敵将たちをなぎ倒した。
「お前が司令官だな?」
司令官らしき将を見つけてイッキがそう言うと、彼は「我々はオリエントを制する超大国だぞ」
「だから何だ。鳳凰幻魔拳!」
イッキの放った拳を受けて・・・司令官は倒れなかった。
だが、彼は頭を抱えて地面に伏せた。
「何て恐ろしい。彼等と戦ってはいけない。撤退だ」
部下たちは慌て顔で、彼の肩を掴んで揺すり、「司令官、お気を確かに」
司令官は部下に顔を向けるが、その表情は恐怖に染まり、目は焦点定まらず、うわごとのように「ちょうちょが一匹、ちょうちょが二匹・・・・・」
撤退していくオッタマ軍を見て、エンリは「何なんですか? あれは」
「イッキの得意技ですよ。拳に精神波を込めて打ち込み、幻を見せて心を折るのさ」とセイヤが答えた。